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第二章 見えない殺人犯
第八話 蜘蛛の釣り糸
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警察車両に乗り、3キロ半西にある高幡不動駅へ向かっている。運転席に西原、後部座席の両端に僕と朔弥が座り、一見空席になっている中央には天城が座っていた。
霊なのに席に座らされているのは、ひとえに目が見えない所為である。普通なら勝手に霊が憑いてくるのだが、目が見えないとなると僕が連れなければならない。
手を掴んでいるだけでもいいのだが、その場合は天城の霊が車外で風にはためく旗みたいになる。その状態でシリアスに推理や考察をする気にはなれなかった。
「動機は、やっぱり快楽殺人犯特有の?」
「俺らもその線は考えてる。目を集める殺人犯は別におかしくない。全然あり得る。だが、その場合だと目をくり抜いた後の死体に興味を示さないはずなんだ」
「サイコパスの性ってやつか」
天城は西原との会話を静かに聞いていた。西原も聞こえず見えないが、不自然に空いている後部座席の中央に居ることは察していた。
西原は聞こえていること前提に話を続ける。
「遺体には性的暴行の痕跡はなし。手足には縛られている跡はあったが、抵抗した傷はなかった。つまり、被害者は目を抉られていた時には睡眠薬や麻酔薬で昏倒させられていた可能性が高い」
「注射の跡とかはなかったですよ?」
「だから飲まされたと見るべきだろうな。飲み物に入れたのかは知らないが、だとすれば犯人は被害者の知人ということになる」
「そこまで分かってて何で僕らを呼んだのさ」
そこまで分かっているのなら、被害者の交友関係を徹底的に洗えば済む話だ。探偵を雇ってまで何を解明することがあるのだろうか。
僕はそう思ったが、西原が少しバツの悪い顔をしたのがルームミラー越しに見えた。
「確かにそうだが、ここからがミソだ。被害者の天城の交友関係に、男性は親族を除いて一人もいなかった」
「え? 学校のクラスメイトとか、職場の同僚とかはいなかったんですか?」
「天城は小学校から大学までずっと女子しかいない女学校出身だ。男性の知り合いはいなかったよ」
「ふ~ん。そうなの?」
僕は隣の天城に確認を取ってみた。目は見えなくても過去の記憶くらいは遡れる。前回の記憶喪失の霊ではないのだから、大丈夫だろう。
天城は自分の過去を改めて思い返して、目を閉じたまま声を頼りに僕の方を見てきた。
『・・・やっぱり、父以外に男性の方と別段親しくしたことはありませんね』
「だってよ」
「いやだってよも何も俺聞こえねえからね?」
「天城さんは"心当たりがない"と言ってます」
「うむむむむ・・・・・・」
車の中で西原と朔弥が唸っていると、もう駅前に着いたようだ。路肩に車を停めて、京王線ではなく多摩モノレールの方に向かう。駅員には既に話が行ってるらしく、柵を開けてコンコース内に招いてくれた。
階段で上に上がり駅のホームにある窓から下を覗くと、被害者が乗せられた京王線の電車が東京へ向かっていくのが丁度見えた。
「証言によれば、不審な男はキャリーケースを持ちながら挙動不審な動きをしていたらしい。ここから電車の屋根に上手いこと乗せたんだな?」
「いや、違うな」
「何だと?」
「よく見てみな」
僕は窓に近づき、コンコンと二回ほどガラスを叩いた。
「ここの窓は開閉するようにできていない。そもそも、よく考えればここから仮に落としたとして遺体を都合よく屋根に乗せて運んでくれる保証はない」
「じゃあどうやったって言うの?」
証言によれば、犯人はここで目撃されている。キャリーケースは中に遺体が入っていたのだろう。
人間の死後硬直は死後20時間で完全に完了する。つまり、押し込められた遺体があの様な手足がひしゃげた体勢になるということは、少なくとも線路沿いに死体が捨てられるまで死後20時間未満だったということになる。
僕らが来た時には硬直は終わっていたが、あの場所で電車で運ばれている間はまだ柔らかかったはずだ。
このモノレールに現れた容疑者は何のためにここに来たのか・・・。僕が窓の外を眺めていたら、西原に電話が来た。
