【完結済】聖女が去った、その後は──聖石の指輪が導く未来──

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
3 / 10

3.

しおりを挟む
 そんなある日のこと。
 フィールデン公爵邸の私の部屋に、突然デレク様とラヴェルナが現れた。挨拶もなく扉を開けズカズカと入ってきた彼らは、侍女たちを下がらせ人払いをすると、ドカッとソファーに腰かけた。
 私はひそかにため息をつくと、渋々向かいのソファーに腰かけた。

「……。一体何のご用でしょうか、デレク様、ラヴェルナさん」
「用があるのはあんたじゃないわ。あんたが着けてる、その指輪よ」

 ふんぞり返るデレク様の横で、ラヴェルナが私に向かってそう言い放った。

「お前、ハミル侯爵家の娘だからそのなんとかの指輪を着けることによって聖なる力を発動して、土地を潤しているんだろう?だが、考えてみればこのラヴェルナだってハミル侯爵家の血を引く娘じゃないか」
「そうよ。あんただけに特別な何かがあるとは思えないわ。その指輪、あたしが身に着けても同じ効力を発揮するはずよね。父がハミル侯爵家の出身なんだから、あたしだってその血を継いでいるわ」

 ……なるほど。
 おそらく二人は私を追い出し、ラヴェルナをこのフィールデン公爵家に引き入れたいのだろう。聖石の指輪だけを奪って、邪魔な私をここから追い出し、結婚する。密会しながらそんな計画を立てたに違いない。

 瞬時にそう察した私は、冷静に答えた。

「あなたでは駄目です、ラヴェルナさん。同世代の女性二人が聖石の指輪の力を引き出した過去はありません。そのことはベイリー伯爵もあなたに話したはずでは?今指輪は私を選んでいるのだから、あなたでは効力を発揮しないはずよ」

 私の言葉を聞いたラヴェルナはハン、と鼻で笑った後、ギロリと私を睨めつけた。

「何を調子に乗ってるのよ。ミシュリーのくせに、偉そうに。孤児になってからうちに引き取ってもらってずっと使用人をやってた女が、公爵令息夫人になってちょっと見た目を整えてもらったぐらいで、何をいい気になってるわけ?あんたにできることは、あたしにもできるの。あんたがあたしより優れているところなんて、何一つないのよ。デレク様だってあんたよりあたしの方が断然いいんですって。……いいから黙ってその指輪を寄越しなさいよ」
「ラヴェルナの言うことを聞け、ミシュリー。さっさと指輪を外して彼女に渡すんだ」

 二人は目の色を変えて私を見据え、そう急かす。その様子に身の危険を感じ、私はさり気なく立ち上がった。……誰かに助けを求めなければ。このまま応じなかったら、何をされるか分かったものじゃない。
 紅茶を入れ直しに行くようなそぶりを見せ、私は一度部屋の奥に向かって歩く。

「……ですから、簡単に外すことはできません。亡き両親からも、ベイリー伯爵夫妻からも、そしてフィールデン公爵夫妻からも口酸っぱく言われておりますもの。聖石の指輪だけは肌身離さず身に着けておくように、と。指輪を着けることによって発動する私の聖女の力をお疑いでしたら……、」
「だから!!一遍試しに外してみろって言ってるんだよ!!それが本当かどうか俺たちで確かめてやるから。お前がそれを外してラヴェルナが着けても領地の状況が変わらないようなら、別にお前じゃなくてもいいだろうが!」
「そうよ!お父様もお母様もあんたがここに嫁いで領地を離れた後、またベイリー伯爵領が荒れはじめるかもしれないって懸念してたけど、結局今もずっとうちは潤ったままだわ!その指輪の力なんか、大した影響力はないってことよ。ならちょっとあたしが着けてみたっていいじゃないの!貸しなさい!!」

 素直に応じない私の態度に激昂した二人はソファーから立ち上がり、こちらに向かってズカズカと歩いてくる。しまった。私は慌てて二人の横をすり抜けて扉へ向かおうとした。

 けれどデレク様はその私の右腕をすばやく掴み、乱暴に捻り上げる。

「あぁっ!い……、痛い……っ!やめて……、は、離してください……っ!」
「ラヴェルナ!指から引き抜け!」
「分かってるわ!押さえてて!」

 ラヴェルナは私の左手首をガシッと掴み、薬指から無理矢理指輪を引き抜いた。そしてそれをすばやく自分の指に嵌める。

「ふふ……っ!やったわ!デレク様、見て!」
「よし。これでしばらく様子を見てみればいい。数週間、数ヶ月経っても何も変化がなければ、この女はただの不要品ってことだ。ラヴェルナ、お前を俺の新しい妻として迎えるよう両親に掛け合うことができる」
「あぁん!嬉しいわデレク様!楽しみよあたし……!見ててね、絶対にあたしでも大丈夫なはずだから。ふふっ。あたし今日から毎日祈り続けるわね、このフィールデン公爵家の繁栄を。聖女らしくね」
「ああ。見た目もお前の方がはるかに聖女らしいしな」

 二人は放り出した私のことなどもう見向きもせず、肩を寄せ合い嬉しそうに部屋を出て行った。

「…………。」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま

藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。 婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。 エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

処理中です...