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貯古齢糖 壬琉苦

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ACT-9

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初クエストを無事にクリアした二人は、受付で報酬を受け取った後、街の飲食店を探していた。


「そういえば、シエラはこの街に来たことがあるの?」

「いいえ。奴隷商人に連れられて、色々な国や街を転々としてきましたが、イベエラは初めて訪れます」

「そうなのか…。やっぱり、土地勘がない二人で、美味しい料理を出す店を探すのは、ちょいと難しかったかな」

「そんなことはありませんよ。ご主人様が報酬を受け取りに行っている間に、街の人たちに聞き込みをしていたので」

「マジか!?全然気づかなかったよ」

「ふふん」


 シエラのおかげで、評判のいい飲食店にたどり着くことができた。


「御子柴堂…?」

「ご主人様、この文字が読めるのですか?」

「まぁな」(漢字が使われているってことは、ここの店の関係者の誰かは、俺と同じ境遇の人なのか)


 街の数ある飲食店が並ぶ中、一際異彩を放っている建物は、ずいぶんと古く、歴史を感じさせていた。


「人気のお店と聞いていたので、新しいレストランのようなものかと思ってましたが、予想以上ですね…」

「人や建物は見た目じゃない、中身だ。きっと、中に入ってみると、それが実感できるはずだ」

「そうですよね。見た目だけで決めつけるのは、相手に失礼ですし、ちゃんと内面も知りましょう」

「そういうことだ。早速行ってみよう」

「はい」


 勇気を振り絞って、店内に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ」


 店内に入ると、外の不気味な雰囲気を感じさせない綺麗な内装をしていた。


「何名様ですか?」

「二人です」

  (ここの店員の格好は、和服なのか。でも、異世界の人は日本のことを知らないから、この店の転生者が考案した物と考えられる)


 健太郎は、初めて自分以外の転生者に出会う気がして、わくわくしている。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「本日のオススメを二つ。あと、おひやも」

「かしこまりました」


 店員が注文を受け、厨房へと伝えに行く。


「それにしても、内装がずいぶんレトロな感じだな。なんだか懐かしい気持ちになるよ」

「ご主人様の故郷では、このような建物があったのですか」

「いや、あるにはあったけど、実際に見るのは初めてかな」

「お待たせしました」


 雑談をしていると、店員がやって来た。


「ラテでございます」

「あの、注文してないのですが」

「こちら、店長のサービスになります」

  (サービス?他のテーブルには配られていないのに?)


 不信感を抱きながらも、ラテを飲もうとした。すると、そこにはラテアートで何か書かれていた。


  (これはいったいなんなんだ?シエラの方には絵が描かれていて、こっちは、なんだかよく分からない字のようなものが書かれているぞ。こういう時は、鑑定スキルを使ってみるか)

『御子柴堂へようこそ。日本人のお客様は初めてで、とても嬉しいです。どうぞごゆっくりして下さい』

  (おお、ラテから字が浮き出てきた。こんな仕掛けがされて出てくるとは、まったく予想してなかった)


 ラテアートは、日本人によって書かれた物なのが、判明した。


  (やっぱりだ、ここには居るんだ。俺と同じ国から来た人が…)


 謎が解けて、ほっと一息をつき、ラテを飲む。


「うっ、これは…」

「美味しいです!ふわふわとしたミルクが、ほんのり甘くて、そこに香ばしい別の味がして、とっても美味しいです!」

  (大絶賛だな、シエラ。確かにミルクは大人でも飲みやすいし、香ばしい香りを出しているコーヒーが、苦味でミルクの甘さを引き立てている。人気な店というのは、あながち間違っていない)


 ラテを飲んだ二人から、幸せの笑みがこぼれる。


「こちらが本日のオススメとなります」

「よし、腹一杯食べるぞ~、ってなんじゃこりゃ!」

「本日のオススメ、濃厚ハチミツ鍋でございます」

  (異世界で鍋物とか大丈夫かよ。別に鍋自体が悪いわけじゃない。ただ、原住民たちがどう思うか…)

『一度、鍋物を出したら評判が良くて、本日のオススメで作ってみました』

「料理で会話をするな!」

「どうされたのですか、ご主人様?」

「いや、なんでもない」


 健太郎は、鍋の具材が大丈夫なのか、鑑定スキルで調べてみた。


『名前:濃厚ハチミツ鍋 ドラムの実を水に晒して、アクを抜き、ハニービーストの蜜ロウを割って、一緒に鍋に入れた物ーー』

「嘘だろ、鑑定スキルで調べただけなのに、使用された具材だけじゃなく、調理方法まで事細かに記載されている」


 まさかの鑑定結果に驚く健太郎。異世界ならではの具材を使っていることが確認できたら、鑑定スキルを途中で閉じて、料理を楽しむことにした。


「この、濃厚ハチミツ鍋というものは、初めて食べましたが、甘酸っぱくて美味しいです」

「おそらく、醤油をベースにした出汁に、ハチミツを入れたものかと思われる」

「ご主人様、解説者みたいでカッコいいです」

  (一人暮らしだったから、いろんな料理を作った経験があっただけなんだけどね)


 二人は料理を残さずたいらげ、とてもご満悦そうだった。


「凄く美味しくて、大満足だ。また一緒に来ような」

「はい!喜んでお伴します」

「お客様、会話の途中で失礼します。店長が是非会いたいとお呼びになっています」

「俺を?いったいなんだろう?」


 会計を済ませて、シエラを宿に送り届けた後、店長に会いに、御子柴堂まで向かうこととなった。
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