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第参章
DAY9 -最初で最後の- 開戦編 ユキの影
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シュタルクが振り下ろす氷の剣をボブが間一髪で蹴り飛ばした。しかし背後から追い討ちをかけるようにアリーがレーザを放つ。ボブは受ける事をやめ、ジャックを抱えて逃走した。
「ジャック大丈夫か?!」
「い、痛え…!!」
ジャックが絞り出せた声はそれだけだった。腹部の傷は決して浅くない。早急に止血をしなければ命に関わる。
「ジャック!治癒魔法を使える者は俺たちの中でネウリョーテしかいない!そこまで辿り着けば問題なく痛みも何もかも治る!だがそれまでに血を流しすぎると戦うことは疎か命を失うことも考えられる!早急に止血するために自らの炎で傷を焼け!!苦しいだろうが丸ごとそのあと治癒してもらうしかない!!」
治癒魔法を扱える者は非常に希少であり、世界にも数人しかいないとされている。しかしネウリョーテは水の召喚獣であり、守りや治癒に関するスペシャリストであった。だがユウナまでの距離が遠い分、止血は必須事項。
「ぐああああああ!!!」
ジャックは悲鳴を上げながらも、自らの傷を焼き止血した。
「よし!」
ボブは追手を撒くために不規則な動きを高速で展開していた。幸い今のところ問題はない。しかし敵のアリーは時空間を飛び回ることができる。次の瞬間どこに現れるか分からない。
警戒をしつつ逃げる道中において、危惧した通りアリーは突如正面に現れた。ボブは急ブレーキをかけ敵と相対する。
「そいつが本命だろ?もう割れてるぜ?」
アリーは煙草を咥えながらニヤリと笑う。スズカが腹部に負わせた傷は服だけが破れており中に見える白い肌は綺麗に元通りになっていた。
(アリーってやつが傷を癒して戻ってきた。敵にもヒーラーがいる。そして後ろからはシュタルクが追いかけてきている。出来るだけ早く応援を頼む。)
「ボブ俺も戦える…!」
ジャックはボブの背中から降り、自分の足で立ち上がった。
止血したとはいえ決して浅くない傷を負っているんだ。だがシュタルクがいつ戻ってくるかも分からない状態で、無警戒のままでいさせるわけにもいかないか…。
「無理はするなよ!!」
「ああ!行くぞ!!」
アリーが放つレーザを華麗に躱しつつ2人は接近を行う。先制攻撃として風の刃を四方八方から斬り込ませた。アリーはこれに対して前方の刃を撃ち抜きつつ前進した。そこへ正面からボブが右ストレートを叩き込む。しかしそれをアリーは蹴りで受け止めた。
「フォルテってのはこんなもんなのか?」
フーと煙を吐きながらアリーは挑発する。
「手加減をしているつもりはなかったんだがな…!」
アリーは片足立ちの体勢からボブ目掛けて照射する。ボブはピクリとも動かずそれをフォルテでかき消した。
「レーザってのはこんなもんなのか?」
「ははは!!お前らやっぱクールだよ!!」
ジャックは隙をつき氷の槍をアリーに向かって飛ばした。しかしその槍はアリーに届く前に霧散した。ジャックは一瞬戸惑ったが、同時に頭の中でシャルルが横切った。以前の修行でも自然因子のコントロールを奪われたことがある。振り向くとシュタルクがすぐそばまで近づいてきていた。
(ボブ!俺シュタルク先生とは相性最悪だから変わってくんない?)
(代わってやりたいとこだがこっちも手がかかる。)
ボブが致命打を与えるためフォルテを増幅させると、アリーはそれを感じ取り後方へ距離を取った。
(アリーは射程が長い分いつでもジャックを狙える。野放しには出来ん。)
(まじか…。なら粘ってみるよ。)
意を決してシュタルクと対峙する。ついこの前まで歴史の授業を受けていたことを考えると、この状況が不思議でならなかった。
「シュタルク先生は味方だと思っていたんだけど。」
「先入観で物事を捉えることはあまり得策ではない。あらゆる可能性に考えを巡らすことこそ、リスクを回避しチャンスを掴むコツだ。」
「そっか。聞かせて欲しいんだけどさ。何が狙いなの?」
「私には最愛の妹がいるんだ。…こんな言い方をすぐしてしまうからシスコンだとよく笑われたものだよ。」
シュタルクは苦笑しながら話していた。その姿は授業の時と同じで、危険な人間だとは今でも思えなかった。
「だがこの妹は私にとってたった1人の家族なんだ。幼い頃からこの子だけは守らなければと心に誓っていた。そんな妹が重篤な病にかかってね。あらゆる手を尽くしたが妹は亡くなってしまった。」
ジャックは黙って聞いていた。後ろではアリーとボブが戦闘を行なっており、いつ背後から撃ち抜かれてもおかしくない状況だったが、そこはボブを信頼していた。
「だが唯一打開策を見つけていたんだ。妹が亡くなっても生き返す方法を。それが今日…いや先日授業で君達に教えたことだよ。」
「…ごめんなさい。前の授業は遅刻しちゃって聞いてないや。」
「そうだったな。だが聞いたことはあるはずだ。ジークとリーシャの話だよ。」
「…ダルセーニョって言う蘇生魔法のこと?」
「そう。リーシャがジークを蘇生させたという伝説のロストマジックだ。それさえ使えれば妹は生き返る。」
…スズカさんの話と若干違う気がする。モジュレーションの話はしてもらったけど、それによって蘇生魔法ダルセーニョが使えるなんて聞いてない。
「だがこのロストマジックは簡単に扱えるものではない。今君が持っているモジュレーションという代物が必要なんだ。君は気付いてないかもしれないけどね。」
モジュレーションの存在をやはりシュタルクは知っていた。しかし何か釈然としない。
「知ってるよモジュレーション。綺麗なお姉さんに全部教えてもらった。」
「…それは本当か?」
「うん。本当だよ。」
シュタルクは一瞬の間をおき、ジャックに質問した。
「モジュレーションは正式な手順を踏めば他人に譲渡することができるそうだ。その方法も知っているのか?」
「うん。知ってる。」
ジャックはスズカとの個人レッスンでその方法を教えてもらっていた。
「なら…それを私にしてくれないか?そうすればジャック。君を殺さなくて済む。」
ジャックはゾクッとした。やはりシュタルクは自分を殺す気だった。ストレートに言葉を投げつけられ、先程やられた腹部の痛みがジンジンと響き始めた。
「ごめんけど、それはできない。」
「…どうしてだ。悪いが躊躇はしないぞ。」
「出来ないんだ。物理的にね。一度他の人に試したことがあるけど、出来なかった。譲渡する事自体が超高等魔法と同じくらい難しい事らしくて。」
ジャックはスズカに何度も譲渡しようと試みていた。そうすれば戦争にも有利でジャックが狙われる必要もなくなるから。しかしどうしても譲渡の魔法を身につけることができなかった。
「そうか。なら仕方がない。…仕方がないな。」
「始めるの?」
「ああ。といってももう終わっているがな。」
ジャックはその時気づいた。自分の足が大地によって拘束されていたことを。自分でも何故ここまで気づかなかったか理解ができなかったが、腹部の強い痛みが理由を教えてくれた。
「ジャック。その傷では全ての感覚が鈍る。戦闘経験の浅い学生がここまで出てきてはいけない。…せめて一瞬で片付けてやる。」
抜け出そうともがきつつ、地属性魔法で拘束を解こうとするも強いシュタルクの干渉により大地はぴくりとも動かなかった。
シュタルクは氷の剣を生成しジャックの目の前まできた。
「最後に言い残すことはあるか?」
ジャックは抵抗をやめ、少しの間を置いた。
そしてニヤリと笑い言葉を投げつけた。
「クソくらえ。」
その瞬間シュタルクは振り返り、寸前で短剣を防いだ。
そして目の前にいる女性に対して目を見開いた。
「スズカ…!!どうして。」
「それはこっちのセリフよ!!あなた何をしてるの?!」
「分かってくれとは言わない。ユキを救うためにはこれしかもう方法がないんだ。」
スズカはその言葉を聞き呆然とした。
「…本当に何を言っているの??」
「とぼけなくていい。モジュレーションの存在は知っている。」
「…ええ。だけど全部あなたの勘違いだったでしょう?あの時全部理解したでしょう?」
「何の話だ??」
「ルドルフ校長がユキちゃんを助けたあの日よ!!」
「何を言っている!?ユキは…ユキはもう死んでいる!!」
目の前のシュタルクは本気でその言葉を発していた。それによってスズカは腑に落ち、少しだけ安堵した。シュタルクもまた何らかの錯乱魔法に侵されている。でなければこんなことは言い出さない。
「…よく聞いて。ユキちゃんは生きているわ。」
「ジャック大丈夫か?!」
「い、痛え…!!」
ジャックが絞り出せた声はそれだけだった。腹部の傷は決して浅くない。早急に止血をしなければ命に関わる。
「ジャック!治癒魔法を使える者は俺たちの中でネウリョーテしかいない!そこまで辿り着けば問題なく痛みも何もかも治る!だがそれまでに血を流しすぎると戦うことは疎か命を失うことも考えられる!早急に止血するために自らの炎で傷を焼け!!苦しいだろうが丸ごとそのあと治癒してもらうしかない!!」
治癒魔法を扱える者は非常に希少であり、世界にも数人しかいないとされている。しかしネウリョーテは水の召喚獣であり、守りや治癒に関するスペシャリストであった。だがユウナまでの距離が遠い分、止血は必須事項。
「ぐああああああ!!!」
ジャックは悲鳴を上げながらも、自らの傷を焼き止血した。
「よし!」
ボブは追手を撒くために不規則な動きを高速で展開していた。幸い今のところ問題はない。しかし敵のアリーは時空間を飛び回ることができる。次の瞬間どこに現れるか分からない。
警戒をしつつ逃げる道中において、危惧した通りアリーは突如正面に現れた。ボブは急ブレーキをかけ敵と相対する。
「そいつが本命だろ?もう割れてるぜ?」
アリーは煙草を咥えながらニヤリと笑う。スズカが腹部に負わせた傷は服だけが破れており中に見える白い肌は綺麗に元通りになっていた。
(アリーってやつが傷を癒して戻ってきた。敵にもヒーラーがいる。そして後ろからはシュタルクが追いかけてきている。出来るだけ早く応援を頼む。)
「ボブ俺も戦える…!」
ジャックはボブの背中から降り、自分の足で立ち上がった。
止血したとはいえ決して浅くない傷を負っているんだ。だがシュタルクがいつ戻ってくるかも分からない状態で、無警戒のままでいさせるわけにもいかないか…。
「無理はするなよ!!」
「ああ!行くぞ!!」
アリーが放つレーザを華麗に躱しつつ2人は接近を行う。先制攻撃として風の刃を四方八方から斬り込ませた。アリーはこれに対して前方の刃を撃ち抜きつつ前進した。そこへ正面からボブが右ストレートを叩き込む。しかしそれをアリーは蹴りで受け止めた。
「フォルテってのはこんなもんなのか?」
フーと煙を吐きながらアリーは挑発する。
「手加減をしているつもりはなかったんだがな…!」
アリーは片足立ちの体勢からボブ目掛けて照射する。ボブはピクリとも動かずそれをフォルテでかき消した。
「レーザってのはこんなもんなのか?」
「ははは!!お前らやっぱクールだよ!!」
ジャックは隙をつき氷の槍をアリーに向かって飛ばした。しかしその槍はアリーに届く前に霧散した。ジャックは一瞬戸惑ったが、同時に頭の中でシャルルが横切った。以前の修行でも自然因子のコントロールを奪われたことがある。振り向くとシュタルクがすぐそばまで近づいてきていた。
(ボブ!俺シュタルク先生とは相性最悪だから変わってくんない?)
(代わってやりたいとこだがこっちも手がかかる。)
ボブが致命打を与えるためフォルテを増幅させると、アリーはそれを感じ取り後方へ距離を取った。
(アリーは射程が長い分いつでもジャックを狙える。野放しには出来ん。)
(まじか…。なら粘ってみるよ。)
意を決してシュタルクと対峙する。ついこの前まで歴史の授業を受けていたことを考えると、この状況が不思議でならなかった。
「シュタルク先生は味方だと思っていたんだけど。」
「先入観で物事を捉えることはあまり得策ではない。あらゆる可能性に考えを巡らすことこそ、リスクを回避しチャンスを掴むコツだ。」
「そっか。聞かせて欲しいんだけどさ。何が狙いなの?」
「私には最愛の妹がいるんだ。…こんな言い方をすぐしてしまうからシスコンだとよく笑われたものだよ。」
シュタルクは苦笑しながら話していた。その姿は授業の時と同じで、危険な人間だとは今でも思えなかった。
「だがこの妹は私にとってたった1人の家族なんだ。幼い頃からこの子だけは守らなければと心に誓っていた。そんな妹が重篤な病にかかってね。あらゆる手を尽くしたが妹は亡くなってしまった。」
ジャックは黙って聞いていた。後ろではアリーとボブが戦闘を行なっており、いつ背後から撃ち抜かれてもおかしくない状況だったが、そこはボブを信頼していた。
「だが唯一打開策を見つけていたんだ。妹が亡くなっても生き返す方法を。それが今日…いや先日授業で君達に教えたことだよ。」
「…ごめんなさい。前の授業は遅刻しちゃって聞いてないや。」
「そうだったな。だが聞いたことはあるはずだ。ジークとリーシャの話だよ。」
「…ダルセーニョって言う蘇生魔法のこと?」
「そう。リーシャがジークを蘇生させたという伝説のロストマジックだ。それさえ使えれば妹は生き返る。」
…スズカさんの話と若干違う気がする。モジュレーションの話はしてもらったけど、それによって蘇生魔法ダルセーニョが使えるなんて聞いてない。
「だがこのロストマジックは簡単に扱えるものではない。今君が持っているモジュレーションという代物が必要なんだ。君は気付いてないかもしれないけどね。」
モジュレーションの存在をやはりシュタルクは知っていた。しかし何か釈然としない。
「知ってるよモジュレーション。綺麗なお姉さんに全部教えてもらった。」
「…それは本当か?」
「うん。本当だよ。」
シュタルクは一瞬の間をおき、ジャックに質問した。
「モジュレーションは正式な手順を踏めば他人に譲渡することができるそうだ。その方法も知っているのか?」
「うん。知ってる。」
ジャックはスズカとの個人レッスンでその方法を教えてもらっていた。
「なら…それを私にしてくれないか?そうすればジャック。君を殺さなくて済む。」
ジャックはゾクッとした。やはりシュタルクは自分を殺す気だった。ストレートに言葉を投げつけられ、先程やられた腹部の痛みがジンジンと響き始めた。
「ごめんけど、それはできない。」
「…どうしてだ。悪いが躊躇はしないぞ。」
「出来ないんだ。物理的にね。一度他の人に試したことがあるけど、出来なかった。譲渡する事自体が超高等魔法と同じくらい難しい事らしくて。」
ジャックはスズカに何度も譲渡しようと試みていた。そうすれば戦争にも有利でジャックが狙われる必要もなくなるから。しかしどうしても譲渡の魔法を身につけることができなかった。
「そうか。なら仕方がない。…仕方がないな。」
「始めるの?」
「ああ。といってももう終わっているがな。」
ジャックはその時気づいた。自分の足が大地によって拘束されていたことを。自分でも何故ここまで気づかなかったか理解ができなかったが、腹部の強い痛みが理由を教えてくれた。
「ジャック。その傷では全ての感覚が鈍る。戦闘経験の浅い学生がここまで出てきてはいけない。…せめて一瞬で片付けてやる。」
抜け出そうともがきつつ、地属性魔法で拘束を解こうとするも強いシュタルクの干渉により大地はぴくりとも動かなかった。
シュタルクは氷の剣を生成しジャックの目の前まできた。
「最後に言い残すことはあるか?」
ジャックは抵抗をやめ、少しの間を置いた。
そしてニヤリと笑い言葉を投げつけた。
「クソくらえ。」
その瞬間シュタルクは振り返り、寸前で短剣を防いだ。
そして目の前にいる女性に対して目を見開いた。
「スズカ…!!どうして。」
「それはこっちのセリフよ!!あなた何をしてるの?!」
「分かってくれとは言わない。ユキを救うためにはこれしかもう方法がないんだ。」
スズカはその言葉を聞き呆然とした。
「…本当に何を言っているの??」
「とぼけなくていい。モジュレーションの存在は知っている。」
「…ええ。だけど全部あなたの勘違いだったでしょう?あの時全部理解したでしょう?」
「何の話だ??」
「ルドルフ校長がユキちゃんを助けたあの日よ!!」
「何を言っている!?ユキは…ユキはもう死んでいる!!」
目の前のシュタルクは本気でその言葉を発していた。それによってスズカは腑に落ち、少しだけ安堵した。シュタルクもまた何らかの錯乱魔法に侵されている。でなければこんなことは言い出さない。
「…よく聞いて。ユキちゃんは生きているわ。」
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