【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

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72. 皆の優しさ

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 再来月に迫った治癒術師の資格試験に向け、私の訓練も大詰めを迎えていた。この試験に合格できるかどうかが、私たちの今後の生活を大きく左右するのだ。私は必死だった。週末はもちろんのこと、平日の夜も、他の治癒術師の卵たちと共にノエル先生のお宅へと通った。
 ユーリのことはセシルと協力し合いながら乗り切るつもりだった。けれどセシルはセシルで、ちょうどタイミング悪く、野獣討伐隊の遠征に加わることになってしまった。

「少し前から東方の森に、獣が頻繁に出るようになったらしい。近隣の街や村に被害が出る前に食い止めなければ」
「ええ。気を付けてね、セシル」
「……すまない、ティナ。君の大事な時に、ユーリのことを任せてしまって」

 困ったようにそう言うセシルに、私は努めて明るく笑って答えた。

「何を言っているのよ。民たちの安全を守るのが、あなたの大切なお仕事でしょう。誇らしく思うわ。こっちのことは何も気にせず、頑張ってきてね」
「……ティナ」
「怪我しちゃダメよ、セシル」
「……ああ。ありがとう」

 そんな会話を交わしながら、頭の中では「最悪今年の試験に落ちちゃったとしても、あと一年準備期間を貰えたと思ってまた頑張ればいいか」などと、落ちた時の心の準備まで始めていた。
 ところが、こんな時でもやっぱり助けようとしてくれる優しい人たちが、私の周りにはいるのだ。

「何諦めたようなこと言ってるのよ! ノエル先生も今年合格できる可能性は高いって言ってくれてるんでしょう!? ギリギリまで頑張りましょうよ。預かれる夜はうちでユーリくんを預かるからさ。そうだ、お泊り会しちゃいましょう! ララも喜ぶわ。そうすればあなたも時間を気にせず訓練に取り組めるでしょう?」

 と言うソフィアさんの言葉には思わず涙ぐんでしまったし、そのソフィアさんから話を聞いたのか、コレット先生まで、

「こんな時こそ、独り身の私を頼ってちょうだい、レイニーさん。お泊り会ならうちでもできますよ。ユーリくんさえ喜んでくれるのなら、何度でも。ふふ」

と言ってくださった時には、ついに涙が少しこぼれてしまった。皆の優しさが身に染みる。さらにはノエル先生にまで、

「そうですか。旦那様が遠征に……。それは大変ですね。……そうだ。では平日の夜の訓練にはユーリくんも連れてきて先に寝かせ、そのままレイニーさんもうちに泊まるというのはどうでしょうか。部屋なら空いていますよ」

と、冗談か本気か分からないようなことを言われた時には、さすがに丁重にお断りした。独身のノエル先生に変な噂でも立ってしまったら申し訳ない。というか、そんなことをすれば私の評判も地に落ちるだろうし、セシルがどんな行動に出るか想像するだけでも恐ろしい。

 結局試験までの残り一ヶ月半、ソフィアさんのおうちには一度だけユーリをお泊りさせてもらい、そしてコレット先生には何度もユーリを預かってもらうことになったのだった。
 日に日にコレット先生を慕う気持ちが強くなっているユーリは、ついに先生のおうちにまでお泊りさせてもらえることとなり有頂天だった。浮足立ってミニ騎士服とパジャマをバッグに詰める息子の後ろ姿を見つめながら、改めて、周囲の人の優しさをありがたく思った。私はいつ、支えてくれた人たちにお返しすることができるのだろうか。

 セシルが討伐隊の一員として遠征に行ってから、約二週間後。
 ノエル先生のお宅から帰った後も、深夜まで自主訓練を繰り返していた私は、少し朝寝坊してしまった。慌てて飛び起き身支度を整えた後、コレット先生のお宅へと向かう。今日は私の仕事も保育園もお休み。……とはいえ、いくら何でも甘えすぎだ。
 近くで一人暮らしをしているコレット先生のアパートに向かい、ドアを開けてくれた先生にすぐさま謝罪する。

「すみません先生っ! お迎えが遅くなってしまいまして……!」

 そう言うと先生は静かに首を振った。

「おはよう、レイニーさん。お疲れ様。いいのよ、全然気にしないで。……ただね、ユーリくん、夜中に少し熱を出してしまって」
「え……っ!?」

 その言葉にドキッとしたその時、まだパジャマ姿のユーリが奥からトテトテと現れた。

「おはようまま。……もう帰るの? ゆーり、まだこれっとしぇんしぇいとあそびたい」

 元気そうなその様子にホッとする。部屋に上がるよう促してくれるコレット先生のお言葉に甘え、私は部屋の中にお邪魔した。こぢんまりしていて、とても温かみのある綺麗な部屋だ。まるで先生自身のように。

「よかった。お熱下がったのね。……すみませんでした先生。ご迷惑をおかけしてしまいました」
 
 再びそう詫びると、先生は私のために温かい紅茶を入れて持ってきてくれた。どうぞ座って、と言われ、リビングの椅子に腰かけると、先生は微笑んで言った。

「そんなことは全然気にしないで。まだ幼いんですもの。体調を崩すことはしょっちゅうよね。あなたもきっととても疲れているだろうし、夜中にわざわざ呼びにいくべきか悩んだのよ。それで一応、私が治癒術をかけてみたら、案外あっさりとお熱が引いたから。その後すぐにスヤスヤと眠ったし、朝まで様子を見ようと思ったの。こちらこそ、勝手な判断をしてごめんなさい」
「いえ、そんな……! 助かりました、先生。本当にありが……、」

 ……ん? 

(あれ? 今何て言った? コレット先生)

 ……私が治癒術をかけてみたら……、そう言った、気が。

「……えっ? 先生も治癒術をお使いになるんですかっ?」

 そんな話は一度も聞いたことがない。
 私は驚いて、思わず大きな声を上げてしまった。







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