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17.何をしている?(※sideアーネスト)
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クラウディアが来るのを今か今かと待っていた私は、彼女が広間に入ってきた瞬間にその姿に気付いた。……ああ、今日もこの上なく可愛らしい姿だ。控えめなクリーム色のドレスも彼女の愛らしい容姿にとてもよく似合っている。……それに……、目が良い私はすぐに気付いた。……ま、まさか、……私の髪や瞳の色と同じ黒のアクセサリーをつけて来るとは……!
クッ…………クラウディア…………!!
「ジロジロ見すぎ。馬鹿じゃないの?落ち着きなさいよ」
「っ?!……分かっている。私は充分に落ち着いているだろうが」
「よく言うわ。ああ…!黒のアクセサリーを…!クラウディア……!とか思ってたんじゃないでしょうね?違うからね。別にあなたのために選んだ色じゃないのよ。たまたまよ、分かる?」
「ふ、馬鹿にするな。そんなことを考えるわけがないだろうが」
エレナの恐ろしい勘の良さに内心ビクッとしながらも、私はポーカーフェイスで答えた。
しかし再びクラウディアの方を見た時、広間に入ってきた時には一緒にいたはずのあの男の姿が消えていた。
「……?」
入り口とは反対の広間の奥にいた私はぐるりと全体を見渡した。……ここから見える範囲にはいない。招いた人数が多いせいで人がたくさんいる辺りはよく見えないというのもあるが。
クラウディアを早々に一人にしてしまって、あの男は一体どこへ行ったのか……。
私が苛立っていると、数人の友人と会話を交わしていたクラウディアが私の、いや、エレナの方に真っ直ぐに歩いてきた。エレナが友人たちと喋っているのを見て明らかに眉尻を下げた彼女をフォローすべく、私はクラウディアに歩み寄った。声をかけるべきか気後れしているのだろう。
その後すぐにエレナを交えて挨拶を済ませる。エレナがさりげなく新婚生活についてクラウディアに尋ねたのだが……明らかに様子がおかしかった。一瞬返答に詰まったクラウディアの顔は強張り、どう答えるべきか困っているように見えた。
しばらくして彼女が友人の元へ向かったのを見届けた途端、エレナが私をトン、と小突いてきた。そして私の腕を引っ張ると扇でサッと口元を隠し耳打ちしてくる。
「…あれは上手くいってないわね」
「やはりそう思うか」
「たぶんね。まぁ相手があの男じゃねぇ……。彼女も気の毒よ。どうせ今頃隅っこに隠れてどこかのご令嬢とイチャついてるんじゃないかしら。……あ、アーネスト!ちょっと!」
だとしたら許し難い行為だ。あのクラウディアを裏切り傷付けることなど、この私が許さない。
私は時折かけられる友人たちの声に適当に返事をしながらせわしなく目線を動かし、あの不埒な男の姿を探した。
(……クソ、一体どこに雲隠れしたのだアイツは……)
どこにも見当たらない。私は辺りに注意を払いつつバルコニーへ向かった。
すると──────、
「…………ふふ、嫌ねダミアンったら」
「……いいだろう、別に。……ほら、誰も見ていないよ」
「もう…………、……ふふ、はい、終わりよ。……そもそもあなた、結婚したんでしょう?悪い男ねぇ、こんなことして……」
「ははは。なに、構いやしないさ。妻とはそういう協定を結んでいるのさ。互いに自由な結婚だ」
「ええ?本当に?」
「ああ。だから何も変わらないよ。これまでどおりさ。……ほら、もう一度……」
「こんなところで何をしている?ウィルコックス伯爵令息殿」
「っ?!!」
バルコニーには、先客がいた。
それは案の定ダミアン・ウィルコックスと、どこぞの下位貴族の令嬢だった。エレナのやつ、本当に同窓生は誰彼構わず招待したようだ。私はたまらず声をかけた。万が一にも、クラウディアがこの男のこんな姿を目にしてしまったらと思うと放ってはおけなかった。
