幼馴染と9日戦争

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第参章

DAY9 -最初で最後の- 交戦編 幼馴染みとの再会

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「スズカ…君こそ何をいっている。ユキが生きているだと?」

シュタルクは困惑…というより憤りに近い感情を抱いているようだった。自分の認識している事実を信じてやまないからこそ、そういった思考にシフトしていたのだ。

「ええ、生きているわ。なんならこの戦場に来ているわよ。病気を治すために私たちの目の前で白猫の姿になったでしょう。今は掃除屋スイーパーとして働いてる。おんぶにだっこされながら兄さんと暮らすわけにはいかないーって家を飛び出したってあなたが愚痴ってたわ。弱い癖にその日はお酒を飲み過ぎて潰れて、…そのせいで忘れたのかしら?」 

スズカは皮肉を込めながら、ざっくりと今までの出来事をさらった。しかしシュタルクは少しもしっくり来ていない様子だった。

「よくそんな出鱈目がすらすら出てくるな。」

「あら。私がそんな嘘をつけるとでも?幼馴染みのあなたがよく言ってたじゃない。嘘つくの下手すぎって。」

「ふっ。掃除屋稼業が板についてきた証拠じゃないのか?それだけ私も君も成長したということだ。」

「なら聞かせて。私の言ったことが仮に嘘なら、あなたはどうなの?ユキちゃんはどうやって死んだの?」

「いいだろう。ルドルフを暗殺しようとしたあの日を覚えているか?」

「もちろん。聡明なあなたが勘違いに勘違いを重ねルドルフ校長に助けられた日でしょう。」

「…確かにルドルフが外部に口外しなかったことによって俺は今教師ができている。しかしあの時ルドルフを殺せていれば、あるいは今このような戦争をすることはなかっただろう。」

既に食い違いが生じているが、スズカは全体像を把握することを優先した。

「ユキちゃんは?」

「なすすべなくタクトが崩壊して亡くなったよ。だが後に蘇生させるため、亡骸を俺の氷で凍らせている。この戦争に勝てば氷を解放しやっとユキは生き返る。」

「おかしいよ?その氷を維持し続けているとでも?フォニムがいくらあっても足りないじゃない。」

「ああ、普通にやればな。だからこそを利用した。あの奥地なら氷が溶けることはない。一度凍らせておけば放っても溶けることなどない。」

デリオラ洞窟。敵の本拠地が近い場所として警戒はしていたけれど、シュタルクを囲い込むために管理していたのかしら?

「言い分は分かったわ。ところで、その間私は何していたことになっている?」

「掃除屋として出て行ったじゃないか。」

「ユキちゃんが大変な状況で?実の妹のように可愛がってたつもりだけど、そんなこともわからないくらいあなたは鈍感だった?」

「…だが。」

「あなたへ恋心も抱いていたわ。それも気付けなかった?」

「…それは。」

「そんな私があっさり掃除屋として出ていくと?別れ際は?どうやって私は旅だったの?」

「…スズカは何も言わずに出て行った…はず。」

「本当に私がそんな薄情だと?毎日あなたの家に迎えに行くほどのお節介を焼いていた私が?あなたに何も言わず出て行くと思う?」

ジャックは若干スズカさんストーカーじみてない?と心に思ったがこんなシリアスな場面でそんなこと言えなかった。

「スズカのその時の心境など俺にはわからん。出て行ったものは出て行った。」

「あなたは錯乱魔法にかけられている。」

「錯乱魔法だと?笑わせるな。俺はその手の魔法に滅法強い。」

「恐らくレイナの得意とする魅了チャーム。」

「…確かにあいつは学生時代に俺とヴォルフに魅了魔法を使っていたな。良くチョコを渡すと言いながらかかるか試されていたものだ。だが俺もヴォルフもかかったことなど一度もない。」

「あなた知ってる?あの子は魔法薬学にも精通している。あなたとヴォルフは良くレイナから食べ物を渡されていたわよね?錯乱魔法の耐性を下げる薬を何年もかけて摂取させられていたとしたら?」

「…妄想が過ぎるぞ。」

「でもあなた自身少しは疑心暗鬼になってきたでしょう?ユキはこの戦場に来ている。一度確認するまで休戦くらい出来ない?」

「……。」

シュタルクが考え始めた直後、白色光が辺りを照らした。シュタルクは即座に土壁を作り出しておりアリーのレーザーを防いでいた。

「シュタルクさんよお。そんな甘っちょろい考えで妹さん救えるとでも?ここの判断をミスっちまってやられたら一生妹とは会えないぜ?」

アリーはシュタルクに銃口を向けながら眉間にシワを寄せていた。

(すまん。シュタルクへ続く直線状まではカバーできない。)

(いいえ。ここまで全弾防いでくれてるだけでもとっても感謝してる。)

ボブはアリーからジャックとスズカに繋がる直線状を警戒していた。時空間魔法も最大限に警戒してはいるが、今のところ使用してこない。フォニムの消費が激しいのか、あるいはこの状況でボブを出し抜いて打ち抜くことに楽しみを覚えているのか。

「ありがとうアリー。甘い気持ちは捨てると君達に約束したはずだったのにな。」

シュタルクのフォニムが昂った。

「それがあなたの答えなのね?」

「ああ。スズカ。君でも容赦はしない。」

「わかったわ。なら…」

スズカはシュタルクにそっぽを向きジャックの元へと歩く。そしてジャックの肩に手を置き顔だけシュタルクに向け直した。

「あなたには誰も殺させない。あなたが目覚めるまで私たちは耐える。覚悟しなさい。。」

そういうとスズカはジャックを連れて姿を消した。

「ちっ。逃げやがったか。あんたもお可愛そうだな。一人残されてよ。」

「優しいんだな。敵を心配してくれるとは。だがありがた迷惑というやつだな。これで自由に戦える。まとめてかかってこい異常者ども。」

「…いうねえ。」

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校長室に腰をかけながらレイナは高笑いをしていた。

「スズカ~。宣戦布告ってわけ?ふふふ!この戦力で私に勝てるわけないじゃない!!」

ギシギシと椅子を揺らしながらクルクル回転していたレイナは入り口に小さな老人を見つけた。

「それはどうかのう。敵の大将を叩けば戦争などどうとでもなるものじゃが。」

それは本来レイナが座っている椅子に鎮座しているはずの者だった。

「あらあら。まさかあなたが直々にここにくるとはね。ルドルフ先生??」

既にリングを外したその姿は、いつもの滑稽なものではなく荘厳な顔つきであった。

「これ以上暴れられては困るからのう。覚悟せい。」
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