近頃よくある異世界紀行

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「…ペガサス先輩」
「何ですか仁さん」
 夜、テントの中で寝袋にくるまりながらペガサス先輩と語らう。声の雰囲気からして、どうやら昼間の出来事のショックも、自転車を漕いでいるうちに多少は解消されたようだ。
「先輩ってどんな魔法が使えるの?」
 オレの質問に、ペガサス先輩は片手を寝袋から出し、頭の近くに置かれていたカンテラを、ふわりと浮かべる。
「…おお~。それって何系?」
 物を浮かせるというと、超能力のテレキネシスを思い浮かべるが、実際の魔法ではテレキネシスは存在しない。基礎魔法を複合的に使った応用魔法でテレキネシス相当の現象を起こすのだ。一番簡単な方法でもまず最初に物体と自身とをパスで繋ぎ、それからバフかエフェクトでその物体の質量を空気より軽くする。という二段階必要になる。
「一応、時空系ディメンションです」
 ペガサス先輩は宙に浮いたカンテラを横に時計回りに円運動させる。
「…ディーか。ということは重力、いや引斥力か」
「はい」と先輩はカンテラを頭の横に戻す。
 引斥力なら攻撃方法としては遠くから物を撃ち出すって感じだろうか? ペガサス先輩ぐらいエーテル量があれば、普通に撃ち出すだけでも結構な威力になるだろう。
「仁さんの影も、ディーなんでしょ?」
「…オレ? オレは一応六属性全部使えるよ」
「六属性?」
 ああそうか、普通、基礎魔法五属性だもんな。
「…オレ、マグ拳使うから。地水火風光闇の六属性な」
「マグ拳って、あの?」
 そのマグ拳である。マグ拳またはマグアーツと呼ばれる、そのマグ拳である。マグとはMAG、つまりMANGAマンガANIMEアニメGAMEゲームの頭文字であり、つまりはマンガ、アニメ、ゲームの中で使われる技や魔法を、実際の魔法で再現しようというのが、マグ拳なのだ。おもに格闘系やVRMMO系のゲーム内で使用され、地水火風光闇とは基礎魔法五属性とは別の、マグ拳特有の属性分けである。
 マグ拳がゲーム内でしかおもに使用されないのは、技や魔法の再現が難しいことの他に、現実世界ではゲーム内の二割程度しかその威力が発揮されないということがある。つまりゲーム内では五倍増しということなのだが。
 そんなゲーム内でも全六属性を使う人間は少ない。ゲーム内ならまだしも、現実世界ではゴブンノイチなのだ。全てが中途半端、つまりオレは器用貧乏と言う訳だ。
「何と言うか、仁さんらしいですね」
「…そうかな」
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