令嬢の方は私から逃げるようにそそくさと広間の中に戻ってしまった。
「っ!おい、サブリナ……!……チッ」
まるで私が悪者とでも言いたげな顔でこちらを一瞥したウィルコックスは面倒くさそうに言った。
「……何か御用ですか。あなたとは特に親しくしていたつもりもなかったが」
「お互い様だ。…こんな場所で何をしていたのかと聞いている。ここはラザフォード侯爵家の中だ。見苦しい真似は止めろ、ウィルコックス」
とげとげしい物言いにこちらもつい露骨に嫌悪感を出してしまう。私の言葉を聞いた男はフンと鼻で笑うとやれやれ、と言わんばかりの態度で広間の中に戻ろうとした。
「……はいはい、分かりましたよ、グレアム侯爵令息殿。失礼いたしました。では、俺はこれで」
「待て」
「…………はぁ。…………何でしょう」
男を引き留めた私は強い口調で言った。
「……クラウディア嬢を傷付けるような行動は慎みたまえ。貴殿もいい加減に落ち着く頃合いだ。もう学生ではないのだぞ」
「ふっ、余計なお世話ですが、……まぁ、ありがたいご忠告として受け取っておきます」
(……つくづく腹の立つ男だ)
言葉を交わすほどにこの男への嫌悪感は増すばかりだ。ああ、何故よりにもよってクラウディアはこんな男のものなのだ……。
「待ちたまえ。私は真剣に話しているんだ。クラウディア嬢があまりにも可哀相ではないか。彼女がどれほど君のことを大切に想ってきたか、分からないのか。何故想いに応えて真摯に向き合ってあげることができないんだ」
私が言葉を重ねるほどにウィルコックスはクックッと嘲笑うように答える。
「……何故そんなに他人の夫婦仲を気になさるのですか。放っておいていただきたい。我々は互いに自由に生きる夫婦なのですよ。結婚当初からそういう約束を交わしているんです。どうせ愛のない政略結婚なんだ。当人である我々が納得しているのだから、何も問題はないでしょう。時期が来れば子どもはちゃんと作りますよ。はははっ」
「………………っ!!」
信じがたい言葉に、私は思わず拳を握り締め、歯を食いしばった。
クッ…………クラウディア…………!!
「ジロジロ見すぎ。馬鹿じゃないの?落ち着きなさいよ」
「っ?!……分かっている。私は充分に落ち着いているだろうが」
「よく言うわ。ああ…!黒のアクセサリーを…!クラウディア……!とか思ってたんじゃないでしょうね?違うからね。別にあなたのために選んだ色じゃないのよ。たまたまよ、分かる?」
「ふ、馬鹿にするな。そんなことを考えるわけがないだろうが」
エレナの恐ろしい勘の良さに内心ビクッとしながらも、私はポーカーフェイスで答えた。
しかし再びクラウディアの方を見た時、広間に入ってきた時には一緒にいたはずのあの男の姿が消えていた。
「……?」
入り口とは反対の広間の奥にいた私はぐるりと全体を見渡した。……ここから見える範囲にはいない。招いた人数が多いせいで人がたくさんいる辺りはよく見えないというのもあるが。
クラウディアを早々に一人にしてしまって、あの男は一体どこへ行ったのか……。
私が苛立っていると、数人の友人と会話を交わしていたクラウディアが私の、いや、エレナの方に真っ直ぐに歩いてきた。エレナが友人たちと喋っているのを見て明らかに眉尻を下げた彼女をフォローすべく、私はクラウディアに歩み寄った。声をかけるべきか気後れしているのだろう。
その後すぐにエレナを交えて挨拶を済ませる。エレナがさりげなく新婚生活についてクラウディアに尋ねたのだが……明らかに様子がおかしかった。一瞬返答に詰まったクラウディアの顔は強張り、どう答えるべきか困っているように見えた。
しばらくして彼女が友人の元へ向かったのを見届けた途端、エレナが私をトン、と小突いてきた。そして私の腕を引っ張ると扇でサッと口元を隠し耳打ちしてくる。
「…あれは上手くいってないわね」
「やはりそう思うか」
「たぶんね。まぁ相手があの男じゃねぇ……。彼女も気の毒よ。どうせ今頃隅っこに隠れてどこかのご令嬢とイチャついてるんじゃないかしら。……あ、アーネスト!ちょっと!」
だとしたら許し難い行為だ。あのクラウディアを裏切り傷付けることなど、この私が許さない。
私は時折かけられる友人たちの声に適当に返事をしながらせわしなく目線を動かし、あの不埒な男の姿を探した。
(……クソ、一体どこに雲隠れしたのだアイツは……)
どこにも見当たらない。私は辺りに注意を払いつつバルコニーへ向かった。
すると──────、
「…………ふふ、嫌ねダミアンったら」
「……いいだろう、別に。……ほら、誰も見ていないよ」
「もう…………、……ふふ、はい、終わりよ。……そもそもあなた、結婚したんでしょう?悪い男ねぇ、こんなことして……」
「ははは。なに、構いやしないさ。妻とはそういう協定を結んでいるのさ。互いに自由な結婚だ」
「ええ?本当に?」
「ああ。だから何も変わらないよ。これまでどおりさ。……ほら、もう一度……」
「こんなところで何をしている?ウィルコックス伯爵令息殿」
「っ?!!」
バルコニーには、先客がいた。
それは案の定ダミアン・ウィルコックスと、どこぞの下位貴族の令嬢だった。エレナのやつ、本当に同窓生は誰彼構わず招待したようだ。私はたまらず声をかけた。万が一にも、クラウディアがこの男のこんな姿を目にしてしまったらと思うと放ってはおけなかった。
令嬢の方は私から逃げるようにそそくさと広間の中に戻ってしまった。
「っ!おい、サブリナ……!……チッ」
まるで私が悪者とでも言いたげな顔でこちらを一瞥したウィルコックスは面倒くさそうに言った。
「……何か御用ですか。あなたとは特に親しくしていたつもりもなかったが」
「お互い様だ。…こんな場所で何をしていたのかと聞いている。ここはラザフォード侯爵家の中だ。見苦しい真似は止めろ、ウィルコックス」
とげとげしい物言いにこちらもつい露骨に嫌悪感を出してしまう。私の言葉を聞いた男はフンと鼻で笑うとやれやれ、と言わんばかりの態度で広間の中に戻ろうとした。
「……はいはい、分かりましたよ、グレアム侯爵令息殿。失礼いたしました。では、俺はこれで」
「待て」
「…………はぁ。…………何でしょう」
男を引き留めた私は強い口調で言った。
「……クラウディア嬢を傷付けるような行動は慎みたまえ。貴殿もいい加減に落ち着く頃合いだ。もう学生ではないのだぞ」
「ふっ、余計なお世話ですが、……まぁ、ありがたいご忠告として受け取っておきます」
(……つくづく腹の立つ男だ)
言葉を交わすほどにこの男への嫌悪感は増すばかりだ。ああ、何故よりにもよってクラウディアはこんな男のものなのだ……。
「待ちたまえ。私は真剣に話しているんだ。クラウディア嬢があまりにも可哀相ではないか。彼女がどれほど君のことを大切に想ってきたか、分からないのか。何故想いに応えて真摯に向き合ってあげることができないんだ」
私が言葉を重ねるほどにウィルコックスはクックッと嘲笑うように答える。
「……何故そんなに他人の夫婦仲を気になさるのですか。放っておいていただきたい。我々は互いに自由に生きる夫婦なのですよ。結婚当初からそういう約束を交わしているんです。どうせ愛のない政略結婚なんだ。当人である我々が納得しているのだから、何も問題はないでしょう。時期が来れば子どもはちゃんと作りますよ。はははっ」
「………………っ!!」
信じがたい言葉に、私は思わず拳を握り締め、歯を食いしばった。
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