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7.空気が悪いな
入学から数ヶ月が過ぎたある日の放課後、生徒会室の長テーブルの一番奥に座っていたオリバー殿下が口を開いた。
「二週間後に、男子生徒たちによる武芸競技会が行われる。今回は剣を使っての競技会だけれど、これはあくまでも学園内で行われる模擬試合だから、使う剣は全て刃を鈍らせてあってよほどのヘマやルール違反でもしない限り、相手に大怪我を負わせるなんてことはない。だけど油断は禁物だから、事故が起こらないように皆で周到に準備しておこう」
「はい」
「はぁ~い」
殿下の言葉に、生徒会役員たちが一斉に返事をする。一人だけ間延びした猫なで声が聞こえたけれど、それが誰かは見なくても分かる。
「楽しみだわぁ~私。ふふふ。きっと皆さんすごくカッコイイんでしょうねぇ。ね?レイ。応援してるわね」
「ありがとう、ミランダ嬢」
この数ヶ月ですっかり私の婚約者と打ち解けたらしいミランダ嬢は、いつの間にかレイと呼ぶようになっていた。ちゃっかり隣に座っている。レイも私に向ける顔とは全然違って、優しく微笑んで返事をしている。
……本当に面白くない。どういうこっちゃ。
「ちょっとミランダ嬢、僕らのことも応援してくれよ」
「あらぁ、トビー様。当たり前じゃないですかぁ!私トビー様の番になったら全力で応援しちゃいますわよ。うふふふ」
「ミランダ、ちょっと静かにしてちょうだい。まだ殿下がお話し中よ」
くねくねしはじめた妹君に、セレスティア様が苦言を呈する。
「はぁい。ごめんなさぁい」
途端にしおらしくなるミランダ嬢。どうやら姉上には弱いらしい。
オリバー殿下は気分を害した様子もなく、微笑みながら話を続けていく。
「競技会自体は先生方が主体となって開催されるけど、僕らも当日までに備品の最終チェックや数の確認をしておこう。来週の広報誌に武芸競技会開催についての詳細を載せたいから、グレース嬢、その記事を書いてくれるかい?君の書く記事はとても読みやすくて僕はすごく好きなんだ」
「ええ、たしかに。あなたはとても文才があるわよね。いつも記事の締めの言葉選びに感心させられるわ」
「そ、そんな……。ありがとうございます」
オリバー殿下とセレスティア様という憧れの先輩に二人がかりで褒められて、嬉しくてつい頬が緩んでしまう。最初は生徒会広報誌作りの補佐的な仕事だけをやっていたけれど、最近では載せる記事のいくつかを私が書かせてもらっていてとても楽しい。
(……ん?)
向かい側からレイのジトーッとした視線が飛んでくる。……何よ。私が褒められたから嫉妬してるのかしら。
「はー。武芸競技会かぁ。模擬試合とはいえ俺は苦手なんですよねぇ。ほら、うちって家系的にそっち方面は苦手なもので」
役員の一人、イーデン・ファーキンス伯爵令息が溜息交じりにぼやく。ファーキンス伯爵家は代々、学者や教職者の家系で、たしかに武芸で名を馳せたような人はいなかった気がする。
「いやそれは僕の方こそだよ。うちも文官だらけで武芸は皆からっきしさ。はぁ……、気が重いよ」
トビー様がファーキンス伯爵令息の言葉に乗っかるように言う。それを見たオリバー殿下もクスクス笑いながら言った。
「まぁ正直僕も武芸はそんなに得意じゃない。その点君はすごいね、レイモンド。ベイツ公爵家は医師や薬師の多い家系だけど、君は文武両道だ。武芸競技会の優勝は君かもしれないね」
「はは。頑張ります」
オリバー殿下の言葉にレイは軽く笑ってそう答えた。こうして見ると生徒会、文系揃いだな。
(自信満々って感じねぇ)
怪我しなきゃいいけど。
余裕綽々なレイの姿が気にくわないのか、トビー様は露骨に不機嫌な顔をして、レイのことを睨みつけている。あの日生徒会室の前でやりあって以来、二人の間はギクシャクしている。……と言うか、トビー様が一方的にレイに敵意むき出しって感じだ。レイは相手にもしていない。現に今も、トビー様の視線に何一つ反応しない。
「グレース嬢も応援してね、僕のこと。君の応援があったら僕、頑張れちゃいそうだなぁ~。なんてね」
「……あは。ええ、皆様を応援しながら見ていますわ。頑張ってくださいませ」
急に私に話を振ってきたトビー様のことをしれっと躱して笑顔を張り付けると、ただならぬ気配を感じる。
「……。」
レイの隣にいるミランダ嬢が、眼光鋭く私を睨みつけている。……何?何なのよ。
ふと、オリバー殿下が言った。
「……何だか空気が悪いな。セレスティア、悪いけど窓を開けてくれるかい?」
「二週間後に、男子生徒たちによる武芸競技会が行われる。今回は剣を使っての競技会だけれど、これはあくまでも学園内で行われる模擬試合だから、使う剣は全て刃を鈍らせてあってよほどのヘマやルール違反でもしない限り、相手に大怪我を負わせるなんてことはない。だけど油断は禁物だから、事故が起こらないように皆で周到に準備しておこう」
「はい」
「はぁ~い」
殿下の言葉に、生徒会役員たちが一斉に返事をする。一人だけ間延びした猫なで声が聞こえたけれど、それが誰かは見なくても分かる。
「楽しみだわぁ~私。ふふふ。きっと皆さんすごくカッコイイんでしょうねぇ。ね?レイ。応援してるわね」
「ありがとう、ミランダ嬢」
この数ヶ月ですっかり私の婚約者と打ち解けたらしいミランダ嬢は、いつの間にかレイと呼ぶようになっていた。ちゃっかり隣に座っている。レイも私に向ける顔とは全然違って、優しく微笑んで返事をしている。
……本当に面白くない。どういうこっちゃ。
「ちょっとミランダ嬢、僕らのことも応援してくれよ」
「あらぁ、トビー様。当たり前じゃないですかぁ!私トビー様の番になったら全力で応援しちゃいますわよ。うふふふ」
「ミランダ、ちょっと静かにしてちょうだい。まだ殿下がお話し中よ」
くねくねしはじめた妹君に、セレスティア様が苦言を呈する。
「はぁい。ごめんなさぁい」
途端にしおらしくなるミランダ嬢。どうやら姉上には弱いらしい。
オリバー殿下は気分を害した様子もなく、微笑みながら話を続けていく。
「競技会自体は先生方が主体となって開催されるけど、僕らも当日までに備品の最終チェックや数の確認をしておこう。来週の広報誌に武芸競技会開催についての詳細を載せたいから、グレース嬢、その記事を書いてくれるかい?君の書く記事はとても読みやすくて僕はすごく好きなんだ」
「ええ、たしかに。あなたはとても文才があるわよね。いつも記事の締めの言葉選びに感心させられるわ」
「そ、そんな……。ありがとうございます」
オリバー殿下とセレスティア様という憧れの先輩に二人がかりで褒められて、嬉しくてつい頬が緩んでしまう。最初は生徒会広報誌作りの補佐的な仕事だけをやっていたけれど、最近では載せる記事のいくつかを私が書かせてもらっていてとても楽しい。
(……ん?)
向かい側からレイのジトーッとした視線が飛んでくる。……何よ。私が褒められたから嫉妬してるのかしら。
「はー。武芸競技会かぁ。模擬試合とはいえ俺は苦手なんですよねぇ。ほら、うちって家系的にそっち方面は苦手なもので」
役員の一人、イーデン・ファーキンス伯爵令息が溜息交じりにぼやく。ファーキンス伯爵家は代々、学者や教職者の家系で、たしかに武芸で名を馳せたような人はいなかった気がする。
「いやそれは僕の方こそだよ。うちも文官だらけで武芸は皆からっきしさ。はぁ……、気が重いよ」
トビー様がファーキンス伯爵令息の言葉に乗っかるように言う。それを見たオリバー殿下もクスクス笑いながら言った。
「まぁ正直僕も武芸はそんなに得意じゃない。その点君はすごいね、レイモンド。ベイツ公爵家は医師や薬師の多い家系だけど、君は文武両道だ。武芸競技会の優勝は君かもしれないね」
「はは。頑張ります」
オリバー殿下の言葉にレイは軽く笑ってそう答えた。こうして見ると生徒会、文系揃いだな。
(自信満々って感じねぇ)
怪我しなきゃいいけど。
余裕綽々なレイの姿が気にくわないのか、トビー様は露骨に不機嫌な顔をして、レイのことを睨みつけている。あの日生徒会室の前でやりあって以来、二人の間はギクシャクしている。……と言うか、トビー様が一方的にレイに敵意むき出しって感じだ。レイは相手にもしていない。現に今も、トビー様の視線に何一つ反応しない。
「グレース嬢も応援してね、僕のこと。君の応援があったら僕、頑張れちゃいそうだなぁ~。なんてね」
「……あは。ええ、皆様を応援しながら見ていますわ。頑張ってくださいませ」
急に私に話を振ってきたトビー様のことをしれっと躱して笑顔を張り付けると、ただならぬ気配を感じる。
「……。」
レイの隣にいるミランダ嬢が、眼光鋭く私を睨みつけている。……何?何なのよ。
ふと、オリバー殿下が言った。
「……何だか空気が悪いな。セレスティア、悪いけど窓を開けてくれるかい?」
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