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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
1ー15・もう子供じゃない
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「直接会うって、そのクロ姫に?」
問うユイト。
「ああ、社交パーティーでも開いて、招待すればいい」
あっけらかんと答えるレイ。
「いや、招待したってさ、来るかな?」
「ええ、彼女なら、もうガーディとの繋がりがあなたにバレてる事も承知してるだろうし」
エミィとニーシャは、クロ姫がそもそも招待を受ける事に、かなり懐疑的であった。しかしレイには自信があった。
「クロ姫の噂が本当なら」
どういうつもりかは知らないが、資産家や貴族を次々破滅に追い込んでいるという噂。
「少なくともぼくの事を邪魔に思っているはずだ」
ツキシロ家は、ミューテアにおいて最大級規模の貴族であり、その影響力は強い。アイテレーゼがミューテアで、噂のような暴挙を続けるならば、レイはいずれ必ずぶつかる相手。
「彼女がぼくと直接会える機会はあまりない、だからこの機会を逃がしはしないと思う」
実際には、もっとはっきりとした確信があったが、レイはそれは言わなかった。
ユイトとアイテレーゼの間には何かがある事。
ーー
そしてその夜、なかなか寝つけなくて、庭に出て、空中都市よりさらに上空に輝く星々を見ていたユイト。
「ユイト様?」
声をかけられて、すぐ近くに来ていたミユに気づく。
「ミユちゃん」
「寝つけないのですか?」
「うん」
それだけで、ふたりはしばらく何も言わなかった。
「あなたに、何かあったら」
ユイトのすぐ隣まで来るミユ。
「悲しむのはもう、カナメ様や村の方たちだけじゃないですから」
「うん」
頷き、ユイトはギュっと拳を握りしめる。
それから他愛ない話を少しばかりしてから、ふたりはそれぞれの寝室へと戻って行った。
ーー
ガーディとの一件からわずか3日後。
レイは、ツキシロ家の所有するホテルのひとつでパーティーを開催し、アイテレーゼはその招待をあっさり受けた。
普通に考えると、ちょっといきなりすぎる開催だが、レイはもともと破天荒な性格だし、違和感を感じる者などもあまりいないようだった。
そしてユイトは、彼女と会った。
8年ぶりに再会した。
「アイちゃん?」
お付きもつけず、パーティーに出席する令嬢にしてはかなりラフな格好のアイテレーゼを見た瞬間、ユイトはすぐに、彼女が自分の知っている彼女だと気づいた。
「ユイト」
アイテレーゼの方も一目で、変装した彼が、間違いなく自分の知る彼だと気づいた。
「レイ・ツキシロ。彼を少し借りるわよ」
しかし、ユイトの手を掴もうと伸ばした手を、ニーシャに先に掴まれるアイテレーゼ。
「ニーシャさん、待って。レイくん、おれも彼女と話がしたい」
「ああ。けどホテルの外には絶対出るなよ」
ユイトの反応を予測していたようで、別に驚きもしないレイ。
そしてニーシャにも言う。
「ニーシャ、大丈夫だ。ホテル内なら、セキュリティが効いてるし、何かあってもすぐわかる」
それでようやく、ニーシャはアイテレーゼの手を離す。
「レイ、あなたは感づいてたの? ふたりがほんとに知り合いだって」
ユイトたちふたりが、その場を離れてすぐ、不満そうにレイに問うミユ。
「多分そうだろうなってくらいだけどね、でも」
それもまたレイには自信があった。
「何か、悪い絆じゃないと思う」
ーー
騒がしい会場を出て、静かな廊下で向き合ったユイトとアイテレーゼ。
「久しぶりね」
ユイトの覚えてる声とは違う。
明るさの欠片もない、低い声。
しかし次には、8年前と同じ笑顔を見せ、同じ声を彼女は発した。
「カナメは元気?」
「うん」
ユイトも元気よく返す。
「アズエル学園に通ってるんだってね。しかもサギ王子を名乗って」
「それがけっこう大変なんだ。なぜか何人かから凄く嫌われてて気まずいし、レイくんはそれに、たまに言うことがちょっと恥ずかしくて」
「あなた、全然そういう経験なさそうだもんね。女の子に声をかけられて焦ってる様子が、簡単に想像つくわ」
そこで軽く笑うアイテレーゼに、ユイトはちょっとムッとする。
「でも、前、デートはしたよ」
その発言には素直に驚いた表情を一瞬見せたアイテレーゼ。
「ミユ・ホウジョウね」
「なんでわかったの?」
