95 / 103
悪魔で司教
しおりを挟む
「へえ」
正眼に構えるモトナリ少年に喜面を浮かべるフェイルーラ。その意図が分からずモトナリは眉を少し顰める。
「ああ、悪い悪い。悪気はなかったんだけど。良い構えだと思ってね」
「お褒めに預り光栄です。と返せば良いのですかね?」
「別に。褒めていないよ。隙がなく、敵からの攻撃に備えた、実戦で磨かれた構えだ。君、モトナリ君だっけ? 人を殺した事があるね? こんな闘技場ではなく、現実で」
フェイルーラの言に、身を引き締めるモトナリ。
「ありますよ。将軍家に仕える身ですから。護国の為、逆賊を誅する事に躊躇いはありません」
モトナリの応えに、フェイルーラの喜面はより濃くなる。対するモトナリの方はその顔が渋面へと変わっていく。
「その様子だと、貴方も人を殺した事があるようですね」
「まあね。これでも領主貴族の末席だ。しかも武闘派の家系となれば、領民の為に賊を殺すのも仕事だよ」
「成程……」
フェイルーラの言葉に耳を傾けながら、モトナリはフェイルーラの危険度を一段階上げる。一度でも人を殺した事のある者は、他者の命を亡きものとしたその罪の重さに潰れるか、人を殺す事への忌避感を亡くしていくかのどちらかだと、経験上理解しているからだ。そしてフェイルーラはこれまでの対戦を観るからに、明らかに後者の類である。
モトナリが警戒度を上げる中、フェイルーラはそんな事は気にせず、ジャージのズボンからグローブを取り出し、それを両手に嵌める。
「モトナリ君は、守護精霊と契約していないのかい?」
グローブからガンブレードを取り出すフェイルーラの声は、普段と変わらぬ穏やかな声音であった。そのはずなのに、同じバトルフィールドの中にいるモトナリには、それがまるで抗い難い命令のように響いた。
(……竜の武威の中に身を置いているんだ。半分命令のようなものか)
そう心の中で毒を吐きながら、モトナリはフェイルーラの質問に答える。
「います」
「でも、出さないんだ?」
それは、フェイルーラにはガンブレードを出させておいて、自分は本気で闘わないのか? と言外に尋ねているように、モトナリの耳に響く。
「わ、私の守護精霊は、このような場には似つかわしくない精霊ですので」
「ふ~ん」
反応はその一言。が、それが言外に、良いから出せよ。と命じている事が、モトナリには察せられた。フェイルーラがこれまで見せた闘い方自体、闘技場とは合わないものだ。この試合で、フェイルーラ相手に手札を温存するのが得策とはモトナリも思っていない。主家のジュウベエさえ、フェイルーラ相手に座敷童のまつりを温存しなかったのだ。それを、それより格の落ちるモトナリが温存するのは、こちらから申し出ておいてあまりに失礼だ。
「ふう……。本当に、闘技場とは相性が悪いし、合戦まで温存しておきたいんですが……、やっさん」
これで入学後の合戦でヴァストドラゴン寮が不利になっても、モトナリを咎めるなよ。などと予防線を張ったうえで、モトナリは自身の守護精霊を召喚した。
それは、フェイルーラが初めて見る異形であった。表現するなら、色はモトナリと同じ小豆色を更に暗くしたような色で、大きさは人間大。風船のような丸い頭を持ち、それを八つの触手で支えて立っている。そんな見た事も想像した事もない生き物だった。
「それは、また変わった精霊だね」
「海坊主のやっさんです」
「ウミボーズ?」
また知らない精霊の名前が出てきて首を傾げるフェイルーラ。座敷童にタヌキ、そして今度は海坊主だ。見た事も聞いた事もない異国の精霊に首を傾げるのも仕方ない事だった。
「この国だと、シービショップやビショップフィッシュと呼ばれる精霊ですね」
これを聞いてフェイルーラも合点がいく。シービショップやビショップフィッシュは、タイフーンタイクン領などで契約される精霊だ。だが、
「魚と言うには、奇妙な姿だね」
「タコですからね」
「え? タコなの? それが?」
「はい」
「へえ、初めて見るや。それがタコ」
感心しつつ上から下まで良く観察するフェイルーラ。
「噂に聞いた悪魔魚が、精霊司教魚として眼前に現れるとは思わなかったな」
これにはモトナリの方が眉を寄せる。
「デビルフィッシュ、ですか?」
「ああ。この国だとその異形の姿から忌避される魚介類だね」
フェイルーラの言に、モトナリの眉のシワが深くなる。
「私の国では、タコは多幸に似て、縁起物とされているんですがね」
「ああ、もし気分を害したなら謝るよ。ビショップフィッシュと一概に言っても、色々種類がいる事は知っているよ。海生生物なら、何であれビショップフィッシュになる可能性があるらしいから、タコ? がビショップフィッシュになってもおかしくはないねえ」
「そうですか。美味しいですから、今度ご馳走しましょうか?」
「美味しいんだ。って言うか食べるんだ、タコ。…………まあ、牛や羊の精霊と契約している者が、牛や羊を食べないかと言えば、話は別だろうしねえ」
「祖国でも、漁師などの中には、縁起担ぎで食べない者もいますね」
さもありなん。とフェイルーラも首肯する。
「まあ、タコの形をしているけど、その精霊はタコではなく、ウミボーズ? らしいけど、それは強いのかい?」
海の名が付いているのだから、魔力属性は海なのだろう。とフェイルーラも推測する。が魔力属性が海だけとは限らない。元は自然精霊であったであろう海坊主の特性が何なのか、フェイルーラには皆目見当が付かないからだ。
「強い、と言うよりも、ズルい。と言うのが妥当でしょう。やっさん、暗夜迷路」
モトナリが指示を出すと、海坊主のやっさんが、風船のような頭に付いた筒状の口のような部分から、上空へ向かって墨を吐き出す。これによってバトルフィールドは上空から暗闇に染められていき、バトルフィールドは一寸先も見えないような夜へと変貌したのだった。
「確かに。闘技場向きではないね」
モトナリが守護精霊を召喚したくなかった理由をフェイルーラは知ったのだった。
正眼に構えるモトナリ少年に喜面を浮かべるフェイルーラ。その意図が分からずモトナリは眉を少し顰める。
「ああ、悪い悪い。悪気はなかったんだけど。良い構えだと思ってね」
「お褒めに預り光栄です。と返せば良いのですかね?」
「別に。褒めていないよ。隙がなく、敵からの攻撃に備えた、実戦で磨かれた構えだ。君、モトナリ君だっけ? 人を殺した事があるね? こんな闘技場ではなく、現実で」
フェイルーラの言に、身を引き締めるモトナリ。
「ありますよ。将軍家に仕える身ですから。護国の為、逆賊を誅する事に躊躇いはありません」
モトナリの応えに、フェイルーラの喜面はより濃くなる。対するモトナリの方はその顔が渋面へと変わっていく。
「その様子だと、貴方も人を殺した事があるようですね」
「まあね。これでも領主貴族の末席だ。しかも武闘派の家系となれば、領民の為に賊を殺すのも仕事だよ」
「成程……」
フェイルーラの言葉に耳を傾けながら、モトナリはフェイルーラの危険度を一段階上げる。一度でも人を殺した事のある者は、他者の命を亡きものとしたその罪の重さに潰れるか、人を殺す事への忌避感を亡くしていくかのどちらかだと、経験上理解しているからだ。そしてフェイルーラはこれまでの対戦を観るからに、明らかに後者の類である。
モトナリが警戒度を上げる中、フェイルーラはそんな事は気にせず、ジャージのズボンからグローブを取り出し、それを両手に嵌める。
「モトナリ君は、守護精霊と契約していないのかい?」
グローブからガンブレードを取り出すフェイルーラの声は、普段と変わらぬ穏やかな声音であった。そのはずなのに、同じバトルフィールドの中にいるモトナリには、それがまるで抗い難い命令のように響いた。
(……竜の武威の中に身を置いているんだ。半分命令のようなものか)
そう心の中で毒を吐きながら、モトナリはフェイルーラの質問に答える。
「います」
「でも、出さないんだ?」
それは、フェイルーラにはガンブレードを出させておいて、自分は本気で闘わないのか? と言外に尋ねているように、モトナリの耳に響く。
「わ、私の守護精霊は、このような場には似つかわしくない精霊ですので」
「ふ~ん」
反応はその一言。が、それが言外に、良いから出せよ。と命じている事が、モトナリには察せられた。フェイルーラがこれまで見せた闘い方自体、闘技場とは合わないものだ。この試合で、フェイルーラ相手に手札を温存するのが得策とはモトナリも思っていない。主家のジュウベエさえ、フェイルーラ相手に座敷童のまつりを温存しなかったのだ。それを、それより格の落ちるモトナリが温存するのは、こちらから申し出ておいてあまりに失礼だ。
「ふう……。本当に、闘技場とは相性が悪いし、合戦まで温存しておきたいんですが……、やっさん」
これで入学後の合戦でヴァストドラゴン寮が不利になっても、モトナリを咎めるなよ。などと予防線を張ったうえで、モトナリは自身の守護精霊を召喚した。
それは、フェイルーラが初めて見る異形であった。表現するなら、色はモトナリと同じ小豆色を更に暗くしたような色で、大きさは人間大。風船のような丸い頭を持ち、それを八つの触手で支えて立っている。そんな見た事も想像した事もない生き物だった。
「それは、また変わった精霊だね」
「海坊主のやっさんです」
「ウミボーズ?」
また知らない精霊の名前が出てきて首を傾げるフェイルーラ。座敷童にタヌキ、そして今度は海坊主だ。見た事も聞いた事もない異国の精霊に首を傾げるのも仕方ない事だった。
「この国だと、シービショップやビショップフィッシュと呼ばれる精霊ですね」
これを聞いてフェイルーラも合点がいく。シービショップやビショップフィッシュは、タイフーンタイクン領などで契約される精霊だ。だが、
「魚と言うには、奇妙な姿だね」
「タコですからね」
「え? タコなの? それが?」
「はい」
「へえ、初めて見るや。それがタコ」
感心しつつ上から下まで良く観察するフェイルーラ。
「噂に聞いた悪魔魚が、精霊司教魚として眼前に現れるとは思わなかったな」
これにはモトナリの方が眉を寄せる。
「デビルフィッシュ、ですか?」
「ああ。この国だとその異形の姿から忌避される魚介類だね」
フェイルーラの言に、モトナリの眉のシワが深くなる。
「私の国では、タコは多幸に似て、縁起物とされているんですがね」
「ああ、もし気分を害したなら謝るよ。ビショップフィッシュと一概に言っても、色々種類がいる事は知っているよ。海生生物なら、何であれビショップフィッシュになる可能性があるらしいから、タコ? がビショップフィッシュになってもおかしくはないねえ」
「そうですか。美味しいですから、今度ご馳走しましょうか?」
「美味しいんだ。って言うか食べるんだ、タコ。…………まあ、牛や羊の精霊と契約している者が、牛や羊を食べないかと言えば、話は別だろうしねえ」
「祖国でも、漁師などの中には、縁起担ぎで食べない者もいますね」
さもありなん。とフェイルーラも首肯する。
「まあ、タコの形をしているけど、その精霊はタコではなく、ウミボーズ? らしいけど、それは強いのかい?」
海の名が付いているのだから、魔力属性は海なのだろう。とフェイルーラも推測する。が魔力属性が海だけとは限らない。元は自然精霊であったであろう海坊主の特性が何なのか、フェイルーラには皆目見当が付かないからだ。
「強い、と言うよりも、ズルい。と言うのが妥当でしょう。やっさん、暗夜迷路」
モトナリが指示を出すと、海坊主のやっさんが、風船のような頭に付いた筒状の口のような部分から、上空へ向かって墨を吐き出す。これによってバトルフィールドは上空から暗闇に染められていき、バトルフィールドは一寸先も見えないような夜へと変貌したのだった。
「確かに。闘技場向きではないね」
モトナリが守護精霊を召喚したくなかった理由をフェイルーラは知ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる