科学魔法学園のニセ王子

猫隼

文字の大きさ
14 / 34
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー14・でも、ここに来てる

しおりを挟む
「能力者じゃ、ない?」 立ち上がるユイト。
 ほんのついさっき、自分をひどく苦しめた精霊のエネルギー。しかしコード能力を使おうとしなければ、やはり大した事はない。
「それ、ほんとなの? エミィちゃん」
「ほんとよ」
 すぐ答えるエミィ。
「彼は軍事組織フェイリスのエージェント08、コードネーム、ガーディ。フェイリスのナンバーエージェント唯一の無能力者にして、対コード能力者戦のスペシャリスト」
「そこまでバレてるなんてな。正直ちょっと見くびってたよ」
 もうさっきまでの緊張感はないが、別に取り乱したりする事はなく、自分の情報をすっかり握っていたエミィに、素直に感心した様子のガーディ。
「それで、どうするの?」
「退くさ。もう多分おまえらに手出しもしないよ。おれの事をバラさないでいてくれるなら」
 そこまで言って、ユイトの手のリングを解除し、取って、続いてミユも解放するガーディ。

「悪かったな」
 最後にそう言い残し、彼はその場を去っていった。

「ミユちゃん」
 安心して脱力したのか、へたりこんだミユに駆け寄るユイト。
「ユイト様」
 涙に声を震わせ、彼女はユイトに抱きついた。
「あ、あの」
「よかった。本当によかった」
「う、うん」
 ユイトとしてはなかなかに心臓に悪い。妹以外にこれほど女の子と密着したのは、彼の生涯で初めてのことだ。
 それから、ユイトから離れると、涙も拭い、ミユはエミィの方を見る。
「本当にありがとうございました、エミィ様」
「うん、いつでもさ」
 笑顔で、エミィはウインクする。

「ミユ、ユイト」
 そこで、ニーシャと共に駆けつけたレイ。
「無事か?」
 彼の声を聞き、姿を確認して、ミユも笑顔を見せる。
「まったく」
 そして言った。
「遅いですよ、レイ」

ーー

「そういうわけで失敗した」
 結局、脅されて退いてしまった事を、雇い主に報告するガーディ。
[「実に使えない男ね」]
 またスクリーンごしに、かなり辛辣なアイテレーゼ。
 ガーディは、何か言い返そうか迷うが、結局止める。

「あいつ、エレメントリングをつけたのに、それでもまだ強力だった」
 ユイトにつけてやったそのリングは、コード能力では干渉できない精霊素材を利用した、コアへの接続を大幅に弱めるためのもの。効果は絶大で、実際ミユがそうであったように、並の能力者は能力の発動自体ができなくなるほどだ。
「恐ろしいほどの強さだ。おまえとあいつとの関係は知らないけど、もうあまり関わらない方がいい」
「知ったふうな口ね」
「これだけは確実だ。あいつは、おまえの味方になるようなやつじゃない」
「わたしは、彼を恐ろしいとは思わない。それに」
 その先は言わず、まるで話を終わらせるために、アイテレーゼは通信を切った。

ーー

「ユイトを味方にしようなんて思ってない」
 無機質な通信室。通信は切ったから、アイテレーゼのその言葉は完全に独り言。
「でも、でもここに来てる、ユイトが」
 まるで自分自身の言葉に、考えに怯えているように、アイテレーゼは体を震わせた。

ーー

 麗寧館の一室。

「ガーディが所属するフェイリスは、民間の軍事組織よ。そして彼と、そのフェイリス本部の者との通信会話からいくつかわかったわ」
 レイやエミィはすでにある程度聞いていたが、ユイトとミユは初めて聞くので、ニーシャは一から説明した。

 おそらくクロ姫、アイテレーゼ・クレザード・ルルシアにガーディは雇われているが、ガーディ自身は、フェイリスから長期休暇をもらっている状態。
 つまりアイテレーゼは、フェイリス自体でなく、ガーディ個人を、個人的に雇っている。
 そしてかなり最近に彼は、学園に通うレイが偽物である事に気づいたようで、フェイリスと連絡を取り、その正体を調べてもらっている。その通信があったから、彼とフェイリスとの繋がりが浮き彫りとなり、彼の正体解明に繋がったのだった。
 また、彼の実年齢は、実はユイトたちより1歳年下であり、二年生として学園に通っているのは、確実に何らかの目的のため。
 エミィの脅しに退いたという事は、ユイトたちを襲った理由は、ほぼ確実にイレギュラーなもの。本当は無能力者なのだとバレれば、確実に、二度とアズエル学園には近づけない。彼の本来の目的は、アズエルに、それもおそらくは二学年に関係していて、追い出されるのは困るわけである。

「わからないのは、偽王子に気づいたからって、なぜ彼を襲ったのかよ。本来の目的と関係ないのだろうに」
 そこでレイの方を見るニーシャ。
「何か心当たりはない?」
 しかし問いに答えたのは、襲われた張本人たちだった。
「連れていく。て、言ってたと思う」 
「はい、間違いないです。わたしも聞きました」

 だが、それではさらに謎が深まっただけだった。
 なぜユイトを連れ去ろうとしたのか。
 仮にレイが目的なら、ミユを狙えばいいから、標的ははなからユイトだったのだろう。だが彼は、空中都市の正式な住人ですらない。言ってしまえば、地上にたくさんいる一介の田舎者。
 おそらくガーディはアイテレーゼの指示に従っただけなのだろうが、そのアイテレーゼは、なぜユイトを狙ったのか。

「ほんとに知り合い、という可能性はないですよね?」
 しかしそう聞いたミユ自身、そんな事がありえるはずはないと考えていた。
「いや、ありえないよ」
 即座にユイト自身が言う。
「ええ、ありえないわ、彼女は生粋の空中世界貴族よ。地上世界なんて野蛮な原始人の領域だと決めつけてるような女よ」
 ニーシャの言葉に、エミィもうんうんと頷く。
「アイテレーゼか」
 呟くレイ。
 実は彼だけは、ミユの推測をありえないとは考えていなかった。

 これまで、あまり関わりもなかったが、それでも同じ大貴族の若当主として、何度かレイはクロ姫と会っている。
 レイは彼女と初めて会った時の事を思い出していた。近づいてきて、いきなり放ってきた言葉。
(「レイ・ツキシロ。いけすかない顔ね」)
 実に失礼だが、あらかじめ、そういう性格の少女だと聞いていたし、当時は別に気にもならなかった。
 しかし今は違う。
 いけすかない顔。彼女は確かにそう言っていた。
 
「こうなったら」
 そしてニヤリとして、
「もう直接会ってみるか。あの真っ黒姫に」 
 レイはそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...