百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと

文字の大きさ
28 / 77
本編

28 当選結果

しおりを挟む

千冬ちふゆさん、やった、やったよ……!」

 当選結果が掲示されている張り紙を見に、あたしと千冬さんは一緒に足を運んでいた。
 掲示板にはしっかりと“副会長 涼風千冬”と書かれているのを見てあたしは喜びて飛び跳ねた。

「え、ええ……」

 そして当の本人は喜びよりも安堵が勝ったのか、呆然と張り紙を見つめ続けている。

「よ、良かった……本当に良かったっ!」

「むしろ貴女の方が喜んでいるわね……」

 もしかしたら千冬さんの尊厳を踏みにじってしまう恐れがあったのだ。
 涼風千冬の物語を根幹から覆してしまうような出来事だったのだから、それを回避できた喜びは大きい。

「あはは、良かったね二人とも」

 そこに寛容な笑い声で話しかけてくる人がいる。

羽金はがね……先輩」

 千冬さんがぽつりと呟くと、腕を組んで微笑んでいるのは羽金麗はがねうらら先輩だった。

「おっと涼風すずかぜ君、私の事はこれからは“羽金会長”と呼んでくれないと」

「……はあ、そうですか」

 むすっとする千冬さんだったが、それも仕方ない。
 羽金先輩は見事に生徒会長に当選していた。
 晴れてここに生徒会長と副会長のヒロインが誕生したのだ。

「言っておきますが、この当選は私とゆずりはで掴み取ったものです、貴女の力じゃない」

 ああ……千冬さん。
 そこであたしの名前を出してくれるのはすごく嬉しいけど、きゅんとしちゃったけど。
 でも、羽金先輩の力添えは大きかったよ。
 あのままじゃ厳しかったと思うのは、あの場にいた全員が肌で感じ取っていたはずだ。

「ふふ、勿論さ。君たちに力がなければ当選するはずもないからね」

 しかし、嫌な顔せず朗らかに認める羽金先輩。
 大人すぎる。

「君には期待しているよ、一年生のルーキーがこの学院の代表になるのは大変だと思うけど、努力する価値は十分にあるはずだ」

「言われなくてもそのつもりです」

「はは、余計なお世話だったかな」

 刺々しい千冬さんに対して、大らかな羽金先輩。
 対象的な二人だが、この二人によってヴェリテ女学院歴代最高と謳われる生徒会執行部が発足された日になるんだよなぁ。
 うーん。しみじみ。

「その節はどうもお世話になりました」

 千冬さんが一切の感謝を述べないので、あたしがお礼を言葉にしとく。
 これで生徒会と絡むのは最後になるだろうから潤滑油くらいにはなっておこう。

「ん……? あはは、驚いた。やはり噂というのはアテにならないものだね。君がすぐに感謝を述べる人物だとは思わなかったよ」

「改心したんです」

 なんせ中身が違いますから。
 生徒会長に嫌われるリスクなんて取りたくないし。

「うん、やっぱり君は面白いね」

「ど、どうも……」

 羽金先輩、なんていうか人として出来上がりすぎて若干怖いな。
 王者のオーラが溢れすぎてあたしには眩しすぎる。

「それで、羽金会長。リアンの事ですが……」

 そこに割って入るように千冬さんが問いかける。
 リアンとは言わゆるルームメイト。
 彼女がその事を尋ねるのには当然、理由がある。

「ああ、うん、リアンがどうかしたかな?」

「早速ですが、私とリアンになる手続きを進めてよろしいでしょうか?」

 ヴェリテ女学院では代々、会長と副会長がリアンを組むのは伝統となっていた。
 学院の代表である二人が日常生活を共にし絆を深めるのは、学院にも良い影響をもたらすと考えられているからだ。
 生徒会役員の初仕事は、このリアンの承認だと言われている。

「うん、その手続きは必要ないよ」

「……はい? えっと、それはどういう意味でしょうか?」

「言葉のままだよ。私は君とリアンを組むつもりは無いと言う事さ」

「……は?」

 千冬さんの表情が凍る。
 怒ってる、めっちゃ怒ってるやつだ……!

