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本編
18 相談タイム
しおりを挟む「「学院の生徒に笑われている(のですか)?」」
あたしの態度がおかしいと明璃 ちゃんとルナが迫ってきて心配が止まらない。
何があったのかと何回も問われるので、今朝の事を話した二人の反応がこれである。
息ぴったりで微笑ましいね。
「そうなんだよね、きっかけは街頭演説なんだろうけど。今まで生徒には避けられたけど笑われる事はなかったからさ」
人に無視されるのはスルーできるが、悪意に近い物を向けられると気にせずにはいられない。
まあ、元々の楪柚稀の悪行の報いだと思えば仕方ないのかもしれないが……。
理屈と感情はなかなか一致しないものだ。
「このままじゃいけないと思うんだよね、さすがに生徒会選挙に関わるし」
演説の内容等は千冬さんと一緒に考えていくが、楪柚稀の悪名はあたしがどうにかしなければならない。
生徒会選挙に向けて集中しているであろう千冬さんの負担をこれ以上増やすわけにもいかない。
「それについてユズキは悩んでたんだ……うん、対策を考える」
「ええ、そうですね。“三人寄れば文殊の知恵”とも言いますし!」
「……なに、それ?」
まとめようとする明璃ちゃんだったがルナには伝わらなかったようで首を傾げていた。
「え、あれ、日本のことわざですが」
「コトワザ……? “モンジュ”ってなに?」
「も、文殊がなにか……? え、な、なんでしょうか……?」
「知らない言葉を使うのはどうかと思う」
「……すいません……か、恰好ついたと思ったのですが……」
何やら二人で色々と相談し合っているが、ちょっと待って欲しい。
あたしを置いてけぼりでどうして話を進めているのか。
「ま、待ってよ。これはあたしが解決する事だから二人は気にしないで……」
「ユズキに何かあったら協力するって言ったでしょ、今がその時」
「そうですよっ、困った時はお互い様です!」
間髪入れずに二人が返事をしてくれる。
しかもあたしの為に一肌脱いでくれると言うのだ。
な、なんて優しい人達なのか。
相変わらず百合の間に挟まりまくっている気がして恐縮でしかないのだけど……。
「あ、甘えていいのかな……?」
「うん、ユズキのためなら何だって平気」
「はい、わたしもお手伝いしますよっ!」
おぉ……こ、心が浄化されていくっ……。
これが百合の、フルリスの力かっ。
この清らかさを以てして最後まで悪女だった楪柚稀の性根は一体どうなっていたのだろう。
「それじゃ、こういう状況の時って何をするのが二人は効果的だと思う……?」
というわけで、改めて二人にアイディアを募ってみる。
「ルナはそういう事をしてくる人は相手にしない、無視する」
なるほど、確かにそれがルナの処世術だ。
そうしてクラスメイト達と距離が出来てしまったのが現在の状態なのだ。
……。
いや、ダメだよねそれ。
「それだと困るっていうか、改善が必要なんだよね。悪いイメージを払拭しないと」
あたし一人の処世術としてならそれも良いかもしれないが、今のあたしには“涼風千冬の責任者”という一面がある。
あたしのイメージ改善は必要不可欠で、それが千冬さんの当選に繋がるのだ。
「……そう、だね」
ルナは長いタメを作って視線を泳がせる。
「コヒナタ、まかせた」
まさかのパスだった。
……ま、まぁ、そうだよね。
人に向き不向きがあるし、ルナは特にその手の人間関係が苦手な子なのだ。
それゆえの主人公への依存度が強くなるヒロインなのだから、これは仕方ない。
「そうですね、わたしだったら笑ってきた人に話を聞きに行きますかね。お互いの誤解を解くんです」
なるほど、さすが主人公。
正攻法でストレート勝負だ。
……なんだけど。
「それ、誤解がある前提だよね……」
「え、楪さんは誤解されてるんじゃないんですか?」
「いやぁ……誤解とは言い切れないんじゃないかなぁ……」
明璃ちゃんのように清廉潔白であれば、仮に一つのミスを犯してもその誠実な姿勢で解決する事もあるかもしれない。
しかし、あたしは楪柚稀である。過去を遡れば黒歴史、ミスだらけの女である。
叩けばホコリが出る女に、果たしてどれだけの人が耳を傾けてくれるだろうか……。
っていうか改めて整理してると、あたしが詰んでいるような気しかしない。
「人の印象は数秒で決まり、それを変えるのには半年以上掛かるという研究データもある」
「ルナ、突然賢さを出してくれるのはすごい嬉しいんだけど、それ悲報だよね?」
ここから半年とか生徒会選挙はとっくに終わってるし、何だったらフルリス終盤で追放されてる頃じゃない?
どう足掻いても無理という事だろうか。
「ううん、でも聞いて。人の印象は“視覚”つまりビジュアルで決まる要素が半分以上もある」
「ほ、ほう……?」
「だから、ユズキが好印象をもたれるようなビジュアルになれば印象は変わるかもしれない」
「な、なるほどっ……!?」
確かに、楪柚稀は悪行を重ねていると言ってもまだ一年生であり入学して数か月。
クラスメイトは顔をはっきりと覚えているかもしれないが、その他の生徒にはそこまでは及んでいないだろう。
「それに聴覚と言語の要素も大きい、喋り方や話す内容を変えればもっと大きく印象は変わる」
「おお……!」
こう言ってはなんだが楪柚稀は茶髪と鋭い目つき、着崩した制服に、乱暴な話し方。
等々、“悪女”として分かりやすくデザインされている。
それを根幹から変えられるのは転生者であるあたしだからこそ出来る技とも言える。
なるほど、盲点だった。
「さすがルナ、良いアイディアじゃんっ」
「ふふ……そうでしょ。コヒナタとは違う」
ルナはふんすと鼻息を荒くしながら、若干明璃ちゃんを流し目で見ていた。
「く、悔しいです……」
「い、いいんだよ小日向。相談乗ってくれただけで嬉しかったから」
それは本当の事だ。
こうして相談相手がいてくれるだけでも心強いと教えてくれたのは彼女の一声がきっかけだ。
その事には感謝しかない。
「よし、とにかく見た目を真面目にして、喋り方も大人しくして、丁寧な言葉遣いにすればいいってことねっ!」
方針は見えた。
すべき事を言葉にしてみると、案外簡単ではないかとさえ思えてくる。
「……そう、だね」
「……そうです、よね」
しかし、二人の返事には妙な間があった。
「……だよね」
釣られてあたしも間が空く。
何だろう、何というか論理だけが飛躍して大事な何かを見落としている気がしないでもない。
【おまけ】
ちなみに“文殊”とは、仏教の知恵を司る菩薩さまみたいです。
三人で話し合えば文殊菩薩のような知恵を得られる、といった意味らしいですね。
白藍は初めて知りました。
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