世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
241 / 643

転校生

しおりを挟む
「おはよう!」


「おはようー!」


 三学期初日。教室に入ると、学友たちが久しぶりに会う友とのあいさつを交わしていた。


「おはよう! 今日からだね!」


「ドキドキするぅ!」


 初日だからだろうか? 学友たちはどこか浮ついて見えた。いや、間違いではないだろう。浮ついているのだ。


「どのクラスかなあ?」


「ウチのクラスに来ないかなあ?」


 彼ら彼女らが浮ついているのは、今日転校してくる転校生の事が気になっているからだ。今日からウチの学校に通う事になっている転校生の注目度は高い。何せ校門前にはテレビや新聞、ネットなどのマスメディアだけでなく、結構遠くから野次馬まで来ているからだ。


「はあ」


 気が重い。


「はよー! どうしたハルアキ? 朝っぱらから溜息なんて吐いて? 景気悪いな? って言うか、顔色悪いな?」


 タカシがいつものように女子を引き連れて、朝のあいさつをしてきた。


「ああ、うん。昨日……って言うか、今日? 寝てなくてさ。もう、朝からダルいんだよねえ」


「何だよ? そんなに転校生が気になっていたのか?」


 そんな訳ないだろう。いや、気になっていたのは気になっていたのだが、それが眠れなかった理由ではない。昨夜の会談後、ラシンシャ天に連れ回されたのが大きな理由だ。



 あの後、ラシンシャ天は早速パジャンに引き返すと言い出した。その為には俺が転移門を開く必要があり、当然のようにラシンシャ天に俺は同行する事になった。


 トホウ山近くの広場に出た俺たちは、そのままその場に敷かれている魔法陣と、女官の一人が使う呪符によって、簡易転移扉を開き、一気に碧天城へ。


 碧天城に戻ってきたラシンシャ天は、真夜中である事などお構いなしに、モーハルドの使節団を呼び出した。


 呼び出しに応じた使節団に下される、ラシンシャ天からのパジャンでのモーハルド人の行動制限。モーハルドとしては、パジャンはここの南の大陸にいる魔王と対峙する為の前線基地になる重要国だ。そこで行動制限を敷かれてはたまったものじゃない。とあれやこれや言葉を尽くしたが、聞く耳を持たないラシンシャ天。余程会談の場でのモーハルドの使者が気に食わなかったのだろうか?


 ラズゥさんのお兄さんであるデイネン氏も加わり、嘆願するモーハルドの使節団。何でデイネン氏が一緒になって嘆願しているんだ? まあ、それを言ったら、謁見の間で何故か嘆願する使節団を見ている俺の存在の方が場違いだけど。


「モーハルド使節団はデイネンの肝入りで、他国より優遇されていたのです。どうせ裏で何かしらやり取りをしていたのでしょう」


 と眠気であくびを噛み砕いていた俺に、同行していた女官が教えてくれた。成程。そう言えばデイネン氏は、俺たちやエルルランドの使節団が来た時に、天は忙しい的な事を言っていたっけ。実際にはトホウ山で呑んだくれていたけど。デイネン氏はそれなりの地位にいて、天への謁見の順番とか調整出来る立場にあるのか。そしてモーハルドはデイネン氏にそれなりの賄賂を贈ったと。


 この国で賄賂が悪い事なのかは知らないが、自分が斡旋した国の人間が、行動制限なんて事になれば、それを斡旋したデイネン氏の地位も危うくなるのは分かる。そりゃあ一緒になって嘆願するか。


 だがラシンシャ天はそれらを一蹴して、モーハルド使節団やデイネン氏に下がるように命じる。


 とぼとぼと力なく謁見の間を下がろうとするデイネン氏と目が合った。デイネン氏には最初に驚きがあり、次に怒りが顕れていた。ここが謁見の間じゃなかったらデイネン氏に襲い掛かられていたんじゃなかろうか。殿中でござるとか俺嫌だよ。


