【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花

文字の大きさ
7 / 39

7.心を抉る言葉

 ようやく今日の来客が帰られてすぐ、私は拳を握りしめありったけの勇気を持って彼の部屋のドアをノックした。

「……失礼いたしますわ、ダミアン様」
「……あ?何だ?クラウディア。疲れているんだが」

 私が部屋に入ると途端にダミアン様の眉間に皺が寄る。……ううん。駄目。ここで怯んでちゃいけない。このままじゃ私たちの距離はずっと縮まらないもの。
 私はゴクリと喉を鳴らすと一歩前へ出た。

「……お、お話が、したいのです」
「……話?」

 はぁ、とダミアン様が溜息をつく。

「…一体何の話だ?書類のことなら執事に聞いてくれよ」
「そっ、そうではありません。……その、……わ、私たち、……二人きりで会話をする時間が、とても少ないと思うのです」
「………………。」

 ダミアン様は私から目を逸らして座ったまま返事もしない。仕方なく、私は言葉を続けた。

「最近…、よく女性の方がお部屋にいらっしゃってますが……、……み、皆さん、お友達なのですよね……?」
「……。」
「う、羨ましく思うのです…。妻の私は、あなたとほとんど、会話さえできていなくて……、……結婚以来会話といえば、ほとんど仕事の書類のことだけ……。あ、あなたのことを、私は何も知らないままです…」
「……。」
「昔のように、…子どもの頃のように、またあなたと、仲良くできたらと……いつも、思っております…。その……、あの頃、とても楽しかったから……。あなたは、いつも私に優しくて……」
「…………。」
「少しずつでも、あの頃のように、あなたと近づきたいのです。…そして、いつかは、誰よりも仲睦まじい夫婦になれたら、と…」
「もう止めろ、クラウディア」

(……っ!!)

 ようやく口を開いた夫はそう言って、凍り付くような眼差しで私を見た。その視線はあまりにも鋭く、私の言葉は喉元で止まってしまった。

「俺の自由を奪いたくて仕方がないらしいな、お前。そんなに俺が疑わしいか。友人に女性が多いからと言って、そんなにネチネチと責め立ててくるような陰湿な女だったのか、お前は」
「…………っ!!……そ……」
「子どもの頃のことなんか持ち出してきて、そんな大昔のことなどとっくに忘れたに決まっているだろう。そんな手を使っても無駄だぞ、クラウディア。ますますお前に嫌気が差すだけだ。俺はな、自由でいたいんだよ、自由で。妻がどうの仲睦まじい夫婦がどうのと言うのならば、まずは俺が居心地が良いと思う家をお前が作ったらどうだ?それができないなら、いっそ離婚するか?」
「─────っ!!」


 ……り…………離婚…………?


 あまりのショックに目まいがした。離婚……?そんな、そんな言葉が……簡単に出るなんて……。

「…………ごめん、なさい……」

 無意識に私の口から言葉が漏れた。

「……ごめんなさい、ダミアン様……。わ、私はただ……」

 ショックで涙が込み上げる。視界が揺らぎ、これ以上言葉を発したら零れてしまいそうだった。追い打ちをかけるようにまたダミアン様の深い溜息が聞こえた。

「……あぁ、もういいから。止めてくれそういう辛気臭いのは。なぁ、クラウディア。俺のことばかり考えず、お前ももっと一人の時間を楽しんだらどうだ?最初に言っただろう。割り切って互いに自由に生きようと。夫婦でゆっくり会話を楽しんでどうのこうの、…そんなのもっと歳をとってからいくらでもできるだろう。妻としての愛を示したいとでも言うのなら、俺の自由を尊重することと俺の仕事をしっかりサポートすることで示してくれ。そうすれば俺の気持ちだってもっと変わるかもしれないさ」
「……っ、」
「そうだろう?」
「…………はい…」
「分かったなら出て行ってくれ。今はお前の顔を見たくない」
「…………。ごめんなさい…」

 重い足を必死に動かしてどうにかその場を離れると、私はダミアン様の部屋のドアを閉めて廊下の奥にある自分の部屋へ戻った。


 パタン。


「………………ふ……、う……う゛ぅっ……」

 そして部屋に入り鍵をかけると、私は声を押し殺して涙を流した。




あなたにおすすめの小説

あなたの隣に私は必要ですか?

らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。 しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。 そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。 月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。 そんな状況で、アリーシアは思う。 私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。 * 短編です。4/4に完結します。 ご感想欄は都合により、閉じさせて頂きます。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。