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プロローグ
第一話 黄泉から罪を見ていた
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「犯人は、お前だな」
サスペンスドラマのような台詞が口から放たれた。そのせいで、殺人事件が現実味のないドラマの撮影現場のように思えた。僕の思念が伝わったのか、横にいる二人はクスリと笑った。その二人の微笑が見えたのは僕だけだった。
僕はいま、警察の依頼で殺人事件の推理をしている。そして犯人を断定したところだ。被害者はマンションに住む若い女性でナイフによる刺殺。遺体はまだリビングに横たわっている。
犯人は、容疑者候補の中にいた無精髭の小柄なおっさんで、被害者との関係は薄い方だった。しかし、被害者の証言を基に推理すれば、例え人を殺しても僕から逃れることはできない。
正確には、僕たちであるが。
「俺は今日アイツとは会ってねえんだぞ。証拠はあるのかよ!」
「それ言ったらもう犯人確定じゃん。お約束って知ってる?」
馬鹿にするように、犯人と断定した男に向かってジョークを言った。これは僕が言いたくて言っているわけじゃない。あくまで被害者の怨念を少しでも軽くしようと、僕が代理で言い放っているだけなのだ。
嘘はついていない。約束はできないけど。
『証拠はこの男の右肩にあるわ』
腹から出血している女性が、男の肩を指差した。彼女は男に殺された被害者である。つまり、霊だ。
僕は霊の姿が見える。ホラー映画みたいな感じではなく、普通の人間と変わらないレベルで。
僕らの捜査スタイルは、こうして事件の被害者の霊そのものに捜査協力してもらっている。霊が見えるのは僕だけで、触れるのも僕だけだ。
彼女が言うには、どうやら彼の肩に決定的証拠が隠されているらしい。
「西原さん、コイツの服脱がせて右肩あたりを調べてみなよ。そしたらハッキリする」
西原と呼ばれた馴染みの刑事は、「失礼するぞ」と言って男のパーカーを脱がせて肩口のシャツを少しずらしてみた。すると、そこには薄ピンク色の口紅の跡が残っていたのだ。
「こ、これは!」
「お前が被害者を刺した時に、もたれかかった際に口紅が接触したんだよ。で、今日は会ってない、だっけ?
じゃあその被害者のDNAが付着した口紅の跡をどう説明する気だ?」
気づけなかった証拠に、犯人は膝から崩れ落ちた。嘘の証言をした時点で、自分が犯人であることは言い逃れのしようもなかった。
しかし、彼は一つだけ不可解なことがあった。どうやって探偵の男はこの証拠に気づいたのか。
記憶が正しければ、今日会ってから一度も背中など向けた覚えがなかったからだ。
「どうやって分かった・・・!?」
「あ? そんなのーーーーー
後ろの奴に聞いただけだよ」
僕は意味深に男の背後を顎でクイっと指した。男が振り返ろうとした瞬間、肩に強く手が置かれた。その手の感触は小さく、細く、それでいて不気味なくらいに冷たく感じた。
ゆっくりと振り向くと、罪の意識からの幻覚なのか、殺したはずの女がそこに立っていた。生気を持たない、この世のものとは思えない顔とその目に、男は恐慌状態に陥った。
「うわああああああああ!!!」
「あ、おいコラ暴れるな!」
男は何かから逃げるように目を瞑って暴れ出した。警官が二人がかりで抑えようとしても、男の逃避願望の方が上回っていて収拾できない。
仕方なく僕は、男の顎スレスレを右拳で打ち抜いた。ボクシングでよくある、脳震盪を起こす技術だ。探偵たるもの、推理だけして終わるような貧弱であるべからず。そんな一理ある脳筋みたいな理由で、僕たちはある程度の護身はできるように訓練されている。
平衡感覚を失った男は警官に吊り下がる形で連行されていった。男の背後に立って驚かせた被害者の女性は、夜見に一言の感謝を述べて、淡く光りながらゆっくりと消えていった。
『ありがとう』
「いえいえ、これも夜見探偵事務所のお仕事ですから」
「あ、俺の台詞! 西原さん逮捕してください! 準窃盗罪で!」
いたずら心で所長のセリフを奪ったのは、彼の助手を務める湊朔弥だ。青がアクセントの黒髪と端麗なプロポーションには文句ない。探偵能力もあるし、胸もEカップある。玉に瑕なのは、悪戯猫のような性格である。別に僕も振り回されているわけではない。ないと信じたい。
僕だって普通に健全な日本男児だ。性的欲求は人並みにある。だから清楚ギャル満載のムーブをカマしてくるのを控えてほしい。理性にも限度があるのだ。MPほど簡単に回復しない。
「そーゆう夫婦漫才はいいから。お前も本気で準窃盗とか思ってねえだろうに」
「こちとらSAN値摩耗する探偵業なの。どこで不定の狂気が発動するか分からないの」
「差し入れのシュガーコーヒーありますよ?」
「飲みまーす!」
「実は平気だろオメー」
トリオ漫才みたいな会話だが、これも平常運転。これくらいの緩い感覚でやっていかないと、本当に神経が摩耗するのである。
夜見探偵事務所の日常は、あまりにも慣れすぎた死と生の歪なバランスで成り立っている。
霊は基本的に死んだ時の姿で現れるため、場合によってはかなりグロテスクなのだ。中には僕らを犯人と勘違いして襲ってくることもある。
「さーて、今日の依頼は終わったし家帰りますか」
「俺は署に戻って報告書を書かなきゃいけねえから。お疲れさん」
「明日は浮気調査が二件はいってますよ」
「うげぇ面倒くせぇ・・・」
殺人や変死事件の依頼でなくてがっかりした。人の死や失踪が絡んでいる依頼は依頼料が高いため金払いがいい。
不謹慎ながらも、また事件と遭遇することを願いながら、夜見たちは我が家へと帰っていった。
サスペンスドラマのような台詞が口から放たれた。そのせいで、殺人事件が現実味のないドラマの撮影現場のように思えた。僕の思念が伝わったのか、横にいる二人はクスリと笑った。その二人の微笑が見えたのは僕だけだった。
僕はいま、警察の依頼で殺人事件の推理をしている。そして犯人を断定したところだ。被害者はマンションに住む若い女性でナイフによる刺殺。遺体はまだリビングに横たわっている。
犯人は、容疑者候補の中にいた無精髭の小柄なおっさんで、被害者との関係は薄い方だった。しかし、被害者の証言を基に推理すれば、例え人を殺しても僕から逃れることはできない。
正確には、僕たちであるが。
「俺は今日アイツとは会ってねえんだぞ。証拠はあるのかよ!」
「それ言ったらもう犯人確定じゃん。お約束って知ってる?」
馬鹿にするように、犯人と断定した男に向かってジョークを言った。これは僕が言いたくて言っているわけじゃない。あくまで被害者の怨念を少しでも軽くしようと、僕が代理で言い放っているだけなのだ。
嘘はついていない。約束はできないけど。
『証拠はこの男の右肩にあるわ』
腹から出血している女性が、男の肩を指差した。彼女は男に殺された被害者である。つまり、霊だ。
僕は霊の姿が見える。ホラー映画みたいな感じではなく、普通の人間と変わらないレベルで。
僕らの捜査スタイルは、こうして事件の被害者の霊そのものに捜査協力してもらっている。霊が見えるのは僕だけで、触れるのも僕だけだ。
彼女が言うには、どうやら彼の肩に決定的証拠が隠されているらしい。
「西原さん、コイツの服脱がせて右肩あたりを調べてみなよ。そしたらハッキリする」
西原と呼ばれた馴染みの刑事は、「失礼するぞ」と言って男のパーカーを脱がせて肩口のシャツを少しずらしてみた。すると、そこには薄ピンク色の口紅の跡が残っていたのだ。
「こ、これは!」
「お前が被害者を刺した時に、もたれかかった際に口紅が接触したんだよ。で、今日は会ってない、だっけ?
じゃあその被害者のDNAが付着した口紅の跡をどう説明する気だ?」
気づけなかった証拠に、犯人は膝から崩れ落ちた。嘘の証言をした時点で、自分が犯人であることは言い逃れのしようもなかった。
しかし、彼は一つだけ不可解なことがあった。どうやって探偵の男はこの証拠に気づいたのか。
記憶が正しければ、今日会ってから一度も背中など向けた覚えがなかったからだ。
「どうやって分かった・・・!?」
「あ? そんなのーーーーー
後ろの奴に聞いただけだよ」
僕は意味深に男の背後を顎でクイっと指した。男が振り返ろうとした瞬間、肩に強く手が置かれた。その手の感触は小さく、細く、それでいて不気味なくらいに冷たく感じた。
ゆっくりと振り向くと、罪の意識からの幻覚なのか、殺したはずの女がそこに立っていた。生気を持たない、この世のものとは思えない顔とその目に、男は恐慌状態に陥った。
「うわああああああああ!!!」
「あ、おいコラ暴れるな!」
男は何かから逃げるように目を瞑って暴れ出した。警官が二人がかりで抑えようとしても、男の逃避願望の方が上回っていて収拾できない。
仕方なく僕は、男の顎スレスレを右拳で打ち抜いた。ボクシングでよくある、脳震盪を起こす技術だ。探偵たるもの、推理だけして終わるような貧弱であるべからず。そんな一理ある脳筋みたいな理由で、僕たちはある程度の護身はできるように訓練されている。
平衡感覚を失った男は警官に吊り下がる形で連行されていった。男の背後に立って驚かせた被害者の女性は、夜見に一言の感謝を述べて、淡く光りながらゆっくりと消えていった。
『ありがとう』
「いえいえ、これも夜見探偵事務所のお仕事ですから」
「あ、俺の台詞! 西原さん逮捕してください! 準窃盗罪で!」
いたずら心で所長のセリフを奪ったのは、彼の助手を務める湊朔弥だ。青がアクセントの黒髪と端麗なプロポーションには文句ない。探偵能力もあるし、胸もEカップある。玉に瑕なのは、悪戯猫のような性格である。別に僕も振り回されているわけではない。ないと信じたい。
僕だって普通に健全な日本男児だ。性的欲求は人並みにある。だから清楚ギャル満載のムーブをカマしてくるのを控えてほしい。理性にも限度があるのだ。MPほど簡単に回復しない。
「そーゆう夫婦漫才はいいから。お前も本気で準窃盗とか思ってねえだろうに」
「こちとらSAN値摩耗する探偵業なの。どこで不定の狂気が発動するか分からないの」
「差し入れのシュガーコーヒーありますよ?」
「飲みまーす!」
「実は平気だろオメー」
トリオ漫才みたいな会話だが、これも平常運転。これくらいの緩い感覚でやっていかないと、本当に神経が摩耗するのである。
夜見探偵事務所の日常は、あまりにも慣れすぎた死と生の歪なバランスで成り立っている。
霊は基本的に死んだ時の姿で現れるため、場合によってはかなりグロテスクなのだ。中には僕らを犯人と勘違いして襲ってくることもある。
「さーて、今日の依頼は終わったし家帰りますか」
「俺は署に戻って報告書を書かなきゃいけねえから。お疲れさん」
「明日は浮気調査が二件はいってますよ」
「うげぇ面倒くせぇ・・・」
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