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ピタゴラ装置

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「済みませんが、昼食はヴァストドラゴン領の分館で一緒に摂らせて頂いても宜しいですか?」


「え? ええ」


 俺の提案にインシグニア嬢が首肯してくれたのはありがたい。これでアグニウス卿へ通告されるのは避けられたかな? 我ながらやっている事が悪役だが。


「済みません。明日の受験の為に、ジュウベエ君たちに礼儀作法を教えないといけないので、それも兼ねての食事なので、外せなくて」


 貴族も通う魔法学校で行われる受験には、礼儀作法も必修だ。当日には上級生が給仕として、皿を出し、食事の作法が試験官に審査される。王国貴族だとここに音楽も加わってくるが、ジュウベエ君の派閥は留学生なので免除だ。出来るなら加点されるので、一般受験生は覚えてくる者も少なくないと聞く。ああ、


「恐らくですが、俺が我儘言ったところで、教皇猊下が意見を翻すとはおもえないので、当日の楽曲練習もします?」


「そう、ですね」


 受験でも、受験生たちは時間をずらし、音楽を歌奏する者と食事をする者に分かれ、交代でこれを熟す。なので、教皇猊下の説得が出来なかった時を考えて、ジュウベエ君派閥が食事している時のバックミュージックとして、先に大聖堂で歌奏する楽曲を、そこで奏でるのは悪くない策ではなかろうか?


「え? それなら、我々も同席したいのですが?」


 アウレア嬢がそのように訴えてくる。他のご令嬢方々も同意見のようだ。


「いえ、済みませんが、それはご遠慮下さい。動向が悟られますから」


「私なら、問題ないのでは?」


 肩を落とすご令嬢方々だが、マドカ嬢はジュウベエ君の姉上と言う立場を利用して、何とか紛れ込めないかと声を上げる。そんな、派閥を出し抜いてでもインシグニア嬢の歌奏が聴きたいのか。


「ご遠慮下さい」


「そんな!?」


 愕然とするマドカ嬢。


「ここでそちらの派閥に亀裂を生じさせると、後々、禍根が残り、寮の動きが円滑にいかなくなりますから」


 俺の説明に、深く頷くご令嬢方々。俺の説明などどうでも良く、抜け駆けするな。って気持ちの方が強いのだろうけれど。


「それでは……、ええと? 何だ? 何からすれば良いんだ?」


 即席だから、一瞬何から取り掛かれば良いのか分からなくなる。


「ええと、アウレア嬢派閥の方々は、他の同志の説得を」


『はい』


 と声を揃えて頷いてくれるご令嬢方々。インシグニア嬢に迷惑を掛けるのはファン派閥として大失態なので、出来る限り配慮してくれるだろう。


「それで、グリフォンデン領の分館にテレフォンして、インシグニア嬢が、ヴァストドラゴン領の分館で昼食を摂り、そのまま、午後の大聖堂へ行くと説明」


「そうですね」


 これにインシグニア嬢が頷く。


「大聖堂にも連絡しておいた方が良いですよね?」


「そうですね。でも、どのように伝えますか?」


 俺がインシグニア嬢に『契約召喚の儀』で歌奏をさせるのを嫌がっている。とそのまま説明しても、門前払いだろう。


「新しい婚約者が、見学したがっているので、同行を許可して欲しい。で良いでしょう。インシグニア嬢は何も知れないていでテレフォンして下さい」


「でも、同行を許可して下さらないかも……」


「ああ、それはどうでも良いので。たとえ同行の許可がされなくても、私は同行しますから」


 俺の発言にアウレア嬢を筆頭に、ご令嬢方々は呆れ顔だ。とんだ我儘野郎だと思われていそうだが、それでも構わない。大聖堂の後には王城にも乗り込むのだ。馬鹿な我儘野郎が現れた。くらいに思われた方が動き易い。ああ、


「王城での打ち合わせなり合同練習は?」


「明後日です」


「では、テレフォンで担当者に連絡して、今日のうちに打ち合わせを取り付けましょう。理由は次期領主となるので、その諸々の打ち合わせが急遽決まり、時期をずらして欲しい、と」


「分かりました」


 はあ。王都に来てから、やる事が雪崩を起こしている気がする。いや、父上が俺をグリフォンデン領の領婿に推挙した段階で、全ての歯車が狂い始めたのかも。自領で文官にでもなろうと思っていたから、あえて王都の情報には余り触れないようにしていたツケかも。でもまさかこんな事になるとは思わないじゃん!


「取り敢えず、俺の方からインシグニア嬢を昼食に誘った。とグリフォンデン家にはテレフォンを入れるので、その後、済みませんが、インシグニア嬢には、大聖堂と王城に連絡して頂く形で」


「分かりました。……ただ、王立魔法学校の入学式の歌奏の責任者は、王配であられるセガン陛下なので……」


「ええっ!?」


 何で王配の陛下が入学式の歌奏の責任者なの? いや、王立魔法学校だから、責任者が王族になるのも当然なのか? いやいや、それはないだろう!?


「セガン陛下も、インシグニア嬢の歌奏のファンのお一人ですから」


 アウレア嬢が説明してくれた。成程。王族さえも虜にするインシグニア嬢。流石です。


「でも、担当者・・・は違うんですよね?」


「ええ。でも担当者に文句を言えば、必ずセガン陛下の耳には入るかと」


 でしょうね!


「ああ、ガイシア陛下が介入してくるのが目に見えるようですね」


「何で!?」


 俺には分からないが、アウレア嬢の発言に、他のご令嬢方々も、インシグニア嬢も、侍女の二人も深く頷いているので、恐らく確定事項だと思われる。


「ガイシア陛下は、セガン陛下を深く愛しておられるので」


「成程?」


 俺が一人不思議そうにしているので、アウレア嬢が説明してくれた。


「セガン陛下って、社交場でも基本的に他の貴族の方々から距離を取る形で、一歩引いて社交場の隅で全体を見ているのが常なんです」


「はあ……」


「セガン陛下が声を発しているのを聞いた事がある者も少ないくらいでして。兎に角、この国の頂点はガイシア陛下だから、ご自分はその後ろに付いていくと言いますか、前に出ない方で」


「はあ……」


 他のご令嬢方々も、声を聞いた事がないようだ。本当に、女王陛下の影って感じの方なのだろう。


「そんな国政に口出ししないセガン陛下が、唯一口出しした案件が、インシグニア嬢のセレモニーでの歌奏なんです。なので、フェイルーラ君が、それを台無しにしようと口出しすると、絶対にガイシア陛下案件に発展するかと」


 オーノー。大好きな夫の数少ない我儘だ。ガイシア陛下も出来る限り叶えて差し上げたいのだろう。え? 詰んだか?


「…………いや、ここで逆転したら、他の貴族たちもインシグニア嬢へ無茶振り出来なくなるか。これって逆に千載一遇のチャンスなのでは?」


「…………めげませんね」


 アウレア嬢たちが呆れているが、こっちだって出来るなら、こんな綱渡りしたくない。

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