黄泉の探偵〜魂魄が導く事件簿〜

ディスマン

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第一章 透明人間殺人事件

第三話 Who died it?

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 現場を三人で散策する。しかし第三者からしたらどう見ても二人にしか見えないだろう。二人はまるで虚空に話しかけているように見えている。
 連れは助手の朔弥と、死んでいながら記憶喪失の中年男性。アンバランスすぎる桃太郎チームだ。

「幽霊なのに記憶喪失とは難儀だな」
『俺もまさか殺されたってのにまだ災難に遭うなんて思っても見なかったよ』
「業が深いねー」

 呑気にそう話しながら屋上を探索する。歩道に面している柵付近を見てみると、手すり部分に手形があった。触れたことでその部分のほこりが薄くなっていたのである。
 だが、その埃というのが妙だった。普通なら指先はビルの外側に向いているのに、手の向きが逆なのだ。これはつまり、被害者であるこの男は手すりに背を向けていたことになる。

「あ?」
「おかしいね。幽霊の顔が潰れていないから被害者は落ちる前に死んでいた。傷は後頭部だけだから死因は頭部挫傷・・・。でも手すりの手形からはむしろ背中から落下したことになっちゃうよ」
『不思議だなぁ。俺の後ろで誰かが空中浮遊してるわけないし』

 記憶喪失の幽霊だけでも異例なのに、今度は付けられない後頭部の傷の謎が浮かび上がってきた。

 面白い。

 実に面白い。

 大学の物理学准教授みたいな感想を抱きながら、僕は自分の頬が緩んでるのを自覚した。ここ最近は大した事件がなかったため、不完全燃焼気味だったのだ。
 いっそのこと儲けた金で半月ほど旅行してやろうとか考えていた矢先に何という僥倖ぎょうこうだろう。

「あ、そうだ!」
「んぁ?」
「幽霊さん、ちょっとここに立ってくれませんか?」
『え?あぁ、はい』

 朔弥の直感が働いたのだろう。唐突に落ちた現場である手すりの前に男を誘導した。その行為に僕は心当たりがあった。
 知っているだろうか。何か忘れたりした時に、その時に行っていた行動をなぞることによって記憶が想起されることがある。誰しも一度は、「あれ、何忘れたっけ?」となった時に自分の直前の行動を繰り返したことがあるだろう。それである。

『ウ、ウアア・・・!』
「お、効果出てきたじゃん」
「幽霊だろうと人間だろうと効くものは効くんだね」

 早速その効果が出てきたようで、記憶をこじ開けようと魂が活動し始めた。霊に脳も心臓も存在はしない。言うなれば、その体全体が脳であり心臓なのである。
 頭痛に苛まれるように男が頭を抑える仕草も、あくまで生前の名残りに過ぎないのだ。

『・・・ちょ、ちょっぴりだけど思い出した』
「「どんなどんな?」」
『俺はここで、誰かと会ってた・・・。それで多分、口論とかになって押されたんだと思う。でも、それと同時に後頭部に凄い衝撃が走った』
「ほう、つまりお前を押した奴と殺した奴は別人ってことだな」
「もしかしたら真犯人の策略かもしれませんよ。二人がこのビルの屋上で会うことを知っていて待ち構えていた、とか」
「アリ寄りのアリ」

 僕と朔弥は、興味深そうに屋上から周辺を眺めた。もし頭部に傷を負わせたのが屋上に一緒にいた人物ではないのなら、実際に手を下した犯人は当時向かいのビルに居たことになる。そこに行けば何か分かるかもしれない。

 僕たちは現場のビルを出て、向かいにある雑居ビルの屋上に向かった。屋上の扉は施錠されていなかった。元々開いていたのか、犯人が開けたのか。朔弥がドアノブを調べると、壊された形跡が発見された。この時点で、犯人とこのビルは無関係であることが推察された。
 真犯人がビルの関係者なら、鍵を借りるなりして普通に開ければいい。別に事件現場は向かいのビルなんだから、堂々と借りれるはずだ。
 そうでないということは、犯人は殺人計画のためにこのビルを選んだことになる。少なくとも、現在このビルで仕事や住んでいる人は容疑者から外れた。
 屋上に出てみれば、一見何の変哲もないが、殺人現場であるビルがよく見える手すり付近の床に、靴裏を強く擦ったような跡があった。

「こりゃどう見ても犯人の靴跡だよな」
『これが、俺を殺した犯人の痕跡なのか』
「足を強く踏み込むということは、ここから何かを投げたりしたってことかな?」

 試しに向かいのビルからこの怪しいビルの距離を目測してみた。3.5mの2車線道路が2本、歩道も各方面に3.5mずつで、ビル間の最短距離は7×2で約14mある。
 この距離を人の頭めがけて何かをぶつけることなど出来るのだろうか?
 もしそれを行うなら、かなりの練習が必要だろう。それはつまり、被害者をそれだけ練習してまで殺したいという強い動機があったに他ならない。
 それだけ、この男が極悪人なのか。それとも、逆に極悪人の逆鱗に触れてしまったのか。それは、捜査を進めるか思い出してくれさえすれば分かることだ。

「どうしよっかなぁ。普通なら被害者は犯人の顔を見てるから聞くだけで犯人だけは必ず分かるんだけど・・・・・・記憶がないとなるとなぁ」
『なんか、すみません。力になれなくて』
「いやいやいや気にしないで! こっちも推理力を鍛える良い機会になってるから!」

 あまり力になれなくて凹んでいる男を朔弥がフォローする。美少女に慰められて満更でもないようだ。何それ普通にうらやまなんでさけど。

「警察はもう聞き込みとかやってるだろうし、俺らは別のアプローチと行こうか」
「具体的に?」
「殺人未遂犯の方を探そうぜ」

 犯人を絞ることすらまだ出来ていないため、まずは待ち合わせ相手の方から攻めていくことにした。
 そう意気込んだのも束の間、夜見たちは一つだけ重要な問題があったことを思い出した。

「そうだ廻、記憶が戻るまでこの人の名前を決めておこうよ」
「確かに、いつまでも彼とか男とか表記するの不便だよなぁ」
『なんか絶妙にメタくない?』

 目を瞑って唸りながら僕と朔弥は名前を考える。正直、こういったネーミングセンスは朔弥の方があるため、僕は考えるフリをすることにした。待つこと15秒、朔弥はいいのを思いついたようで、明るい表情を僕たちに向けた。


「よし、貴方の名前は"れん"ね!」
「なんか理由があるとや?」
「確か日本の男の子の名前で一番多いから」

『蓮・・・なんか、しっくり来るな』
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