10 / 10
第二章 見えない殺人犯
第九話 ハイライト/オフ
しおりを挟む
多摩モノレールに乗るでもなく、京王線に乗るでもない。僕たちは、徒歩で高幡不動駅から住宅街へ向かって歩いていた。都心から遠いだけあって、普段慣れ親しんだ喧騒とは無縁の領域である。
住宅街まで来れば、電柱より高い建物が珍しくなってきた。カラスが見下ろしている電線が、この空間を怪しく彩っていた。
「犯人の家ってお前、当てがあるのかよ?」
「ない」
「はぁ!?」
「だが、この近くに住んでいるのは確かだ」
『どうしてそう言い切れるんですか?』
僕の行動に不安を覚える二人だが、朔弥はなんとなく分かっているようで、疑問符を浮かべることはなかった。
「徒歩が理由だよね」
「犯人は駅まで来たのは、車の免許を持ってないから。だから山とかまで行かずに電車やバスみたいな公共交通機関を利用している。不審な男の映像は駅構内しかなかったってことは、バスやタクシーで来ていない。そもそも、あまり第三者が多く利用する手段を使いたくなかったはずだ」
「つまり、駅から徒歩圏内の何処かに奴はいる」
まだ言ってないが、犯人の職場も徒歩圏内だろう。もし普段からバス等を利用しているなら、死体遺棄時刻に利用せず徒歩で来る方が怪しまれる。
そうでないということは、犯人は少なくとも家から駅までの範囲は全て徒歩で移動しているのだ。犯人の家まで特定は今はできないが、犯人の職場くらいは絞れるだろう。
『でも、どうやって犯人の居所を? 家は今は無理ですし、私はこの地域に来た記憶はないですよ?』
「有用な情報ありがとう。アンタに覚えはなくても、殺害現場はこの近くだぜ? どっかで昏睡させてカメラのキャリーケースに隠してくれば、獲物はいくらでも調達できる」
恐ろしいことを言いながら、一行はある建物の前に止まった。車が10台は停められそうな駐車場に、三階建ての清潔感あるビル。エントランス前の看板には「柊眼科クリニック」と書いてあった。
「おい、まさか犯人って・・・」
「西原は外で待機ね」
「は? 何でだよ」
「犯人は慎重で臆病な人物です。私と夜見さんは一般人に見えますが、西原さんは警察関係者の格好なので、危険を察知した犯人が逃げてしまう可能性が高いんです」
犯人は慎重深く頭の切れる人物だ。死体遺棄のトリックや駅のカメラを利用したアリバイ工作・・・・・・どれも凡人には考えつきにくい。自分の普段の生活を利用して、違和感を限りなく無くしたクレバーな犯罪は、僕でも称賛に値する。
そんな人物がこの地域から逃亡してしまえば、また同じ手口で事件が起きない限り捕まえるのは非常に困難だ。ならば僕と朔弥、そして天城で犯人を特定して秘密裏に証拠を見つけなければならない。何度も通うと怪しまれるので、チャンスはこの一回きりだろう。
「天城さん、貴女は朔弥に憑いて音や匂いに集中してください。覚えのある声や匂いなどがあったら朔弥に教えてください。ウチの助手は霊は見えないが声はハッキリ聞こえるんで」
『分かりました。朔弥さん、お世話になります』
天城は朔弥の肩に両手を置いて取り憑いた。朔弥も肩らへんに重さを感じて耳元で声がしたので天城が取り憑いたことを認識した。
二人で入るといざという時にもう片方もバレるため、先に僕が探りに行く。時間を空けて朔弥達が入り、なるべく静かにクリニック内を探してもらう。探すものは物体ではなく、天城が最後に感じた匂いと音だ。
最初は自宅で犯行に及んでいると思ったが、賢い男なら自分が安心できる場所ではなく、まさかここでやらないだろうという場所で殺人を犯す。僕がいなければ、警察もまさか患者が普通に出入りしているクリニック内で目を抉り殺されているなんて思いもしない。
受付で仮病を申告して診察を待つ。犯人かもしれない人が自分の目を診察すると思うと、なんだかヤブ医者に臓器を売り渡すような気分だ。
「先生入られまーす」
女性スタッフが医師の来訪を知らせた。奥のスライドドアが開いて、一人の中肉中背の男が入ってきた。少し大きな目、切り揃えられた短髪、短く整えられた顎ひげ。何より僕は、彼の瞳から視線が外せなかった。
