SPIRITS TIMES ARMS

西順

文字の大きさ
63 / 103

差し替える

しおりを挟む
「しかし、凄かったな。今のも竜の武威なのか?」

 やはりポジティブの権化であるジュウベエ君。すぐに気持ちを切り替えてそんな事を俺に尋ねてくる。

「似たようなものだね。今、フィルフィン君が使ったのは、竜の武威ではなく、巨人の足跡そくせきと言われる、横方向ではなく、上から下へ、正しく巨人が大地を踏み締めるが如き殺気だね」

 俺が説明すると、ヒュージー君だけでなく、他のギガントシブリングス家の面々も目をまん丸にしている。フィルフィン君だけは苦い顔だ。

「成程。殺気を上から下。それってどうやっているんだ?」

「さあ? 私は扱えないしねえ。体質とか血統とかが関係しているんじゃないの? この国の王族は、王の武威と言う、竜の武威に似た殺気を放てるけど、これは横方向に飛んで、対象を屈伏状態にするしね」

「成程? それって、金眼じゃないと出来ないのか?」

 は? …………!

「いや、魔眼由来じゃなく、体質、血統由来だと思う。そもそも金眼は魔眼じゃないし。王の武威は金眼じゃないと放てない。何て風説はあるけど、竜の武威や巨人の足跡は金眼じゃないといけない。って話は聞いた事ないな。金眼に武威や足跡を使える者が多いのは、この大陸では、アダマンティア以外でも金眼の者が王を務めている国が多いから、それに連なる一族とか末裔や傍流なんかで、金眼の者に武威や足跡を使える者が多いんだと思う」

「あ~あ」

 理解してくれたらしい。この国だと、貴族以外にも金眼の者はおり、彼らはここ王都の大聖堂に良く礼賛しにくる。理由は武威の獲得ではなく、別にある。

 大聖堂にはかつて時計が一般的ではなかった時代に、時刻を告げていた巨大な鐘があるのだが、これは王選の鐘とも呼ばれており、この鐘が鳴った者は王族に迎え入れられ、王位継承権を獲得し、王領のどこかに土地を持てるからだ。

 現状、ガイシア女王陛下以外に鐘が鳴った者は、陛下の子であるスフィアン王太子殿下やグロブス殿下以外に八人、計十人いるのだ。まあ、これらは全員現王族から王選の鐘によって選出されたのだが。

「まあまあ、それよりも、僕はマエストロ・ウェルソンの話をもっと聞きたいな」

 これ以上自分たちの話に持っていかれるのを嫌がってか、フィルフィン君が強引に話題を変えようとしてきた。フィルフィン君的には、自分が巨人の足跡を使える事も、伏せておきたかったカードだろうからなあ。気持ちは分かるが、これを聞いたうちの派閥の面々が、凄い怖い顔でジュウベエ君を睨む。こんな面々の顔、初めて見たぞ。睨まれていない俺でも怖い。

 流石にこれには耐え兼ねたのか、顔を逸らすジュウベエ君。

「おう! お前ら!」

 逸らした先に丁度自身の派閥の四人がいたようで、声を上げて呼び寄せる。しかしうちの派閥からの視線は変わらない。

「はいはい。結果は覆らないから、それくらいにして」

 俺が手を叩いて派閥から注目を集めると、明らかにホッとするジュウベエ君。これに対して、

「ジュウベエ君のうちでの序列は、グーシーより下だから」

 と釘を刺しておく。

「マジか!?」

 これに驚くジュウベエ君だが、こっちの方が驚きだ。これにはうちの派閥の面々も驚いている。どうやら初めて彼らもジュウベエ君が派閥のボス気取りだった事に気付いたらしい。まあ、驚くよね。

「じゃあ、俺は序列三番目って事か」

「いや、もっと下だよ。インシグニア嬢や先輩たちがいるからね。俺、インシグニア嬢、グーシーたち側近、学校の先輩たち、その下にジュウベエ君やマドカ嬢とかだね」

「いや!? 滅茶下がったんだが!? そこまで下がるか!?」

 何に驚いているんだ?

「いや、下がったんじゃなくて、そもそも、命令権的にはそれくらい下なんだよ。幾らジュウベエ君が優秀だったとしても、ジュウベエ君たちはこの魔法学校を卒業したら、お国に帰るんだろ? そんな人に今後の国を背負う派閥の皆への上位の命令権なんて与えられないよ」

 これに掌の上に拳を当てるような仕草で納得するジュウベエ君。ここまで説明しないと理解して貰えないのか。はあ。

「そ・れ・よ・り、マエストロ・ウェルソンの話を……」

 フィルフィン君はどうやってもウェルソンの話を聞きたいらしい。そんなに音楽に興味があるのか、それとも今後、音楽関係の授業で脅威になるから、脅威になるならその度合いを測っておきたいのか。多分後者だろう。そして、遠巻きに側耳そばみみを立てている他の受験生たちなどは、単純な興味の方が勝っている気がする。こう言うところが、領主貴族とその下の騎士貴族との差かも知れない。

「ウェルソンなら、ヴァストドラゴン領で司教をしていますよ」

「はえ? 司教? …………いや、敬虔なデウサリウス教信徒で知られるマエストロ・ウェルソンなら、あり得る選択肢か?」

 何かフィルフィン君がブツブツ言っているが、あいつは敬虔なデウサリウス教信徒と言うよりも、ボールス卿(教皇)の狂信者と言った方が正しい。その縁で教会に入り浸るようになり、結果、マエストロの称号を獲得するに至っただけだ。

「フェイルーラ様」

 呼ばれて振り向けば、インシグニア嬢が派閥の面々を連れて戻ってきた。インシグニア嬢は戻ってくるなり、俺の耳に口を近付けて耳打ちしてきた。

 ああ、はいはい。今朝ガイシア陛下の下へ大聖堂から忠告があったのは、どうやらインシグニア嬢の側近である侍女二人が大聖堂に話を持ち込んだ為だったらしい。ちらりと二人を見遣ると、まさかあそこまで話が大きくなるとは思っていなかったのだろう。どこか所在なさげだ。今にも迷惑を掛けた事を謝ってきそうだが、それはここでないどこか。にして欲しい。それを察せる侍女二人だからか、苦しそうな顔である。

「まあ、諸々の話は、受験が終わってからにしましょう」

 俺がそのように言えば、意図を理解した二人は深く頷いた。

「それより、こちらの方々でインシグニア嬢の派閥は全員ですか?」

 全部で十二人いるが、四人は服装が少し違う。八人と四人と言う方がしっくりくる。八人の方にはご令嬢しかいないし。

「こちらの八人は私の派閥の者ですが……」

 紹介された八人が俺に頭を下げる。一見すると地味だが、インシグニア嬢の諜報能力を知るに、侮れない面子なのだろう。

「……それと、こちらの四名は……」

「初めまして。ムジカット共和国から来ました、エムエム・シュールズです」

 手を差し出してきてくれたのは、天然パーマの焦茶色の髪に、深い緑色の瞳をしたとても姿勢の良い少年だった。

 ムジカット共和国はグリフォンデン領よりも更に西にある国で、国王を戴かず、共和制政治で成り立っている国だ。峻険な山々の向こうにある為、アダマンティア王国からの侵攻はなく、穏やかな小国として知られる。そして古くから芸術のとても盛んな国で、五人のマエストロのうち三人は、このムジカット共和国の出身者だ。

「貴方がマエストロ・ウェルソンのお弟子さんと言うのは本当ですか!?」

 差し出された手を握るなり、ぐっと顔を近付けてきて、熱の籠った眼差しを俺に向けてくるエムエム君。顔が近い! キスするかと思ったわ! 思わず顔を背けると、視線の先にいたジュウベエ君が興味深そうにしていた。

「大人気なんだな、その、マエストロ・ウェルソンって奴は」

「『奴』とは何だ! 偉大なマエストロだぞ! 分を弁えろ!」

 どうやらエムエム君はウェルソンをとても尊敬しているらしく、軽口叩いたジュウベエ君を大声で諌める。これには目を丸くするジュウベエ君。はあ、トラブルはやめて欲しいんだけどなあ。エムエム君の後ろのムジカット共和国の面々はエムエム君に同調していて、エムエム君の行動を止めようとしない。

 あと、俺的にもウェルソンは『奴』呼ばわりで良いと思う。あんな人格破綻者、『奴』呼びでも可愛い方だ。それを知っているうちの派閥の面々は乾いた笑いをしている。

「存命のマエストロはウェルソンだけだからね」

 などと俺がジュウベエ君に説明すれば、「ああ」とこれに納得するジュウベエ君だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...