Ruins of a mental hospital

縁ノ下

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少女の声

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 午後5時。
俺は廃墟の更に地下に続く階段を降りていた。
10メートルもある長い階段だった。
天井や壁にびっしりと蜘蛛や百足が蠢いている。
俺の懐中電気の光に蛾が集まっていた。

俺は虫を払いながら地下二階に到達した。
「これはどういう事だ」
二階の地下室のドアを開くと、廃墟とは思えない見違えるような綺麗な施設だった。
廃墟なのに電気も通っており、明かりが付いている。
床は血塗れで浴槽の様な装置が何台も並んでいる。
装置の中は血が一杯まで入っていて、その中に死にかけの人間が数人浸かっている。
俺は救い出そうと装置の中の人間を引っ張り上げた。
「うっ。すまない」
ドロドロに溶けた下半身が数人とも繋がっていた。
もう手遅れだと思いそっと装置に戻した。

俺は装置を横目に奥の部屋を目指した。
奥に進むに連れて徐々に装置の中の人間が混ざり合っていく。
此処では人体実験が行われていた。
最後の装置の中には人間が混ざり合って出来た化物が眠っていた。
「何故こんな実験をしているんだ?」
俺は疑問を抱きつつ、奥の部屋に進んだ。

 急に生臭さが酷くなった。
べちゃ。べちゃ。と気味が悪い足音が聞こえた。
巨大な装置のガラスが割れている。
もしかしたら化物が徘徊しているかもしれないと俺はナイフを持った。

 照明が壊れていて、点滅している。
実験の機械や道具が荒らされたように散乱していた。
俺は物の陰に隠れながら慎重に進んだ。

べちゃ。べちゃ。

 怪物の姿が見えた。
無数の顔がキョロキョロと周りを見ている。
長い六本の腕で辺りを触っている。
「何かを探しているのか?」
俺は恐る恐る怪物の視線を避けた。

べちゃ。べちゃ。
「お母さぁん。どこ?」
怪物が言葉を発した。
まるで少女の様な声だった。

「女の子まで混ぜ合わせているのか。可哀想に」
俺はそう呟くと、俺の言葉が聞こえたのか怪物の動きがぴたりと止まった。

 無数の顔でキョロキョロと辺りを見ている。
俺は気付かれないようにじっと身を潜めた。
怪物が急に動き出した。

 ドン。

俺はびっくりして、肘が物に当たってしまった。
「やばい」
怪物が勢いよく近付いている。

俺は全力で逃げた。
散乱する機械や道具を手でどかして、何振り構わず逃げる。

怪物は物にぶつかり、血を流している。
どうやら、物を上手く避けれないようだ。
何度も身体をぶつけている内に怪物は出血多量で倒れた。
「お母さぁん。助けて。痛いよ」
少女の声は震えていた。
俺は怪物も元人間なんだと哀しい気持ちになった。
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