科学魔法学園のニセ王子

猫隼

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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー13・精霊

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「ガーディについても少しわかったよ」
 一時間ある昼休みに入ってすぐ、屋上にユイトとミユを呼んだエミィ。
「わりと予想通り、か微妙なところかな。彼はおそらく定期的にアイテレーゼ、か少なくともルルシア家の誰かと通信してるみたい」
 しかしわかったのは、彼がルルシア家の専用回線を介して、誰かと連絡を取り合っている事だけで、内容まではわからなかった。
「でも昨日は、別の誰か。ていうか多分、バックの組織と連絡を取ったみたい。しかもね」
 そちらの方は、暗号の解除ができそうだった。
「というかむしろ、ルルシア家の使ってる暗号は、あなた方でも解除できないのですか?」
 ミユはその事にかなり驚きを見せる。
「そうみたい。ニーシャもかなりびびってたよ」
 しかしエミィ自身にはその辺りの知識はないようで、ユイトと共に、彼女はミユの驚きに驚かされる。

「まっ、でもとりあえずこんなとこ、で」
 ユイトの方に笑顔を向けるエミィ。
「この流れは」と意味深なミユ。
「何?」
 ユイトにはしかし、どういう流れなのかまったくわからない。
「いや、一緒にお昼食べようよ」
 笑顔のエミィ。
「ですね。わたしたちの分とってきます」
そして一旦、その場を去るミユ。

「きみたちの弁当、ミユちゃんが?」
「うん、それなら、レイくんが他の女の子のとこ行かない理由としてもアリだからって」
 実際、ミユは料理が上手い。間違いなくユイトよりは舌の肥えたレイが絶賛するくらいに。
「あなたは、料理は?」
「少しくらいならね」
 空中世界に比べて、地上世界の方が、料理のできる男は珍しくない。
「でもこれに関しては手伝うっていった時に、勉強の時よりずっとはっきり拒否されちゃった。レイくんからも、それだけはやめとけって。わりと信用ないよね?」
 少しばかり、そこは不満そうなユイト。
「いや、信用の問題じゃないんじゃないかな。文化の違いもあるかもだけどね。わたしもあなたが料理上手いのは、ちょっと複雑かもだし。多分ミユは、わたしと同じ理由だと思うよ」
「どんな理由?」
「秘密、だけどね」
 そして、およそ彼女らしくない、どこか儚げな笑みをエミィは浮かべる。
「あなたにも、そういう事がわかるようになる時が来るのは、待ち遠しいかも」
 そして少し恐いかもと、心の声で続けたエミィ。

ーー

 それから三人で雑談しながら、昼食を済ませ、教室に戻る途中。
 シミュレータルームのドアのところで、そこから出てきたフィオナとリリエッタと鉢合わせとなったユイトたち。

「げっ」
 気持ち悪そうに声をあげ、フィオナを背中にかばうようなリリエッタ。
 しかし意外にも、別にいいとばかりにリリエッタを制して、その影からはっきり姿を見せたフィオナ。
「レイ」
 彼女がレイの名前を呼ぶのを、ユイトが聞いたのは初めてであった。
 もちろんエミィもである。
 しかしミユは、別に大して驚いた様子は見せない。
 ただ頭が混乱してるようであるユイトに、風芸ウィンドアートで指示を飛ばしてきた。
[「フィオナ、トナマエヲ」]

「フィオナ」
 とりあえず指示通りに、偽物レイのユイトはその名を口にする。
 それから、しばしの間は誰も喋らず、なんとも言えない空気。

 結局沈黙を破ったのはフィオナだった。
「行こっ、リリエッタ」
 あっけらかんとした感じで、リリエッタに言うフィオナ。
 リリエッタは、偽物のレイをかなり憎らしげにひと睨みしてから、ひと足先に去る親友の後に続いた。

「ねえ、ミユちゃん。ふたりの間に何があったの?」
「すみません、こればっかりは、わたしの口からは言えません」
 エミィに対するミユのその返答で、ユイトも、フィオナとの件に関しては、レイたちが全てを語っていないという事を察した。
 ただ気にはなったが、なんとなく、これは自分が触れていいような問題じゃないとも感じた。

ーー

 授業も終えた帰り。
 門のところで、ユイトらと別れたエミィ。

「何?」
[「エミィ」]
 もう少しで、家につくという所で、ニーシャからの通信。
[「いい、よく聞いて」]
 そしてニーシャからの新たな情報を聞き終えるや、エミィはすぐに駆け出した。
(ユイト、ミユ)

ーー

「レイ・ツキシロ」
 人の少なめな通りで、ユイトたちを待っていたガーディ。
「でなく、ユイト・キサラギ・アルケリだな」
 それがバレているとわかった瞬間に、ユイトもミユも身構える。
「だったら何ですか?」
 強気に問うミユ。
「悪いが、連れていく」
 言うと同時に、右手に持っていた棒の切れ端のような機器を作動させるガーディ。
 棒の両端から発生し、丸く曲がり、ドーナツより少し大きいくらいのリングを形成する、ピンク色の電流のような見かけの特殊なエネルギー流体。
 次の瞬間、ミユが放った風圧。しかしガーディは右手の、ボロ手袋のような機器によりそれを無効化し、目にも止まらぬ速度で、ピンク電流リングをミユへと投げた。