今度はユイトが驚かされる。
「女の勘よ」
そしてアイテレーゼはまた軽く笑う。
「まあどうせ、とるにたらないお子様デートだったんでしょう? キスもしてないと見たわ」
「き、キスって、おれたち、その、付き合ってるわけではなくて」
「ふうん、じゃお遊びでデートしてたんだ。あなたもずいぶん変わったわね」
「うっ」
顔を真っ赤にして、もう何も言えないユイト。
これが勝負なら、完全に負けであった。
「どうせあなたから誘ったわけでもないんでしょう。ねえ、女の子から誘わせるなんて恥ずかしくないの?」
さらなる追い討ち。
「目に浮かぶようだわ。手を繋いだのも彼女から。緊張をほぐしてくれたのも彼女の気づかいだったんじゃないかしら」
まるで見ていたかのように、図星ばかりついてくる。
「まったくヘタレね」
「そこまで言わなくてもよくない」
しかしこうなると、かなり不安になってきたユイト。
ミユは、楽しかったと言ってくれたが、あれすらもしかしたら、ただの優しさにすぎなかったのではないかと。
「まあ、でも彼女は楽しんでくれたと思うわよ」
ユイトの不安を知ってか知らずか、アイテレーゼは続けた。
「それは間違いないわ。わたしが保証する」
それはミユがユイトを見る目から、アイテレーゼが受けた素直な印象だった。
「ねえ、アイちゃん」
昔のようにもっと話したいという気持ちはあった。
けど昔とは違う。ユイトには確かめなければならない事があった。
「きみの噂、聞いたよ。あんまりよくない噂」
アイテレーゼもそこで明らかに顔を暗くする。
「多分、それは真実よ」
また昔と違う、低い声。
「でも、悪い奴らなんだよね? アイちゃんがひどい目にあわせてる人たち」
「悪いのはわたしの方よ。ユイト」
かすかな希望を、あっさりと壊してきた、今は確かに黒い少女。
「わたしもね、変わったのよ。もう子供じゃない。だから」
そして彼女は背を向けた。
「例えあなたでも、今のわたしの邪魔になるなら容赦なく消すわ」
「アイちゃん」
「出来ればさっさとアルケリ島に帰る事ね」
それからさらに、思い出したように付け足す。
「ガーディ、あいつがあなたたちを襲ったのは、雇い主のわたしの命令だから仕方なくよ。あいつはほんとに、根は悪い奴じゃないから。そこは誤解しないであげて」
それだけ言ってアイテレーゼは、その場を去り、パーティー会場には戻らず、ホテルからも去っていった。
問うユイト。
「ああ、社交パーティーでも開いて、招待すればいい」
あっけらかんと答えるレイ。
「いや、招待したってさ、来るかな?」
「ええ、彼女なら、もうガーディとの繋がりがあなたにバレてる事も承知してるだろうし」
エミィとニーシャは、クロ姫がそもそも招待を受ける事に、かなり懐疑的であった。しかしレイには自信があった。
「クロ姫の噂が本当なら」
どういうつもりかは知らないが、資産家や貴族を次々破滅に追い込んでいるという噂。
「少なくともぼくの事を邪魔に思っているはずだ」
ツキシロ家は、ミューテアにおいて最大級規模の貴族であり、その影響力は強い。アイテレーゼがミューテアで、噂のような暴挙を続けるならば、レイはいずれ必ずぶつかる相手。
「彼女がぼくと直接会える機会はあまりない、だからこの機会を逃がしはしないと思う」
実際には、もっとはっきりとした確信があったが、レイはそれは言わなかった。
ユイトとアイテレーゼの間には何かがある事。
ーー
そしてその夜、なかなか寝つけなくて、庭に出て、空中都市よりさらに上空に輝く星々を見ていたユイト。
「ユイト様?」
声をかけられて、すぐ近くに来ていたミユに気づく。
「ミユちゃん」
「寝つけないのですか?」
「うん」
それだけで、ふたりはしばらく何も言わなかった。
「あなたに、何かあったら」
ユイトのすぐ隣まで来るミユ。
「悲しむのはもう、カナメ様や村の方たちだけじゃないですから」
「うん」
頷き、ユイトはギュっと拳を握りしめる。
それから他愛ない話を少しばかりしてから、ふたりはそれぞれの寝室へと戻って行った。
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ガーディとの一件からわずか3日後。
レイは、ツキシロ家の所有するホテルのひとつでパーティーを開催し、アイテレーゼはその招待をあっさり受けた。
普通に考えると、ちょっといきなりすぎる開催だが、レイはもともと破天荒な性格だし、違和感を感じる者などもあまりいないようだった。
