4 / 10
第一章 透明人間殺人事件
第三話 Who died it?
しおりを挟む
現場を三人で散策する。しかし第三者からしたらどう見ても二人にしか見えないだろう。二人はまるで虚空に話しかけているように見えている。
連れは助手の朔弥と、死んでいながら記憶喪失の中年男性。アンバランスすぎる桃太郎チームだ。
「幽霊なのに記憶喪失とは難儀だな」
『俺もまさか殺されたってのにまだ災難に遭うなんて思っても見なかったよ』
「業が深いねー」
呑気にそう話しながら屋上を探索する。歩道に面している柵付近を見てみると、手すり部分に手形があった。触れたことでその部分の埃が薄くなっていたのである。
だが、その埃というのが妙だった。普通なら指先はビルの外側に向いているのに、手の向きが逆なのだ。これはつまり、被害者であるこの男は手すりに背を向けていたことになる。
「あ?」
「おかしいね。幽霊の顔が潰れていないから被害者は落ちる前に死んでいた。傷は後頭部だけだから死因は頭部挫傷・・・。でも手すりの手形からはむしろ背中から落下したことになっちゃうよ」
『不思議だなぁ。俺の後ろで誰かが空中浮遊してるわけないし』
記憶喪失の幽霊だけでも異例なのに、今度は付けられない後頭部の傷の謎が浮かび上がってきた。
面白い。
実に面白い。
大学の物理学准教授みたいな感想を抱きながら、僕は自分の頬が緩んでるのを自覚した。ここ最近は大した事件がなかったため、不完全燃焼気味だったのだ。
いっそのこと儲けた金で半月ほど旅行してやろうとか考えていた矢先に何という僥倖だろう。
「あ、そうだ!」
「んぁ?」
「幽霊さん、ちょっとここに立ってくれませんか?」
『え?あぁ、はい』
朔弥の直感が働いたのだろう。唐突に落ちた現場である手すりの前に男を誘導した。その行為に僕は心当たりがあった。
知っているだろうか。何か忘れたりした時に、その時に行っていた行動をなぞることによって記憶が想起されることがある。誰しも一度は、「あれ、何忘れたっけ?」となった時に自分の直前の行動を繰り返したことがあるだろう。それである。
『ウ、ウアア・・・!』
「お、効果出てきたじゃん」
「幽霊だろうと人間だろうと効くものは効くんだね」
早速その効果が出てきたようで、記憶をこじ開けようと魂が活動し始めた。霊に脳も心臓も存在はしない。言うなれば、その体全体が脳であり心臓なのである。
頭痛に苛まれるように男が頭を抑える仕草も、あくまで生前の名残りに過ぎないのだ。
『・・・ちょ、ちょっぴりだけど思い出した』
「「どんなどんな?」」
『俺はここで、誰かと会ってた・・・。それで多分、口論とかになって押されたんだと思う。でも、それと同時に後頭部に凄い衝撃が走った』
「ほう、つまりお前を押した奴と殺した奴は別人ってことだな」
「もしかしたら真犯人の策略かもしれませんよ。二人がこのビルの屋上で会うことを知っていて待ち構えていた、とか」
「アリ寄りのアリ」
僕と朔弥は、興味深そうに屋上から周辺を眺めた。もし頭部に傷を負わせたのが屋上に一緒にいた人物ではないのなら、実際に手を下した犯人は当時向かいのビルに居たことになる。そこに行けば何か分かるかもしれない。
僕たちは現場のビルを出て、向かいにある雑居ビルの屋上に向かった。屋上の扉は施錠されていなかった。元々開いていたのか、犯人が開けたのか。朔弥がドアノブを調べると、壊された形跡が発見された。この時点で、犯人とこのビルは無関係であることが推察された。
真犯人がビルの関係者なら、鍵を借りるなりして普通に開ければいい。別に事件現場は向かいのビルなんだから、堂々と借りれるはずだ。
そうでないということは、犯人は殺人計画のためにこのビルを選んだことになる。少なくとも、現在このビルで仕事や住んでいる人は容疑者から外れた。
屋上に出てみれば、一見何の変哲もないが、殺人現場であるビルがよく見える手すり付近の床に、靴裏を強く擦ったような跡があった。
「こりゃどう見ても犯人の靴跡だよな」
『これが、俺を殺した犯人の痕跡なのか』
「足を強く踏み込むということは、ここから何かを投げたりしたってことかな?」
試しに向かいのビルからこの怪しいビルの距離を目測してみた。3.5mの2車線道路が2本、歩道も各方面に3.5mずつで、ビル間の最短距離は7×2で約14mある。
この距離を人の頭めがけて何かをぶつけることなど出来るのだろうか?
もしそれを行うなら、かなりの練習が必要だろう。それはつまり、被害者をそれだけ練習してまで殺したいという強い動機があったに他ならない。
それだけ、この男が極悪人なのか。それとも、逆に極悪人の逆鱗に触れてしまったのか。それは、捜査を進めるか思い出してくれさえすれば分かることだ。
「どうしよっかなぁ。普通なら被害者は犯人の顔を見てるから聞くだけで犯人だけは必ず分かるんだけど・・・・・・記憶がないとなるとなぁ」
『なんか、すみません。力になれなくて』
「いやいやいや気にしないで! こっちも推理力を鍛える良い機会になってるから!」
あまり力になれなくて凹んでいる男を朔弥がフォローする。美少女に慰められて満更でもないようだ。何それ普通にうらやまなんでさけど。
「警察はもう聞き込みとかやってるだろうし、俺らは別のアプローチと行こうか」
「具体的に?」
「殺人未遂犯の方を探そうぜ」
犯人を絞ることすらまだ出来ていないため、まずは待ち合わせ相手の方から攻めていくことにした。
そう意気込んだのも束の間、夜見たちは一つだけ重要な問題があったことを思い出した。
「そうだ廻、記憶が戻るまでこの人の名前を決めておこうよ」
「確かに、いつまでも彼とか男とか表記するの不便だよなぁ」
『なんか絶妙にメタくない?』
目を瞑って唸りながら僕と朔弥は名前を考える。正直、こういったネーミングセンスは朔弥の方があるため、僕は考えるフリをすることにした。待つこと15秒、朔弥はいいのを思いついたようで、明るい表情を僕たちに向けた。
「よし、貴方の名前は"蓮"ね!」
「なんか理由があるとや?」
「確か日本の男の子の名前で一番多いから」
『蓮・・・なんか、しっくり来るな』
連れは助手の朔弥と、死んでいながら記憶喪失の中年男性。アンバランスすぎる桃太郎チームだ。
「幽霊なのに記憶喪失とは難儀だな」
『俺もまさか殺されたってのにまだ災難に遭うなんて思っても見なかったよ』
「業が深いねー」
呑気にそう話しながら屋上を探索する。歩道に面している柵付近を見てみると、手すり部分に手形があった。触れたことでその部分の埃が薄くなっていたのである。
だが、その埃というのが妙だった。普通なら指先はビルの外側に向いているのに、手の向きが逆なのだ。これはつまり、被害者であるこの男は手すりに背を向けていたことになる。
「あ?」
「おかしいね。幽霊の顔が潰れていないから被害者は落ちる前に死んでいた。傷は後頭部だけだから死因は頭部挫傷・・・。でも手すりの手形からはむしろ背中から落下したことになっちゃうよ」
『不思議だなぁ。俺の後ろで誰かが空中浮遊してるわけないし』
記憶喪失の幽霊だけでも異例なのに、今度は付けられない後頭部の傷の謎が浮かび上がってきた。
面白い。
実に面白い。
大学の物理学准教授みたいな感想を抱きながら、僕は自分の頬が緩んでるのを自覚した。ここ最近は大した事件がなかったため、不完全燃焼気味だったのだ。
いっそのこと儲けた金で半月ほど旅行してやろうとか考えていた矢先に何という僥倖だろう。
「あ、そうだ!」
「んぁ?」
「幽霊さん、ちょっとここに立ってくれませんか?」
『え?あぁ、はい』
朔弥の直感が働いたのだろう。唐突に落ちた現場である手すりの前に男を誘導した。その行為に僕は心当たりがあった。
知っているだろうか。何か忘れたりした時に、その時に行っていた行動をなぞることによって記憶が想起されることがある。誰しも一度は、「あれ、何忘れたっけ?」となった時に自分の直前の行動を繰り返したことがあるだろう。それである。
『ウ、ウアア・・・!』
「お、効果出てきたじゃん」
「幽霊だろうと人間だろうと効くものは効くんだね」
早速その効果が出てきたようで、記憶をこじ開けようと魂が活動し始めた。霊に脳も心臓も存在はしない。言うなれば、その体全体が脳であり心臓なのである。
頭痛に苛まれるように男が頭を抑える仕草も、あくまで生前の名残りに過ぎないのだ。
『・・・ちょ、ちょっぴりだけど思い出した』
「「どんなどんな?」」
『俺はここで、誰かと会ってた・・・。それで多分、口論とかになって押されたんだと思う。でも、それと同時に後頭部に凄い衝撃が走った』
「ほう、つまりお前を押した奴と殺した奴は別人ってことだな」
「もしかしたら真犯人の策略かもしれませんよ。二人がこのビルの屋上で会うことを知っていて待ち構えていた、とか」
「アリ寄りのアリ」
僕と朔弥は、興味深そうに屋上から周辺を眺めた。もし頭部に傷を負わせたのが屋上に一緒にいた人物ではないのなら、実際に手を下した犯人は当時向かいのビルに居たことになる。そこに行けば何か分かるかもしれない。
僕たちは現場のビルを出て、向かいにある雑居ビルの屋上に向かった。屋上の扉は施錠されていなかった。元々開いていたのか、犯人が開けたのか。朔弥がドアノブを調べると、壊された形跡が発見された。この時点で、犯人とこのビルは無関係であることが推察された。
真犯人がビルの関係者なら、鍵を借りるなりして普通に開ければいい。別に事件現場は向かいのビルなんだから、堂々と借りれるはずだ。
そうでないということは、犯人は殺人計画のためにこのビルを選んだことになる。少なくとも、現在このビルで仕事や住んでいる人は容疑者から外れた。
屋上に出てみれば、一見何の変哲もないが、殺人現場であるビルがよく見える手すり付近の床に、靴裏を強く擦ったような跡があった。
「こりゃどう見ても犯人の靴跡だよな」
『これが、俺を殺した犯人の痕跡なのか』
「足を強く踏み込むということは、ここから何かを投げたりしたってことかな?」
試しに向かいのビルからこの怪しいビルの距離を目測してみた。3.5mの2車線道路が2本、歩道も各方面に3.5mずつで、ビル間の最短距離は7×2で約14mある。
この距離を人の頭めがけて何かをぶつけることなど出来るのだろうか?
もしそれを行うなら、かなりの練習が必要だろう。それはつまり、被害者をそれだけ練習してまで殺したいという強い動機があったに他ならない。
それだけ、この男が極悪人なのか。それとも、逆に極悪人の逆鱗に触れてしまったのか。それは、捜査を進めるか思い出してくれさえすれば分かることだ。
「どうしよっかなぁ。普通なら被害者は犯人の顔を見てるから聞くだけで犯人だけは必ず分かるんだけど・・・・・・記憶がないとなるとなぁ」
『なんか、すみません。力になれなくて』
「いやいやいや気にしないで! こっちも推理力を鍛える良い機会になってるから!」
あまり力になれなくて凹んでいる男を朔弥がフォローする。美少女に慰められて満更でもないようだ。何それ普通にうらやまなんでさけど。
「警察はもう聞き込みとかやってるだろうし、俺らは別のアプローチと行こうか」
「具体的に?」
「殺人未遂犯の方を探そうぜ」
犯人を絞ることすらまだ出来ていないため、まずは待ち合わせ相手の方から攻めていくことにした。
そう意気込んだのも束の間、夜見たちは一つだけ重要な問題があったことを思い出した。
「そうだ廻、記憶が戻るまでこの人の名前を決めておこうよ」
「確かに、いつまでも彼とか男とか表記するの不便だよなぁ」
『なんか絶妙にメタくない?』
目を瞑って唸りながら僕と朔弥は名前を考える。正直、こういったネーミングセンスは朔弥の方があるため、僕は考えるフリをすることにした。待つこと15秒、朔弥はいいのを思いついたようで、明るい表情を僕たちに向けた。
「よし、貴方の名前は"蓮"ね!」
「なんか理由があるとや?」
「確か日本の男の子の名前で一番多いから」
『蓮・・・なんか、しっくり来るな』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる