科学魔法学園のニセ王子

猫隼

文字の大きさ
16 / 34
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー16・ふたりの思い出

しおりを挟む
 後にミューテアの社交界にてクロ姫と呼ばれ、恐れられるようになるアイテレーゼ・クレザード・ルルシアが、アルケリ島を訪れた理由は、単に暇潰しだった。
 地上世界に用事があったのは彼女の父であるアーク・ヴィルゲズ・ルルシア。しかしその用事の具体的な内容は、アイテレーゼは聞かされていない。
 ただアークは、地上世界というのがどんなものか、試しに体験しておくのもいいと、娘を連れて来て、そしてしばらくは好きに行動させる事にした。そしてアイテレーゼが暇潰しの場を求めて、適当に訪れてみたのがアルケリ島だったのだった。

「妙な匂い、これが潮風というやつね」
 島の海岸。
 着陸させた飛行船から、ふたりの護衛と共に出てきたアイテレーゼ。
 護衛はふたりともコード能力者の女性。ひとりは黒ブチメガネをかけていて、もうひとりはリュックを背負っている。

「こりゃ珍しい、空中世界の方じゃないですかい?」
 いかにも怪しげな、にやけた顔で声をかけてきた顔にタトゥーの男。

 そのならず者が、アイテレーゼが初めて会った地上世界の人間であった。

「そうだけど、何?」
 別にアイテレーゼは恐怖にかられたりはしない。あらかじめ父から、地上は治安が悪いと聞いてもいた。
「へへ、お嬢ちゃん、ちょいとばかし、おとなしくし」
 男が懐からナイフを出した瞬間、範囲歩ワイドウォークという特殊技能により、男の背後に一瞬で移動し、その顔を地に叩きつけた、メガネの方の護衛。
 それから、男が気を失っているのを一応確かめてから、彼女はゆっくり歩いて、アイテレーゼの元へ戻ろうとした。
 その時だった。

「コード能力? 空間移動の?」
 真っ先に気づいたのはアイテレーゼだった。
 空中世界からであろう飛行船が、海岸に着陸したようであると聞き、すぐにその場にやって来たユイトに。
 子供ではあったが、一応アイテレーゼも、ふたりの護衛も身構える。彼は明らかにコード能力で、風を操り、飛んできていたからだ。

「あなた、誰?」
「いや、きみが誰?」
 当時、アイテレーゼと同じく、まだ一桁の年齢ではあったが、恵まれた特殊技能と、天性の戦闘能力により、アルケリ島のみならず、周囲の島々でも、その名は知られてるほどだったユイト。
「わたしはアイテレーゼ・クレザード・ルルシアよ」
「おれはユイト・キサラギ・アルケリ」
 そして護衛の女性ふたりを交互に見てから、彼女らにも聞く。
「おねえさんたちは?」
 ふたりがおねえさん、というような年代なのかは、ユイトには判断つかなかったが、一応おばさんたちとは言わなかった。
 メガネの女性はカーリー。リュックを背負った女性はラウラと名乗った。

「その人は?」
 倒れたタトゥー男を指差し、尋ねるユイト。
「さあ、知らない人。でもいい感じじゃなかったわよ」
 答えるアイテレーゼ。
「いい感じだったら驚くよ。そのタトゥー、多分ビリエラの一味だ」

 ビリエラ一味は、地上世界でも、特に大きな勢力を誇る海賊団のひとつで、アルケリ島の周辺地域にも、時たま傘下の者たちが現れていた。

「でも、単独でこの島に来たって事は、多分、追放されたとかだと思う」
「どうするのですか?」
 波打ち際に来て、手を水につけたユイトに、ラウラが問う。
「彼を連れてってくれる人たちを呼ぶよ」
 水を取り込むユイト。
 それで手に持っていたナイフらしき何かの色が変わった事で、それが転移具である事に気づいたアイテレーゼたち。
再創造リクリエイション
 実は当時、ユイト自身知らなかった、その特殊技能の名称を口にしたアイテレーゼ。

 実は再創造リクリエイションは、珍しい能力ではあるが、使用者が強力である場合が多く、空中世界ではそれなりに有名な特殊技能。
 その再創造リクリエイションで水を取り込み、ユイトは、まさに天まで届かせようというほどの大きな水柱を発生させる。

