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根回しは水面下で
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ホテルの一室に馳せ参じたのは、八人の令嬢である。インシグニア嬢と相対する形で一人が座り、マドカ嬢など、他の七名は別テーブルに座った。
流石はインシグニア嬢のファン派閥と言うか、あのチョコレート店のチョコ菓子を手土産に持参して来たので、インシグニア嬢の侍女二人がそれとお茶を人数分分けるが、俺は辞退させて貰った。
「オブリウスたちも、食べるなら外に出て貰える? 行儀は悪くなっちゃうけど、ここから先はそっちには話せないから」
「こちらは立ち会わせられない話か」
「ブルブルとアーネスシスも外出して貰うから、別室でも取って、好きにしていなよ」
これには顔を明るくするオブリウス。単純か? いや、俺の性格を知っての事だろう。だよね?
オブリウスたちが部屋から出ていったところで、部屋に静寂が訪れる。俺が狂言回しをするべきなのだろうが、令嬢たちは俺の話は聞かないだろう。
しかし成程。『黄金姫』。別テーブルに座ったご令嬢方々もお綺麗だが、インシグニア嬢と同じテーブルに座ったご令嬢は、その美しさが頭一つ抜けている。凄いな。絵画の巨匠がその人生を懸けて描いた名画から抜け出たかのようだ。まあ、俺に靡くようには見えんから、「ほえ~。これが芸術って奴かあ」と言う印象にしかならないけど。
他のご令嬢方々が、インシグニア嬢と同じ空間にいられる事に、心中の嬉しさが滲み出ているのに対して、アウレア嬢は眉一つ動かさない。成程、『不動の黄金』か。
ご令嬢ばかり十一人いて、男は俺一人だ。居場所がない。最初はインシグニア嬢の斜め後ろに立っていたが、どうやらインシグニア嬢の近くに男の俺がいるのが気になるのか、いや、気に食わないのか、話が進まなそうなので、俺はゆっく~りインシグニア嬢から離れて、アウレア嬢の後ろへ回る。何故? 何となくアウレア嬢から、男から見られるのを嫌っている雰囲気が出されていたからだ。
これが正解だったのか、アウレア嬢の方から話を切り出した。
「それで、お話と言うのは、変寮の事でしょうか?」
どうやらアウレア嬢も相応の切れ者らしく、呼び出された理由くらいは推測していたらしい。
「はい」
「ご迷惑でしたか?」
アウレア嬢の頭しか見えないが、本当に済まなそうな声だ。
「そう言う話ではないのです義姉上。影響の話です」
「影響、ですか?」
「はい。そもそも、私はフレミアがグロブス殿下の第一婚約者となった時点で、別寮に移るつもりでした。なので、その別寮にはタイフーンタイクン寮も含まれていました」
「そうだったのですね」
アウレア嬢の表情は分からないが、別テーブルに座る、マドカ嬢以外のご令嬢方々が、俺を刺すような視線で睨む。まあ、俺がいなければ、タイフーンタイクン寮入寮が第一候補のようだったしね。
「影響力と言う意味では、私よりもアウレア嬢の方が強いと、私は考えています」
「そんな。私なんて変な虫を引き寄せる誘蛾灯のようなものです」
「ご自覚があられたのですね」
「まあ、インシグニア様同様、幼い頃より母上に連れられ、社交場を戦場としてきましたから」
う~ん、これはアウレア嬢の母上は、何を思ってそんな事をしていたのか? 自慢かな? 美の化身のような彼女を自慢したかったのかな? 確かアウレア嬢はインシグニア嬢の兄上であるイグニウス卿の婚約者だったはず。婚約している令嬢を、母親が社交場に連れていく意味が分からん。
「失礼を承知で言わせて頂きますと、アウレア嬢ご自身がヴァストドラゴン寮へ変寮なされるのは問題ないのですが、その誘蛾灯的な影響力が、こちらとしては問題なのです」
「…………」
黙ってしまった。まあ、自分がヴァストドラゴン寮へ変寮する事で、何が起こるか、アウレア嬢も気付いたのだろう。
「そちらにおられる方が、私の新たな婚約者となられた、フェイルーラ・ヴァストドラゴン様なのですが……」
「はあ……」
振り返るアウレア嬢。そして別テーブルのご令嬢方々も、「お前が?」って顔をしている。澄まし顔はマドカ嬢くらいだ。アウレア嬢なんて、顔色一つ変えていないのに、顔から不信感が現れている。器用だな。
「フェイルーラ様は、出来るだけ、ご自身の派閥のみで、ヴァストドラゴン寮を埋めたいようでして、アウレア嬢が動くとなると、それに合わせて動くであろう殿方々を牽制したいと」
「成程。私たちの変寮は構わないけれど、それを悟られるのは頂けない、と?」
「そう言う事です。よね?」
ここまでの車内で、オブリウスとサスティニース君に悟られないように打ち合わせしてきた事が通じた事にホッとしたのか、俺に確認するように顔をこちらへ向けてくるインシグニア嬢。これに大きく頷くと口角を上げるインシグニア嬢。だが、これだけをお願いする為にここまでアウレア嬢派閥に来て貰った訳ではない。合ってはいるが、少し情報が少ない。
「発言しても宜しいでしょうか?」
右手を軽く上げて、発言の許可を求める。誰に? 勿論アウレア嬢だ。アウレア嬢はこれに振り向く事もなく、数刻間を置いてから、
「……どうぞ」
と許可を出した。多分これ、インシグニア嬢がいるから許可してくれたが、いなかったら、無視して話も出来なかっただろうな。正しく絵画の如く、『不動』を押し通しただろう。それが許される美しさなのが凄いな。
「この話を、ここにいない同志の方々にも伝えて下さるとありがたいです。変寮するのならば、変寮可能な最終日。入学入寮するならば、入寮を決められる最終日。そこに合わせてインシグニア嬢のファンの方々には入寮して頂きたい」
「…………」
返答なしか。優雅にお茶を飲むアウレア嬢。
「……その話は、インシグニア様からお聞きになられたのかしら?」
ふむ。やはりタイフーンタイクン寮だけでなく、他の寮の寮生の中にも、インシグニア嬢のファンはおり、横の繋がりがあるようだ。
「いえ、私の憶測です。ただ、インシグニア嬢程の歌奏力をお持ちの方のファンが、タイフーンタイクン寮にだけ偏重して存在している可能性の方が低いだろうとは、当たりを付けていました」
「…………成程。マドカ嬢が、少なくともグロブス殿下よりも数段マシと仰られたのも、あながち間違いではなかったようですね」
グロブス殿下、インシグニア嬢周りでは評価低そうだな。
「過分な評価ありがとうございます」
こちらを振り向かないアウレア嬢に対して、俺が大仰に頭を下げれば、
「いえ、助けられているのは私の方で……」
とインシグニア嬢が慌てて両手を振る。
「引っ込み思案なインシグニア様から、たった三日で、ここまでの信頼を勝ち得ているとは驚きです」
「いえ、まだまだ、関係構築の段階で、心から信頼して頂けているとは思っていません。私もまだ心の全てを晒け出した訳でもありませんから」
これに対して、またお茶を一口飲むアウレア嬢。
「分かりました。昨日の今日です。今日ならまだ皆さんの行動を留める事も可能かと。私たちの方から、根回しさせて頂きます」
「ありがとうございます。ヴァストドラゴン家の者、ヴァストドラゴン寮を任される者として、皆様に不利になるような事はしないと、ここに誓わせて頂きます」
「良しなに」
ふう。これで、少しは変寮や入寮をコントロール出来るかな。
流石はインシグニア嬢のファン派閥と言うか、あのチョコレート店のチョコ菓子を手土産に持参して来たので、インシグニア嬢の侍女二人がそれとお茶を人数分分けるが、俺は辞退させて貰った。
「オブリウスたちも、食べるなら外に出て貰える? 行儀は悪くなっちゃうけど、ここから先はそっちには話せないから」
「こちらは立ち会わせられない話か」
「ブルブルとアーネスシスも外出して貰うから、別室でも取って、好きにしていなよ」
これには顔を明るくするオブリウス。単純か? いや、俺の性格を知っての事だろう。だよね?
オブリウスたちが部屋から出ていったところで、部屋に静寂が訪れる。俺が狂言回しをするべきなのだろうが、令嬢たちは俺の話は聞かないだろう。
しかし成程。『黄金姫』。別テーブルに座ったご令嬢方々もお綺麗だが、インシグニア嬢と同じテーブルに座ったご令嬢は、その美しさが頭一つ抜けている。凄いな。絵画の巨匠がその人生を懸けて描いた名画から抜け出たかのようだ。まあ、俺に靡くようには見えんから、「ほえ~。これが芸術って奴かあ」と言う印象にしかならないけど。
他のご令嬢方々が、インシグニア嬢と同じ空間にいられる事に、心中の嬉しさが滲み出ているのに対して、アウレア嬢は眉一つ動かさない。成程、『不動の黄金』か。
ご令嬢ばかり十一人いて、男は俺一人だ。居場所がない。最初はインシグニア嬢の斜め後ろに立っていたが、どうやらインシグニア嬢の近くに男の俺がいるのが気になるのか、いや、気に食わないのか、話が進まなそうなので、俺はゆっく~りインシグニア嬢から離れて、アウレア嬢の後ろへ回る。何故? 何となくアウレア嬢から、男から見られるのを嫌っている雰囲気が出されていたからだ。
これが正解だったのか、アウレア嬢の方から話を切り出した。
「それで、お話と言うのは、変寮の事でしょうか?」
どうやらアウレア嬢も相応の切れ者らしく、呼び出された理由くらいは推測していたらしい。
「はい」
「ご迷惑でしたか?」
アウレア嬢の頭しか見えないが、本当に済まなそうな声だ。
「そう言う話ではないのです義姉上。影響の話です」
「影響、ですか?」
「はい。そもそも、私はフレミアがグロブス殿下の第一婚約者となった時点で、別寮に移るつもりでした。なので、その別寮にはタイフーンタイクン寮も含まれていました」
「そうだったのですね」
アウレア嬢の表情は分からないが、別テーブルに座る、マドカ嬢以外のご令嬢方々が、俺を刺すような視線で睨む。まあ、俺がいなければ、タイフーンタイクン寮入寮が第一候補のようだったしね。
「影響力と言う意味では、私よりもアウレア嬢の方が強いと、私は考えています」
「そんな。私なんて変な虫を引き寄せる誘蛾灯のようなものです」
「ご自覚があられたのですね」
「まあ、インシグニア様同様、幼い頃より母上に連れられ、社交場を戦場としてきましたから」
う~ん、これはアウレア嬢の母上は、何を思ってそんな事をしていたのか? 自慢かな? 美の化身のような彼女を自慢したかったのかな? 確かアウレア嬢はインシグニア嬢の兄上であるイグニウス卿の婚約者だったはず。婚約している令嬢を、母親が社交場に連れていく意味が分からん。
「失礼を承知で言わせて頂きますと、アウレア嬢ご自身がヴァストドラゴン寮へ変寮なされるのは問題ないのですが、その誘蛾灯的な影響力が、こちらとしては問題なのです」
「…………」
黙ってしまった。まあ、自分がヴァストドラゴン寮へ変寮する事で、何が起こるか、アウレア嬢も気付いたのだろう。
「そちらにおられる方が、私の新たな婚約者となられた、フェイルーラ・ヴァストドラゴン様なのですが……」
「はあ……」
振り返るアウレア嬢。そして別テーブルのご令嬢方々も、「お前が?」って顔をしている。澄まし顔はマドカ嬢くらいだ。アウレア嬢なんて、顔色一つ変えていないのに、顔から不信感が現れている。器用だな。
「フェイルーラ様は、出来るだけ、ご自身の派閥のみで、ヴァストドラゴン寮を埋めたいようでして、アウレア嬢が動くとなると、それに合わせて動くであろう殿方々を牽制したいと」
「成程。私たちの変寮は構わないけれど、それを悟られるのは頂けない、と?」
「そう言う事です。よね?」
ここまでの車内で、オブリウスとサスティニース君に悟られないように打ち合わせしてきた事が通じた事にホッとしたのか、俺に確認するように顔をこちらへ向けてくるインシグニア嬢。これに大きく頷くと口角を上げるインシグニア嬢。だが、これだけをお願いする為にここまでアウレア嬢派閥に来て貰った訳ではない。合ってはいるが、少し情報が少ない。
「発言しても宜しいでしょうか?」
右手を軽く上げて、発言の許可を求める。誰に? 勿論アウレア嬢だ。アウレア嬢はこれに振り向く事もなく、数刻間を置いてから、
「……どうぞ」
と許可を出した。多分これ、インシグニア嬢がいるから許可してくれたが、いなかったら、無視して話も出来なかっただろうな。正しく絵画の如く、『不動』を押し通しただろう。それが許される美しさなのが凄いな。
「この話を、ここにいない同志の方々にも伝えて下さるとありがたいです。変寮するのならば、変寮可能な最終日。入学入寮するならば、入寮を決められる最終日。そこに合わせてインシグニア嬢のファンの方々には入寮して頂きたい」
「…………」
返答なしか。優雅にお茶を飲むアウレア嬢。
「……その話は、インシグニア様からお聞きになられたのかしら?」
ふむ。やはりタイフーンタイクン寮だけでなく、他の寮の寮生の中にも、インシグニア嬢のファンはおり、横の繋がりがあるようだ。
「いえ、私の憶測です。ただ、インシグニア嬢程の歌奏力をお持ちの方のファンが、タイフーンタイクン寮にだけ偏重して存在している可能性の方が低いだろうとは、当たりを付けていました」
「…………成程。マドカ嬢が、少なくともグロブス殿下よりも数段マシと仰られたのも、あながち間違いではなかったようですね」
グロブス殿下、インシグニア嬢周りでは評価低そうだな。
「過分な評価ありがとうございます」
こちらを振り向かないアウレア嬢に対して、俺が大仰に頭を下げれば、
「いえ、助けられているのは私の方で……」
とインシグニア嬢が慌てて両手を振る。
「引っ込み思案なインシグニア様から、たった三日で、ここまでの信頼を勝ち得ているとは驚きです」
「いえ、まだまだ、関係構築の段階で、心から信頼して頂けているとは思っていません。私もまだ心の全てを晒け出した訳でもありませんから」
これに対して、またお茶を一口飲むアウレア嬢。
「分かりました。昨日の今日です。今日ならまだ皆さんの行動を留める事も可能かと。私たちの方から、根回しさせて頂きます」
「ありがとうございます。ヴァストドラゴン家の者、ヴァストドラゴン寮を任される者として、皆様に不利になるような事はしないと、ここに誓わせて頂きます」
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