かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。

白藍まこと

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-友達-

45 あたしの狙い

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「それじゃ今日、雪の家に行くってのはどう?」

 そうだ、ゆきの気持ちが分からないなら確かめればいい。
 何も直接的に聞くだけじゃなくても、その気持ちを推し量る方法はいくらでもある。

「……急に?」

「さっき言ってた罰をこれにする」

 手のひら返しになってしまっているけど、物を貰うわけではないから罪悪感はない。

「それ罰になってないよね」

「家に人を入れるの雪は苦手だろうから、罰にはなるでしょ」

 この前は雨が降るイレギュラーがあったから、あたしを家に入れてくれたけど。
 基本的に雪は交友関係が少ないし、プライベートゾーンには誰も寄せつけないし、人との接触も避けたがる。
 そして家というのはプライベートゾーンのど真ん中。
 そこに人を招くのを雪が好まないのは分かっていた。

「いや、普通の人ならそうだけど。陽葵ひなたを嫌がるわけないよね」

「……」

 はっ。
 いやいや、あたしが心打たれてどうする。
 最初の目的を忘れちゃいけない。
 雪はこんな扱いをしておきながら、あたしを“友達”だからと言い張っている。
 大事なのはその中身を確認する事だ。

「だから罰にならないし、来なくても大丈夫」

「え」

 何その断り方、斬新すぎるでしょ。
 あたしの事は嫌じゃないのに、罰にならないから来なくていい?
 頭がおかしくなりそう。

 ああ、いや、あたしが素直に言えば良かっただけなのかな。

「分かった、普通に行きたいから行く」

「……いいけど、それなら最初からそう言ってくれたら良かったのに」

「……ま、まぁね」

 うん、あたしもそう思う。
 雪の気持ちを確かめる前に、まず自分の気持ちに素直になろうと思った。






 雪の家に行く前に、コンビニに寄る事にした。
 夕方になって少し喉も乾いたしお腹も空いたから、買い出しだ。
 店内のひんやりとした空気に心地よさを感じながら、雪と横並びでドリンクコーナーに向かう。

「陽葵は何飲むの?」

「うーん、どうしよっかなぁ。そういう雪は?」

 質問を質問で返してしまったけど、あたしから答える事が出来ない理由があった。

「私は、ほうじ茶かな」

 渋い。
 雪は普段からお茶を好む。
 そんな彼女は冷蔵庫のガラス扉を開けて、ペットボトルに手を伸ばしていた。

「じゃあ、あたしも同じのにする」

「……え?」

 そう、あたしの作戦はもう既に始まっている。
 あえて雪と同じ物を飲む。
 あたしに対して気持ちがあるのなら、その行為に特別な意味を感じるはずだ。
 その反応を探る事で、雪の気持ちがきっと見えてくる。

「ジュースとかにしなくていいの? ほら、カフェオレとか」

「いい、今日は雪と同じにしとく」

 雪は首を傾げながらも、もう一本ペットボトルを取ってあたしに手渡してくれる。
 普段飲んでいるわけでもないのに、同じ物を飲もうとする。
 それってかなりの好意を示している行動で、その意味に気付けば雪だって必ず意識する。
 この好意の扱い方で、雪の感情が何なのかはっきりしてくるはず……。

「そっか」

 こくこく、と雪が頷く。
 何か感じるものがあったらしい。

「陽葵もお茶の良さが分かる大人になったんだね」

 いつになく晴れやかな笑顔をあたしに向けていた。

「……ああ、うん」

 こっちは対極的に生返事。
 だって、そうじゃないでしょ。
 そんな急に好みが変わるわけないんだから。
 同じ物を共有したいという気持ちが分からないのだろうか。
 そこまで言わないと伝わらない……?
 でも、こういうのは悟られるから効果を発揮するのであって、全部言ってしまったらあたしの好意が嘘っぽくなってしまう……。
 
 いやいや、大丈夫。まだアピールのチャンスはあるから、慌てない慌てない。

「ちょっとお腹も空いてるから何か食べたいんだけど」

「そうだね」

 雪が場所を移動して、あたしもその後を追う。

「雪は何食べるの?」

 今度はあたしから雪に聞いてみた。
 とは言っても目の前はスイーツコーナーだったので、だいたい察する事は出来ているんだけど。

「……シュークリームでいいかな」

 なるほど。
 少しお腹が空いた程度なら、雪はスイーツでいいらしい。
 普通にご飯ものを食べたくなるあたしとは違う……。
 いや、いいんだけどね。

「それ、好きなの?」

「まぁ、割と。あんまりコンビニで買い物しないけど、たまに買う事はあるかな」

「へえ……じゃあ、あたしも」

 陳列されている同じシュークリームをあたしも手に取る。
 お互いの両手に同じ物を持っていた。
 あまり見ない光景にちょっとした面白さがある。

「シュークリームも同じのにするの……?」

 当然、その違和感は雪に伝わる。
 一度はスルー出来ても、二度目はその出来事に意味を考え始めるはずだ。

「雪が好きな味なら、確かめてみようと思って」

 ここで追撃の一手。
 意味は違えど“好き”という単語で連想も誘えば、自ずとあたしの行動の意味が見えてくるはずだ。
 ここまで来たら、雪はどんな反応を見せてくれるのか……?