「はじめまして、担当の柊です」
柔らかな口調とは裏腹に、瞳の光だけは深くて見えなかった。
住宅街まで来れば、電柱より高い建物が珍しくなってきた。カラスが見下ろしている電線が、この空間を怪しく彩っていた。
「犯人の家ってお前、当てがあるのかよ?」
「ない」
「はぁ!?」
「だが、この近くに住んでいるのは確かだ」
『どうしてそう言い切れるんですか?』
僕の行動に不安を覚える二人だが、朔弥はなんとなく分かっているようで、疑問符を浮かべることはなかった。
「徒歩が理由だよね」
「犯人は駅まで来たのは、車の免許を持ってないから。だから山とかまで行かずに電車やバスみたいな公共交通機関を利用している。不審な男の映像は駅構内しかなかったってことは、バスやタクシーで来ていない。そもそも、あまり第三者が多く利用する手段を使いたくなかったはずだ」
「つまり、駅から徒歩圏内の何処かに奴はいる」
まだ言ってないが、犯人の職場も徒歩圏内だろう。もし普段からバス等を利用しているなら、死体遺棄時刻に利用せず徒歩で来る方が怪しまれる。
そうでないということは、犯人は少なくとも家から駅までの範囲は全て徒歩で移動しているのだ。犯人の家まで特定は今はできないが、犯人の職場くらいは絞れるだろう。
『でも、どうやって犯人の居所を? 家は今は無理ですし、私はこの地域に来た記憶はないですよ?』
「有用な情報ありがとう。アンタに覚えはなくても、殺害現場はこの近くだぜ? どっかで昏睡させてカメラのキャリーケースに隠してくれば、獲物はいくらでも調達できる」
恐ろしいことを言いながら、一行はある建物の前に止まった。車が10台は停められそうな駐車場に、三階建ての清潔感あるビル。エントランス前の看板には「柊眼科クリニック」と書いてあった。
「おい、まさか犯人って・・・」
「西原は外で待機ね」
「は? 何でだよ」
「犯人は慎重で臆病な人物です。私と夜見さんは一般人に見えますが、西原さんは警察関係者の格好なので、危険を察知した犯人が逃げてしまう可能性が高いんです」
犯人は慎重深く頭の切れる人物だ。死体遺棄のトリックや駅のカメラを利用したアリバイ工作・・・・・・どれも凡人には考えつきにくい。自分の普段の生活を利用して、違和感を限りなく無くしたクレバーな犯罪は、僕でも称賛に値する。
そんな人物がこの地域から逃亡してしまえば、また同じ手口で事件が起きない限り捕まえるのは非常に困難だ。ならば僕と朔弥、そして天城で犯人を特定して秘密裏に証拠を見つけなければならない。何度も通うと怪しまれるので、チャンスはこの一回きりだろう。
「天城さん、貴女は朔弥に憑いて音や匂いに集中してください。覚えのある声や匂いなどがあったら朔弥に教えてください。ウチの助手は霊は見えないが声はハッキリ聞こえるんで」
『分かりました。朔弥さん、お世話になります』
天城は朔弥の肩に両手を置いて取り憑いた。朔弥も肩らへんに重さを感じて耳元で声がしたので天城が取り憑いたことを認識した。
二人で入るといざという時にもう片方もバレるため、先に僕が探りに行く。時間を空けて朔弥達が入り、なるべく静かにクリニック内を探してもらう。探すものは物体ではなく、天城が最後に感じた匂いと音だ。
最初は自宅で犯行に及んでいると思ったが、賢い男なら自分が安心できる場所ではなく、まさかここでやらないだろうという場所で殺人を犯す。僕がいなければ、警察もまさか患者が普通に出入りしているクリニック内で目を抉り殺されているなんて思いもしない。
受付で仮病を申告して診察を待つ。犯人かもしれない人が自分の目を診察すると思うと、なんだかヤブ医者に臓器を売り渡すような気分だ。
「先生入られまーす」
女性スタッフが医師の来訪を知らせた。奥のスライドドアが開いて、一人の中肉中背の男が入ってきた。少し大きな目、切り揃えられた短髪、短く整えられた顎ひげ。何より僕は、彼の瞳から視線が外せなかった。
「はじめまして、担当の柊です」
柔らかな口調とは裏腹に、瞳の光だけは深くて見えなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる