俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指

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第3章

犯人

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わたくし、不知燈汰(しらず・とうた)は突然に異世界へと転生させられた。
現在、ボロの街の領主の館でまさしくボロ雑巾のように眠り落ちたところである。


─────────────────────


……なんだか、声が聞こえる。
誰かに話しかけられているような、あるいは目覚まし時計のアラーム音のような。
この館に来てから、ずっと変な声が聞こえているような気がする。

そういえば、前世の時はきちんと時間設定を行って、毎朝きちんと同じ時間に起きていた。
遅刻すると、上司がうるさいのだ。
自分だってよく遅刻する癖に。

……上司、前世?
あれ、俺って今なにをやっていたっけ。

目を覚ますと、見たこともない床が目の前にあった。
俺は、ゆっくりと腕を付いて身体を起こす。

「……ぐぅ、いてて。
な、なんか身体中がバキバキだ…。
何で俺こんなところで寝てるんだ?」

周りを見渡すと、目の前にテラスがあった。
…あぁそうか。
俺、誰かに指示をされて四六時中で走り回った挙句に、疲れてここで気絶という名の睡眠を取っていたのだった。

でも、おかげでちょっとだけ気力が回復した気がする。

「どれくらい寝ちゃったんだろう。
まぁでも、感覚的にそんなに長く寝た感じはしないけど。」

外に出られないテラスを、窓越しから見ると少しだけ外が薄暗くなっていた。
見えるのにそこに行けないなんて、大層な建築物の中にいることを踏まえても、本当にメルヘンチックな御伽話の中にでも迷い込んだようである。
だけど、俺には迎えに来てくれる王子様もお姫様もきっといない。

部屋の中を見渡すと、もはや館中に浮かび上がっているダイイングメッセージがまだそのままに残されていた。
現状で見えているメッセージは…

【ゴメ もうムリ】

である。
そこから更新されていないと言うことは、おそらくこのメッセージを書いている方が、何らかの理由で情報を発信できなくなったのだろう。

「まぁ絶対にエレナだろうけど、他に何か書いてあったっけ。
……そういや、部屋の前に【カギ】とか書いてたな。」

おそらく、この【カギ】っていうのは単純な部屋の鍵ではなく、流れ的にこの異質な状況をもたらしている【原因】のことを指しているのだろう。
それが、この部屋の中にあるってことか。

「なんか、寝たからかちょっと頭もスッキリしてるな。
考えがまとまりやすくなってきた。」

例えばだけど、館から俺以外がいなくなった状況が何らかの魔法や魔法陣の結果だとするならば、その発動条件を満たす【カギ】がある…ってことを言いたいんだろうな。

「でも、どういうモノなんだろう…。
正直、何でも当てはまるよな…アクセサリー、服、小物、人形…そうだ、料理だってあり得るかも。
なんか、黒魔術の呪い的な感じで。供物?みたいな。」

俺は、部屋を見渡してそれらしいものを探した。
しかし、当然だがそれっぽいものは見つからない。

エレナ…何ならハッキリと答えを書いてほしかった。

「エレナなら、性格的にいきなり答えを言いそうなものだけど。
それとも、言いづらいとか、言えなかった理由でもあるのかな…。」

あの自称女神と俺の間に、今更言いづらい事とかあるのだろうか?
人の顔面にゲロを撒き散らす自称女神が?
…んなバカな。

そんなことを考えていると、ふと目の端に【あるもの】が留まった。
留まったのも簡単な理由で、それには少しだけ心当たりがあったからである。

……え?
もしかしたら……でも。
まぁ、それならエレナが言えない理由も合点がいくか…。
いや…まさかな。

迷っていると、俺の目の前の壁に最後の矢印とメッセージが出てきた。


─────────────────────


「多分、ここだな…。」

俺は館の1階から【開かずの扉】と呼ばれる場所の前に来ていた。
この場所は、ものすごく人からは見えづらい場所に設置されている。

1階の倉庫のような部屋に入り、そこから地下階段を少し下って、整備されていないトンネルのような場所を通り抜けていったその先、堅牢な扉がある薄暗い場所にある。

調査中に1度だけここに来たのだが、その時にもここには来ないようにと、使用人に注意をされた。

どういう趣味で、こんなところにこんなものを造ったのだろうか。
実は天然のワインセラーでした…とか言われても不思議ではない。

そして俺の手には、おそらく【カギ】となる物体。

最後のメッセージには、矢印付きでこう書いていた。

【ア カズ】

ものすごく乱れていたから、おそらく最後の最後にメッセージをムリヤリねじ込んでくれたような気がする。
そうなると、多分俺が部屋の中で爆睡している様子も、あの女神はヤキモキしながら見ていたのだろう。

無事に再会できたら、その点の愚痴だけは素直に聞いてやろうと思う。

「でも、大丈夫なのか?
なんか、すごい魔法防壁があって通れない…みたいなことを言っていた気がするけど。」

さきほどまで走り回った影響で、そもそも開けていない扉などもうここしかないのだ。
だから、確信的にここが正解だと俺にはわかる。
しかし、魔法や魔法陣に関して素人に毛が生えた程度の俺でさえ、触れてはいけないオーラが出ている…。

「そもそも、これ…ドアノブがないじゃないか。
どうやって開けるんだよ。
まさか、引き戸とか?
どんな扉だよ…。」

俺は、赤ん坊の肌に触るくらいの慎重な手つきで、扉に手を伸ばした。
すると、ガラスが割れる様な音がしたと思ったら、その後にいとも簡単に扉が開いた。
開いた…というよりも、ドアそのものが消えたのだ。

「…え?
なんかいけちゃったぞ。」

慎重に部屋の中に入ると、今度はそのドアがまた自動で出現し俺は無事、その中に閉じ込められる形となった。

…まぁいいか。

「ここまで来たら、何言っても仕方ないしな。
正直、わけのわからん不思議現象にも慣れてきた。
あとは、もう前に進むだけだ。」

薄暗い中で、手探りで進んでいく。

しばらく進んだところで、また地下に行く階段を見つけた。
下っていき、しばらく歩いたところで今度はまたまた目の前に扉のようなものが現れた。
しかし、俺はこの扉に強烈な違和感をまたしても覚えることになる。

どう見ても、現代的あるいは未来的なエレベーターだったからである。

しかも、稼働している。
…なんだこれ?
何がどうなってんだ?

「え、エレベーター…?
…なんで?
なんでこんなもんがこの異世界にあるんだよ。」

扉の前に立つと、扉が開き、中身は完全に超高級なエレベーターという有様だった。
しかも、何もせず勝手に扉は閉まり、自動でさらに地下へと下っていく。

「ほ…本当に何がどうなってるんだ?」

この異世界に来てから、確かに文明レベルに強烈な違和感が生じることは何回もあった。
マナカード、ギルドの魔導測定器、ギルドカード、《記憶の館》の魔道具……。
でも、それらはあくまでも【魔法を利用した単なる道具】に過ぎない。
…そう思っていた。

でもこれ…完全にそうだよな?

完全に機械だ。
しかも、文明レベルでいえば明らかに俺の元いた世界のよりも高い。
全自動で動いてる…扱い方を知らなくても、勝手にコッチの思惑をくみ取って動いたみたいだ。

「ヤバイ…めちゃくちゃ頭が混乱してきた…知恵熱が出そう。」

俺が今まで見てきた、この中世の異世界ファンタジーはなんだったんだ?
…俺まだ夢でも見ているのか?

それにしても、どこまで地下に潜るんだ?
この長さにしても、尋常じゃない。
そもそも、この異世界の標準的な技術レベルで、こんな地下深くにまで設置できるのか?
こんなものが簡単にできるのなら、宇宙エレベーターだって造れてしまいそうだ。

混乱した頭の中で、エレベーターがどうやら最下層に到着した。
そして扉が開き、目の前には薄暗い超未来的な通路が続いている。

「なんだよほんと…。
まさか超巨大な宇宙船とか言わないよな?」

わけもわからず、俺はその薄暗い通路を歩いていった。
しばらく歩いたその先に、広く大きな空間があることがわかった。

ただ、その空間に足を踏み入れることを俺は躊躇した。
理由も簡単。
俺は目の前の光景を見てさらに驚愕したからである。

驚きすぎて、そこから一歩も前に進むことができなかった。

超巨大な近未来的なドーム。
天上が、東京ドームのそれくらい遠い…。
周囲には、幾何学的な紋章。
ドームの中央には、大きな謎の球体上の透明な障壁らしきもの。

その中で、浮遊しながら眠る謎の少女。

綺麗なボブくらいの青白い髪をした、俺より少し背丈の低い少女。
ワンピースみたいな服を着ていた。
エレナが、いつも着ている服に似ている。

そして、その少女を眺める人物。
その傍らで腕を拘束されて、跪くカターユがいた。

「…なにこれ?」

俺は、呟くように声を発した。

「ト、トータ君……!?」

衰弱した痛々しいカターユが、驚いたようにこちらを振り返った。
そして、その声に反応したかのように、少女を眺めていた人物がゆっくりと振り返った。

「あらあら、これは意外でしたわ。
まさか、ここに来られる方がいたとは。」

その人物は、黒髪でツインテール。
綺麗なオッドアイ。
彼女はメイドのようなかわいらしい服装で、スカートの両裾をつまみ、頭を下げて挨拶をしてきた。

「どうも、トータ様。
わたくし、天使のリルと申します。」
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