「ひゃっ」
 リングは、ミユの体をすり抜けたかと思うと、拡大し、彼女を縛るような形となる。
「ミユちゃん」
 叫び、すぐに転移具を生成するユイト。
 直後、ガーディはまたリングを用意し、さっきよりさらに速く、それを今度はユイトへと投げてくる。
「くっ」
 とっさにそれを、転移具を持っていない方の右手で受けるユイト。
「うわっ」
 ミユのように全身でなく、右手だけを包み込んだリング。
 体を縛られたミユは、どうやら単に身動き出来ないようだったが、手だけのユイトは、その手に凄まじい重量を感じた。
 しかしなんとか、体を地に引っ張られず耐えた所で、今度は普通に近づいてきて、直接腹目掛けて掌底打ちを食らわせようとしてくるガーディ。

(このっ)
 ガーディの手が自らに触れるより速く、風を取り込み、逆に風圧をくれてやる。
 しかしガーディは吹き飛ばされそうになりはしたが、すぐさまボロ手袋によりそれを無効化する。
「ユイト様、これは、能力が」
 叫ぶミユ。
 ユイトも気づいていた。
 どういう原理かはわからないが、付けられたリングには、どうやらコード能力を弱める効力があるらしい。だが例え多少弱められようと、ユイトの能力は元々が恐ろしく強い。

「くらえ」
 本気で、本来の本気よりはずっと弱いが、それでもある程度は強い風圧の巨弾を放つユイト。
 しかしガーディは、やはりそれを無効化する。
(威力を出せない。けど)
 しゃがみ、道路の素材であったコンクリートを取り込み、ガーディの足元を破裂させる。
 しかしそもそもが苦手な人工物に加え、リングのせいでかなり弱い衝撃になってしまう。そして、本当にどういう原理なのか、その右手のボロ手袋は、コンクリートの威力すらも消し去れるようだった。

(コード能力の影響を消せるのか)
 それはつまり、風圧やコンクリート以外にも、とにかくコード能力で操られたあらゆる全てを無効化できるという事。
(でもそれなら)
 コード能力でない物理攻撃は無効化出来ないはず。

 ユイトは再び風を取り込む。
 そして、再び近づいてきたガーディが放ってきた蹴りを、自らに風圧を連続して当てる事で、素早く跳んで避ける。
 さらに風圧移動でガーディの背後へ。彼は振り向いたが、ユイトの拳はもう彼の寸前。

「ユイト様」
 ガコッというふうな、あまりに痛々しく鈍い音に、ミユはまた叫ぶ。
「いっ」
 ユイトもこれはとても耐えれなかった。
「てええぇ」
 ガーディが、とっさに防御に使い、そして見事ユイトが思いっきり殴ってしまったもの。
 それは、大きめの拳銃ハンドガンだった。少なくとも見た目はハンドガンに見えるもの。
「ちっ」
 舌打ちしながら、そのハンドガンを構えるガーディ。
 あまりの痛みに転移具を離してしまったユイトは、すぐそれを拾い、それから風圧移動でその場を逃れようとする。
 だがガーディはその動きを予測し、見事にその武器から放たれる青白いエネルギーをユイトに命中させた。
 瞬間だった。

「うわああっ」
 凄まじい痛みが全身に走り、転移具も消してしまったユイト。そして転移具が消えると共に、痛みは驚くほどマシになった。

「ううっ」
 再び転移具を生成しようとするとまた全身に凄まじい痛み。
「まだ意識あるのか。おまえ、ちょっと強すぎだな」
 そして、苦しむユイトにやや近づくガーディ。
「でももう諦めろ。極限まで重ねた"精霊"エネルギーだ。無理したら死ぬぞ」
 その警告に、ユイトはそれなりに、ミユは彼よりずっと状況を理解する。

 精霊エネルギーは、コアの接続を跳ね返し、負担だけを倍増させる、コード能力では決して扱えないエネルギー。

「ぐっ、まだ」
「もういいから、やめて、ユイト」
 涙すら見せて叫ぶミユ。
「ユイト」
 ガーディもその名を口にする。
 その時だった。
「この」
 駆けつけたエミィの分身の蹴り。
「おまえは」
 背後から不意をつかれたものの、ぎりぎりでかわしたガーディ。
「エミィ・レクテス」
「ガーディ。何が目的か知らないけど、退かないと全部バラすからね、あなたの事。ただ経歴ごまかしてるだけのわたしたちなんかより、ずっとやばい事になるよ」
 そしてエミィは、躊躇なく切り札を切った。
「ほんとは無能力者なんだって知れたら」

 そう彼、ガーディは実は、コード能力者ですらないのである。
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