かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。

白藍まこと

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-友達-

46 あたしの誤算

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 そうしてゆきに翻弄されながらも、彼女の家に着く。
 落ち着けあたし、コンビニでの一幕はまだほんのジャブ。
 本番はこれからだ。
 
「私の家に来た所で何もないよ」

 雪の部屋を印象で語るならば生活感に欠けるというか、無機質というか、ミニマルというか……。
 家具も色のトーンは白とかグレーをベースにしていて、色彩の主張もない。
 何もないと言えば、その通りとも言える。

「でも雪っぽくていいんじゃない?」

「……それは、なんか複雑だね」

 むむ、と雪が顎に手を添える。
 何か思う所があったらしい。

「あたしは、これはこれでいいと思うけど」

 気を遣ってるわけでもなく、素直な感想だ。
 整理整頓されていて綺麗だし、彼女の雰囲気には合っているから気にする事もないと思う。

「いや、こう……遊びの少ない人間のように思われそうだよね」

「そうかな?」

「つまらない人間だと思われそう」
 
「……ん?」

 なんだろう、悲観的すぎるぞ。

「そもそも、人を家に招かないなら気にしなくてもいいんじゃない?」

「いや、招いてるでしょ」

 びしっと雪に指を差される。
 えっと、つまりあたしに対してどう思われるかを気にしてるって話?
 それこそ、今さらじゃないかな。

「いや、あたしは雪の事分かってるんだからいいでしょ」

「でも、こういう殺風景な部屋から人間的な幅のなさを連想して、私に飽きちゃうんじゃないかなって」

 ……あたしが雪に飽きる?
 それはないなと、心が即座に否定する。

「いや、もうその発言が十分面白いから飽きないよ」

「え、面白いところなんてあった?」

 言っている事は分かるんだけど、極端なのかな。
 気にしている所とそうじゃない所の天秤の揺れが大きすぎて面白いし、あたしにどう思われるのかを気にしているのは可愛いなと思ったりもする。
 それも含めて雪なのだから、気にする必要はないと思う。
 少なくとも、以前のように何も言わないで黙っているよりはずっといい。

「まぁまぁ、大丈夫だからあんまり気にしないの」

「……まぁ、陽葵ひなたがそう言うなら、いいけど」

 若干渋々といった様子ではあったけど、雪もそれ以上は言及してこなかった。
 雪はリビングに移動すると、ローテーブルの上に買い物袋からペットボトルとシュークリームを置いて行く。
 こちらをちらりと見て、ローテーブルの前にある座椅子を指差す。

「座る?」

 雪は一人暮らしのために、座椅子は一つしかない。
 カーペットを敷いてくれているから床に座っても問題ないのだけど、気にしてくれたんだと思う。

「いや、雪が座っていいよ。あたしは床に座るから」

「でもお客さんだし」

「大丈夫、いいから座りなよ」

「……まぁ、そう言うなら」

 そう言って雪はそのまま座椅子に座る。
 しかし、何を隠そうあたしの企てはここからまた始まる。
 雪の方から先に座ってもらう必要があったのだ。

「じゃあ、あたしも座ろうっと」

 あたしも床に腰を下ろす。
 雪の右隣に、ぴったりと添うように。

「……陽葵?」

 雪が声を上げる。
 それはそうだと思う、スペースはあるのに、あえてこんなに密着するのだから。
 勿論、普段のあたしならこんな事はしない。これも全ては雪の反応を確かめるため。
 どんな人だって、好意がある相手にしかこんなに密着しようとは思わない。
 その密着を許してくれるのもやっぱり好意がある人だけなのだ。

 さぁ、雪はどんな反応を見せてくれるのかな?

「何か問題ある?」

 あたしの問いに、雪は触れ合っている肩に視線を落とす。
 その戸惑いを見せている間に、あたしはペットボトルの蓋を開け口をつける。
 ほうじ茶の渋い苦みが口の中に広がった。

「問題はある、ね。これだと手が動かしづらいから食べ飲み出来ない」

 雪の右肩を押さえる形になってしまっているので、利き手が塞がってしまっている。
 今の状況でそんなリアルな事は言うべきではないと思うのが本音なんだけど、雪がそういう回答をしてくるのも想定済み。
 あたしはそれすらも見越して、次の手段に移る。

「それじゃ、あたしが飲ませてあげよっか?」

 持っていたペットボトルを雪の口元に運ぶ。
 そう、次は間接キス……だっ。
 ここまで来たらさすがに意識するでしょう。
 今までの行動が全て伏線となって、その意味に気付くはず。

 どうなの雪?

「いや、そんな事より」

「そんな事よりっ!?」

 あっさりスルーされた。
 嘘でしょ、これより気になる事ってなにあるのっ。

「ほうじ茶はどうだった? 普段、陽葵は飲まないよね?」

「え、あ、え……いや、普通に美味しかったけど」

 可もなく不可もなくと言えばそうなんだけど。
 お茶って感じ。

「そっか、気に入らなかったらどうしようって思ってたんだよね」

「……あ、それを気にしてたの?」

「うん、せっかくなら同じものを好きでいてくれる方がいいよね」

 ……ぐっ。
 普通に反応が可愛い。
 とはいえ、あたしが用意した作戦に自分の作戦が潰されている。
 “策士策に溺れる”を体現してしまっていた。

「それは分かったから、ほら飲みなよ」

 ええい、ここまで来たら強行突破だ。
 とにかく飲んで、飲んでその反応を見せてちょうだいっ。

「あ、うん」

「えっ」

「……なんでそっちが驚くの」

「いや、ごめん」

 どうして、そんなあっさり受け入れるの?
 もっとこう戸惑ったりとか、ちょっと拒絶しちゃうんだけど気にしたりとか、動揺しちゃったりとか、色々あるじゃん?
 なのに平然と頷く雪……予想と違う。
 でも言った手前、引き返すわけにもいかずあたしはペットボトルを雪の口元に運ぶ。
 そのまま雪は口をつけると、コクコクと喉を鳴らした。

「ありがと」

「……どういたしまして」

 結局、普通に飲んで終わった。
 なんだ、あたしが舞い上がってるばかりで雪は大して気にしていないのかな……。
 その説が濃厚になってきて、戻って来たペットボトルが虚しく感じ……て……え、あれ。

「どうしたの陽葵」

「い、いやいや、なんでもないっ」

 待って、今度はこっちを飲んだらあたしも間接キスになるんじゃない?
 ちょ、ちょっと待って、あ、あたしはまだそこまで心の準備が出来てないって言うか……。
 これだけ一人で考え込んでたから、間接キスにものすごい深い意味を感じてしまって、どうしたらいいか分からなくなっている……。

「なんでずっとお茶を見てるの?」

「へ? いや、特に意味はないんだけどっ」

 そう、意味なんてない。
 別に、間接キスくらい同性で友達同士ならよくある事だし?

 ……。

 いやいや、あたしから前提を壊していいの?
 この間接キスが最大の好意を示す行為だと思ったから、雪に試したんでしょ?
 その気持ちをなかった事には出来ない。
 でも、なかった事にしないとこのまま飲む事も出来ないっ。
 ど、どうしたらっ!?

「あー、そういうこと」

 こっちはずっとパニック状態だっていうのに、何か納得したような声を漏らす雪。
 あたしが握っていたペットボトルの隙間を縫うように、雪の指先が伸びる。

「私から飲ませろって意味でしょ」

「……へ?」

 そのまま反射的に雪に渡すと、その飲み口があたしの唇に向けられる。

「陽葵が飲ませてくれたんだから、今度は私がそれをやる番って事なんでしょ?」

 いや、そんなつもりは全くなかったんだけど。
 かと言ってどうしてフリーズしていたかを説明できるわけもないし。
 自分がしたことをされて否定するのも変だし。
 これは受け入れるしかない?
 間接キスをするしかない?

「はい」

「……う、うん」

 その飲み口を受け入れると、お茶が流れ込んでくる。
 舌先に渋みが広がって、喉には柔らかい水が流れていく。
 こくりと喉を鳴らすと、ペットボトルは唇から放れて行った。

「どう美味しい?」

「……お、おいしいね」

 いや、変な意味じゃないからね?
 普通にほうじ茶の評価だから。
 それ以上の意味はないから。
 でも、こんな事を考えてる時点で怪しいとかは言いっこなしだから。

「よかったね」

 柔らかく微笑む雪の表情を直視できないのは、あたしの心を見透かされないように隠そうと必死だからっていうのも秘密だ。


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