【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

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6. 過去 ── 再会

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 どうやら私の持つ不思議な力が、産みの母譲りのものであることや、その産みの母が隣国セレネスティア王国の出身者であったこと、そしてセレネスティア王国には、今では随分衰退したけれど、まだこのような魔力を持つ者が多く存在していることなどを、私は成長するに従って徐々に知ることとなった。
 あの日以来、私は決して自分の魔力を使うことはなかった。
 ただでさえ私を嫌っていた義母はあれからますます私に冷たくなったし、そんな義母を見て兄や姉も一層私に辛辣になった。父は相変わらず私に無関心で、使用人たちはますますよそよそしくなっていった。
 いつか結婚でもして、このシアーズ男爵家を去る日が来るのだろう。もしくは、修道院にでも追いやられるのだろうか。
 いずれにせよ、もうその日が来るまで波風立てずに大人しく過ごしているのが一番いい。私はそう考えるようになっていた。

 十六歳になる頃、兄や姉たちが通っている貴族学園に私も入学することが決まった。義母は私を通わせることを、最後まで反対していたようだ。

「必要ないではありませんか、あなた。アレクやマリアの学費だけでも、うちにはかなり大きな出費なんですのよ。それなのに、わざわざこの子まで……」

 父が私を居間に呼び出し入学のことを告げてきた時も、義母はかなり不満そうだった。父は口髭をもて遊び軽く咳払いをすると母に言った。

「そうもいかんだろう。上二人を通わせているのにティナレインだけ通わせなければ、また何を噂されるか分かったものじゃない。世間体は大事だ」

 この頼りなげな父は、いつも世間体という言葉を口にしていた。義母は露骨にため息をついた。

「そんなにも世間体を気になさるのに、よくもまぁ隣国出身のメイドとの間に子など作られましたこと。おかげさまでこちらが苦労させられているわ」
「……」

 義母の言葉に顔をしかめ、何ともいえない表情を浮かべた父は、ンンッ、と喉の奥で咳払いをし、目を逸らしていた。

 こうして私は、近隣の領主の子女たちが通う貴族学園に入学することとなった。二学年上の兄と、一学年上の姉と三人での通学が始まったのだ。
 入学式の日、可愛い制服を着て学園指定のカバンを持った私は、全く口をきいてくれない兄や姉と一緒に馬車に乗った。居心地が悪かったけれど、気分はすごく高揚していた。

 大ホールでの入学式には、大勢の同じ年頃の生徒たちがいた。友達ができるかもしれない。胸がときめいて、式の間中私はずっとドキドキしていた。
 そうして入学式が終わり、各々が自分の教室へと戻りはじめた。私も皆と同じように移動を始めた、その時だった。

「ティナ!!」

 聞き慣れない男性の大きな声がして、突然後ろから手首を摑まれる。肩が跳ねるほど驚いた私は、反射的に振り返った。そしてそこにいた人物を見てさらに驚き、体が硬直した。
 私の手首を摑み、紫色の瞳を輝かせながら喜びに溢れた表情をしてこちらを見ている、美しい男性。すごく背が高くて、肩幅も広い。光を集めたかのようにキラキラと輝く金髪は、思わず見惚れるほどに艶やかだった。

(だ……誰……っ!?)

 私にこんな素敵な男性の知り合いなどいない。けれど彼は、たしかに私の愛称を呼んだ。そう思った瞬間、ほんの一瞬、形容しがたい懐かしい感覚に襲われる。
 男性は低く穏やかな声で、私に言った。

「俺だよ。覚えてないか? セシルだ。セシル・リグリー。君の幼馴染だよ。ほら、幼い頃、うちの屋敷で何度も会ってる」

(────っ!!)

「セ……セシル……ッ!? ほ、本当に……?」

 その名を忘れるはずがなかった。私のたった一人のお友達。私の唯一の、心の支え。
 誰よりも優しかった、私の初恋の人。
 言われてみれば、この金色の髪やアメジストのような紫色の瞳は、記憶の中のあのセシルと同じ色だ。でも……。

(こんなにもたくましくなっているなんて……)

 驚きすぎて言葉も出ない。子どもの頃の彼は、もっと華奢で繊細な雰囲気で、まるで光の妖精のような印象だった。けれど今目の前にいるセシルは、そんなか細いイメージとはかけ離れている。成長したその姿は、たくましさも低い声も、まるっきり別人のようだった。

「ああ、本当にセシルだ。……よかった。君の兄姉たちもこの学園にいたから、もしかしたら今年君も入学してくるんじゃないかと、期待していた。さっき、式の途中で君の姿を見つけた時は、心臓が止まるかと思ったよ」

 そう言う彼はまだ、私の腕を摑んだままだ。大きくて熱い、セシルの手。通り過ぎていく生徒たちが、皆チラチラとこちらを見ている。
 けれどセシルは一向に気に留める様子もなく、ただひたすらに私の目を見つめていた。そしてゆっくりと、真剣な声色でこう言ったのだった。

「会いたかったよ、ティナ」






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