百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

文字の大きさ
16 / 77
本編

16 思わぬ登場

しおりを挟む

「あのー……ゆずりはさん」

「うおっ」

 ルナの部屋を出て、廊下を歩いていると突然声を掛けられる。
 廊下の隅で隠れるように現れるものだから、思わずのけ反ってしまった。
 上目遣いであたしの様子を伺うのは小日向明璃こひなたあかりちゃんだった。

「だ、大丈夫ですか、楪さん」

「えっと……大丈夫っていうのは?」

「う、噂に聞きました。何だか大変な事になってるみたいですね……」

 明璃あかりちゃんの耳にも届いてたらしく、様子を伺っているのはあたしが傷ついているのではないかと心配してくれているようだ。

「ちょっと面倒な事にはなったけど、何とかするよ」

 と言うより、するしかないと言った方が適切か。
 とにかく千冬ちふゆさんの副会長当選は絶対に達成しなければならない。

「す、すごいですね……」

「何が?」

「あんな大舞台で、良く言わない人もいるのに。よく立ち向かおうと思えますね」

 これをあたし自身のためにやれと言われれば不可能だ。
 しかし、涼風千冬すずかぜちふゆというヒロイン、引いてはフルリスの物語の為なら話は別だ。
 これくらいの逆境は乗り越えなければ、作品のファンとして面目を保てない。
 そういう覚悟なのだ。

 それに……。

小日向こひなただって出来るよ」

「い、いえいえっ、わたしには無理ですよっ」

 慌てたように手を振る明璃ちゃんだが、原作シナリオ通りであれば君がやってた事だからね。
 嘘は言っていない。
 とは言え、今回はあたしがやると決めた事だ。

「出来る事は少ないですけど、応援はしてますからっ」

 そう言って、明璃ちゃんは両手で握りこぶしを作る。

「あ……ありがとう」

 主人公のイベントを奪っている悪女が、その本人に応援されている構図は本来シュールでしかないけど。
 それでも、素直にその言葉は受け取ろうと思えた。



        ◇◇◇



「……それで、私を呼び出してどういうつもり?」

 翌日の休み時間、あたしは千冬ちふゆさんを人通りの少ない廊下へと呼び出した。
 昨日のルナとの出来事があったので、表情はいつになく硬い。

「いや、ちゃんと伝えておこうと思って」

「何よ、改めて言われなくても承知しているわ。今、他の責任者を探している所だから……」

「あたしは最後まで責任者をやるから」

「……って、え?」

 意表を突かれたのか、千冬さんのツンケンとした空気が驚きに変わる。

「ルナはああ言ってたけど、あの状況を作ったのはあたしだから。だから、ちゃんと自分の手で千冬さんを副会長に押し上げたいんだ」

「……本気で言っているの?」

 確かめるように千冬さんが問いかけてくる。

「本気だよ、ルナにもちゃんと説明してるし。覚悟は決まってる」
 
 お互いに目を見つめ合って、その真意に偽りがない事を伝える。
 数拍の間を置いて、千冬さんは小さく息を吐いた。

「……そう。推薦したのは私だからね、貴女がやると言うのならお願いするのが私の立場よ」

「……えっと、お願いなんてされてましたっけ?」

 “責任者に推薦してあげてもいいけど?”みたいな立ち位置にしか感じられなかったのですが。
 いえ、それに不満はないんですがね。

「ええ、そうよ。何か間違った事を言ったかしら?」

 一気に不穏な空気に元通りになる、すいません怖いからやめて下さい。

「いいえ、仰る通りです。誠心誠意、務めさせて頂きます」

「ええ、お願いね」

 やはり、むしろあたしからお願いしているような構図になっている気がするが……。
 気のせいだね、うん、きっと気のせい。
 兎にも角にも、共に意志は固まったのだから後は今後の生徒会選挙をどう戦うかを考えていくだけだ。



「いいね、君たちにはお互いの信頼を感じるよ」



 そこに、第三者の声が届く。
 クラスメイトの者ではない。
 今のあたし達に声を掛ける学院の生徒はほとんどいないはずなのだが……。
 
「君たちが例の前代未聞の副会長候補コンビ……だね?」

 金色の長髪に、利発的な顔立ち。
 上背も高く、豊かな曲線を描くシルエットは少女と言うよりも女性のそれ。
 腕を組みつつ、快活な笑みを見せるその立ち姿は力強い印象をもたらした。

「……羽金はがねうらら

 ぼそりと千冬さんが呟く。

 ――羽金麗

 ヒロインの一人であり、三年生の先輩で前生徒会長。
 そして今年も当選間違いなしとされる生徒会長立候補者だった。

「おやおや、先輩を呼び捨ては感心しないな涼風君。ヴェリテ女学院は節度を保った人間関係を尊ぶからね。敬語はしっかり使えるようにしないダメだよ」

「あ、はい、すいません……羽金先輩」

 あの千冬さんですらたじたじになるこのヒロイン。
 それはただ先輩だからと言うわけではない。

「私のパートナーを目指すなら、それくらいは意識してもらいたいな」

 たしなめるようにさとす羽金先輩。
 それは普段、千冬さんがされる事がほとんどないであろう態度である。

「……お言葉ですが、羽金先輩はまだ先輩であって会長でありません。会長候補です」

 その意趣返しに羽金はがね先輩は目を丸くしたものの、すぐに吹き出した。

「あはは、そうだね。すっかり会長気分になっていた、私もダメだね。まだ前年度の気分が抜けていないようだ」

 そう、羽金麗は前年度……つまり彼女が二年生から生徒会長を務めていたのである。
 年功序列の意識が根強く、“伝統と格式”という柔軟性に欠けてしまう弊害も多いこの学院において、二年生から生徒会長を務めるという偉業。
 羽金麗は言わば最強ヒロインなのである。
 成績は首席、血筋も古くからの名家で、人となりも大らかで人望も厚く野心家でもある。
 言ってしまえばルナと千冬さんのスペックを合わせて、リーダーシップを兼ね備えたような人物なのである。
 ヒロインと言うより、もはやボスかな?

「でも実際問題、私の牙城を切り崩せそうな候補者はいなさそうかな? 何でも例年になく会長候補は減り、代わりに副会長候補が増えたようだからね」

 それもこれも、この羽金麗本人がもたらした結果だろう。
 圧倒的カリスマ性で生徒会長としての実績を積み、三年生になった彼女を阻む要素はほとんどない。
 当選する可能性の低い会長よりも、まだ可能性のある副会長に立候補するのは自明の理とも言えた。

「かと言ってそれが慢心する理由にもならないからね。ありがとう涼風君、気が引き締まったよ」

「……そうですか」

 このように千冬さんの小言もプラスに変換してしまう器の大きさ。
 そして遠回りに“逆境なのは君たちの方だけどね?”とも聞こえてきそうな言い回し。
 圧倒的強者。
 原作の楪柚希ですら、“羽金麗は敵にしたくない”と言わしめた傑物である。

「でも本当に君たちの協力しあう気持ちは伝わってくるものがあったよ。かつて私も茨の道を進んだ同志だ、応援しているよ」

 それは“下級生でありながら最高位の役職に立候補”した事を指しているのだろう。
 少なくともそこに小馬鹿にするようなニュアンスは感じられない。

「そして君」

「へ?」

 すると、羽金先輩がぽんとあたしの肩を叩く。
 見上げるとニコニコと笑っていた。

「いや、笑わせてもらったよ。この学院で上級生に声を荒げる後輩を見るのは初めてだ。噂には聞いていたけど、本当に常識が通用しないみたいだね」

 あー……うーん……これは小馬鹿にされていると思っていいのだろうか?
 とは言え、間違った事も言ってないしなぁ。
 羽金麗ですら失笑させてしまう楪柚希、さすがだな。

「そのまま前進するといい。きっとそれで涼風君の当選は間違いない物になるよ」

「……へ?」

 何を言っているのかよく分からなかったが、それだけ言うと羽金先輩は“ごきげんよう”とだけ残してその場を颯爽と去っていくのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...