 数分後には、ユイトより二歳下の妹カナメや、村の何人かの人たちが、何事かと駆けつけた。
 そして数十分後には、5人ほどの男たちが、アルケリ島に船を上陸させた。

 地上世界には、政府が統治するような国家は存在しないが、完全な無法地帯というわけではない。一般人を悪党から守る事を目的とした、いわば自警団が大量に存在している。
 ユイトが水柱の合図で呼んだのは、近場を巡回する、そういう自警団の船だった。

ーー

「村長?」
 タトゥー男を引き取った人たちの船が島から発った後、ユイトとアイテレーゼたちの間に入った白髪の男性。アルケリの村長。
「それで、あなた方はなぜこんなとこに?」
 村長は、誰よりも、空中世界から来た来訪者たちを警戒していた。しかし、後にレイたちが来た時と同様、それは無用な心配であった。
「ここ、波も穏やかで、風も気持ちいい。少しの間、停泊していいかしら」
 直に向き合い、彼女らに悪意がなさそうだと判断した村長は、許可し、アイテレーゼたちは島にしばらく滞在する事になったのだった。

ーー

 しかし別に、地上の文明や人に興味があったわけではないアイテレーゼは、海岸線で、涼しい風に吹かれながら、空中世界から持ってきた立体映像画面のゲームばかり最初はやっていた。
 年が近く、積極的に仲良くなろうとしてきたユイトやカナメを、最初は邪険に扱った彼女。
 しかし結局、いつの間にやら3人は仲良くなった。

ーー

「もう友達だし、もっと親しげに呼びなさいよ」
 ある時照れくさそうにアイテレーゼは言った。
 彼女としては、呼び捨てで呼べばいい、という意味のつもりだった。
「じゃあねえ、アイちゃん?」
「おれも、じゃあそう呼ぶよ、アイちゃんって」
 ユイトたち兄妹は、呼び名を文字通り親しげに変えただけであった。

ーー

 3人は毎日のように遊んだが、しかし、アイテレーゼのいれる時間は短かった。

「お父様だ、迎えに来た」
 その迎えの船は突然やって来た。

 別れの間際。
「また、会えるよね」
 暗い顔で言うカナメをアイテレーゼは抱きしめた。
「いえ、きっともう会えないわ」
 彼女はそう言った。
「そんな事ないよ、いつか空中世界に会いに行くよ」
 ユイトは力強く言った。
「ユイト」
 そこでアイテレーゼは体も声も震わせ、そして叫んだ。
「さよなら」
 そうして彼女はアルケリ島を去って行った。

 ユイトたちはそれから空中世界について、できる限り学び、そしてアイテレーゼがなぜ、もう会えないだろうと言っていたのか、その理由も理解してしまった。
 つまり空中世界というのは、彼らが考えていたよりずっと広大な、広大すぎる世界だったのだ。
 地上世界というシビアな環境に育ったユイトたちは、現実を直視するのは得意だ。ふたりは確かに、もう二度と彼女には会えないだろうと考えた。

ーー

「レイくんたちから話を持ちかけられた時も、期待だってしてなかった。だからほんとに驚いたよ」
 パーティー会場に戻り、ユイトは、アイテレーゼと自分との関わりを、思い出せる限りレイたちに話した。
 
「クロ姫にそんな過去が」
 最もはっきり驚きを見せていたニーシャ。
「あなたが以前言っていた、島に停泊していた空中世界の人とは、彼女の事だったのですね」
 少し複雑そうなミユ。

「そういう事だったか」
 まったくいつからだったのか、自然とその場に立っていたガーディ。
「おまえ」
「ガーディ」
 レイとエミィが同時に驚きの声を出す。
「何の用ですか?」とミユ。
「そう警戒するな。詳しくは言えないが、そもそもおれの本来の任務に、おまえたちは何の関係もないんだ。それより」
 彼は、特にユイトにその鋭い視線を向けながら続けた。
「依頼主だし、おれはアイテレーゼに協力してるけど、今は何か嫌な予感がしてる」
 それから今度はユイトに対してだけ言った。
「ユイト、気をつけろ。昔はどうあれ、多分、あいつはもうおまえの知ってるあいつじゃない」


──

"範囲歩ワイドウォーク"(コード能力事典・特殊技能49)

 最もシンプルと言われる空間転移の特殊技能。
 自らを乗せている空間を曲げて、移動範囲を広める。
 狙った位置にかなり正確に移動できるが、遠くになるほど、狙いを定めるのに時間がかかる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...