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8.助けて!!
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「クラウディア、頼みがあるんだが」
「っ!は、…はいっ」
ダミアン様のお部屋で怒られたあの日から数日後、珍しく向こうから声をかけられた。私はドキッとして慌てて返事をする。あの日以来、不愉快にさせて嫌われるのが怖くてほとんど目も合わせていなかった。
「この書簡なんだが…、だいぶ前に農園の代官に渡すよう父に言われていたんだが、それをすっかり忘れててさ。悪いが俺は当分忙しいから、お前届けてきてくれないか?」
「はっ、はい…。…えっと、ど、どちらにお持ちすれば…?」
「これがその男の住所らしい。よろしく頼んだぞ」
それだけ告げるとダミアン様は屋敷を出て行ってしまった。
(……忙しいって、何だろう。お仕事かしら。それとも……)
……いけない。こんな風に詮索しては駄目なんだわ。また疑っていると思われてしまう。
渡された紙に目を落とす。そこに記されていた住所はあまり馴染みのない場所だった。
(……まぁ、行ってみれば分かるわよね。せめて任された仕事だけでもきちんとこなしていって、ダミアン様に認めてもらわなくては)
あの日の冷たい言葉には深く傷付いたけれど、私はそれでも前向きに努力しようと決めていた。
(……ダミアン様の自由を尊重すること、仕事をサポートすること、…居心地の良い家を作ること…)
何度も何度も頭の中で繰り返した言葉を、私はまた心で呟いていた。
ちょっとした用事だしすぐに帰ってくるからと、私は若い侍女を一人だけ伴って馬車に乗り目的の住所まで出かけた。
目的地が近くなると道幅が急に狭くなったきた。どうやらこの辺りは密集した住宅地のようだ。なんだか少し雰囲気が暗い気がするけれど、気のせいかもしれない。
「奥様、ここから先は馬車では難しそうでございますね。…いかがいたしましょうか」
「ええ、そうみたいね。仕方ないわ。もう近くまで来ているみたいだし、歩きましょうか」
「かしこまりました。……どうやら、ほら、そこの通りで間違いないようですね」
「ええ」
私は侍女のジョアンナを伴って馬車を降り、細い通りに入っていった。
「……。」
「……お、奥様……。何だか、少し怖いです…ここの雰囲気……」
「大丈夫よ。すぐに終わるから、私から離れないでねジョアンナ」
私は怯えている年若い侍女を落ち着かせるように言った。まさかこんなに入り組んだ薄暗いところだなんて思わなかった……。正直私もさっきから通りに固まって座りこちらをニヤニヤしながら舐めるように見てくる男の集団が怖くて仕方がなかったのだが、ジョアンナのためにもそれを表に出さないよう必死だった。
(は……早く……、早く着きますように……っ)
番地の札を見ながら私は冷静を装って歩いていた。
すると、
「お嬢さーん。どうしたの?こんなところでさぁ」
「っ!!」
見知らぬ男の一人が私の横に突然ずいっと現れ声をかけてきた。距離の近さに驚き、心臓が痛いほど大きく跳ねる。
後ろでジョアンナが「ひっ!」と息を呑む気配が伝わってきた。
「……お構いなく。知人の家を訪問するところですわ」
私は前を向いたまま努めて冷静に答えた。……つもりだったが、恐怖のあまり声が震える。
「えへぇ~?あんたみたいな高級そうなお嬢さんがこんなところに知り合いなんているのかい?ぐへへ。いい匂いだなぁ」
そう言って真横で鼻を鳴らしている男は信じられないほど臭い。強いアルコール臭の混じった不潔な匂いだ。
「まぁまぁそんなに急ぐことないだろうお嬢さん。俺たちとちょっと遊ぼうぜ~」
「そうそう!せっかくの出会いじゃねーか。すげぇ可愛いなぁあんた。お人形みてぇな顔してるじゃねぇか。うひゃひゃひゃひゃ」
「高そうな服だなぁそれ」
「服じゃねぇよ馬鹿かてめぇ。ドレスって言えよ。なぁ?お嬢さん」
「ぎゃはははははは」
「……っ、」
いつの間にか私たちの周りには7、8人もの柄の悪そうな男たちが群がっていた。皆して面白そうに揶揄い、私のドレスに手を触れてくる者までいる。
(た……、助けて……!誰か……っ!!)
恐怖で心臓がドクドクと激しく脈打っている。後ろのジョアンナが震える涙声で叫んだ。
「は……離れてください……っ!あなたたち……!こっ、こちらの方はこここ高貴なお方なのですよ……っ!」
「へーぇ!聞いたかお前ら!高貴なお方だとよ!」
「あっはははは!見りゃ分かるさそんなの!」
「なぁ高貴なお嬢さん。俺たちにお恵みをくれよ。金が有り余ってるんだろ?」
「金じゃなくてもいいぜ!せっかくの出会いに感謝して思い出作りでもしよーや」
ついに男たちは私の前にまで立ち塞がり、私たちは一歩も進めなくなってしまった。場違いな私たちを揶揄う冗談のつもりかと思ったが、前に立つ男の目はどす黒くギラつき血走っていた。
「………………どっ……どいて…ください…」
恐怖のあまり掠れるような声しか出ない。意識が遠のきそうだ。私は崩れそうな足を必死で踏ん張った。
「まぁまぁそんな冷たいこと言うなってお嬢さん。ちゃんと可愛がってやるよ。ほら、そっちの路地でさ…」
「ひやぁっ!!だっ!だっ!誰かぁーっ!!」
男の一人がついに私の手首をがしっと握った。見知らぬ男のゴツゴツした手の感触に一気に鳥肌が立つ。私の代わりに夢中で叫んでいるジョアンナのことだけはどうにか逃がさなくては。
混乱する頭の中でそんなことを考えた、その時。
「そこで何をしている?!その方から離れろ!貴様ら!!」
「っ!は、…はいっ」
ダミアン様のお部屋で怒られたあの日から数日後、珍しく向こうから声をかけられた。私はドキッとして慌てて返事をする。あの日以来、不愉快にさせて嫌われるのが怖くてほとんど目も合わせていなかった。
「この書簡なんだが…、だいぶ前に農園の代官に渡すよう父に言われていたんだが、それをすっかり忘れててさ。悪いが俺は当分忙しいから、お前届けてきてくれないか?」
「はっ、はい…。…えっと、ど、どちらにお持ちすれば…?」
「これがその男の住所らしい。よろしく頼んだぞ」
それだけ告げるとダミアン様は屋敷を出て行ってしまった。
(……忙しいって、何だろう。お仕事かしら。それとも……)
……いけない。こんな風に詮索しては駄目なんだわ。また疑っていると思われてしまう。
渡された紙に目を落とす。そこに記されていた住所はあまり馴染みのない場所だった。
(……まぁ、行ってみれば分かるわよね。せめて任された仕事だけでもきちんとこなしていって、ダミアン様に認めてもらわなくては)
あの日の冷たい言葉には深く傷付いたけれど、私はそれでも前向きに努力しようと決めていた。
(……ダミアン様の自由を尊重すること、仕事をサポートすること、…居心地の良い家を作ること…)
何度も何度も頭の中で繰り返した言葉を、私はまた心で呟いていた。
ちょっとした用事だしすぐに帰ってくるからと、私は若い侍女を一人だけ伴って馬車に乗り目的の住所まで出かけた。
目的地が近くなると道幅が急に狭くなったきた。どうやらこの辺りは密集した住宅地のようだ。なんだか少し雰囲気が暗い気がするけれど、気のせいかもしれない。
「奥様、ここから先は馬車では難しそうでございますね。…いかがいたしましょうか」
「ええ、そうみたいね。仕方ないわ。もう近くまで来ているみたいだし、歩きましょうか」
「かしこまりました。……どうやら、ほら、そこの通りで間違いないようですね」
「ええ」
私は侍女のジョアンナを伴って馬車を降り、細い通りに入っていった。
「……。」
「……お、奥様……。何だか、少し怖いです…ここの雰囲気……」
「大丈夫よ。すぐに終わるから、私から離れないでねジョアンナ」
私は怯えている年若い侍女を落ち着かせるように言った。まさかこんなに入り組んだ薄暗いところだなんて思わなかった……。正直私もさっきから通りに固まって座りこちらをニヤニヤしながら舐めるように見てくる男の集団が怖くて仕方がなかったのだが、ジョアンナのためにもそれを表に出さないよう必死だった。
(は……早く……、早く着きますように……っ)
番地の札を見ながら私は冷静を装って歩いていた。
すると、
「お嬢さーん。どうしたの?こんなところでさぁ」
「っ!!」
見知らぬ男の一人が私の横に突然ずいっと現れ声をかけてきた。距離の近さに驚き、心臓が痛いほど大きく跳ねる。
後ろでジョアンナが「ひっ!」と息を呑む気配が伝わってきた。
「……お構いなく。知人の家を訪問するところですわ」
私は前を向いたまま努めて冷静に答えた。……つもりだったが、恐怖のあまり声が震える。
「えへぇ~?あんたみたいな高級そうなお嬢さんがこんなところに知り合いなんているのかい?ぐへへ。いい匂いだなぁ」
そう言って真横で鼻を鳴らしている男は信じられないほど臭い。強いアルコール臭の混じった不潔な匂いだ。
「まぁまぁそんなに急ぐことないだろうお嬢さん。俺たちとちょっと遊ぼうぜ~」
「そうそう!せっかくの出会いじゃねーか。すげぇ可愛いなぁあんた。お人形みてぇな顔してるじゃねぇか。うひゃひゃひゃひゃ」
「高そうな服だなぁそれ」
「服じゃねぇよ馬鹿かてめぇ。ドレスって言えよ。なぁ?お嬢さん」
「ぎゃはははははは」
「……っ、」
いつの間にか私たちの周りには7、8人もの柄の悪そうな男たちが群がっていた。皆して面白そうに揶揄い、私のドレスに手を触れてくる者までいる。
(た……、助けて……!誰か……っ!!)
恐怖で心臓がドクドクと激しく脈打っている。後ろのジョアンナが震える涙声で叫んだ。
「は……離れてください……っ!あなたたち……!こっ、こちらの方はこここ高貴なお方なのですよ……っ!」
「へーぇ!聞いたかお前ら!高貴なお方だとよ!」
「あっはははは!見りゃ分かるさそんなの!」
「なぁ高貴なお嬢さん。俺たちにお恵みをくれよ。金が有り余ってるんだろ?」
「金じゃなくてもいいぜ!せっかくの出会いに感謝して思い出作りでもしよーや」
ついに男たちは私の前にまで立ち塞がり、私たちは一歩も進めなくなってしまった。場違いな私たちを揶揄う冗談のつもりかと思ったが、前に立つ男の目はどす黒くギラつき血走っていた。
「………………どっ……どいて…ください…」
恐怖のあまり掠れるような声しか出ない。意識が遠のきそうだ。私は崩れそうな足を必死で踏ん張った。
「まぁまぁそんな冷たいこと言うなってお嬢さん。ちゃんと可愛がってやるよ。ほら、そっちの路地でさ…」
「ひやぁっ!!だっ!だっ!誰かぁーっ!!」
男の一人がついに私の手首をがしっと握った。見知らぬ男のゴツゴツした手の感触に一気に鳥肌が立つ。私の代わりに夢中で叫んでいるジョアンナのことだけはどうにか逃がさなくては。
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「そこで何をしている?!その方から離れろ!貴様ら!!」
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