黄泉の探偵〜魂魄が導く事件簿〜

ディスマン

文字の大きさ
3 / 10
第一章 透明人間殺人事件

第二話 存在する空白

しおりを挟む
 朝、スマホのアラームが鳴るよりも先に起きた。少し眠そうに上体を起こし寝室を出る。
 時刻は5時と、現代基準では少し早すぎた起床だったが、いつもこれくらいの時間に起きてしまうため仕方がない。
 何か音を聞いていないと落ち着かないため、ワイヤレスイヤホンを耳に装着して洗面所へ向かった。顔を軽く洗って、キッチンで苦めの紅茶を淹れて飲みながら今日の依頼やニュースをチェックする。
 紅茶の味とカフェインが、脳を覚醒させようと駆け巡った気がした。

「うわ、また総理が外国に金ばら撒いてるよ」

 世も末だなと他人事のようにニュースを眺め、横目で依頼のメールを見る。今日の受信ボックスは空だった。
 今日は休日になるかもしれないと淡い期待を持ちながら、朔弥が出勤してくるのを待つことにした。気づいたら、紅茶はコップの底に浅く残っているだけだった。





「おはようございまーす!」
「めざ・・・おっと朝のニュース番組名を言っちまうところだった」
「コンプラぐらい守ってよ? 意外と大変なんだから。あ、私も紅茶飲みたい!」
「あいよ。甘ちゃんには甘い紅茶がお似合いでちゅねーw」
「廻だってアップルティー大好きじゃんか」
「カウンターパンチはやいはやい」

 別の意味で眠気も吹っ飛ぶこの日常会話も毎日の日課と言えなくもない。むしろ死人と向き合う日常なのだから、緩めれる時は限界まで緩んだ方が楽なのである。
 時刻は8時過ぎ。今日はゆるりとした閑古鳥の日かと思っていた時、夜見の携帯が震えた。西原からだった。

「はいもしもーし」
「おう、早速だが事件だ。池袋に来てくれ」
「・・・せっかく今日は積読してた本を読めると思ったんに・・・。はいはい分かりやした行きますよ」
「頼んだぞー」

 ツー、ツー、通話が切れた音が無情に聞こえた。ごく最近にも刺殺事件を解決して懐はかなり暖かいのに、面倒くささで冷えそうになった。

「はいはいお仕事の時間だよチクショー」
「女の子にかっこいいとこ見せないと」
「地味にやる気出ること言わんといて」

 下らない小話をして、荷物を持って事務所を出る。五人乗りの白い車に乗って池袋を目指した。今日の事件が難解で面白いことを願いながらーーー。



~池袋~

 東口駅前から少し離れたビルの前に人だかりができていた。周りは警察やシートで囲まれていて、野次馬が中を確認することはできない。
 表の警官に面通しして現場の中に入る。そこにはうつ伏せで男が倒れており、顔を中心に血飛沫が放射線上に広がっていた。上下黒の服装にスニーカーとシンプルな格好で、血の見た目からして、落ちた衝撃で顔が潰れている。
 横から寝そべって顔の潰れ具合を見てみたが、顔の前半分が潰れてしまっている。

「死体と添い寝とは、気持ち悪い趣味だな」

 上を見ると、西原が変質者を見るような目で僕を見下ろしていた。確かに我ながら変だとは思うが、彼は一つ勘違いをしている。

「人聞き悪いな。どうせ寝るならかわい子ちゃんの死体の方がいいに決まってるだろ!」
「更に悪化したわ!」

 凄惨な事件現場には似つかわしくないショートコントの一幕が、無理にでも緊迫をほぐしてくれていた。



「で、事件の概要は?」

 悪ふざけのような遺体の確認も終えたところで、僕は地面から起き上がって西原に事件概要を聞いた。電話で池袋に来いと言われただけで、詳細についてはまだ聞いていなかった。

「被害者は40代男性。身元のわかる証明書も財布も携帯もなし。血の飛散具合から、このビルから落ちたと推測。後頭部に傷があることから、背後から殴られ落とされたとして殺人事件と断定。
死亡推定時刻は今日の午前3時前後ってとこだな」

 ありがとう、と一言告げて夜見は目を瞑り集中した。周りの音が少しずつ消えていき、反比例するかのように耳鳴りがしてきた。そのつんざく響音が最大に達した時に目をゆらりと開くと、死体の横に同じ服装をした男が立っている。死体と違って顔は潰れていなかった。つまり、この男は落ちる前に死んでいたということである。

『あのー・・・』
「?、何ですか?」

 霊の声が聞こえる朔弥が反応する。僕も彼を見ていたが、何やら困惑している様子だった。無理もない。殺された直後に自分の死体を見下ろしているのだ。しかも顔が潰れているという非常にショッキングなおまけ付きだ。

 だが、次の男の言葉は予想していたものとは違っていた。












『すみません。つかぬことを聞きますが、俺って、誰なんですか?』

 男(幽霊)は、記憶喪失だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...