23 / 77
23. 再会
しおりを挟む
声が若干震えてしまったけれど、私はできるだけ落ち着いたそぶりでノエル先生の診察室に入った。その瞬間、予想していた以上に大勢の人数が視界に入り、思わず怯む。目の前に座っているノエル先生と向かい合うように座る、金髪碧眼の若き美貌の王太子殿下。頭の中で勝手に想像していた人より、だいぶ若く見える。キラキラとしたオーラを放つすごい美男子だ。そしてその後ろにズラリと並んだ人たち。全員王太子殿下の近衛なのだろう。迫力がありすぎてそちらを見ることができない。
私は平静を装い、持ってきた資料をノエル先生に手渡した。
「ありがとう」
「いえ」
短く言葉を交わし顔を上げた瞬間、視界の端にチラリと飛び込んできた金色の髪が気になった。なぜだかは分からない。王太子殿下の真後ろに立っているその近衛の方に、私は無意識に視線を滑らせた。
(────え……?)
その瞬間、頭が真っ白になる。
幻覚かと思った。
愛する息子と同じ色のアメジストが、私の姿をとらえている。
大きく見開かれたその美しい瞳。明るく艶やかな金髪。そして、最後の記憶よりもさらにたくましくなった、その姿。
セシルだ、と理解した途端、心臓が強く打たれたように大きな音を立て、クラリとめまいがした。
見間違うはずがなかった。
なぜ。
なぜここに、セシルがいるの……?
周囲から音が消え、彼の姿以外、何も見えなくなる。
セシルは愕然とした表情を浮かべ、私のことを真っ直ぐに見つめていた。きっと今私も、同じ表情をしているのだろう。
セシルの唇が、何か言いたげにかすかに動いた。その時だった。
「このレイニーさんも、私の下で腕を磨いている治癒術師の卵なんですよ」
「ほう。ではあなたにも魔術の素質が?」
(……っ!)
ノエル先生と王太子殿下のお声に、ハッと我に返る。慌ててそちらを見ると、二人は私に視線を向けていた。けれど心臓はかつてないほどに激しく脈打っているし、意識は全てセシルに向いてしまっている。動揺のあまり、上手く頭を切り替えられない。
「レイニーさんは特に優秀なんです。この治療院へ来たのはまだほんの数ヶ月前なのですが、すでにその才能を開花させ、日に日に魔力を高めています」
「そう。この王国の宝だね。ここで働きながら、訓練を?」
「……っ、……は、はい。さようでございます、殿下」
王太子殿下に答えながらも、全身の神経が彼の後ろに立つセシルを意識している。どうしよう。どうしよう。バレてしまった。私がここにいることが。
混乱した頭を必死で回転させていると、不自然な私の様子に助け舟を出すつもりなのか、ノエル先生が話しはじめた。
「レイニーさんはレドーラ王国からいらっしゃったんですよ。母君が、こちらの国の出身だったようで。魔術は母親譲りなのでしょうね」
(……っ!!)
そ、それをここで話してしまうとは……! お願いです先生、どうかユーリの存在にだけは絶対に触れないで……!!
ノエル先生は以前話した私の事情を王太子殿下に伝え、それを聞いた殿下はふむふむと頷いている。
「なるほど。やはり母君の母国で腕を磨きたかったのかな」
「……っ、……はい」
「そうか。レドーラにいた頃は、どこの街に?」
「……国境沿いの、小さな街に、いました」
セシルの刺すような視線を感じ、頬がジリジリする。目を向けなくても、彼が一瞬たりとも視線を逸らすことなく私を見つめ続けているのが伝わってくる。その視線の熱さに、やけどしそうな錯覚さえ覚える。
セシルに私の治癒力の話をしたことはない。きっと今、すごく驚いていることだろう。
これ以上何か突っ込まれたら対応できないと、背中に冷や汗をかいていたけれど、王太子殿下はそれ以上深い質問はしてこなかった。
「国境沿い……ルアーナ辺りかな。たしかに、セレネスティアに渡るには便利な場所ではあるね。我が国にとっては貴重な魔術の使い手を失ってしまって残念だが……、いや、あなたがその力を開花させつつあるのも、こちらの国に渡りエイマー術師の元に来たおかげだから、私が残念がるのも違うかな。……それで、その治癒術の強さや効果について、詳しく聞いてもいいだろうか」
「はい。……レイニーさん、もう大丈夫ですよ。ありがとう」
「っ! し、失礼いたします……っ」
ノエル先生にそう声をかけられ、私は慌てて診察室を後にした。
カーテンの奥へと姿を隠すその瞬間まで、全身にまとわりつくようなセシルの視線を強く感じていた。
私は平静を装い、持ってきた資料をノエル先生に手渡した。
「ありがとう」
「いえ」
短く言葉を交わし顔を上げた瞬間、視界の端にチラリと飛び込んできた金色の髪が気になった。なぜだかは分からない。王太子殿下の真後ろに立っているその近衛の方に、私は無意識に視線を滑らせた。
(────え……?)
その瞬間、頭が真っ白になる。
幻覚かと思った。
愛する息子と同じ色のアメジストが、私の姿をとらえている。
大きく見開かれたその美しい瞳。明るく艶やかな金髪。そして、最後の記憶よりもさらにたくましくなった、その姿。
セシルだ、と理解した途端、心臓が強く打たれたように大きな音を立て、クラリとめまいがした。
見間違うはずがなかった。
なぜ。
なぜここに、セシルがいるの……?
周囲から音が消え、彼の姿以外、何も見えなくなる。
セシルは愕然とした表情を浮かべ、私のことを真っ直ぐに見つめていた。きっと今私も、同じ表情をしているのだろう。
セシルの唇が、何か言いたげにかすかに動いた。その時だった。
「このレイニーさんも、私の下で腕を磨いている治癒術師の卵なんですよ」
「ほう。ではあなたにも魔術の素質が?」
(……っ!)
ノエル先生と王太子殿下のお声に、ハッと我に返る。慌ててそちらを見ると、二人は私に視線を向けていた。けれど心臓はかつてないほどに激しく脈打っているし、意識は全てセシルに向いてしまっている。動揺のあまり、上手く頭を切り替えられない。
「レイニーさんは特に優秀なんです。この治療院へ来たのはまだほんの数ヶ月前なのですが、すでにその才能を開花させ、日に日に魔力を高めています」
「そう。この王国の宝だね。ここで働きながら、訓練を?」
「……っ、……は、はい。さようでございます、殿下」
王太子殿下に答えながらも、全身の神経が彼の後ろに立つセシルを意識している。どうしよう。どうしよう。バレてしまった。私がここにいることが。
混乱した頭を必死で回転させていると、不自然な私の様子に助け舟を出すつもりなのか、ノエル先生が話しはじめた。
「レイニーさんはレドーラ王国からいらっしゃったんですよ。母君が、こちらの国の出身だったようで。魔術は母親譲りなのでしょうね」
(……っ!!)
そ、それをここで話してしまうとは……! お願いです先生、どうかユーリの存在にだけは絶対に触れないで……!!
ノエル先生は以前話した私の事情を王太子殿下に伝え、それを聞いた殿下はふむふむと頷いている。
「なるほど。やはり母君の母国で腕を磨きたかったのかな」
「……っ、……はい」
「そうか。レドーラにいた頃は、どこの街に?」
「……国境沿いの、小さな街に、いました」
セシルの刺すような視線を感じ、頬がジリジリする。目を向けなくても、彼が一瞬たりとも視線を逸らすことなく私を見つめ続けているのが伝わってくる。その視線の熱さに、やけどしそうな錯覚さえ覚える。
セシルに私の治癒力の話をしたことはない。きっと今、すごく驚いていることだろう。
これ以上何か突っ込まれたら対応できないと、背中に冷や汗をかいていたけれど、王太子殿下はそれ以上深い質問はしてこなかった。
「国境沿い……ルアーナ辺りかな。たしかに、セレネスティアに渡るには便利な場所ではあるね。我が国にとっては貴重な魔術の使い手を失ってしまって残念だが……、いや、あなたがその力を開花させつつあるのも、こちらの国に渡りエイマー術師の元に来たおかげだから、私が残念がるのも違うかな。……それで、その治癒術の強さや効果について、詳しく聞いてもいいだろうか」
「はい。……レイニーさん、もう大丈夫ですよ。ありがとう」
「っ! し、失礼いたします……っ」
ノエル先生にそう声をかけられ、私は慌てて診察室を後にした。
カーテンの奥へと姿を隠すその瞬間まで、全身にまとわりつくようなセシルの視線を強く感じていた。
1,386
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる