SPIRITS TIMES ARMS

西順

文字の大きさ
103 / 103

まずは突撃

しおりを挟む
「だ、大丈夫ですか?」

 インシグニア嬢が動揺しながらも声を掛けてくれた。そりゃあ、身悶えている人間を見たら引くよね。ふう~~。

「大丈夫です。済みません。ちょっと自分の愚かさに居た堪れないなくなっただけですから」

「はあ」

 うう、困らせるつもりはなかったんだけどなあ。

「インシグニア嬢はこの後、どうされるのですか?」

「え? どうしましょう? フェイルーラ様はまだ闘われるのですか?」

「いや、今日はこれで終わりです。派閥の中にまだ闘っている者がいますから、それらを回収してここを離れるつもりです」

「離れるつもり、ですか」

 やはりインシグニア嬢は聡い。ここを離れた後、何かあると勘付いている。

「まあ、エスペーシに発破を掛けに行くだけです」

「ああ」

 エスペーシは昨日、グリフォンデン領の分館に行っている。今日、フレミア嬢が王城に行った事も知っているだろう。

「ちょいと、賑やかしでもしてやりますか」

「ふふ。悪い顔になっておられるますよ」

 インシグニア嬢はそう口にするが止めようとはしない。俺の言葉の裏を察して、付いてくるつもりだろう。へこんでいる奴を誘導するのは楽しいからねえ。

「さて、まだ少し時間もありますし……、私としてはこの間に何か甘い物が飲みたいところですね」

「甘い物、ですか?」

「ここで闘うと脳が疲れるんですよ。脳の養分は甘い物が良いので」

「成程」

 理解を示すインシグニア嬢。楽器を奏でるのも脳みそ使うもんなあ。

「飲食売店通りは二ヶ所あります」

 アーネスシスはそう口にすると、俺たちをそこまで連れて行ってくれるのだった。

 ✕✕✕✕✕

「ここと、反対側にあります。入り口、この階だとエレベーター近く、そこと奥にトイレがあります。投票券の販売は入り口付近ですね。どの階層でもここら辺の構造は同じです」

 アーネスシスの説明も半分流し、俺は並ぶ数々の飲食売店に目を向けていた。

(ジュースよりも酒類が多いか? まあ、ここにいるのは決闘者じゃなくて観客だもんなあ。食べ物も各種肉串に、腸詰め串、サンドイッチにくし切りポテト、ミックスナッツ、ポップコーン、塩っぱい系が多いな。手掴みで食べれるものが多い)

「お、タコ焼きが売っているんだ?」

 色々と物色していると、モトナリ君がそんな声を上げた。タコ焼き? あれを焼いたもの? と疑問に思いながらそちらをみると、一口サイズの小さな丸い玉だった。子ダコかな?

「それはタコなの? それともタコの頭を模しているの?」

「中にタコの切り身が入っているんですよ」

 モトナリ君が教えてくれた。成程、生地の中に、タコの切り身が。と感心していると、タコ焼き? を作っているおじさんが険しい顔をする。

「これはそんな変なものじゃない。これはボール焼きだよ」

「ボール焼き?」

 モトナリ君が首を傾げる。俺たちも首を傾げる。インシグニア嬢と侍女二人は知っているようで首を傾げる事はなかった。

「小麦粉に卵、牛乳、蜂蜜、重曹を混ぜたものを、油を敷いた半円形の型に流し込んで、素早くくるっと丸く成形したものだ」

 恐らくどう作っているか聞かれる事が多いのだろう。店主のおじさんが教えてくれた。分量の配分は多分企業秘密だと思われる。

「甘いなら貰っておこうかな」

 説明もして貰ったので、ボール焼きを買う。十個で二百フェルムだった。チョコレート菓子はボール焼き一つと同じ大きさだが、一つ千五百フェルムはする。やはりチョコレート菓子はお高い。

 そこから他の店を巡り、ジュース店に辿り着く。空間魔法で果物を保存しているからか、アップルジュースやらピーチジュース、メロンジュースやスイカジュースにミックスジュースなど、色々種類がある。そんな中で俺の目を引いたのはホエイドリンコと言う他とは別の飲み物だった。

「ホエイドリンコ? ホエイって何だ?」

「ホエイは乳清とも言われている、牛乳からチーズやヨーグルトを作る時に凝固する時に分離する水分ですね。ヨーグルトを食べる時に上澄みに水が出るじゃないですか、あれです」

 インシグニア嬢が教えてくれた。が、ヨーグルト、あんまり食べないんだよなあ。チーズも輸入品だし。う~ん、そんなものもあった気もする。

「栄養価も高いそうですよ。身体を鍛えている人は良く常飲するそうです」

「へえ。じゃあ飲んでみようかなあ」

 インシグニア嬢に勧められるまま、俺はホエイドリンコを注文して、それを一口飲んでみる。

「甘酸っぱい。そして蜂蜜味」

「本来はもっと味が薄いんだけど、店で出すからな。蜂蜜を足して飲み易くしているんだよ」

 店主がそんな事を教えてくれた。確かに、薄味だと果汁の方を頼むかも知れない。でも、

「何故蜂蜜味?」

「お前さん、王都の外からやって来たのか?」

「はい」

「王都は年中春だから、花が年中咲き乱れて蜂蜜園が多いんだよ」

 成程。そして、

「これは好きな味かも」

「ありがとさん」

 ニカッと笑う店主。ふむ。そんな笑顔を見ながらホエイドリンコを飲む。美味しい。

「あの! 宜しいでしょうか!?」

 そんな風に飲食売店通りを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。振り返り様、俺の周囲を歩いていたうちの派閥の面々が、相手を警戒するように俺とインシグニア嬢を囲う。

 俺に声を掛けてきたのは、万年筆とノートを持った女性と、カメラを持った男性の二人組だった。これに目を細める。

「何かご用ですか?」

「日刊アダマン新聞の者ですが、フェイルーラ選手にインタビューをと思いまして、お時間宜しいでしょうか?」

 ペンとノートを持った女性がそう声を掛けてきて、俺に詰め寄ろうとしてくるが、うちの派閥の女性陣がそれをガードする。

「不敬な! く立ち去れ!」

 ジルッタがそう口にするが、女性記者は興奮しているのか、それでも俺に詰め寄ろうとするし、カメラマンは断りもなく俺をパシャパシャ撮影している。

「ふむ。日刊アダマン新聞ねえ」

「はい! お母上と並ぶニュービー到達記録を成し遂げた事に付いて、一言下さい!」

 一般市民に怪我をさせる訳にもいかないので、ジルッタたちも抑えるに留めるしかなく、それを理解してか、ぐいぐい来る女性記者。

「インタビュー、ねえ。こちらの条件を飲むなら、応えても良いよ」

「条件?」

 俺の言に、「こいつ何様だ?」と言う気持ちが、女性記者から漂う。

「取り敢えず、二人とも、名刺を貰えるかな? 本当にそちらが日刊アダマン新聞の記者なのか、こっちは分からないからね」

 これを聞いて、二人はハッとなって名刺を差し出してきた。取り敢えず取材対象を見付けたら突入するタイプのようだ。ジルッタが二人から名刺を貰い受け、俺に渡すと、俺はそれをアーネスシスに渡す。

「日刊アダマン新聞に連絡して、この名前の記者がいるか参照して」

「はい」

 アーネスシスは名刺を受け取り、すぐにその場を後にした。これには動揺する二人。

「ちょ、ちょっと!?」

「こちらも言ったけれど、いきなり押し掛けて、勝手にそれを取材と称して記事にするのは、私じゃなくても不敬だよ? しっかり日刊アダマン新聞の記者だと分かったら、インタビューに相応の対応をするから」

 俺の言葉に頬を引き攣らせる二人。

「もし、これである事ない事記事にしたら、君たち二人だけでなく、日刊アダマン新聞自体に対しても相応の対応をするから、そのつもりで私にインタビューするんだね」

 俺の言葉に、二人は縮こまりながら頷くのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...