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第一章 透明人間殺人事件
第二話 存在する空白
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朝、スマホのアラームが鳴るよりも先に起きた。少し眠そうに上体を起こし寝室を出る。
時刻は5時と、現代基準では少し早すぎた起床だったが、いつもこれくらいの時間に起きてしまうため仕方がない。
何か音を聞いていないと落ち着かないため、ワイヤレスイヤホンを耳に装着して洗面所へ向かった。顔を軽く洗って、キッチンで苦めの紅茶を淹れて飲みながら今日の依頼やニュースをチェックする。
紅茶の味とカフェインが、脳を覚醒させようと駆け巡った気がした。
「うわ、また総理が外国に金ばら撒いてるよ」
世も末だなと他人事のようにニュースを眺め、横目で依頼のメールを見る。今日の受信ボックスは空だった。
今日は休日になるかもしれないと淡い期待を持ちながら、朔弥が出勤してくるのを待つことにした。気づいたら、紅茶はコップの底に浅く残っているだけだった。
「おはようございまーす!」
「めざ・・・おっと朝のニュース番組名を言っちまうところだった」
「コンプラぐらい守ってよ? 意外と大変なんだから。あ、私も紅茶飲みたい!」
「あいよ。甘ちゃんには甘い紅茶がお似合いでちゅねーw」
「廻だってアップルティー大好きじゃんか」
「カウンターパンチはやいはやい」
別の意味で眠気も吹っ飛ぶこの日常会話も毎日の日課と言えなくもない。むしろ死人と向き合う日常なのだから、緩めれる時は限界まで緩んだ方が楽なのである。
時刻は8時過ぎ。今日はゆるりとした閑古鳥の日かと思っていた時、夜見の携帯が震えた。西原からだった。
「はいもしもーし」
「おう、早速だが事件だ。池袋に来てくれ」
「・・・せっかく今日は積読してた本を読めると思ったんに・・・。はいはい分かりやした行きますよ」
「頼んだぞー」
ツー、ツー、通話が切れた音が無情に聞こえた。ごく最近にも刺殺事件を解決して懐はかなり暖かいのに、面倒くささで冷えそうになった。
「はいはいお仕事の時間だよチクショー」
「女の子にかっこいいとこ見せないと」
「地味にやる気出ること言わんといて」
下らない小話をして、荷物を持って事務所を出る。五人乗りの白い車に乗って池袋を目指した。今日の事件が難解で面白いことを願いながらーーー。
~池袋~
東口駅前から少し離れたビルの前に人だかりができていた。周りは警察やシートで囲まれていて、野次馬が中を確認することはできない。
表の警官に面通しして現場の中に入る。そこにはうつ伏せで男が倒れており、顔を中心に血飛沫が放射線上に広がっていた。上下黒の服装にスニーカーとシンプルな格好で、血の見た目からして、落ちた衝撃で顔が潰れている。
横から寝そべって顔の潰れ具合を見てみたが、顔の前半分が潰れてしまっている。
「死体と添い寝とは、気持ち悪い趣味だな」
上を見ると、西原が変質者を見るような目で僕を見下ろしていた。確かに我ながら変だとは思うが、彼は一つ勘違いをしている。
「人聞き悪いな。どうせ寝るならかわい子ちゃんの死体の方がいいに決まってるだろ!」
「更に悪化したわ!」
凄惨な事件現場には似つかわしくないショートコントの一幕が、無理にでも緊迫をほぐしてくれていた。
「で、事件の概要は?」
悪ふざけのような遺体の確認も終えたところで、僕は地面から起き上がって西原に事件概要を聞いた。電話で池袋に来いと言われただけで、詳細についてはまだ聞いていなかった。
「被害者は40代男性。身元のわかる証明書も財布も携帯もなし。血の飛散具合から、このビルから落ちたと推測。後頭部に傷があることから、背後から殴られ落とされたとして殺人事件と断定。
死亡推定時刻は今日の午前3時前後ってとこだな」
ありがとう、と一言告げて夜見は目を瞑り集中した。周りの音が少しずつ消えていき、反比例するかのように耳鳴りがしてきた。その劈く響音が最大に達した時に目をゆらりと開くと、死体の横に同じ服装をした男が立っている。死体と違って顔は潰れていなかった。つまり、この男は落ちる前に死んでいたということである。
『あのー・・・』
「?、何ですか?」
霊の声が聞こえる朔弥が反応する。僕も彼を見ていたが、何やら困惑している様子だった。無理もない。殺された直後に自分の死体を見下ろしているのだ。しかも顔が潰れているという非常にショッキングなおまけ付きだ。
