【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
11 / 56

11. 婚約破棄

しおりを挟む
「っ!? な、何を……」

 ずっと黙っていたノエリスが突如反論したことで、ルパート様は明らかにたじろいでいた。唇の端を引きつらせ、彼女のことを凝視している。
 ノエリスは一歩前へ出ると、真っ直ぐにルパート様を見据えた。

「先ほどからあなたが遠回しにハートリー伯爵令嬢を責めているのは、学期末試験の成績のことよね? 彼女の成績がエメライン王女殿下より優秀だった、そのことが気に入らないとおっしゃるのでしょう?」
「っ!! べ、別に……それだけじゃ……、いや、そ、そんなことを言っているんじゃない……!」
「嘘はお止しになって。学園での成績は公表された通りよ。王女殿下だって、私たち他の生徒と同じように試験を受け、その結果が出ただけ。あなたが勝手にと感じるのなら、それはあなたが王女殿下ご自身の努力をも否定しているということだわ。侮辱しているのはあなたよ」
「は……はぁっ!?」

 淡々とそう説くノエリスの口調は、それでも凍てつくように鋭かった。ルパート様の顔は真っ青になっている。

「あなたは試験結果という、王立学園が定めた正当な評価を持ち出して、侮辱とおっしゃっているのよ。それはすなわち、学園そのものの権威を否定する行為。成績を恣意的に解釈して怒鳴り散らすなど、あまりにも浅慮ね」

(……すごいわ、ノエリス……)

 場の空気はもう彼女が完全に支配していた。誰も息をしていないのではないかと思うほど完全に静まり返った空間の中で、全員がノエリスの言葉に聞き入っていた。さすがはオークレイン公爵家のご令嬢。大声で喚いたりしなくても、オーラも説得力もルパート様とは比べものにもならない。

「王女殿下の名を盾にご自分の婚約者を公衆の面前で罵倒することが、王女殿下の名誉を守ることになるのかしら? むしろ王女殿下は、そんな卑しい振る舞いをお望みではないと思うけれど。いかがです? エメライン王女殿下」

 ゆったりとした微笑みを浮かべたノエリスが、突然王女の方へと向き直り、そう問いかけた。皆の視線が一斉に王女へと移動する。私も王女の顔をそっと窺った。
 さっきはたっぷりと涙を湛えていたはずの目には、いつの間にかもうその影さえない。ほんの一瞬見えたのは、ノエリスを見ている王女の、表情のない顔。けれど、注目を集めた王女は急に困ったように眉尻を下げ、両手で頬を覆った。

「……あたくしは、ただ……もうこんな風に、あたくしのために揉めてほしくはないわ。それだけよ」
「……」

 微妙にズレた返事に、私もノエリスも、そしてルパート様も黙り込む。けれど王女のそばに侍っていた男子生徒たちは「王女殿下……」と気遣わしげに声をかけ、顔を覗き込んだりしている。
 ルパート様はこめかみに青筋を立て、唇を強く結んでいる。オークレイン公爵家の令嬢に逆らうことはさすがにできないらしい。しかも彼女はゆくゆく隣国の王子妃となる人でもある。そのことがルパート様の耳に入っているかどうかは知らないけれど。
 気が付けば大勢の教師たちが大ホールに入ってきており、そのうちの一人が「全員所定の位置に並びなさい」と声を上げた。エメライン王女はそそくさと私たちのそばを離れ、取り巻き生徒たちもそれに従う。
 ルパート様は最後にもう一度私を強く睨みつけると、自分のクラスの方へと行ってしまった。その目つきに、冷たい手で心臓を摑まれたような心地がした。

「……ありがとう、ノエリス。迷惑かけてごめんなさいね」

 気力を振り絞り、彼女に小声でそう言うと、ノエリスはいたずらっぽい表情で片目をつぶった。

「当たり前のことを言っただけよ。あんな意味の分からない主張、聞いていられないわよね」

 気遣ってくれるノエリスに頑張って笑みを返し、私は話しはじめた教師の方へと向き直った。
 心はどんよりと重く曇っていた。



 教室に戻り皆と最後の挨拶を交わした後、私はノエリスとともに校舎を出て、馬車寄せへと向かう。その途中、ノエリスが小さく息を呑んで立ち止まった。

「……嫌ね、私ったら。さっき渡された成績表を鞄に入れ忘れているわ」
「ふふ、珍しいわね。あなたがそんなミスをするなんて」

 滅多に見ることのないノエリスの焦った顔に、思わず少し笑ってしまう。彼女は肩を竦めると、申し訳なさそうな顔をして言った。

「ごめんなさい、先に行ってて、ローズ。すぐ戻るから」
「ええ。ゆっくり行ってるわね」

 そんな会話を交わしノエリスと別れ、私は馬車寄せへの道を一人で歩きはじめた。辺りには同じ方向に歩いていく生徒たちの姿がぽつぽつと見える。
 大ホールでのことを思い出し落ち込みながら、俯き加減でぼんやりと歩く。……やっぱり、ここでノエリスを待っていよう。最終日なのだから、最後にもう少しゆっくり話してから帰りたいし。ここではノエリスと話している時だけ、気持ちが晴れやかになる。
 私は立ち止まり、彼女が追いつくのを待つことにした。
 しばらくぼうっとしていると、ふいにすぐ目の前に誰かが立った。
 驚いて顔を上げた、その瞬間。
 突然左の頬に強い衝撃が走り、視界が大きく揺らいだ。黒縁眼鏡が音を立てて、地面に放り出される。

(──え……っ……?)

 一瞬ふらついたけれど、倒れ込むことなくどうにか踏ん張った。
 見上げた先にいたのがルパート様であったことと、そして頬に残る熱を持った痛みで、自分が今彼にぶたれたのだと理解した。
 ルパート様は充血した目で私を睨みつける。

「よくもこの僕に大恥をかかせてくれたな……! ロザリンド・ハートリー、お前との婚約は今日をもって破棄する!!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...