「どうした?」


 謁見の間から下がろうとせず、俺を睨み続けるデイネン氏を訝しがって、ラシンシャ天が声を掛けてきた。


「いえ、何でも御座いません」


「何でもない訳ないだろう? 我が友に大して、万の恨みでもあるかのような目で睨みおって」


「と、友ですか!?」


 デイネン氏が声を裏返して驚いている。いや、デイネン氏だけでなく謁見の間にいる全員が驚いていた。俺も驚いているし。愉快そうなのはラシンシャ天だけだ。


「こ、こやつ、いや、この方は本日この国に来たばかりなのでは?」


「ふむ。友になるのに、時間は関係なかろう?」


 ラシンシャ天の言う事は至極もっともだ。俺の心が追い付かなくて、納得はいっていないけど。それはデイネン氏もそうなのだろう。パクパクと口を鯉のように開閉させている。


「ふむ。ハルアキよ、何があった?」


 ええ、俺が答えるのかよ。何か、余計な事を言うな。って感じにデイネン氏が睨んでくる。どうしたもんか。こんな人でもラズゥさんのお兄さんなんだよなあ。


「正直に答えよ」


「正直に、ですか?」


 聞き返した俺に、ラシンシャ天が鷹揚に頷く。


「ラシンシャ天も聞き知っておられますように、私とバヨネッタ様は、エルルランドの使節団の護衛としてこの国に入ったのです」


「そう言う話だったな」


「その道中でバヨネッタ様がヤマタノオロチを退治した事を、こちらのデイネン氏に説明したのですが、信じて貰えなかった。ただそれだけのつまらない話です」


 俺がそう説明すると、謁見の間がざわめいた。ヤマタノオロチが個人で退治されると言うのは、それだけ信じられない話と言う事だ。そしてデイネン氏がその情報を隠匿していた事も、このざわめきで明らかになった。故意ではなかったかも知れないが。そこでスッとラシンシャ天が片手を上げると、波が引くように謁見の間が静まる。


「ふむ。それだけでそれ程に人を睨み付けられるものなのか? 視線で呪い殺そうかと言う程だったぞ?」


「それは……、誤解と言うべきか、行き違いと言うべきか。私はエルルランドの使節団と同行してきましたから、恐らくデイネン氏は、私がラシンシャ天へエルルランド使節団を他国より優遇するように具申したのではないかと、邪推されたのではないかと思われます」


 俺の発言に、ラシンシャ天はやっと納得がいったらしく、腕を組んで頷いていた。


「成程な。デイネンには、余がいない間、様々な差配をさせていたが、ふむ、どうやら一人に権力を集中させ過ぎていたか」


「天よ! 決してそのような事は……」


「黙れ」


 このままでは己の地位が危うい。とデイネン氏が声を上げたところで、それをピシャリと黙らせるラシンシャ天。


「別に余としては、このまま貴様に暇を出しても良いのだぞ? これは余の優しさだ。今の地位にしがみついていたいのなら、それ以上口を開くな」


 その言葉に、デイネン氏だけでなく、謁見の間の全員が閉口した。それに満足したラシンシャ天が口を開く。


「ではデイネンよ。今後余がいない時の差配役は、貴様の他に二人追加し、その合議によって決める事とする。これは覆る事のない天命だ。理解したならば去れ」


 謁見の間のそこかしこで喜びの声が漏れる。対して命じられたデイネン氏は、一礼すると誰とも目を合わせる事なく、その場から立ち去ったのだった。


「ふむ。さて、エルルランドの者が今碧天城にいるのは都合が良いな。誰か、その者たちを連れて来い」


 デイネン氏の姿がなくなったところで、ラシンシャ天がそう言うと、配下の人が一人、真夜中だと言うのにエルルランド使節団を呼びに言った。


 そうして始まった真夜中の話し合い。ラシンシャ天にパジャンの上層部、エルルランドの使節団に何故か俺が加わり、更にリットーさんまで加わり、話し合いは明け方まで続き、それが終わるとラシンシャ天はその足で日本に戻ってきた。流石に疲れたのか、ラシンシャ天はすぐにホテルに直行したが。俺の方は一回家に戻ってから、寝ずに学校である。寝たい。すぐに寝落ち出来る自信がある。



 周りの話を上の空で聞き流していると、教室前方のドアが開けられた。先生が「席に着けー」と入ってきて、全員がそわそわしながら席に着く。そうして静かになったところで、先生がおもむろに口を開いた。


「皆さん、あけましておめでとうございます」


「おめでとうございます」と全員が返事をしているが、その視線は先生が入ってきたドアに釘付けだ。


「ああ、気になっているようだな? 気付いている通り、転入生だ」


「シャアアアアアアアアアアッ!!!!」


 男子たちが大喜びしている。転入生が女子だと知っているからだろう。女子は女子で喜んでいるので、嫌ではないのだろう。


「では、二人とも入ってきてください」


 と言う先生の発言に教室がざわりとする。二人? 一人じゃないのか?


 教室前方のドアが開けられ、入ってきたのは二人の女子高生だった。制服こそ着ているが、二人とも今時の女子高生とは思えない、床に付きそうな程長いスカートを穿いている。


 一人は腰まで伸ばした藍色の髪をしており、もう一人は、金髪を首の後ろで二つ結びにして、毛皮の帽子を被っている。その姿に、俺とタカシは思わず互いの顔を見合わせていた。


「では、自己紹介を」


 先生に言われて藍色の髪の女子高生が一歩前に出る。


「オルドランドから来ました。ミウラです。よろしくお願いします」


 綺麗なお辞儀である。その自己紹介に全員のテンションが爆上がり、拍手喝采が起こる。彼女はオルドランドの日本駐在大使をしているクドウ氏の娘さんである。綺麗な日本語を話せる事から、言語翻訳のスキルを取得しているのだろう。


 そして拍手が静まったところで、もう一人、金髪の女子高生が自己紹介を始めた。


「はじめまして皆さん。エルルランドから来たアネカネです。仲良くしましょうね!」


 そう、もう一人とはバヨネッタさんの妹、アネカネだったのだ。更にクラスのテンションが爆上がる中、俺は現状の面倒臭さに輪を掛けて面倒臭くなってきた事に、深い溜息をこぼすのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...