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12. イルゼの苦悩(※sideウェイン)
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「いい加減にしないかイルゼ!!一体どういうことなんだ!!」
これまでどうにか抑え込んできた怒りを、俺はついにイルゼに向かって爆発させてしまった。
王妃教育を完全に放棄してしまったようなイルゼの態度に腹が立つ。全く理解ができないと言って、ついに講義をボイコットしたとの報告を受けたのだ。
信じがたいことだった。俺たち夫婦は今ではもう、王宮中の者たちから白い目で見られている。あんなにも優秀で頼り甲斐のあった素晴らしい婚約者を排除してまで、無理矢理王太子妃に迎えた相手は、その立場についた人間としてやるべきことの全てを放棄してしまったのだ。
家臣たちの誰も彼もが、直接は言わなくとも俺を非難していることに、さすがに気付いていた。皆の目が冷たい。実の両親である国王と王妃でさえ、俺を軽蔑の眼差しで見てくるのだ。
イルゼの評判が悪すぎるせいだ。
王家の人間として身につけるべき知識を学ぼうとしない。何を勘違いしているのか、贅沢三昧で次々と新しいドレスや小物を買い漁っている。友人の下位貴族の令嬢たちを招いては、自分の部屋でお茶会と称した下品な井戸端会議を繰り返している。その騒がしい笑い声ときたら、とても王家の人間の振る舞いではない。
その令嬢たちが帰り、イルゼが部屋に一人になった途端、俺は怒鳴り込んだのだ。俺の剣幕に驚いたらしいイルゼが、目を見開いて固まった。
「……な……何ですの、と、突然……」
「突然ではないだろう!お前は一体、毎日毎日何をしているんだ!王妃教育はどうなっている?!何度も教師陣を変えさせた挙げ句に、何一つ修得しないまま放り出したそうじゃないか!!」
「……。」
「どうするつもりだイルゼ!自覚はあるのか?!王太子妃なんだぞお前は!先の王妃となる人間なんだ。この国に関する、そして大陸の各国に関する様々な知識を持って、その立場につかなくてはならないというのに……」
「……。」
「お前を愛したから王太子妃にしたんだ!何もかも完璧だったフィオレンサを捨ててまで……。お前が死に物狂いで頑張ると俺に誓ったから、その言葉を信じたんだ。それなのに……」
「う……っ!」
「……っ、」
「ふ……、う、……うぅぅ……っ」
「……イルゼ……」
「あぁぁぁ……っ!!」
突然イルゼが両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。声を上げて泣きながら、全身をブルブルと震わせている。
「……ひ……っ、……ご、ごめん、な、さい、あなた……っ。わ……、私……っ、うぅぅ……っ」
「……。」
こちらの胸が引き千切られそうなほど、切なく苦しげな泣き声。俺は立ちすくみ、イルゼを見つめた。
「つ……、つらくて……、あまりにも、……ま、毎日が……大変で……っ。すこし、だけ……、に、逃げ出したかったの……。現実から……っ。王妃教育が、あ、あまりにも、むずかしく、て……、ひぐっ……」
「イルゼ……」
「がんばり、ます……。頑張りますから……、お、お願いよ、あなた……、前の方と、比べるのは、もう止めてぇ……っ!」
「……っ!」
「あぁぁぁ…っ!!」
その心からの悲痛な叫びが、雷のように俺の全身を貫いた。
そうか。
イルゼは、ずっとこんなにも苦しんでいたのか……。
貴族としては低い身分から、無理矢理のように俺に王宮に引っ張り上げられ、妻となった。イルゼはいつも言っていた。何もいらない。ただこの俺からの愛を束の間得られれば、それだけで幸せだと。
権力も地位も何一つ望んでいなかったこの純真な娘を、俺は一生そばに置いておきたいと願ったのだ。イルゼは必死だったことだろう。俺の想いに応えるために。王妃教育のことなど何も知らない子爵家の娘が、一から全てを学ぼうとしているのだ。
辛くないわけがないではないか。
それなのに俺は……、無神経にもフィオレンサの名前など出して……。
もしかしたらイルゼは、俺に言わないだけで、王宮内で他の人間たちからもこんな言葉を浴びせられ続けているのかもしれない。前の婚約者は出来が良かった。素晴らしかった。なぜあなたはできないのかと。
どれほど大きなプレッシャーだったことか。
それなのに、イルゼに寄り添ってやるべき俺までが一緒になって責め立てるなど。
俺は、愚かな男だ……!