だが、次の男の言葉は予想していたものとは違っていた。
『すみません。つかぬことを聞きますが、俺って、誰なんですか?』
男(幽霊)は、記憶喪失だった。
時刻は5時と、現代基準では少し早すぎた起床だったが、いつもこれくらいの時間に起きてしまうため仕方がない。
何か音を聞いていないと落ち着かないため、ワイヤレスイヤホンを耳に装着して洗面所へ向かった。顔を軽く洗って、キッチンで苦めの紅茶を淹れて飲みながら今日の依頼やニュースをチェックする。
紅茶の味とカフェインが、脳を覚醒させようと駆け巡った気がした。
「うわ、また総理が外国に金ばら撒いてるよ」
世も末だなと他人事のようにニュースを眺め、横目で依頼のメールを見る。今日の受信ボックスは空だった。
今日は休日になるかもしれないと淡い期待を持ちながら、朔弥が出勤してくるのを待つことにした。気づいたら、紅茶はコップの底に浅く残っているだけだった。
「おはようございまーす!」
「めざ・・・おっと朝のニュース番組名を言っちまうところだった」
「コンプラぐらい守ってよ? 意外と大変なんだから。あ、私も紅茶飲みたい!」
「あいよ。甘ちゃんには甘い紅茶がお似合いでちゅねーw」
「廻だってアップルティー大好きじゃんか」
「カウンターパンチはやいはやい」
別の意味で眠気も吹っ飛ぶこの日常会話も毎日の日課と言えなくもない。むしろ死人と向き合う日常なのだから、緩めれる時は限界まで緩んだ方が楽なのである。
時刻は8時過ぎ。今日はゆるりとした閑古鳥の日かと思っていた時、夜見の携帯が震えた。西原からだった。
「はいもしもーし」
「おう、早速だが事件だ。池袋に来てくれ」
「・・・せっかく今日は積読してた本を読めると思ったんに・・・。はいはい分かりやした行きますよ」
「頼んだぞー」
ツー、ツー、通話が切れた音が無情に聞こえた。ごく最近にも刺殺事件を解決して懐はかなり暖かいのに、面倒くささで冷えそうになった。
「はいはいお仕事の時間だよチクショー」
「女の子にかっこいいとこ見せないと」
「地味にやる気出ること言わんといて」
下らない小話をして、荷物を持って事務所を出る。五人乗りの白い車に乗って池袋を目指した。今日の事件が難解で面白いことを願いながらーーー。
~池袋~
東口駅前から少し離れたビルの前に人だかりができていた。周りは警察やシートで囲まれていて、野次馬が中を確認することはできない。
表の警官に面通しして現場の中に入る。そこにはうつ伏せで男が倒れており、顔を中心に血飛沫が放射線上に広がっていた。上下黒の服装にスニーカーとシンプルな格好で、血の見た目からして、落ちた衝撃で顔が潰れている。
横から寝そべって顔の潰れ具合を見てみたが、顔の前半分が潰れてしまっている。
「死体と添い寝とは、気持ち悪い趣味だな」
上を見ると、西原が変質者を見るような目で僕を見下ろしていた。確かに我ながら変だとは思うが、彼は一つ勘違いをしている。
「人聞き悪いな。どうせ寝るならかわい子ちゃんの死体の方がいいに決まってるだろ!」
「更に悪化したわ!」
凄惨な事件現場には似つかわしくないショートコントの一幕が、無理にでも緊迫をほぐしてくれていた。
「で、事件の概要は?」
悪ふざけのような遺体の確認も終えたところで、僕は地面から起き上がって西原に事件概要を聞いた。電話で池袋に来いと言われただけで、詳細についてはまだ聞いていなかった。
「被害者は40代男性。身元のわかる証明書も財布も携帯もなし。血の飛散具合から、このビルから落ちたと推測。後頭部に傷があることから、背後から殴られ落とされたとして殺人事件と断定。
死亡推定時刻は今日の午前3時前後ってとこだな」
ありがとう、と一言告げて夜見は目を瞑り集中した。周りの音が少しずつ消えていき、反比例するかのように耳鳴りがしてきた。その劈く響音が最大に達した時に目をゆらりと開くと、死体の横に同じ服装をした男が立っている。死体と違って顔は潰れていなかった。つまり、この男は落ちる前に死んでいたということである。
『あのー・・・』
「?、何ですか?」
霊の声が聞こえる朔弥が反応する。僕も彼を見ていたが、何やら困惑している様子だった。無理もない。殺された直後に自分の死体を見下ろしているのだ。しかも顔が潰れているという非常にショッキングなおまけ付きだ。
だが、次の男の言葉は予想していたものとは違っていた。
『すみません。つかぬことを聞きますが、俺って、誰なんですか?』
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