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15.気が進まない外出
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「…………。…………はぁ…」
全く気が進まない身支度を整えてもらいながら、私は深く溜息をついた。
「……大丈夫でございますか?奥様…」
「っ、…ええ、大丈夫よ。ありがとうジョアンナ」
「……。」
慌てて笑顔を作ったけれど、頬が引き攣って不自然な表情になる。手伝ってくれている侍女たちに気を遣わせてしまっている。結婚以来数ヶ月、私たち二人の夫婦としての異様な姿はこの屋敷の中の空気をピリつかせていた。特に先日の深夜居間で大きく揉めて以来皆の態度がやけに気遣わしげなのは、きっと侍女の中の誰かに聞かれていたからだろう。
あの夜。
私が彼の生活態度を責めるようなことを言ったのがよほど気に入らなかったのか、ダミアン様は完全に開き直って浮気を認める発言をした。
私がダミアン様の夫としての愛情を期待するのは間違っていると。彼ははっきりとそう言い切ったのだった。
こんな惨めな結婚生活があるだろうか。愛情を返してもらえないばかりか、女友達だと偽って屋敷に招き入れていた人たちはやはり浮気相手だったのだ。夜にも関わらず堂々と女性を連れて帰宅した上に、朝まで二人きりで部屋で過ごしていた。
どうして私はここまで軽んじられているのだろう。私はダミアン様から憎まれるようなことを、何かしたのだろうか。
心当たりは一つもない。私はただ、……大好きだっただけ。子どもの頃から、ずっと……。
「できましたわ、奥様」
「まぁ……!本当に美しいですわ!奥様」
「うんうん。シンプルな色使いですが、きっと誰よりも目立ってしまいますわね」
侍女たちのはしゃぐ声にハッとする。鏡に目をやると、控えめなクリーム色のドレスを纏った自分の姿があった。目立つのが苦手な私は、いつもできるだけ淡い色味の控えめなデザインのものを身に付けるようにしている。
だから侍女から誰よりも目立ってしまう、などと言われるとちょっとドキッとする。……もちろん、お世辞で言ってくれているのだとは思うけれど。
「宝石はいかがなさいますか?奥様。ドレスの色味が控えめなので、アクセサリーは明るい色のものがいいでしょうか。こちらのルビーはいかがでしょう」
ジョアンナがニコニコしながら私の目の前で宝石箱を開けてくれる。
「……あ……ううん、このブラックダイアモンドのネックレスをつけてくれる?これとお揃いのこの指輪にするわ」
「そうですか?分かりました」
私は小ぶりな黒い宝石を選んだ。……明るく派手なものを身に付けるような気分ではなかった。
髪にも同じ色の黒いサテンのリボンを編み込んでもらって、私は玄関ホールでダミアン様を待った。一緒に出かけるのは気が進まないけれど、そうしないわけにはいかない。だって今日はあのラザフォード侯爵家に夫婦で招かれているのだから。
そう。エレナ様から、王立学園の同窓会に。
私とエレナ・ラザフォード侯爵令嬢はさほど親しかったわけではない。性格が全く違うので、自然と友人グループも違ってくる。エレナ様はいつも皆の中心で、多くの人に囲まれていた。対して私は数人のお友達と静かに過ごしていて、だから普段はお茶会に呼んだり呼ばれたりもほとんどしていない。ごくたまに大規模な茶会をエレナ様が企画なさった時にお声がかかるくらいだった。
今回のこの同窓会も、きっとエレナ様が「そろそろ皆で集まりましょうよ」と発案なさったのだろう。快活で積極的なあの方らしい。
そのことが嫌なわけでも、エレナ様のことが嫌いなわけでもなかった。むしろ私にはないあの社交的で明るいお人柄に憧れ好ましく思っていたものだ。
だけど、本当は今日だけは……行きたくない。
ダミアン様と夫婦として並んで出かけるのが辛い。
かと言って侯爵家のご令嬢からいただいた、しかも学園の友人皆が集まるような招待を受けないわけにもいかない。
(………………遅いな、ダミアン様…)
出かける予定の時間を過ぎても全然お部屋から出てこなくて焦っていると、ようやくのんびりと彼が現れた。いつもよりめかし込んでいて惚れ惚れするほどのお姿だけれど、素敵ですねと気軽に褒めることさえできない。私は彼に嫌われているのだから。
「……ふ、相変わらず地味だなお前は」
そう一言だけ言うと、彼は私の横を素通りして先に表へ出て行ったのだった。
全く気が進まない身支度を整えてもらいながら、私は深く溜息をついた。
「……大丈夫でございますか?奥様…」
「っ、…ええ、大丈夫よ。ありがとうジョアンナ」
「……。」
慌てて笑顔を作ったけれど、頬が引き攣って不自然な表情になる。手伝ってくれている侍女たちに気を遣わせてしまっている。結婚以来数ヶ月、私たち二人の夫婦としての異様な姿はこの屋敷の中の空気をピリつかせていた。特に先日の深夜居間で大きく揉めて以来皆の態度がやけに気遣わしげなのは、きっと侍女の中の誰かに聞かれていたからだろう。
あの夜。
私が彼の生活態度を責めるようなことを言ったのがよほど気に入らなかったのか、ダミアン様は完全に開き直って浮気を認める発言をした。
私がダミアン様の夫としての愛情を期待するのは間違っていると。彼ははっきりとそう言い切ったのだった。
こんな惨めな結婚生活があるだろうか。愛情を返してもらえないばかりか、女友達だと偽って屋敷に招き入れていた人たちはやはり浮気相手だったのだ。夜にも関わらず堂々と女性を連れて帰宅した上に、朝まで二人きりで部屋で過ごしていた。
どうして私はここまで軽んじられているのだろう。私はダミアン様から憎まれるようなことを、何かしたのだろうか。
心当たりは一つもない。私はただ、……大好きだっただけ。子どもの頃から、ずっと……。
「できましたわ、奥様」
「まぁ……!本当に美しいですわ!奥様」
「うんうん。シンプルな色使いですが、きっと誰よりも目立ってしまいますわね」
侍女たちのはしゃぐ声にハッとする。鏡に目をやると、控えめなクリーム色のドレスを纏った自分の姿があった。目立つのが苦手な私は、いつもできるだけ淡い色味の控えめなデザインのものを身に付けるようにしている。
だから侍女から誰よりも目立ってしまう、などと言われるとちょっとドキッとする。……もちろん、お世辞で言ってくれているのだとは思うけれど。
「宝石はいかがなさいますか?奥様。ドレスの色味が控えめなので、アクセサリーは明るい色のものがいいでしょうか。こちらのルビーはいかがでしょう」
ジョアンナがニコニコしながら私の目の前で宝石箱を開けてくれる。
「……あ……ううん、このブラックダイアモンドのネックレスをつけてくれる?これとお揃いのこの指輪にするわ」
「そうですか?分かりました」
私は小ぶりな黒い宝石を選んだ。……明るく派手なものを身に付けるような気分ではなかった。
髪にも同じ色の黒いサテンのリボンを編み込んでもらって、私は玄関ホールでダミアン様を待った。一緒に出かけるのは気が進まないけれど、そうしないわけにはいかない。だって今日はあのラザフォード侯爵家に夫婦で招かれているのだから。
そう。エレナ様から、王立学園の同窓会に。
私とエレナ・ラザフォード侯爵令嬢はさほど親しかったわけではない。性格が全く違うので、自然と友人グループも違ってくる。エレナ様はいつも皆の中心で、多くの人に囲まれていた。対して私は数人のお友達と静かに過ごしていて、だから普段はお茶会に呼んだり呼ばれたりもほとんどしていない。ごくたまに大規模な茶会をエレナ様が企画なさった時にお声がかかるくらいだった。
今回のこの同窓会も、きっとエレナ様が「そろそろ皆で集まりましょうよ」と発案なさったのだろう。快活で積極的なあの方らしい。
そのことが嫌なわけでも、エレナ様のことが嫌いなわけでもなかった。むしろ私にはないあの社交的で明るいお人柄に憧れ好ましく思っていたものだ。
だけど、本当は今日だけは……行きたくない。
ダミアン様と夫婦として並んで出かけるのが辛い。
かと言って侯爵家のご令嬢からいただいた、しかも学園の友人皆が集まるような招待を受けないわけにもいかない。
(………………遅いな、ダミアン様…)
出かける予定の時間を過ぎても全然お部屋から出てこなくて焦っていると、ようやくのんびりと彼が現れた。いつもよりめかし込んでいて惚れ惚れするほどのお姿だけれど、素敵ですねと気軽に褒めることさえできない。私は彼に嫌われているのだから。
「……ふ、相変わらず地味だなお前は」
そう一言だけ言うと、彼は私の横を素通りして先に表へ出て行ったのだった。
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