百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

文字の大きさ
18 / 77
本編

18 相談タイム

しおりを挟む

「「学院の生徒に笑われている(のですか)?」」

 あたしの態度がおかしいと明璃あかり ちゃんとルナが迫ってきて心配が止まらない。
 何があったのかと何回も問われるので、今朝の事を話した二人の反応がこれである。
 息ぴったりで微笑ましいね。

「そうなんだよね、きっかけは街頭演説なんだろうけど。今まで生徒には避けられたけど笑われる事はなかったからさ」

 人に無視されるのはスルーできるが、悪意に近い物を向けられると気にせずにはいられない。
 まあ、元々のゆずりは柚稀ゆずきの悪行の報いだと思えば仕方ないのかもしれないが……。
 理屈と感情はなかなか一致しないものだ。

「このままじゃいけないと思うんだよね、さすがに生徒会選挙に関わるし」

 演説の内容等は千冬ちふゆさんと一緒に考えていくが、楪柚稀の悪名はあたしがどうにかしなければならない。
 生徒会選挙に向けて集中しているであろう千冬さんの負担をこれ以上増やすわけにもいかない。

「それについてユズキは悩んでたんだ……うん、対策を考える」

「ええ、そうですね。“三人寄れば文殊もんじゅの知恵”とも言いますし!」

「……なに、それ?」

 まとめようとする明璃ちゃんだったがルナには伝わらなかったようで首を傾げていた。

「え、あれ、日本のことわざですが」

「コトワザ……? “モンジュ”ってなに?」

「も、文殊がなにか……? え、な、なんでしょうか……?」

「知らない言葉を使うのはどうかと思う」

「……すいません……か、恰好ついたと思ったのですが……」

 何やら二人で色々と相談し合っているが、ちょっと待って欲しい。
 あたしを置いてけぼりでどうして話を進めているのか。

「ま、待ってよ。これはあたしが解決する事だから二人は気にしないで……」

「ユズキに何かあったら協力するって言ったでしょ、今がその時」

「そうですよっ、困った時はお互い様です!」

 間髪入れずに二人が返事をしてくれる。
 しかもあたしの為に一肌脱いでくれると言うのだ。
 な、なんて優しい人達なのか。
 相変わらず百合の間に挟まりまくっている気がして恐縮でしかないのだけど……。 

「あ、甘えていいのかな……?」

「うん、ユズキのためなら何だって平気」

「はい、わたしもお手伝いしますよっ!」

 おぉ……こ、心が浄化されていくっ……。
 これが百合の、フルリスの力かっ。
 この清らかさを以てして最後まで悪女だった楪柚稀の性根は一体どうなっていたのだろう。






「それじゃ、こういう状況の時って何をするのが二人は効果的だと思う……?」

 というわけで、改めて二人にアイディアを募ってみる。

「ルナはそういう事をしてくる人は相手にしない、無視する」

 なるほど、確かにそれがルナの処世術だ。
 そうしてクラスメイト達と距離が出来てしまったのが現在の状態なのだ。
 ……。
 いや、ダメだよねそれ。

「それだと困るっていうか、改善が必要なんだよね。悪いイメージを払拭しないと」

 あたし一人の処世術としてならそれも良いかもしれないが、今のあたしには“涼風千冬すずかぜちふゆの責任者”という一面がある。
 あたしのイメージ改善は必要不可欠で、それが千冬さんの当選に繋がるのだ。

「……そう、だね」

 ルナは長いタメを作って視線を泳がせる。

「コヒナタ、まかせた」

 まさかのパスだった。
 ……ま、まぁ、そうだよね。
 人に向き不向きがあるし、ルナは特にその手の人間関係が苦手な子なのだ。
 それゆえの主人公への依存度が強くなるヒロインなのだから、これは仕方ない。

「そうですね、わたしだったら笑ってきた人に話を聞きに行きますかね。お互いの誤解を解くんです」

 なるほど、さすが主人公。
 正攻法でストレート勝負だ。
 ……なんだけど。

「それ、誤解がある前提だよね……」

「え、ゆずりはさんは誤解されてるんじゃないんですか?」

「いやぁ……誤解とは言い切れないんじゃないかなぁ……」

 明璃ちゃんのように清廉潔白であれば、仮に一つのミスを犯してもその誠実な姿勢で解決する事もあるかもしれない。
 しかし、あたしは楪柚稀である。過去を遡れば黒歴史、ミスだらけの女である。
 叩けばホコリが出る女に、果たしてどれだけの人が耳を傾けてくれるだろうか……。

 っていうか改めて整理してると、あたしが詰んでいるような気しかしない。

「人の印象は数秒で決まり、それを変えるのには半年以上掛かるという研究データもある」

「ルナ、突然賢さを出してくれるのはすごい嬉しいんだけど、それ悲報だよね?」

 ここから半年とか生徒会選挙はとっくに終わってるし、何だったらフルリス終盤で追放されてる頃じゃない?
 どう足掻いても無理という事だろうか。

「ううん、でも聞いて。人の印象は“視覚”つまりビジュアルで決まる要素が半分以上もある」

「ほ、ほう……?」

「だから、ユズキが好印象をもたれるようなビジュアルになれば印象は変わるかもしれない」

「な、なるほどっ……!?」

 確かに、楪柚稀は悪行を重ねていると言ってもまだ一年生であり入学して数か月。
 クラスメイトは顔をはっきりと覚えているかもしれないが、その他の生徒にはそこまでは及んでいないだろう。

「それに聴覚と言語の要素も大きい、喋り方や話す内容を変えればもっと大きく印象は変わる」

「おお……!」

 こう言ってはなんだが楪柚稀は茶髪と鋭い目つき、着崩した制服に、乱暴な話し方。
 等々、“悪女”として分かりやすくデザインされている。
 それを根幹から変えられるのは転生者であるあたしだからこそ出来る技とも言える。
 なるほど、盲点だった。

「さすがルナ、良いアイディアじゃんっ」

「ふふ……そうでしょ。コヒナタとは違う」

 ルナはふんすと鼻息を荒くしながら、若干明璃ちゃんを流し目で見ていた。

「く、悔しいです……」

「い、いいんだよ小日向こひなた。相談乗ってくれただけで嬉しかったから」

 それは本当の事だ。
 こうして相談相手がいてくれるだけでも心強いと教えてくれたのは彼女の一声がきっかけだ。
 その事には感謝しかない。

「よし、とにかく見た目を真面目にして、喋り方も大人しくして、丁寧な言葉遣いにすればいいってことねっ!」

 方針は見えた。
 すべき事を言葉にしてみると、案外簡単ではないかとさえ思えてくる。

「……そう、だね」

「……そうです、よね」

 しかし、二人の返事には妙な間があった。

「……だよね」

 釣られてあたしも間が空く。
 何だろう、何というか論理だけが飛躍して大事な何かを見落としている気がしないでもない。



【おまけ】

 ちなみに“文殊”とは、仏教の知恵を司る菩薩ぼさつさまみたいです。
 三人で話し合えば文殊菩薩のような知恵を得られる、といった意味らしいですね。
 白藍は初めて知りました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...