科学魔法学園のニセ王子

猫隼

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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー10・初デートと能力バレと

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 その日の授業は午前中だけで終わりであり、帰宅してすぐにレイと入れ替わるユイト。
 そしてすでに話を聞いていたレイは、すぐさま後輩とのデートに出かけた。

「さて、わたしたちも行きましょうか」
「う、うん」
 変装はやはりしていても、他は完全にユイトに戻り、存分に緊張しながら、ミユに連れ出される。
「とりあえずお昼ご飯行きましょう。どこか行きたい店とかありますか?」
 麗寧館を出るや、もう非常に楽しそうなミユ。
「それじゃ、えっと」

 行きたい店はあった。しかしそれを言おうとした所で、それはまずい事態を招くかもしれないとユイトは気づく。

「ユイト様」
 彼女はすぐに、ユイトが何を心配したのかを察する。
「わたしは別に食の好き嫌いとかはありませんよ」
「ごめん、なんか、こうゆうの事前に調べとくべきだよね」
「いえ」
 そしてユイトと手を繋ぐミユ。
「これはデートですけど、練習みたいなものですから、あまり気負わないでいいですよ」
「う、うん」

 そしてふたりは結局、ユイトが気になっていたカフェで、食事をとる事になった。

ーー

 ハイテクそうな機械と共に、大きな木が、宙に浮かんだ巨大な上木鉢に乗ってうごめいてる、そんなカフェ。

「こうゆうのって、木の栄養分は、人工的に?」
「そうですね。むしろ空中世界では自然な環境にある植物の方が少ないですよ」
「ほわあ、やっぱり都会だなあ」
「たまにあなたの都会の定義がよくわからない時あります」
 ユイトの緊張もだいぶとけたようで、食事を終える頃には、もうすっかり本来の調子で喋れるようになっていた。
「しかし、あなたはなぜそんなに都会に憧れを?」
「昔さ、きみたちみたいに、空中世界からやって来た人たちがいたんだ。何週間かくらいアルケリ島に停泊してて、いろいろ話を聞いて、てのが最初のきっかけだったと思う」
「でも、実際こうしてやってくると、がっかりした事も多かったんじゃないですか?」
「そんな事ないよ。おれひとり楽しんで、カナメに申し訳ないくらい」
「彼女には、わたしたちの方こそ申し訳なかったですね。大切なお兄さんを連れ出してしまって」

 そもそも地上世界の住人を空中世界に連れて来るのは、実は法的にかなり厳しい。
 ユイトに関しても、レイは自分の立場も利用し、相当に無理を利かせている。

「レイはま」
 と、その時、ミユの持つ携帯タイプの小型コンピューターに届けられた、まさに今話題にされようとしていた相手からのメッセージ。
「どうかしたの?」
 問うユイト。
「誰かに」
 ミユはすぐ答える。
「見張られているそうです」

ーー

 カラフルなパラソルが印象的なオープンカフェにて、お相手の後輩、コレットとのデートを楽しみながらも、レイはポケットに入れていた通信機を器用に操作する。
 そうして、彼の特殊技能、解析アナライズによって得た情報は、全てユイトたちにも伝えられていた。
 どういう気なのかはわからないが、デートを満喫するレイを見張っているのはふたり。

「ひとりはエミィ様だそうです、後もうひとりは知らない誰かですが、十中八九、同じ組織の仲間でしょう」
 レイから伝えられてきた情報を、ユイトにも伝えるミユ。
「レイくん、大丈夫かな?」
「まあ、レイの言ってた通り、エミィ様の組織は、そんな悪い存在ではないと思いますが」
 とにもかくにも、レイたちがいるというオープンカフェへとふたりは向かった。

 レイの的確な指示により、エミィとその仲間らしい少女(?)の位置取りもすぐにわかった。
 カフェで楽しそうに会話するレイたち。
 近くのビルの影にエミィ。それと、レイたちと離れた席に、普通に客として座っている、おそらくその仲間。

「とりあえずしばらく様子を見ましょう」とミユ。
「うん」
 ユイトも頷く。

 ふたりがいたのは、近場の植物園の無料のエリア。
 そこからなら、エミィからは死角で、かつレイたちはよく見える。
 距離的に、会話の声などは全く聞こえてこないが、とにかくレイの言葉にコレットが照れ笑いさせられっぱなしなのは、ユイトたちにもよくわかった。
「凄いや、あれがデートか」
 ここにきて、ユイトはレイの事を心底凄いと思う。

 あれに比べて自分はどうだったろうか。ミユを楽しませてやれたのだろうか。

「ユイト様」
「ごめんね、ミユちゃん、おれ」
「わたしは楽しかったです」
 呆然とするユイトに、ミユは、レイに笑顔にされるコレットに負けないくらい、楽しそうに続けた。
「とってもです。最高の初デートになりました」
 そしてコレットのような照れ笑い。
「そ、そっか」
 ユイトも、やはり真っ赤になりながら、自然と口元を緩めた。

ーー

「レイ先輩?」
 会話の途中で、急に真顔になったレイに、コレットはきょとんとする。
 
隠密ヒドゥン?)
気づけなかった。
「やばい」
「やばいわ」
レイの叫びと、エミィの仲間、ニーシャの叫びはほぼ同時だった。

 そして直後。
 近場の、エミィが影に潜んでるのとは別の、廃ビルの屋上から、何者かが放ったエネルギーの弾丸。
 それはレイたちが囲っていたテーブルに到達するや、小規模な流体エネルギーの爆発を起こしたが、なんとか寸前で感づいたレイは、コレットを抱き抱えてそれを避けた。
「くっ」
 擦り傷を負いながらも、解析アナライズで、エネルギー弾を撃ってきた、何者かを捉えようとするレイ。
 ハンチング帽子の男。銃らしきものを持っている。
 しかし反撃の糸口を掴む暇もない内に、警棒らしき物で襲いかかってきた、カフェ内にいたらしい、また別の男。

「レイ」
 叫ぶミユ。
 気づくのが遅く、体勢も悪く、警棒男の攻撃をレイはかわせる状態にない。だがレイたちに、男の攻撃は届かなかった。
 ニーシャが、プラスチック製の物質を操る特殊技能、樹脂師プラスチックワーカーによって飛ばした、カフェ内にあった大量のプラスチックの食器の塊。それを受けて、警棒男はそのまま飛ばされたのである。
 しかし警棒男はすぐに、自らの周囲に発生させた電気で、ぶつけられたプラスチックを焼き溶かし尽くす。
 さらに男は、稲光が走るほどの高電圧を帯びた警棒を、ニーシャへと投げ放つ。だがその警棒を、今度は分身のエミィが、自ら焼かれながらも叩き落とす。
 そして、ニーシャ、エミィそれぞれが警棒を持っていた電気男に反撃しようとした時。
「またくる」
 レイの叫びのおかげで、とっさにニーシャもエミィも、帽子男が、自分たちそれぞれに放った、エネルギー弾を各自よける。
 レイ自身も、自分はもちろん、コレットも引っ張って、自分たちへのエネルギー弾を避けた。
「大丈夫か?」
 腕の中のコレットに問うレイ。
「うっ」
 なんとか攻撃は回避出来たものの、彼女は気を失ったようだった。

「ミユちゃん、レイくんたちを。あのスナイパーは、おれが止めるよ」
「はい、お願いします」
 そして、ミユはレイたちの元へ。
 ユイトは再創造リクリエイションで空気を取り込み、転移具を実体化させる。

 それから、巻き起こした風で自らを飛ばし、エネルギー弾のスナイパーのいるビルの屋上に来たユイト。
 目の前にはスナイパーの背中。すかさず振り返らせもせず、彼は攻撃に移ろうとした。
「ユイト、後ろだ」
 瞬間、レイの叫びで気づいた、ユイトのさらに後ろから、彼に刀で斬りかかろうとしていた新たな男。

 おそらく隠密ヒドゥンという特殊技能で、解析アナライズからすら隠れていた刀男。しかし隠密ヒドゥンは攻撃に転じる際には解除しなければならず、レイにすぐさま察知されたのだった。
 ユイトは風圧を半身に当てて、無理やり回転すると共に、転移具を持っていない右手を地に当て、コンクリートを取り込む。
 そして、刀が自らを斬りつける前に、コンクリートで造った棒で男を叩き、気絶させた。
「遅いよ」
 また再び空気を取り込むユイト。
 そして次には、その特殊技能、弾丸ブレッドで、エネルギー弾を放とうとしていた帽子男を、頭上からの風圧で地に叩きつけ、そちらも意識を奪う。

 一方で、ミユが加わり4対1となったこともあり、電気男も、あっさり無力化されていた。
 電気男の特殊技能は、一定範囲に電気を発生させる電極体エレクトロード。しかしこの能力は、ミユの風芸ウィンドアートにより、絶縁体である空気の層を厚くする事で無効化出来た。
 そして隙をついた分身エミィの蹴りで、勝負はついた。

再創造リクリエイションね」
 激しく動いたために、カツラもメガネもとれた、屋上にいるユイトを見て、ニーシャが言った。
「偽王子の特殊技能」
「ああ、ほとんど無敵だぜ。あいつに使わせると」
 まるで自分の事のように、レイは得意げだった。


──

"電極体エレクトロード"(コード能力事典・特殊技能6)

 物質の電荷を高める事で、電圧により電磁気を発生させられる特殊技能。
 荷電粒子の動きは、コード能力者にも掴みづらいので、完全に思い通りのコントロールは非常に難しい能力。


"弾丸ブレッド"(コード能力事典・特殊技能22)

 エネルギーを固め、まさに弾丸のように使える特殊技能。
 エネルギー弾の生成能力であり、放つ能力ではない。そのため、エネルギー弾を撃つのに、特製の銃などを利用するのが基本。
 生成に時間をかければ、爆破効果や、追跡効果などを弾に付属させる事もできる。


"樹脂師プラスチックワーカー"(コード能力事典・特殊技能27)

 プラスチックを操る特殊技能。
 プラスチックは性質を変化させやすく、この能力は物質操作系の中でも、汎用性がかなり高いとされる。
 人工物質としても、プラスチックはありふれてる方である。


"隠密ヒドゥン"(コード能力事典・特殊技能44)

 自身のコアと繋がるあらゆる物。あるいは一定範囲の空間を、周囲から隔絶したかのように振る舞わせ、姿を隠す特殊技能。
 擬似的に、世界から消えたかのようになるが、そのために、この能力を使用している限り、自身も他に影響を及ぼせない。
 空間を対象にする事で、実質的に他の者をも隠す対象にできる。
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