「私はね、今は誰ともリアンを組む気は無いんだ。それじゃまた生徒会室で会おう涼風君」

「あ、ちょっと……!」

 手を伸ばす千冬さんだったが、その手は届かない。
 羽金先輩は風を切るように歩き去っていったからだ。

「……羽金……麗……!!」

 千冬さん、怖いから呼び捨てやめて。



        ◇◇◇



「許せない、許せない、許せない、許せない……」

 隣で呪文のように唱えるのは千冬さんです。
 ガリガリと爪をかじっている姿は負のオーラが充満していて、怖いです。

「ち、千冬さん……そんな怒らないで」

 かと言って無視するわけにもいかず、あたしは当たり障りのない言葉を口にする。

「怒ってないわよっ!」

「怒ってる人の態度なんですけどぉぉ……」

 言われて自分でもハッとしたのか、バツが悪そうに千冬さんは目を伏せる。

「ごめんなさい、完全に八つ当たりだったわ……」

「あ、いや、いいんだけどさ。そんなに羽金先輩とリアンになりたかったの?」

「個人的にはなりたくないわよ、あの人とは合わなさそうだもの」

 まあ、でしょうね。
 見ているだけのあたしでもそう思うもん。

「でも問題は私個人の感情じゃないの。歴代、会長と副会長はリアンになってきたのよ? それを今、覆されたら生徒はどう考えると思う?」

「うーん、仲悪いのかなぁって思うかも」

「ええ、それもあるでしょう。でも私にとって問題なのは、“会長に実力不足で認められていない”なんて、レッテルを張られる事なのよ」

 実はこの展開、知っております。
 羽金先輩が千冬さんとのリアンを拒むのは原作準拠の流れなので、あたし個人としては驚きはなかった。
 千冬さんの懸念も最もなのだが、この二人はそんな前例など結果で覆すので杞憂で終わるんだけどね……。

 とは言え、今の千冬さんにとっては重要な問題である事には変わりない。
 なにせ彼女には一年生というハンディキャップに生徒会も未経験。
 そこに前例のないレッテルをプラスされるのは、リスクに感じて当然だ。

「大丈夫だよ、きっと千冬さんの事を知ってくれたら問題は解決するはずだよ」

 その頃にはリアンがどうのこうの関係ないくらい二人の改革が絶賛されるからね。
 あまり思い悩むでない。

「……ありがとう、いつも貴女には支えられているわね」

 落ち着きを取り戻したのか、しゅんとなりながらも千冬さんは冷静な声で語り掛けてくる。

「いいってことさ、元責任者だからね」

「選挙が終わってまでその役職の名残を残しているのは貴女くらいね」

 なんてふざけ合って、からからと笑い合う。

「あ、いましたー。探してたんですよ!」

 すると、どこからともなく陽気な声が響く。

「涼風さん当選おめでとうございます! 楪さんも責任者お疲れさまでした!」

 明璃あかりちゃんが嬉しそうに微笑んでいた。
 相変わらず素直な子だね。

「ありがとう、お陰で当選できたわ」

「はい! 素晴らしかった涼風さんに投票しましたからねっ!」

 うんうん、責任者はあたしがやってしまったけれど。
 これから先はヒロインの千冬さんとも仲良くやってね明璃ちゃん。
 あたしも仕事をやり終えて、ようやく一息つけそうだ。

「それにしても生徒会長の羽金麗さん、立派な演説でしたねぇ」

「……ん?」

 その明璃ちゃんの発言でふと、あたしは気付いてしまった事がある。

「……あれ、そういえば小日向こひなたって、羽金先輩と話した事あるっけ……?」

「いえ? ありませんよ?」

「……だよね」

 あ、まずい。
 あたしが責任者に専念しすぎて忘れていた。
 さっきのイベントが、本来であれば小日向明璃と羽金麗の出会うシーンだったのだ。
 だが実際に、その場にいたのは誰でしょうか?

 ……そう、あたしだねっ!

「よし、今すぐ羽金先輩と話しに行こう」

 ガシッと明璃ちゃんの腕を掴む。

「え、な、なんでですかっ!?」

 抵抗する明璃ちゃん。

「会って話してみたいでしょ? あたしはそうするべきだと思う」

「い、いえ……! 恐れ多いですっ! 困りますっ」

「あたしの方が困るのよっ」

「楪さんっ、言ってる事が滅茶苦茶ですよっ!?」

 ヒロインとの出会いをスキップする主人公なんて許されないのよっ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...