黄泉の探偵〜魂魄が導く事件簿〜

ディスマン

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第二章 見えない殺人犯

第九話 ハイライト/オフ

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 多摩モノレールに乗るでもなく、京王線に乗るでもない。僕たちは、徒歩で高幡不動駅から住宅街へ向かって歩いていた。都心から遠いだけあって、普段慣れ親しんだ喧騒とは無縁の領域である。
 住宅街まで来れば、電柱より高い建物が珍しくなってきた。カラスが見下ろしている電線が、この空間を怪しく彩っていた。

「犯人の家ってお前、当てがあるのかよ?」
「ない」
「はぁ!?」
「だが、この近くに住んでいるのは確かだ」
『どうしてそう言い切れるんですか?』

 僕の行動に不安を覚える二人だが、朔弥はなんとなく分かっているようで、疑問符を浮かべることはなかった。

「徒歩が理由だよね」
「犯人は駅まで来たのは、車の免許を持ってないから。だから山とかまで行かずに電車やバスみたいな公共交通機関を利用している。不審な男の映像は駅構内しかなかったってことは、バスやタクシーで来ていない。そもそも、あまり第三者が多く利用する手段を使いたくなかったはずだ」
「つまり、駅から徒歩圏内の何処かに奴はいる」

 まだ言ってないが、犯人の職場も徒歩圏内だろう。もし普段からバス等を利用しているなら、死体遺棄時刻に利用せず徒歩で来る方が怪しまれる。
 そうでないということは、犯人は少なくとも家から駅までの範囲は全て徒歩で移動しているのだ。犯人の家まで特定は今はできないが、犯人の職場くらいは絞れるだろう。

『でも、どうやって犯人の居所を? 家は今は無理ですし、私はこの地域に来た記憶はないですよ?』
「有用な情報ありがとう。アンタに覚えはなくても、殺害現場はこの近くだぜ? どっかで昏睡させてカメラのキャリーケースに隠してくれば、獲物はいくらでも調達できる」

 恐ろしいことを言いながら、一行はある建物の前に止まった。車が10台は停められそうな駐車場に、三階建ての清潔感あるビル。エントランス前の看板には「ひいらぎ眼科クリニック」と書いてあった。

「おい、まさか犯人って・・・」
「西原は外で待機ね」
「は? 何でだよ」
「犯人は慎重で臆病な人物です。私と夜見さんは一般人に見えますが、西原さんは警察関係者の格好なので、危険を察知した犯人が逃げてしまう可能性が高いんです」

 犯人は慎重深く頭の切れる人物だ。死体遺棄のトリックや駅のカメラを利用したアリバイ工作・・・・・・どれも凡人には考えつきにくい。自分の普段の生活を利用して、違和感を限りなく無くしたクレバーな犯罪は、僕でも称賛に値する。
 そんな人物がこの地域から逃亡してしまえば、また同じ手口で事件が起きない限り捕まえるのは非常に困難だ。ならば僕と朔弥、そして天城で犯人を特定して秘密裏に証拠を見つけなければならない。何度も通うと怪しまれるので、チャンスはこの一回きりだろう。

「天城さん、貴女は朔弥に憑いて音や匂いに集中してください。覚えのある声や匂いなどがあったら朔弥に教えてください。ウチの助手は霊は見えないが声はハッキリ聞こえるんで」
『分かりました。朔弥さん、お世話になります』

 天城は朔弥の肩に両手を置いて取り憑いた。朔弥も肩らへんに重さを感じて耳元で声がしたので天城が取り憑いたことを認識した。
 二人で入るといざという時にもう片方もバレるため、先に僕が探りに行く。時間を空けて朔弥達が入り、なるべく静かにクリニック内を探してもらう。探すものは物体ではなく、天城が最後に感じた匂いと音だ。
 最初は自宅で犯行に及んでいると思ったが、賢い男なら自分が安心できる場所ではなく、まさかここでやらないだろうという場所で殺人を犯す。僕がいなければ、警察もまさか患者が普通に出入りしているクリニック内で目を抉り殺されているなんて思いもしない。

 受付で仮病を申告して診察を待つ。犯人かもしれない人が自分の目を診察すると思うと、なんだかヤブ医者に臓器を売り渡すような気分だ。

「先生入られまーす」

 女性スタッフが医師の来訪を知らせた。奥のスライドドアが開いて、一人の中肉中背の男が入ってきた。少し大きな目、切り揃えられた短髪、短く整えられた顎ひげ。何より僕は、彼の瞳から視線が外せなかった。

「はじめまして、担当の柊です」

 柔らかな口調とは裏腹に、瞳の光だけは深くて見えなかった。
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