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6.嫌な男ばっかり…

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「君たちって本当に一緒にいないよね」
「……え?」

 ある日の放課後。私は生徒会の広報誌用に使う資料を集めに行くトビー・ハイゼル侯爵令息について、学園の図書室に行っていた。これも生徒会活動の勉強の一環だ。生徒会室に戻る時にトビー様だけが何冊も資料を抱えているのを見て私も持ちますと言ったのだけど、大丈夫だからと断られた。
 初めはハイゼル侯爵令息様と呼んでいたのだけれど、ある時「トビーでいいよ」と言われてからはおそるおそるトビー様と呼んでいる。そんなに親しい間柄でもないし、何だか気まずいのだけど。

「レイモンドと君だよ。婚約者同士だろ?ほとんど喋りもしないし、もしかして仲悪いの?」
「……。」

 ズバリ聞くな…。

「いえ、決してそのようなことはないのですが、学園では互いに節度を保ちわきまえようと、そう話し合っておりまして」
「だけど普通の婚約者同士ってもっと親密にするものだろ?将来夫婦になるわけだから、仲良くしておくに越したことはないし…。せめて一緒にランチを食べるとかさ。休み時間はたまに一緒に過ごすとか。それくらいしてもよさそうなものなのにね」
「はぁ…、まぁ、私たちはこれでいいと言いますか…」
「生徒会室でも二人はほとんど会話もしないしさ。事務的なこと以外喋らないだろ?グレース嬢はそれで寂しくないのかい?」

 よほど気になるのだろうか、トビー様は随分食い下がって聞いてくる。「どうせ互いに望まぬ政略結婚だからせめて独身の間は自由に過ごそうみたいなことを彼から言われておりまして」なんて正直に答えたら一体どんな反応をされるのだろうか。

「…別に寂しくはありませんわ。今は学ぶことがたくさんありますから彼のことばかりを気にかけてはいられませんし、友人もたくさんできましたので、特には。ええ」
「……ふぅん……。じゃあ、たとえば僕が君をデートに誘ってもいいわけだ。んふ」

 ……なぜそうなります?
 私の反応を窺うように顔を覗き込んでくるトビー様にじわりと嫌悪感が湧く。

「…互いに婚約者のいる身で二人きりでデートはいかがなものかと。さすがにそれは怒られてしまいますわ」

 いや、レイはきっと怒りもしないだろうけれど、私が嫌だ。侯爵家の娘として妙な噂を立てられそうな軽はずみな行動はできない。

「うちは全然大丈夫だよ。エイミーは僕のやることに文句なんて言えないから。伯爵家の次女だからね」
「……。え?」

 伯爵家の次女だから、何?え?自分の婚約者のこと、ずいぶんと下に見てる……?今の言い方、なんかひどくない?

「うちの父もエイミーの父親も王宮の文官で、うちの父は向こうの上司にあたるんだ」
「………………はぁ」

 私が理解していないとでも思ったのか、さらに不愉快な言葉を重ねてくる。完全に見下してるな、相手の女性のことを。こういうタイプの男の人嫌いだわー。こんな人と結婚しなきゃならないなんて、相手の方が可哀相…。そう思って黙っていたらトビー様はさらにしつこく誘いをかけてくる。もうすぐ生徒会室に着く。早くこの人から離れたい。

「ね?だからさ、二人で気晴らしにどこかに出かけない?夏の長期休暇にでもさ。良い場所を知ってるんだよ僕。最近できた個室のカフェなんだけどね、カップル用ってかんじでムードがあってさ。その個室の奥に…」
「ハイゼル侯爵令息」
「っ!」

 げんなりしながら俯いて歩いていた私は前を見てビックリした。いつの間にか目の前にレイが立っていた。眉間に皺を寄せて。

「何のお話をされているのですか?まさか、俺の婚約者のことを誘ってましたか?」
「……は?いや、別に。長期休暇に入ってもし暇な日があったら遊びにいかないかって話をしてただけさ。誘ってたって…。はっ、人聞きが悪いなぁ。僕はただ、」
「あなたはオリバー殿下の側近的立場の方だ。辺り構わず婚約者以外のご令嬢に愛想を振りまくのはいかがなものかと。殿下にご迷惑がかかることになるかもしれませんし、下手したらあなたの将来にも響きますよ。弁えるべきです」
「……っ、な……っ!」

 私は驚いた。レイは私以外にはわりと人当たりがよくて、このトビー様ともいつも上っ面な笑顔を貼り付けては無難な世間話をしたりしていたのだ。なのに突然不機嫌むき出しだ。すごい怒ってる。

(……え?これって、もしかして……、トビー様が私にちょっかい出そうとしたから、それで怒ってくれてるの?かしら……)

 普段あまりにも塩対応だから私にはまるっきり興味がないのかと思っていたけれど。
 一応婚約者として、他の男からモーションかけられるのは不愉快に思ってくれるらしい。……そういうことよね?

「……先輩に向かって何だその生意気な口のきき方は!失礼だぞ!」
「こういうことに先輩も後輩もないと思いますが。それを仰るならベイツ公爵家の息子である俺に対して、その口のきき方も失礼ですよ」
「っ!!~~~~~~っ!!ふんっ!!」

 ハイゼル侯爵家の息子はベイツ公爵家の息子に見本のような「ふんっ!!」を言うと真っ赤な顔をして生徒会室に入りバタンッ!と音を立ててドアを閉めてしまった。
 二人廊下に残されて気まずいような変な空気が漂う。

「……ありがとう。助かったわ」

 不愉快な誘いを阻んでくれたので、一応お礼を言ってみた。

 すると、

「ありがとうじゃない。お前も仮にも侯爵令嬢だろう。ああいう時は黙って聞いていないではっきり断ればいい」
「…や、断ったのよ、一応。だけどトビー様がしつこ…」
「その妙になれなれしいトビー様っていう呼び方もどうなんだ。恋人でもあるまいし。大好きなオリバー殿下に誤解されるぞ。婚約者がいながらよその男に媚を売る軽い女だとな」
「っ?!な……何よりその言い方!誰が軽い女よ!ちょっと失礼すぎない?!」
「だから“誤解されるぞ”と言ったんだ俺は。話聞いてるのか?馬鹿」
「っ?!!」

 無表情で言いたいことだけ言うと、レイはさっさと生徒会室に戻ってしまった。

(は……腹が立つわねあいつも!!)

 何なの?!少しは婚約者として特別な目で見てくれてるのかと思ったら……全然そんなことないじゃないの。何で私にだけあんなかんじなの?もう少し愛想良くしなさいよ!他のご令嬢方と話してる時はニコニコしてるくせに!誰が馬鹿よ。バカ!!

「はぁぁ……。嫌な男ばっかり…」




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