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第7章 明莉
54 垣根は越えがたい
しおりを挟む「明莉ー?次、体育館に移動だよ」
「え、あ、はい」
休み時間、 次の授業は体育なので移動する必要があります。
そこに華凛さんが親切に声を掛けてくれます。
わたしは、おっこいしょと重たい腰を持ち上げて席から立ち上がります。
「むふふっ」
「……?」
そして真横にはニコニコと快活な笑みを浮かべつつ、白い歯を見せる華凛さん。
わたしのことを見ながら、隣に立ち続けています。
「あの、華凛さん。どうしました?」
「いや、移動教室なんだから一緒に行こうと思って」
「えっ」
な、なるほど……。
家ではともかく、学校ではバラバラで行動することがほとんどだったのですが。
体育祭をきっかけに、とうとう移動教室も一緒に行ってくれる親切心を発揮してくれるようになったのですね。
「えっ、て何さ。ほら、行こうよ」
「いえいえ」
ですが、それには及びません。
わたしは“どうぞどうぞ”と両手を出して先へと促します。
「ん?なんか用でもあるの?」
「ないですけど、その……一人で行きますよ」
「? どういうプレイ?」
なにそれ?
と、ぽかんと口を開ける華凛さん。
わたしの言ってる意味が分からないようです。
おかしなことを言ってる自覚は多少ありますけど……。
「プレイとかではなくて、ほらわたしと一緒じゃ浮きますから……」
すると、華凛さんはすぐに察し、ぽんとわたしの胸の上に人差し指を当ててきます。
「だからさ、そんなの気にしても仕方ないじゃん。周りを気にして一人になるとかおかしいって」
言わんとすることは分かるのですが……。
ですがこれはもはや周りを気にしていると言うよりは、わたし自身が気にしてると言うか……。
「落ち着かないんです。他の人から見られるの」
「……それで、あたしとは一緒に行きたくないってこと?」
「行きたくないわけではないんですけど。学校では控えてた方がいいのかなって」
ふうん、と華凛さんは生ぬるい返事と共に唇を尖らせます。
「ま、明莉が嫌がることしたいわけじゃないからいいけどさ」
「は……はい」
「それじゃ先行ってるね」
「その……すみません」
「いーよ。それじゃ体育でね」
華凛さんは両手を頭の後ろに組みながら、”はーあ“と溜め息混じりで教室から出て行くのでした。
気持ちは嬉しかったので、悪いことをしてしまったなとなんだか複雑な気分です……。
◇◇◇
「明ちゃん、お昼休みですよぉ?」
「わっ、は、はい」
お昼休みになり、いつも通り一人でお弁当を机の上で広げていると日和さんが声を掛けて来てくれます。
そして、日和さんの手にもお弁当箱がありました。
「あの……?」
「一緒に食べましょうか」
おっとりとした声音、お弁当箱を顔の横まで持ち上げて一緒に食べましょうのポーズはとっても可愛いですけど。
「ややっ、それはっ」
「あら、どうかしました?」
首を傾げる日和さん。
ですが、その反応はわたしも同様です。
この前は体育祭というイベントに加え、中庭という人目につきづらい場所だから良かったですけど。
さすがにクラスメイトがいる教室の中でご一緒するというのは気が引けてしまいます。
「日和さんは、いつもの方たちと食べなくていいんですか?」
日和さんには日和さんのグループがあり、いつもその方と一緒に食べているのです。
そこから急に離脱するというわけにもいかないでしょう。
「たまにはいいんじゃないでしょうか?」
「ややっ、良くないですよっ」
「あら……?」
目をぱちくりとさせる日和さん。
まつ毛がふさふさと揺れる様はお人形さんなことこの上ないですが。
そんなことより、わたしが何を言っているのか全然分かっていらっしゃらない様子です。
「女の子の友好関係は繊細なんですから。そんなことしちゃうと良く思わない子が派閥を作って、日和さんを追い出しちゃいますよっ」
「……えっと、それ明ちゃんがわたしに言うんですかぁ?」
――グサッ
困ったように笑いながら指摘する日和さんでしたが、その威力は効果抜群。
わたしの胸を深く突き刺すのでした。
確かに、ぼっちが学園のアイドルに対して人間関係を説くとか意味わからない構図ですよね……。
例えるなら、わたしが華凛さんにバスケを教えるようなもの。
日和さんにお料理を教えるようなもの。
千夜さんに勉強を教えるようなもの。
それくらいの大それた行為をしちゃっているのです。
「と、とにかくよくありませんよっ」
「ま、そうなったらなったで明ちゃんと一緒になったらいいですもんねぇ?」
うふふ、といつもの上品な笑い声をあげる日和さん。
さすがの貫禄とその柔軟性に富んだ対応。
これは一筋縄ではいきません。
「ぐっ……!」
「あ、明ちゃん?どうしました?」
急にくぐもった声を上げお腹を押さえだしたわたしを見て、日和さんは慌て始めます。
「ふ、腹痛です……!」
「あら、いけません。早く保健室に……」
「いえっ、これはまず先におトイレですねっ」
「あ、な、なるほど。そちらでしたのね……?」
どうともとれる言い回しですが、何にせよ緊急性がある状態というのは伝わりました。
もちろん、本当にお腹が痛いわけではなく演技ですが。
「ちょっと長引きそうですので、やはりお弁当はいつもの方々と食べていて下さいっ……!」
わたしは体を折りながら、眉間に皺を寄せつつ苦悶の表情と共にお伝えします。
「ご、ご丁寧にありがとうございます……。ですが、そんな辛そうですのに、一人で大丈夫ですか?」
まずいです。
誇張した演技をしすぎたかもしれません。
心配させすぎても良くありません。
「いえっ!行けば絶対に治りますから!それではこれにて!」
「は、はぁ……」
これ以上追求されてはまずいと、わたしは脱兎のごとくその場から逃走します。
「あんなにお腹を痛そうにしていたのに、動くのはとっても俊敏なんですねぇ……?」
と、また下手な演技がバレそうになっている一言が背中から聞こえて、冷や汗をかいたのは秘密です。
◇◇◇
「……はあ」
難は逃れましたが、行動を事実にする必要があるのでわたしは便座に腰を下ろします。
あ、脱いではいませんからね。
特にする予定はなかったので制服姿のままですよ。
変な想像はしないで下さいね?
……いや、誰に言っているんでしょう、わたし。
誰もわたしのそんな姿、需要ありませんて。
「まあ、それはおいといて」
実際のところ、体は元気いっぱいなので特にすることはありません。
何分くらいいれば、それっぽいですかね。
……最低でも10分くらいでしょうか。
なんて、答えがありそうでないような疑問を考え込んでみます。
「――ねえ、あの花野明莉だっけ?見た、体育祭のやつ?」
すると、他の方がおトイレに入ってきて談笑する会話の中にわたしの名前が上がります。
思わずびくりと、扉を挟んだ向こうで震えてしまいます。
「ああ、月森さんたちと一緒にいたやつでしょ。けっこう謎だったよね」
そうして案の定、噂の種になってしまっていることに不安を持ちながら。
わたしは悪いと思いつつ、聞き耳を立ててしまうのでした。
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