21 / 35
21. 衝撃(※sideウェイン)
しおりを挟む
気が重い。
恥じ入るということがないのだろうか、このイルゼは。
自分が周囲からどんな目で見られているのか、それを全く意識していないのだろうか。
身支度が出来てイルゼを部屋に迎えに行った俺は、愕然とした。
信じられないことに、イルゼはきらびやかなラメがたくさん入った、目が痛くなるほど真っ赤なドレスを着ていたのだ。幾重にも襞が重なり大きく膨らんだ、血で染め上げたようなそのドレスは、間違いなく会場中の誰よりも目立つであろう。もちろん、悪目立ちだが。頭、耳、首、手首、指……、あらゆるところにジャラジャラと宝石のついたアクセサリーをつけている。
「……いくら何でも張り切りすぎだろう。主役はお前ではないんだぞ。今夜はステイシーの帰国を祝うパーティーなんだ。もう少し抑えてくれ」
たまらず俺は苦言を呈した。
「はぁ?!何よそれ!じゃあ王女殿下以外は皆壁と同化してろとでも言うつもり?!せっかくのパーティーなんだから、着飾って場を盛り上げた方がいいに決まってるじゃないの!!何なのよあなた!私のやることなすこと、次々に揚げ足とって……!ひ、……ひどいわ……っ!」
しまった。イルゼがいじけモードに入りそうだ。まもなくパーティーが始まるというのに。
「……分かったよ、悪かった、ごめん。さ、もう行こう」
「何よそれ?!どうでもいいんでしょう私のことなんか!!こんなに美しくしているのに、優しい褒め言葉ひとつさえ言ってくれないのね!!」
「…………綺麗だよ」
もう何もかも、どうでもいいような気分だった。
着飾った高位貴族たちが、次々に会場にやって来る。皆品があり、礼を欠かない美しい振る舞いだ。さすがに洗練されている。
こうなってくると、イルゼの無様な立ち居振る舞いが余計に際立ってしまう。
「頼むよイルゼ。ここで、俺の横で大人しくしておいてくれよ」
「しつこい。もう言わないで」
俺が前を向いたまま小声でそう言うと、イルゼも口角を上げ、前を向いたまま言い返してくる。ムカッときたが、ここで喧嘩を始めるわけにはいかない。会場中の貴族たちが、こちらをチラチラと見ているのだ。
何人もの挨拶を受けながら、俺は見るともなしにぼんやりと入り口の方を見ていた。
すると、
「──────っ!」
そこに突然、フィオレンサが現れたのだ。
控えめだが、とても繊細で美しい水色のドレスを身に纏った、かつての俺の婚約者が、ふわりと妖精のようにふいにそこに現れ、俺の視界に飛び込んできた。
少しも変わらぬ気品と美しさ。懐かしいその姿に、俺の胸は愛おしさでいっぱいになる。
(ああ、俺のフィオレンサ……!やはり俺には、フィオレンサしかいない……。離れて時を過ごし、こうして今再びあの姿を目にして、改めて気付いた。俺は彼女を失ってはいけなかったんだ……!)
淡くきらめく優しい色合いのそのドレスは、フィオレンサによく似合っていた。さすがはフィオレンサだ。自分を最も魅力的に、品良く見せる術を心得ている。イルゼとは大違いだ……。
(……ん?……誰だ、フィオレンサの隣にいるのは)
広間に入り、微笑みをたたえながらゆっくりと前へ進むフィオレンサの隣に、男がいる。その顔には見覚えがあった。ジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息。貴族学園でよくフィオレンサたちと共に勉強していた、あの侯爵家の息子だ。何故あの男が、フィオレンサをエスコートしているのだ……?
その時、近くにいた婦人たちの話し声が耳に届いた。
「まぁ、やっぱりご一緒にいらっしゃったわよ。ほら、ブリューワー公爵令嬢と、噂の……」
「ええ、ヒースフィールド侯爵家の、末のご令息ですわね。最近お二人で睦まじく過ごしていらっしゃるところをよく目撃されているとか。ふふ」
「とてもお似合いじゃございませんの。ご覧になって、ブリューワー公爵令嬢の、あのお幸せそうなお顔」
「ヒースフィールド侯爵令息こそ、あんなに愛おしげに見つめていらっしゃるわよ、フィオレンサ嬢のことを。ふふ、微笑ましいわ」
「では間違いなさそうですわね、あのお二人が婚約間近という噂は……」
「ええ、王妃陛下主催のパーティーにお二人でいらっしゃったということは、もちろん……」
「よかったじゃございませんの。ブリューワー公爵令嬢もあの時はお辛い思いをされたでしょうが、あんな素敵な方と一緒になられるのならば」
「ブリューワー公爵も夫人も、さぞやお喜びでしょうね」
(……っ!!な……、何だと……?!)
そんな。まさか。フィオレンサが……、あの男と、婚約間近だと……?!
知らなかった。フィオレンサにそんな親しい相手ができていたなんて。自分たちのことに手一杯で、周りのことなど気にかける余裕がなかった。まさか、そんな噂があったとは……。
俺はフィオレンサとヒースフィールド侯爵令息の姿を、呆然と見つめていた。
恥じ入るということがないのだろうか、このイルゼは。
自分が周囲からどんな目で見られているのか、それを全く意識していないのだろうか。
身支度が出来てイルゼを部屋に迎えに行った俺は、愕然とした。
信じられないことに、イルゼはきらびやかなラメがたくさん入った、目が痛くなるほど真っ赤なドレスを着ていたのだ。幾重にも襞が重なり大きく膨らんだ、血で染め上げたようなそのドレスは、間違いなく会場中の誰よりも目立つであろう。もちろん、悪目立ちだが。頭、耳、首、手首、指……、あらゆるところにジャラジャラと宝石のついたアクセサリーをつけている。
「……いくら何でも張り切りすぎだろう。主役はお前ではないんだぞ。今夜はステイシーの帰国を祝うパーティーなんだ。もう少し抑えてくれ」
たまらず俺は苦言を呈した。
「はぁ?!何よそれ!じゃあ王女殿下以外は皆壁と同化してろとでも言うつもり?!せっかくのパーティーなんだから、着飾って場を盛り上げた方がいいに決まってるじゃないの!!何なのよあなた!私のやることなすこと、次々に揚げ足とって……!ひ、……ひどいわ……っ!」
しまった。イルゼがいじけモードに入りそうだ。まもなくパーティーが始まるというのに。
「……分かったよ、悪かった、ごめん。さ、もう行こう」
「何よそれ?!どうでもいいんでしょう私のことなんか!!こんなに美しくしているのに、優しい褒め言葉ひとつさえ言ってくれないのね!!」
「…………綺麗だよ」
もう何もかも、どうでもいいような気分だった。
着飾った高位貴族たちが、次々に会場にやって来る。皆品があり、礼を欠かない美しい振る舞いだ。さすがに洗練されている。
こうなってくると、イルゼの無様な立ち居振る舞いが余計に際立ってしまう。
「頼むよイルゼ。ここで、俺の横で大人しくしておいてくれよ」
「しつこい。もう言わないで」
俺が前を向いたまま小声でそう言うと、イルゼも口角を上げ、前を向いたまま言い返してくる。ムカッときたが、ここで喧嘩を始めるわけにはいかない。会場中の貴族たちが、こちらをチラチラと見ているのだ。
何人もの挨拶を受けながら、俺は見るともなしにぼんやりと入り口の方を見ていた。
すると、
「──────っ!」
そこに突然、フィオレンサが現れたのだ。
控えめだが、とても繊細で美しい水色のドレスを身に纏った、かつての俺の婚約者が、ふわりと妖精のようにふいにそこに現れ、俺の視界に飛び込んできた。
少しも変わらぬ気品と美しさ。懐かしいその姿に、俺の胸は愛おしさでいっぱいになる。
(ああ、俺のフィオレンサ……!やはり俺には、フィオレンサしかいない……。離れて時を過ごし、こうして今再びあの姿を目にして、改めて気付いた。俺は彼女を失ってはいけなかったんだ……!)
淡くきらめく優しい色合いのそのドレスは、フィオレンサによく似合っていた。さすがはフィオレンサだ。自分を最も魅力的に、品良く見せる術を心得ている。イルゼとは大違いだ……。
(……ん?……誰だ、フィオレンサの隣にいるのは)
広間に入り、微笑みをたたえながらゆっくりと前へ進むフィオレンサの隣に、男がいる。その顔には見覚えがあった。ジェレミー・ヒースフィールド侯爵令息。貴族学園でよくフィオレンサたちと共に勉強していた、あの侯爵家の息子だ。何故あの男が、フィオレンサをエスコートしているのだ……?
その時、近くにいた婦人たちの話し声が耳に届いた。
「まぁ、やっぱりご一緒にいらっしゃったわよ。ほら、ブリューワー公爵令嬢と、噂の……」
「ええ、ヒースフィールド侯爵家の、末のご令息ですわね。最近お二人で睦まじく過ごしていらっしゃるところをよく目撃されているとか。ふふ」
「とてもお似合いじゃございませんの。ご覧になって、ブリューワー公爵令嬢の、あのお幸せそうなお顔」
「ヒースフィールド侯爵令息こそ、あんなに愛おしげに見つめていらっしゃるわよ、フィオレンサ嬢のことを。ふふ、微笑ましいわ」
「では間違いなさそうですわね、あのお二人が婚約間近という噂は……」
「ええ、王妃陛下主催のパーティーにお二人でいらっしゃったということは、もちろん……」
「よかったじゃございませんの。ブリューワー公爵令嬢もあの時はお辛い思いをされたでしょうが、あんな素敵な方と一緒になられるのならば」
「ブリューワー公爵も夫人も、さぞやお喜びでしょうね」
(……っ!!な……、何だと……?!)
そんな。まさか。フィオレンサが……、あの男と、婚約間近だと……?!
知らなかった。フィオレンサにそんな親しい相手ができていたなんて。自分たちのことに手一杯で、周りのことなど気にかける余裕がなかった。まさか、そんな噂があったとは……。
俺はフィオレンサとヒースフィールド侯爵令息の姿を、呆然と見つめていた。
274
あなたにおすすめの小説
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』
ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、
王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。
しかし彼女に返ってきたのは、
「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。
感情論と神託に振り回され、
これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。
けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。
「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」
冷静に、淡々と、
彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、
やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。
感情で選んだ王太子は静かに失墜し、
理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。
これは、
怒鳴らない、晒さない、断罪しない。
それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。
婚約破棄の先に待っていたのは、
恋愛の勝利ではなく、
「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。
――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました
恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」
婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、
身に覚えのない侮蔑の言葉だった。
10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。
だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、
妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。
婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。
学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、
フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。
「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」
彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。
捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす!
痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる