SPIRITS TIMES ARMS

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どっちつかず

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 味と形? 教皇猊下の言いたい事が理解出来ず、一瞬眉間にシワを寄せたが、すぐに味に付いては思い至った。

「ああ、私のところの商会では、回復量を犠牲にして味の向上を図っていますから、それですか?」

 これに頷く教皇猊下。良薬口に苦しの通り、基本的にポーションなんてものは不味いと相場が決まっている。それなのに、何で回復量を犠牲にしてまでワースウィーズ商会が味の向上に力を入れているのかには、ちゃんとした理由がある。それを教皇猊下に説明する。

「ポーションと言うものには、二通りの使い方があります。飲むか、掛けるか、です。そしてこの二つには明確に効果に違いがあります。飲む場合、身体の回復力を劇的に向上させ、身体全体の回復が行われます。次いで損傷箇所の回復にその効能が向かう形です。対して、掛ける場合は、まず損傷箇所の回復が先に行われ、それから身体全体の回復に効能が使われます」

 この説明には教皇猊下も納得しているらしい。一応教皇まで上り詰めた人物だ。神官時代に戦闘の前線に出た経験もあるのだろう。

「飲むにしろ、掛けるにしろ、ポーションを使うのは逼迫した事態です。初級、低級のポーションで済ませられる事態なら、戦闘と戦闘の合間に飲むなり掛けるなりすれば良いのですが、中級、上級ポーションの場合、生きるか死ぬかの瀬戸際です。そんな時に、一口飲む度に「不味い」と言う信号が、舌からノイズとなって脳に送られると、人間の身体と言うのはそちらに気を取られて、一瞬今が戦闘中である事を忘れてしまうのです」

「だから、フェイルーラ君のところのポーションは回復量を犠牲にして、味の向上にシフトしたと?」

 理解出来ないと言う顔になる教皇猊下。隣りのインシグニア嬢も首を傾げている。

「これは結構大事なんですよ。「不味い」に気を取られて魔属精霊や魔物の手で死ぬか、少し効果は低いけれど、味は悪くないポーションでその場をしのぎ、落ち着ける場所まで撤退してから中級や低級のポーションで回復するか。これだけで生存率が劇的に変わってきますから」

 そう説明しても、教皇猊下もインシグニア嬢
首を傾げるばかりだ。

「まあ、恐らくその通りなのだろう。実際、君のところの商会がうちに卸しているポーションは、回復量が低い。と銘打って販売しているのに、一番最初に売り切れるそうだからね」

 命に直結するからね。不味いポーションも、損傷箇所に掛ける用に持ち歩いていたいところだ。

「ああ、マナポーションの味も良くしているのは、マナポーションは掛ける事がなく、飲む専用だからか」

「はい」

 独り言のように呟いた教皇猊下の言に首肯する。

「ふむ。まあ、回復量が少ないと言っても、一曲歌奏するだけだからな。君のところのマナポーションで充分なのだが……」

 そこでちらりとインシグニア嬢の方へ視線を向ける教皇猊下。ああ、インシグニア嬢のところのマナポーションは不味いのか。

「成程。先程指摘したように、不味いポーションを飲むと、どうしても顔に出てしまいますからね。神聖な『契約召喚の儀』でそのような顔を晒すのは、教会側としても厭われますか」

「うむ? ……うむ」

 インシグニア嬢のように魔力量が潤沢か、おれのように回復の仕方が変でなければ、途中でマナポーションの飲用はどうしても必要になる。だからと言って、インシグニア嬢から提供されたマナポーションを、不味いから使わない。と言うのは、教皇猊下でも気を使う問題か。う~ん……、うん?

「味の他に、形がどうとか仰られていましたよね?」

「ああ。フェイルーラ君のところのマナポーションは、味は良いのだが、その見た目が……、普通だろう?」

 普通、と言われてもなあ。先述通り、ポーションは掛けて使う事もある。それは自分自身に掛ける事もあれば、味方に掛ける事もある。と言う事だ。

 その場合、近くにいたのなら中身だけ損傷箇所に掛ければ良いのだが、怪我した味方が遠くにいた場合、投げてぶつけて回復させる。

 それを可能とする為に、ポーションの容れ物と言うのは基本的に壊れ易いガラス製だ。しかもとても薄いガラスでなければ、投げ付けた場合に、逆に回復させる相手へガラスの破片で怪我をさせてしまうので、投げたポーション瓶が、ぶつかったら破片も残らず粉砕されるくらいに薄い必要がある。

 この薄さを確立させるのが技術としてとても難しい為、ポーションを売っているどの商会も、大体薄い吹きガラスで作られた円柱状の瓶で売っている。マナポーションも実戦で仲間に投げ付けて回復させる場合もあるので、この形で定着している。確かに、神聖な場にはあまりそぐわないかも知れないが、形に工夫を加えろ。と言われてもなあ。今回限りのものに余計な金を使うのは、俺としては躊躇われる。

 そんな俺の心中を察してか、教皇猊下の指示に従い、神官によってテーブルに二つのポーション瓶が置かれた。これに俺は驚いた。一つはうちのポーション瓶だが、もう一つは何とデウサリウス神の形をしていたからだ。

 デウサリウス神は長い口髭のお爺さんとして描かれ、良く聖堂や教会に像として置かれていたり、ミニチュアをペンダントとして首から掛けたりする。因みにデウサリウス教には変な教えが多々あり、その中に、髭を生やして良いのはデウサリウス神のみ。それ以外のものは生やしてはならない。と言うものがあり、これは人間だけに適用される訳ではなく、家畜である山羊も同様に髭を剃られる。意味を感じない教えだ。

「触らせて頂いても?」

 俺が尋ねると、ちらりとインシグニア嬢の方へ視線を送る教皇猊下。これに頷くインシグニア嬢。成程? まあ、何か許可が出たっぽいので触らせて貰うが、じっくりと様々な角度から眺めても、とても精巧だ。これをガラスで作ったと言うのは、俺からしたら驚異だ。しかもうちのポーション瓶よりもガラスが薄い。

「これが、インシグニア嬢の納めたポーション瓶ですか?」

「うむ。インシグニア嬢の出身領であるグリフォンデン領の商会からは、昔からこの形のポーション瓶が納められておる」

 流石は峻険な山々の連なるグリフォンデン領。きっとガラスの素材となる石英などが多く採れるのだろう。その豊富な鉱物資源を惜しみなく使い、このデウサリウス神の形のポーション瓶を作り上げるに至ったと、その背景が分かる。そして、確かに『契約召喚の儀』で使うなら、こちらの方が合っている。

 片方は味に難あり、片方は形に難あり、か。なら答えは簡単だ。

「インシグニア嬢」

「はい?」

 まさかこちらに振られるとは思っていなかったらしく、声の裏返るインシグニア嬢。いや、それは良いとして。

「今回に限り、瓶だけ提供して頂く事は出来ないでしょうか? 中身は我が商会が提供しますので」

「……まあ、それが無難な落としどころでしょうけれど、この瓶を作っているのは、エルドラドカンパニーの子会社ですので、上を通さず直接的にやり取りをする訳にはいかないのです」

 エルドラドカンパニーかあ。これに天を仰ぐ。エルドラドカンパニーはグリフォンデン領でも最大手の工業系企業で、真反対にある我がヴァストドラゴン領にまでその名声は轟いている。その子会社となれば、確かに勝手にうちの商会とやり取りする訳にはいかない。

「大丈夫ですよ。父上に頼めば、エルドラドカンパニー伝いで、ご協力出来るでしょうから」

 あ、そりゃあそうか。うちの商会だって、父上が介入してきたら、これくらいなら協力するな。しかし、確かに『契約召喚の儀』は国の重大事だが、その裏での動きも、何だか規模が大きくなってきたなあ。

「こちらとしては、出来るなら、教会に納めてくれるポーション瓶は全てこのデウサリウス様の形をしたものにしたいのだがなあ」

 ここまでの流れを聞いて愚痴る教皇猊下。でもそれも分かる。教会としては付加価値付けたいよなあ。でも、

「それは難しいかと」

「何故だね?」

 俺の言に教皇猊下は眉を顰める。

「最近になって、独占禁止法と言う法律が成立しまして、もしガラスやガラス瓶を、そのグリフォンデン領の商会しか作れないならば兎も角、どの領でも作れるものですから、教会への販路を、このデウサリウス神の形が作れる商会だけに限定するのは、法律上無理かと」

「面倒な法律だね」

「癒着などで低品質な商品ばかりが流通するのを防ぐのが目的ですので。それに、幾らグリフォンデン領が山々に囲まれていると言っても、世界中に販路を広げれば、いずれはその素材も尽きますから」

「…………」

 ここまで言えば教皇猊下も反論は出来ないようだ。まあ、ガラスは回収して使い回せば良いんだけど。いや、投げて使っていたらそれもいずれ尽きるか。

「今、父上が特許法と言う、製作方法にも権利を与え、その製作方法を確立させた商会や工房、個人に、その製作方法を使用した商会や個人から利用料が入る仕組みを作ろうと、草案を作成しているところです。それが議会を通れば、他の商会からも、これと同様のポーション瓶が納められるようになるかと」

 へえ。製作方法に権利? アグニウス卿も凄い事考えるな。確かに古い商会や工房などになると、門外不出の秘伝のようなものがあるようだけれど、それを放出させて、国全体のアップデートを図る流れかな? 悪用も思い付くから、草案段階で詰められるだけ詰めないといけないだろうけど。

「では、すぐにでも父上にテレフォンして、エルドラドカンパニーに動いて貰いましょう」

 インシグニア嬢、これに関して乗り気だな。

「……あの、フェイルーラ様」

「はい?」

「同時に、あのバイクの事も伝えて良いでしょうか?」

 あ、そっちの『乗り気』だったのね。本当にあのバイクが気に入ったらしい。

「どうぞ」

 俺が許可を出すと、インシグニア嬢はどこかうきうきしたように、神官が持ってきたテレフォンを掛けるのだった。
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