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3.秘め事
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食事が終わると部屋に戻り、侍女たちに湯浴みや着替えを手伝ってもらい夜着をまとった。
「陛下が来られるまで、アリア様はどうぞ寝室の方でお待ちくださいませ」
「は…っ、はい。ええ」
やだ。緊張しすぎて声が裏返っちゃった。
その様子を見ていたリネットがクスクス笑っている。
「ちょっと…。笑わないでよリネット」
「ふふ、だって…。アリア様、可愛くて。…失礼いたしました。どうぞお励みくださいませ」
「んもう…。…おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ。どうぞ良い夜を」
ニコニコしているリネットたちに見送られながら、私は内扉から続く夫婦の寝室へと入っていった。
そして、何度も深呼吸をして必死で心臓を落ち着かせながら待つことほんの数分。
「っ!」
反対側の内扉からジェラルド国王が入ってきた。彼もまた昼間にお会いした時とは全く違う、ラフな夜着。妖艶な色気を醸し出すその姿を見た途端、ますます鼓動が激しくなる。
「待たせたな、アリア。食事はどうだった」
「あ、は、はい。とても美味しゅうございました、陛下。…いえ、ジェラルド様」
「そうか?その割にはあまり食が進んでいなかったそうだが。口に合わなかったわけではないのだな」
そう言いながらジェラルド国王はガウンを脱ぎ、ごく自然にベッドに座った。
「あ、いえ、決してそのような…。ただ少し、その…、……む、胸がいっぱいで」
「ふ…、疲れていたのだろう。当然だな。生まれ育った国を出て、長旅の末突然この俺の元に嫁いできたのだから」
「…ジェラルド様…」
「こっちへ来い、アリア」
私とはまるで違う、緊張など微塵も感じさせない様子でジェラルド国王は私をベッドへ呼び寄せる。
おそるおそるそちらへ近づきながら、その手慣れた雰囲気にふいに言いようのない不安をおぼえた。なぜだろう。殿方との初めての夜に対する怯えかしら…。
「っ!あ……っ、」
ふいにジェラルド国王が私の腕を引き、私はあっという間に彼の下に組み敷かれていた。そしてそのまま貪るような激しい口づけが与えられる。あまりにも一瞬の出来事で、ただただ固まっていることしかできなかった。
「……ん……、んん…っ!」
「……ふ…、可愛いな、アリア…。待ち望んだぞ、この夜をな…。何度お前を奪いに行こうと思ったことか。我ながらよく耐えたものだ…」
口内を蹂躙するような濃密な口づけを幾度も繰り返した後、ジェラルド国王はようやく私から少し離れ、満足そうにそう言った。
そして上体を起こすと、脱ぎ捨てたガウンのポケットから何かを取り出した。
「これを飲め、アリア」
「は…、……?これは…?」
差し出されたものを受け取るために、私も体を起こす。
渡されたのは小さな白い紙だった。……薬包?
「ジェラルド様…?」
「夜を過ごす前に欠かせぬものだ。心配するな。一時的に子が出来にくくなる薬だ」
「……え……っ?」
子が、出来にくくなる薬…?
…それって…
「…ひ、避妊薬、ということですか?ですが…、な、なぜですか?ジェラルド様…。私は…」
「案ずるな。さほど強い効果があるものではない。お前の体に何らかの悪影響を及ぼすものでもないしな。俺が信頼のできる者からごく内密に貰い受けた薬だ。しばらくの間だけ、房事の前にはこれを飲め、アリア」
「……で、ですが……」
頭が混乱し、素直に頷くことができない。なぜ夫婦の寝室で夫となった人と過ごすのに、避妊薬を飲まなくてはいけないのだろう。一体どういう意図が…?
まさか、私が広く国民に受け入れられるまでは、子を成すわけにはいかないということだろうか…。
私の顔を見たジェラルド国王がクク…、と可笑しそうに笑う。
「そんな顔をするなアリア。俺はただ、ようやく手に入れたお前との蜜月を少し長く楽しみたいだけだ。すぐに子が出来てしまってはもったいないだろう。なに、ほんの数ヶ月だ。この薬を飲むのを止めれば子もすぐ出来る。…なぁ、アリア」
俯いてしまった私の頬をそっと撫でると、ジェラルド国王はその手をすべらせ私の顎を持ち上げた。そして甘えるように二人の額をコツンと合わせる。
息のかかるその距離で、彼は再び言い聞かせる。
「分かってくれ。初めてお前の姿を見た5年前から、俺はずっとお前のことだけを想い続けてきたんだ。寝ても覚めても、どんな時でも、可愛いお前の顔が頭から離れなかった。そして今、こうしてお前と二人きりでベッドの上にいる。…な?分かるだろう?まずは心ゆくまでたっぷりとお前のことだけを可愛がらせてくれ。夢にまで見たこの時を、俺が満足するまで味わわせてくれないか」
「……っ、」
ラドレイヴン王国の王妃として、私の大切な役目の一つは、子を成すこと。ジェラルド国王の後を継ぐ立派な後継者を産み、育てること。
正直、この異国の王宮で私自身の地位を盤石なものにするためにも、一刻も早く子を授かりたい気持ちはあった。
けれど……そうまで言われたら……。
「…承知いたしました、ジェラルド様…」
「分かってくれるか。お前は本当に可愛い女だ、アリア」
そう言うとジェラルド国王は立ち上がり、コップに水を注ぐと私の元へ持ってきた。口元に笑みを浮かべながら差し出す国王にそれ以上抵抗する気など起きず、私は黙って薬を飲んだ。
その姿を見たジェラルド国王は満足した様子で私からコップを取り上げると、サイドテーブルにそれを置く。そしてそのまま、もう一度私をベッドの上に押し倒した。
「…いい子だ、アリア。いいか、このことは二人だけの秘密だぞ。薬を飲んでいることは、決して誰にも話すな。蜜月を楽しむために責務を放り出すのかなどと、つまらん揚げ足を取ってはお前を虐めるような輩が出てきてはいかんからな」
「…ジェラルド様…」
「分かったな?アリア。薬はほんの数ヶ月の間だけ。夫婦の秘め事だ」
「……はい…」
私が返事をするとジェラルド国王は嬉しそうに笑い、再び私にキスをした。
耳に、首筋に、胸元に。体中に熱烈な愛撫を受けながら、私はますます募る不安を必死で頭の中から追い払おうとした。
「陛下が来られるまで、アリア様はどうぞ寝室の方でお待ちくださいませ」
「は…っ、はい。ええ」
やだ。緊張しすぎて声が裏返っちゃった。
その様子を見ていたリネットがクスクス笑っている。
「ちょっと…。笑わないでよリネット」
「ふふ、だって…。アリア様、可愛くて。…失礼いたしました。どうぞお励みくださいませ」
「んもう…。…おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ。どうぞ良い夜を」
ニコニコしているリネットたちに見送られながら、私は内扉から続く夫婦の寝室へと入っていった。
そして、何度も深呼吸をして必死で心臓を落ち着かせながら待つことほんの数分。
「っ!」
反対側の内扉からジェラルド国王が入ってきた。彼もまた昼間にお会いした時とは全く違う、ラフな夜着。妖艶な色気を醸し出すその姿を見た途端、ますます鼓動が激しくなる。
「待たせたな、アリア。食事はどうだった」
「あ、は、はい。とても美味しゅうございました、陛下。…いえ、ジェラルド様」
「そうか?その割にはあまり食が進んでいなかったそうだが。口に合わなかったわけではないのだな」
そう言いながらジェラルド国王はガウンを脱ぎ、ごく自然にベッドに座った。
「あ、いえ、決してそのような…。ただ少し、その…、……む、胸がいっぱいで」
「ふ…、疲れていたのだろう。当然だな。生まれ育った国を出て、長旅の末突然この俺の元に嫁いできたのだから」
「…ジェラルド様…」
「こっちへ来い、アリア」
私とはまるで違う、緊張など微塵も感じさせない様子でジェラルド国王は私をベッドへ呼び寄せる。
おそるおそるそちらへ近づきながら、その手慣れた雰囲気にふいに言いようのない不安をおぼえた。なぜだろう。殿方との初めての夜に対する怯えかしら…。
「っ!あ……っ、」
ふいにジェラルド国王が私の腕を引き、私はあっという間に彼の下に組み敷かれていた。そしてそのまま貪るような激しい口づけが与えられる。あまりにも一瞬の出来事で、ただただ固まっていることしかできなかった。
「……ん……、んん…っ!」
「……ふ…、可愛いな、アリア…。待ち望んだぞ、この夜をな…。何度お前を奪いに行こうと思ったことか。我ながらよく耐えたものだ…」
口内を蹂躙するような濃密な口づけを幾度も繰り返した後、ジェラルド国王はようやく私から少し離れ、満足そうにそう言った。
そして上体を起こすと、脱ぎ捨てたガウンのポケットから何かを取り出した。
「これを飲め、アリア」
「は…、……?これは…?」
差し出されたものを受け取るために、私も体を起こす。
渡されたのは小さな白い紙だった。……薬包?
「ジェラルド様…?」
「夜を過ごす前に欠かせぬものだ。心配するな。一時的に子が出来にくくなる薬だ」
「……え……っ?」
子が、出来にくくなる薬…?
…それって…
「…ひ、避妊薬、ということですか?ですが…、な、なぜですか?ジェラルド様…。私は…」
「案ずるな。さほど強い効果があるものではない。お前の体に何らかの悪影響を及ぼすものでもないしな。俺が信頼のできる者からごく内密に貰い受けた薬だ。しばらくの間だけ、房事の前にはこれを飲め、アリア」
「……で、ですが……」
頭が混乱し、素直に頷くことができない。なぜ夫婦の寝室で夫となった人と過ごすのに、避妊薬を飲まなくてはいけないのだろう。一体どういう意図が…?
まさか、私が広く国民に受け入れられるまでは、子を成すわけにはいかないということだろうか…。
私の顔を見たジェラルド国王がクク…、と可笑しそうに笑う。
「そんな顔をするなアリア。俺はただ、ようやく手に入れたお前との蜜月を少し長く楽しみたいだけだ。すぐに子が出来てしまってはもったいないだろう。なに、ほんの数ヶ月だ。この薬を飲むのを止めれば子もすぐ出来る。…なぁ、アリア」
俯いてしまった私の頬をそっと撫でると、ジェラルド国王はその手をすべらせ私の顎を持ち上げた。そして甘えるように二人の額をコツンと合わせる。
息のかかるその距離で、彼は再び言い聞かせる。
「分かってくれ。初めてお前の姿を見た5年前から、俺はずっとお前のことだけを想い続けてきたんだ。寝ても覚めても、どんな時でも、可愛いお前の顔が頭から離れなかった。そして今、こうしてお前と二人きりでベッドの上にいる。…な?分かるだろう?まずは心ゆくまでたっぷりとお前のことだけを可愛がらせてくれ。夢にまで見たこの時を、俺が満足するまで味わわせてくれないか」
「……っ、」
ラドレイヴン王国の王妃として、私の大切な役目の一つは、子を成すこと。ジェラルド国王の後を継ぐ立派な後継者を産み、育てること。
正直、この異国の王宮で私自身の地位を盤石なものにするためにも、一刻も早く子を授かりたい気持ちはあった。
けれど……そうまで言われたら……。
「…承知いたしました、ジェラルド様…」
「分かってくれるか。お前は本当に可愛い女だ、アリア」
そう言うとジェラルド国王は立ち上がり、コップに水を注ぐと私の元へ持ってきた。口元に笑みを浮かべながら差し出す国王にそれ以上抵抗する気など起きず、私は黙って薬を飲んだ。
その姿を見たジェラルド国王は満足した様子で私からコップを取り上げると、サイドテーブルにそれを置く。そしてそのまま、もう一度私をベッドの上に押し倒した。
「…いい子だ、アリア。いいか、このことは二人だけの秘密だぞ。薬を飲んでいることは、決して誰にも話すな。蜜月を楽しむために責務を放り出すのかなどと、つまらん揚げ足を取ってはお前を虐めるような輩が出てきてはいかんからな」
「…ジェラルド様…」
「分かったな?アリア。薬はほんの数ヶ月の間だけ。夫婦の秘め事だ」
「……はい…」
私が返事をするとジェラルド国王は嬉しそうに笑い、再び私にキスをした。
耳に、首筋に、胸元に。体中に熱烈な愛撫を受けながら、私はますます募る不安を必死で頭の中から追い払おうとした。
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