そしてユイトは、彼女と会った。
8年ぶりに再会した。
「アイちゃん?」
お付きもつけず、パーティーに出席する令嬢にしてはかなりラフな格好のアイテレーゼを見た瞬間、ユイトはすぐに、彼女が自分の知っている彼女だと気づいた。
「ユイト」
アイテレーゼの方も一目で、変装した彼が、間違いなく自分の知る彼だと気づいた。
「レイ・ツキシロ。彼を少し借りるわよ」
しかし、ユイトの手を掴もうと伸ばした手を、ニーシャに先に掴まれるアイテレーゼ。
「ニーシャさん、待って。レイくん、おれも彼女と話がしたい」
「ああ。けどホテルの外には絶対出るなよ」
ユイトの反応を予測していたようで、別に驚きもしないレイ。
そしてニーシャにも言う。
「ニーシャ、大丈夫だ。ホテル内なら、セキュリティが効いてるし、何かあってもすぐわかる」
それでようやく、ニーシャはアイテレーゼの手を離す。
「レイ、あなたは感づいてたの? ふたりがほんとに知り合いだって」
ユイトたちふたりが、その場を離れてすぐ、不満そうにレイに問うミユ。
「多分そうだろうなってくらいだけどね、でも」
それもまたレイには自信があった。
「何か、悪い絆じゃないと思う」
ーー
騒がしい会場を出て、静かな廊下で向き合ったユイトとアイテレーゼ。
「久しぶりね」
ユイトの覚えてる声とは違う。
明るさの欠片もない、低い声。
しかし次には、8年前と同じ笑顔を見せ、同じ声を彼女は発した。
「カナメは元気?」
「うん」
ユイトも元気よく返す。
「アズエル学園に通ってるんだってね。しかもサギ王子を名乗って」
「それがけっこう大変なんだ。なぜか何人かから凄く嫌われてて気まずいし、レイくんはそれに、たまに言うことがちょっと恥ずかしくて」
「あなた、全然そういう経験なさそうだもんね。女の子に声をかけられて焦ってる様子が、簡単に想像つくわ」
そこで軽く笑うアイテレーゼに、ユイトはちょっとムッとする。
「でも、前、デートはしたよ」
その発言には素直に驚いた表情を一瞬見せたアイテレーゼ。
「ミユ・ホウジョウね」
「なんでわかったの?」
今度はユイトが驚かされる。
「女の勘よ」
そしてアイテレーゼはまた軽く笑う。
「まあどうせ、とるにたらないお子様デートだったんでしょう? キスもしてないと見たわ」
「き、キスって、おれたち、その、付き合ってるわけではなくて」
「ふうん、じゃお遊びでデートしてたんだ。あなたもずいぶん変わったわね」
「うっ」
顔を真っ赤にして、もう何も言えないユイト。
これが勝負なら、完全に負けであった。
「どうせあなたから誘ったわけでもないんでしょう。ねえ、女の子から誘わせるなんて恥ずかしくないの?」
さらなる追い討ち。
「目に浮かぶようだわ。手を繋いだのも彼女から。緊張をほぐしてくれたのも彼女の気づかいだったんじゃないかしら」
まるで見ていたかのように、図星ばかりついてくる。
「まったくヘタレね」
「そこまで言わなくてもよくない」
しかしこうなると、かなり不安になってきたユイト。
ミユは、楽しかったと言ってくれたが、あれすらもしかしたら、ただの優しさにすぎなかったのではないかと。
「まあ、でも彼女は楽しんでくれたと思うわよ」
ユイトの不安を知ってか知らずか、アイテレーゼは続けた。
「それは間違いないわ。わたしが保証する」
それはミユがユイトを見る目から、アイテレーゼが受けた素直な印象だった。
「ねえ、アイちゃん」
昔のようにもっと話したいという気持ちはあった。
けど昔とは違う。ユイトには確かめなければならない事があった。
「きみの噂、聞いたよ。あんまりよくない噂」
アイテレーゼもそこで明らかに顔を暗くする。
「多分、それは真実よ」
また昔と違う、低い声。
「でも、悪い奴らなんだよね? アイちゃんがひどい目にあわせてる人たち」
「悪いのはわたしの方よ。ユイト」
かすかな希望を、あっさりと壊してきた、今は確かに黒い少女。
「わたしもね、変わったのよ。もう子供じゃない。だから」
そして彼女は背を向けた。
「例えあなたでも、今のわたしの邪魔になるなら容赦なく消すわ」
「アイちゃん」
「出来ればさっさとアルケリ島に帰る事ね」
それからさらに、思い出したように付け足す。
「ガーディ、あいつがあなたたちを襲ったのは、雇い主のわたしの命令だから仕方なくよ。あいつはほんとに、根は悪い奴じゃないから。そこは誤解しないであげて」
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