「えっと……その……言いづらいんだけど」

 おお、雪がオロオロしだした。
 さすがにここまで露骨なアピールをすれば雪も察したみたいだ。

「なに? 正直に言ってみてよ」

 本当に“友達”だったならスルーするか、素っ気ない反応でもおかしくない場面。
 それを困惑しながら反応に困っているという事は、あたしの好意に少なからず感じるものがあるという事に他ならないっ。

「お腹空いているなら、これだけだと足りないんじゃない?」

「……え」

 心配されていた。
 あたしのお腹を。

「いや、小腹だし」

「陽葵の小腹ってこれくらいじゃ収まらないよね」

 まぁ、確かに収まらないけど、それは今はどうでもいいんだよ。
 本題はそこじゃないのよ。
 全然違う所に反応してるじゃん。

「ほら、アレとかいいんじゃない?」

 そそーっと歩いて棚から何かを手に取り戻ってくると、雪の手にはカップラーメン(とんこつ味)が握られていた。

「好きだったよね?」

 いや、好きとは言ったけどっ。
 あたしの好みを覚えてくれてるのも嬉しいけどっ。
 このタイミングでは食べないからっ。
 ここで別の物を食べてしまったら、同じ物をシェアしたいという気持ちが伝わらない。

 ……いや、もう伝わってないって判断すべきなのかな。

「いい、いらない。これだけでいいの」

「……もしかして」

 雪が口ごもる。
 さ、さすがに、気付いた?

「お金足りない、とか?」

「……」

 好意という淡い感情からかけ離れていくばかりで、浮き彫りになったのはあたしが食欲旺盛でお金に困っている人物像だった。
 そんな可哀想なキャラにしないで欲しい。 

「あたしはこれがいいの、他はいらないの」

「ええ……?」

 雪は納得いかないような表情をしながらカップラーメンを元に戻す。
 その表情を浮かべたいのはあたしの方なんだけど。

 結局、そのまま会計をする事に。
 雪の後ろに並び順番が来たら、あたしもレジに商品を置く。
 全く同じ物を買っているから、店員さんの前では何となく気恥ずかしい。

「レジ袋は必要ですか?」

 一瞬迷って、スクールバックに入れるとシュークリームが崩れそうだし。
 手に持つのは何か画的に変だし、そう思ってレジ袋を買う事にする。

「お願いしま――」

「あ、いらないです」

 割って入るように雪が答える。
 ……手で持てと?
 そんな疑問の眼差しを向けると、雪は応えるように腕を上げて買い物袋を見せてきた。

「私持ってるから、一緒に入れようよ」

「あ、ああ……そう言う事ね、ありがとう」

 気が利くなぁと関心し、買い物袋を持参している女子力とか家庭的な感じがいいなぁとか。
 とにかく、さっきからずっとあたしの方が雪の魅力を感じていた。

 スマホで決済して商品を手に取ると、雪が袋を広げてくれていたのでそのまま入れさせて貰う。
 ペットボトルとシュークリームをもう一つずつ隣合わせで。

「どっちがどっちのか分からなくなったね」

 本当はお互いに気にもしていないと分かっている事を、雪は冗談めいて口にする。
 この空気が何だか微笑ましい。

「大きい方があたしのかな」

 だからつい、あたしもつまらない冗談を返してみる。

「……やっぱり陽葵、足りないんじゃ」

「ああ、ごめん、今のなし、マジでそういうんじゃないから」

 空気が壊れた。
 いや、あたしのせいなんだけど。 

 また失敗したかなと思いながら、コンビニを後にする。
 
「でも、アレだね」

「ん?」

 ぬるくて湿り気のある空気が肌を撫でる感覚を感じながら、雪の言葉に耳を傾ける。

「一緒に同じ物を買ったからって意味はないはずなのに、なぜか楽しいね」

 そうして、はにかむ横顔が見れたのは、あたしの気持ちが少しは届いたからなのかもしれない。


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