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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
1ー14・でも、ここに来てる
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「能力者じゃ、ない?」 立ち上がるユイト。
ほんのついさっき、自分をひどく苦しめた精霊のエネルギー。しかしコード能力を使おうとしなければ、やはり大した事はない。
「それ、ほんとなの? エミィちゃん」
「ほんとよ」
すぐ答えるエミィ。
「彼は軍事組織フェイリスのエージェント08、コードネーム、ガーディ。フェイリスのナンバーエージェント唯一の無能力者にして、対コード能力者戦のスペシャリスト」
「そこまでバレてるなんてな。正直ちょっと見くびってたよ」
もうさっきまでの緊張感はないが、別に取り乱したりする事はなく、自分の情報をすっかり握っていたエミィに、素直に感心した様子のガーディ。
「それで、どうするの?」
「退くさ。もう多分おまえらに手出しもしないよ。おれの事をバラさないでいてくれるなら」
そこまで言って、ユイトの手のリングを解除し、取って、続いてミユも解放するガーディ。
「悪かったな」
最後にそう言い残し、彼はその場を去っていった。
「ミユちゃん」
安心して脱力したのか、へたりこんだミユに駆け寄るユイト。
「ユイト様」
涙に声を震わせ、彼女はユイトに抱きついた。
「あ、あの」
「よかった。本当によかった」
「う、うん」
ユイトとしてはなかなかに心臓に悪い。妹以外にこれほど女の子と密着したのは、彼の生涯で初めてのことだ。
それから、ユイトから離れると、涙も拭い、ミユはエミィの方を見る。
「本当にありがとうございました、エミィ様」
「うん、いつでもさ」
笑顔で、エミィはウインクする。
「ミユ、ユイト」
そこで、ニーシャと共に駆けつけたレイ。
「無事か?」
彼の声を聞き、姿を確認して、ミユも笑顔を見せる。
「まったく」
そして言った。
「遅いですよ、レイ」
ーー
「そういうわけで失敗した」
結局、脅されて退いてしまった事を、雇い主に報告するガーディ。
[「実に使えない男ね」]
またスクリーンごしに、かなり辛辣なアイテレーゼ。
ガーディは、何か言い返そうか迷うが、結局止める。
「あいつ、エレメントリングをつけたのに、それでもまだ強力だった」
ユイトにつけてやったそのリングは、コード能力では干渉できない精霊素材を利用した、コアへの接続を大幅に弱めるためのもの。効果は絶大で、実際ミユがそうであったように、並の能力者は能力の発動自体ができなくなるほどだ。
「恐ろしいほどの強さだ。おまえとあいつとの関係は知らないけど、もうあまり関わらない方がいい」
「知ったふうな口ね」
「これだけは確実だ。あいつは、おまえの味方になるようなやつじゃない」
「わたしは、彼を恐ろしいとは思わない。それに」
その先は言わず、まるで話を終わらせるために、アイテレーゼは通信を切った。
ーー
「ユイトを味方にしようなんて思ってない」
無機質な通信室。通信は切ったから、アイテレーゼのその言葉は完全に独り言。
「でも、でもここに来てる、ユイトが」
まるで自分自身の言葉に、考えに怯えているように、アイテレーゼは体を震わせた。
ーー
麗寧館の一室。
「ガーディが所属するフェイリスは、民間の軍事組織よ。そして彼と、そのフェイリス本部の者との通信会話からいくつかわかったわ」
レイやエミィはすでにある程度聞いていたが、ユイトとミユは初めて聞くので、ニーシャは一から説明した。
おそらくクロ姫、アイテレーゼ・クレザード・ルルシアにガーディは雇われているが、ガーディ自身は、フェイリスから長期休暇をもらっている状態。
つまりアイテレーゼは、フェイリス自体でなく、ガーディ個人を、個人的に雇っている。
そしてかなり最近に彼は、学園に通うレイが偽物である事に気づいたようで、フェイリスと連絡を取り、その正体を調べてもらっている。その通信があったから、彼とフェイリスとの繋がりが浮き彫りとなり、彼の正体解明に繋がったのだった。