「イルゼ、悪かった。もう二度と言わない」
「ふ……、うぅぅ……っ」
俺はそばに寄り、イルゼの体を強く抱きしめた。
「あの女の名など、二度と出さない。許しておくれ、俺のイルゼ。こんなにも苦しんでいたのに……分かってやれなくて、すまなかった……」
「でんか……、殿下ぁ……っ!!」
その叫びに目が熱くなり、視界が揺らめく。少しでもイルゼの心が軽くなるようにと願いを込めて、俺はそのか細い背中をゆっくりと擦り続けた。
今は待つんだ。きっとイルゼは進んでいってくれる。ゆっくりとでも、必ず。
これまでどうにか抑え込んできた怒りを、俺はついにイルゼに向かって爆発させてしまった。
王妃教育を完全に放棄してしまったようなイルゼの態度に腹が立つ。全く理解ができないと言って、ついに講義をボイコットしたとの報告を受けたのだ。
信じがたいことだった。俺たち夫婦は今ではもう、王宮中の者たちから白い目で見られている。あんなにも優秀で頼り甲斐のあった素晴らしい婚約者を排除してまで、無理矢理王太子妃に迎えた相手は、その立場についた人間としてやるべきことの全てを放棄してしまったのだ。
家臣たちの誰も彼もが、直接は言わなくとも俺を非難していることに、さすがに気付いていた。皆の目が冷たい。実の両親である国王と王妃でさえ、俺を軽蔑の眼差しで見てくるのだ。
イルゼの評判が悪すぎるせいだ。
王家の人間として身につけるべき知識を学ぼうとしない。何を勘違いしているのか、贅沢三昧で次々と新しいドレスや小物を買い漁っている。友人の下位貴族の令嬢たちを招いては、自分の部屋でお茶会と称した下品な井戸端会議を繰り返している。その騒がしい笑い声ときたら、とても王家の人間の振る舞いではない。
その令嬢たちが帰り、イルゼが部屋に一人になった途端、俺は怒鳴り込んだのだ。俺の剣幕に驚いたらしいイルゼが、目を見開いて固まった。
「……な……何ですの、と、突然……」
「突然ではないだろう!お前は一体、毎日毎日何をしているんだ!王妃教育はどうなっている?!何度も教師陣を変えさせた挙げ句に、何一つ修得しないまま放り出したそうじゃないか!!」
「……。」
「どうするつもりだイルゼ!自覚はあるのか?!王太子妃なんだぞお前は!先の王妃となる人間なんだ。この国に関する、そして大陸の各国に関する様々な知識を持って、その立場につかなくてはならないというのに……」
「……。」
「お前を愛したから王太子妃にしたんだ!何もかも完璧だったフィオレンサを捨ててまで……。お前が死に物狂いで頑張ると俺に誓ったから、その言葉を信じたんだ。それなのに……」
「う……っ!」
「……っ、」
「ふ……、う、……うぅぅ……っ」
「……イルゼ……」
「あぁぁぁ……っ!!」
突然イルゼが両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。声を上げて泣きながら、全身をブルブルと震わせている。
「……ひ……っ、……ご、ごめん、な、さい、あなた……っ。わ……、私……っ、うぅぅ……っ」
「……。」
こちらの胸が引き千切られそうなほど、切なく苦しげな泣き声。俺は立ちすくみ、イルゼを見つめた。
「つ……、つらくて……、あまりにも、……ま、毎日が……大変で……っ。すこし、だけ……、に、逃げ出したかったの……。現実から……っ。王妃教育が、あ、あまりにも、むずかしく、て……、ひぐっ……」
「イルゼ……」
「がんばり、ます……。頑張りますから……、お、お願いよ、あなた……、前の方と、比べるのは、もう止めてぇ……っ!」
「……っ!」
「あぁぁぁ…っ!!」
その心からの悲痛な叫びが、雷のように俺の全身を貫いた。
そうか。
イルゼは、ずっとこんなにも苦しんでいたのか……。
貴族としては低い身分から、無理矢理のように俺に王宮に引っ張り上げられ、妻となった。イルゼはいつも言っていた。何もいらない。ただこの俺からの愛を束の間得られれば、それだけで幸せだと。
権力も地位も何一つ望んでいなかったこの純真な娘を、俺は一生そばに置いておきたいと願ったのだ。イルゼは必死だったことだろう。俺の想いに応えるために。王妃教育のことなど何も知らない子爵家の娘が、一から全てを学ぼうとしているのだ。
辛くないわけがないではないか。
それなのに俺は……、無神経にもフィオレンサの名前など出して……。
もしかしたらイルゼは、俺に言わないだけで、王宮内で他の人間たちからもこんな言葉を浴びせられ続けているのかもしれない。前の婚約者は出来が良かった。素晴らしかった。なぜあなたはできないのかと。
どれほど大きなプレッシャーだったことか。
それなのに、イルゼに寄り添ってやるべき俺までが一緒になって責め立てるなど。
俺は、愚かな男だ……!
「イルゼ、悪かった。もう二度と言わない」
「ふ……、うぅぅ……っ」
俺はそばに寄り、イルゼの体を強く抱きしめた。
「あの女の名など、二度と出さない。許しておくれ、俺のイルゼ。こんなにも苦しんでいたのに……分かってやれなくて、すまなかった……」
「でんか……、殿下ぁ……っ!!」
その叫びに目が熱くなり、視界が揺らめく。少しでもイルゼの心が軽くなるようにと願いを込めて、俺はそのか細い背中をゆっくりと擦り続けた。
今は待つんだ。きっとイルゼは進んでいってくれる。ゆっくりとでも、必ず。
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