また、彼の実年齢は、実はユイトたちより1歳年下であり、二年生として学園に通っているのは、確実に何らかの目的のため。
エミィの脅しに退いたという事は、ユイトたちを襲った理由は、ほぼ確実にイレギュラーなもの。本当は無能力者なのだとバレれば、確実に、二度とアズエル学園には近づけない。彼の本来の目的は、アズエルに、それもおそらくは二学年に関係していて、追い出されるのは困るわけである。
「わからないのは、偽王子に気づいたからって、なぜ彼を襲ったのかよ。本来の目的と関係ないのだろうに」
そこでレイの方を見るニーシャ。
「何か心当たりはない?」
しかし問いに答えたのは、襲われた張本人たちだった。
「連れていく。て、言ってたと思う」
「はい、間違いないです。わたしも聞きました」
だが、それではさらに謎が深まっただけだった。
なぜユイトを連れ去ろうとしたのか。
仮にレイが目的なら、ミユを狙えばいいから、標的ははなからユイトだったのだろう。だが彼は、空中都市の正式な住人ですらない。言ってしまえば、地上にたくさんいる一介の田舎者。
おそらくガーディはアイテレーゼの指示に従っただけなのだろうが、そのアイテレーゼは、なぜユイトを狙ったのか。
「ほんとに知り合い、という可能性はないですよね?」
しかしそう聞いたミユ自身、そんな事がありえるはずはないと考えていた。
「いや、ありえないよ」
即座にユイト自身が言う。
「ええ、ありえないわ、彼女は生粋の空中世界貴族よ。地上世界なんて野蛮な原始人の領域だと決めつけてるような女よ」
ニーシャの言葉に、エミィもうんうんと頷く。
「アイテレーゼか」
呟くレイ。
実は彼だけは、ミユの推測をありえないとは考えていなかった。
これまで、あまり関わりもなかったが、それでも同じ大貴族の若当主として、何度かレイはクロ姫と会っている。
レイは彼女と初めて会った時の事を思い出していた。近づいてきて、いきなり放ってきた言葉。
(「レイ・ツキシロ。いけすかない顔ね」)
実に失礼だが、あらかじめ、そういう性格の少女だと聞いていたし、当時は別に気にもならなかった。
しかし今は違う。
いけすかない顔。彼女は確かにそう言っていた。
「こうなったら」
そしてニヤリとして、
「もう直接会ってみるか。あの真っ黒姫に」
レイはそう言った。
ほんのついさっき、自分をひどく苦しめた精霊のエネルギー。しかしコード能力を使おうとしなければ、やはり大した事はない。
「それ、ほんとなの? エミィちゃん」
「ほんとよ」
すぐ答えるエミィ。
「彼は軍事組織フェイリスのエージェント08、コードネーム、ガーディ。フェイリスのナンバーエージェント唯一の無能力者にして、対コード能力者戦のスペシャリスト」
「そこまでバレてるなんてな。正直ちょっと見くびってたよ」
もうさっきまでの緊張感はないが、別に取り乱したりする事はなく、自分の情報をすっかり握っていたエミィに、素直に感心した様子のガーディ。
「それで、どうするの?」
「退くさ。もう多分おまえらに手出しもしないよ。おれの事をバラさないでいてくれるなら」
そこまで言って、ユイトの手のリングを解除し、取って、続いてミユも解放するガーディ。
「悪かったな」
最後にそう言い残し、彼はその場を去っていった。
「ミユちゃん」
安心して脱力したのか、へたりこんだミユに駆け寄るユイト。
「ユイト様」
涙に声を震わせ、彼女はユイトに抱きついた。
「あ、あの」
「よかった。本当によかった」
「う、うん」
ユイトとしてはなかなかに心臓に悪い。妹以外にこれほど女の子と密着したのは、彼の生涯で初めてのことだ。
それから、ユイトから離れると、涙も拭い、ミユはエミィの方を見る。
「本当にありがとうございました、エミィ様」
「うん、いつでもさ」
笑顔で、エミィはウインクする。
「ミユ、ユイト」
そこで、ニーシャと共に駆けつけたレイ。
「無事か?」
彼の声を聞き、姿を確認して、ミユも笑顔を見せる。
「まったく」
そして言った。
「遅いですよ、レイ」
ーー
「そういうわけで失敗した」
結局、脅されて退いてしまった事を、雇い主に報告するガーディ。
[「実に使えない男ね」]
またスクリーンごしに、かなり辛辣なアイテレーゼ。
ガーディは、何か言い返そうか迷うが、結局止める。
「あいつ、エレメントリングをつけたのに、それでもまだ強力だった」
ユイトにつけてやったそのリングは、コード能力では干渉できない精霊素材を利用した、コアへの接続を大幅に弱めるためのもの。効果は絶大で、実際ミユがそうであったように、並の能力者は能力の発動自体ができなくなるほどだ。
「恐ろしいほどの強さだ。おまえとあいつとの関係は知らないけど、もうあまり関わらない方がいい」
「知ったふうな口ね」
「これだけは確実だ。あいつは、おまえの味方になるようなやつじゃない」
「わたしは、彼を恐ろしいとは思わない。それに」
その先は言わず、まるで話を終わらせるために、アイテレーゼは通信を切った。
ーー
「ユイトを味方にしようなんて思ってない」
無機質な通信室。通信は切ったから、アイテレーゼのその言葉は完全に独り言。
「でも、でもここに来てる、ユイトが」
まるで自分自身の言葉に、考えに怯えているように、アイテレーゼは体を震わせた。
ーー
麗寧館の一室。
「ガーディが所属するフェイリスは、民間の軍事組織よ。そして彼と、そのフェイリス本部の者との通信会話からいくつかわかったわ」
レイやエミィはすでにある程度聞いていたが、ユイトとミユは初めて聞くので、ニーシャは一から説明した。
おそらくクロ姫、アイテレーゼ・クレザード・ルルシアにガーディは雇われているが、ガーディ自身は、フェイリスから長期休暇をもらっている状態。
つまりアイテレーゼは、フェイリス自体でなく、ガーディ個人を、個人的に雇っている。
そしてかなり最近に彼は、学園に通うレイが偽物である事に気づいたようで、フェイリスと連絡を取り、その正体を調べてもらっている。その通信があったから、彼とフェイリスとの繋がりが浮き彫りとなり、彼の正体解明に繋がったのだった。
また、彼の実年齢は、実はユイトたちより1歳年下であり、二年生として学園に通っているのは、確実に何らかの目的のため。
エミィの脅しに退いたという事は、ユイトたちを襲った理由は、ほぼ確実にイレギュラーなもの。本当は無能力者なのだとバレれば、確実に、二度とアズエル学園には近づけない。彼の本来の目的は、アズエルに、それもおそらくは二学年に関係していて、追い出されるのは困るわけである。
「わからないのは、偽王子に気づいたからって、なぜ彼を襲ったのかよ。本来の目的と関係ないのだろうに」
そこでレイの方を見るニーシャ。
「何か心当たりはない?」
しかし問いに答えたのは、襲われた張本人たちだった。
「連れていく。て、言ってたと思う」
「はい、間違いないです。わたしも聞きました」
だが、それではさらに謎が深まっただけだった。
なぜユイトを連れ去ろうとしたのか。
仮にレイが目的なら、ミユを狙えばいいから、標的ははなからユイトだったのだろう。だが彼は、空中都市の正式な住人ですらない。言ってしまえば、地上にたくさんいる一介の田舎者。
おそらくガーディはアイテレーゼの指示に従っただけなのだろうが、そのアイテレーゼは、なぜユイトを狙ったのか。
「ほんとに知り合い、という可能性はないですよね?」
しかしそう聞いたミユ自身、そんな事がありえるはずはないと考えていた。
「いや、ありえないよ」
即座にユイト自身が言う。
「ええ、ありえないわ、彼女は生粋の空中世界貴族よ。地上世界なんて野蛮な原始人の領域だと決めつけてるような女よ」
ニーシャの言葉に、エミィもうんうんと頷く。
「アイテレーゼか」
呟くレイ。
実は彼だけは、ミユの推測をありえないとは考えていなかった。
これまで、あまり関わりもなかったが、それでも同じ大貴族の若当主として、何度かレイはクロ姫と会っている。
レイは彼女と初めて会った時の事を思い出していた。近づいてきて、いきなり放ってきた言葉。
(「レイ・ツキシロ。いけすかない顔ね」)
実に失礼だが、あらかじめ、そういう性格の少女だと聞いていたし、当時は別に気にもならなかった。
しかし今は違う。
いけすかない顔。彼女は確かにそう言っていた。
「こうなったら」
そしてニヤリとして、
「もう直接会ってみるか。あの真っ黒姫に」
レイはそう言った。
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