「はい、もしもし・・・・・・本当か?」
「どした?」
「被害者の脇下に、何か細い糸で強く擦ったような跡が発見されたそうだ」
そこでようやく、僕は分かった。犯人が天城の死体を電車で運んだ方法を。そして、犯人がこの場所にわざと来た理由も。
電話を切った西原が僕を見て「何か分かったな」と聞いてきた。伊達に長い付き合いではない。
「犯人がどうやって被害者を電車に運ばせたか分かった」
「どんな手を使ったの?」
そこまで言って、数秒だけ勿体ぶるように間を空けて僕は現段階での推理を明かした。
「ロープだよ」
『「「ロープ?」」』
天城も一緒になって疑問符を浮かべる。
「犯人は駅じゃなくて、沿線のどこかから走行する電車にロープを引っ掛けて被害者の遺体を急激な力で引っ張らせた。
車がテーブルクロス引きする動画見たことあるか? あんな感じで、被害者に結ばれたロープが電車に引っ張られてピンと張ったら、瞬間的に時速100キロで引っ張られて遺体は宙に釣り上げられ、その加速度のまま地面に落下する。
遺体にロープが無かったのは、被害者の体重と引っ張りの強度を計算して丁度切れるロープの素材と細さを選んだからだな」
西原と天城は「なるほど」と感心した。そうすれば体のロープは切れて電車が持ち去ってしまうというわけだ。つまり、いまから当時京王線を上っていた電車を調べればそのロープは見つかるかもしれない。
西原はすぐに電車を調べるよう無線で指示を飛ばした。
「じゃあ俺たちは折角ここに来たわけだし、犯人の家でも探すか?」
霊なのに席に座らされているのは、ひとえに目が見えない所為である。普通なら勝手に霊が憑いてくるのだが、目が見えないとなると僕が連れなければならない。
手を掴んでいるだけでもいいのだが、その場合は天城の霊が車外で風にはためく旗みたいになる。その状態でシリアスに推理や考察をする気にはなれなかった。
「動機は、やっぱり快楽殺人犯特有の?」
「俺らもその線は考えてる。目を集める殺人犯は別におかしくない。全然あり得る。だが、その場合だと目をくり抜いた後の死体に興味を示さないはずなんだ」
「サイコパスの性ってやつか」
天城は西原との会話を静かに聞いていた。西原も聞こえず見えないが、不自然に空いている後部座席の中央に居ることは察していた。
西原は聞こえていること前提に話を続ける。
「遺体には性的暴行の痕跡はなし。手足には縛られている跡はあったが、抵抗した傷はなかった。つまり、被害者は目を抉られていた時には睡眠薬や麻酔薬で昏倒させられていた可能性が高い」
「注射の跡とかはなかったですよ?」
「だから飲まされたと見るべきだろうな。飲み物に入れたのかは知らないが、だとすれば犯人は被害者の知人ということになる」
「そこまで分かってて何で僕らを呼んだのさ」
そこまで分かっているのなら、被害者の交友関係を徹底的に洗えば済む話だ。探偵を雇ってまで何を解明することがあるのだろうか。
僕はそう思ったが、西原が少しバツの悪い顔をしたのがルームミラー越しに見えた。
「確かにそうだが、ここからがミソだ。被害者の天城の交友関係に、男性は親族を除いて一人もいなかった」
「え? 学校のクラスメイトとか、職場の同僚とかはいなかったんですか?」
「天城は小学校から大学までずっと女子しかいない女学校出身だ。男性の知り合いはいなかったよ」
「ふ~ん。そうなの?」
僕は隣の天城に確認を取ってみた。目は見えなくても過去の記憶くらいは遡れる。前回の記憶喪失の霊ではないのだから、大丈夫だろう。
天城は自分の過去を改めて思い返して、目を閉じたまま声を頼りに僕の方を見てきた。
『・・・やっぱり、父以外に男性の方と別段親しくしたことはありませんね』
「だってよ」
「いやだってよも何も俺聞こえねえからね?」
「天城さんは"心当たりがない"と言ってます」
「うむむむむ・・・・・・」
車の中で西原と朔弥が唸っていると、もう駅前に着いたようだ。路肩に車を停めて、京王線ではなく多摩モノレールの方に向かう。駅員には既に話が行ってるらしく、柵を開けてコンコース内に招いてくれた。
階段で上に上がり駅のホームにある窓から下を覗くと、被害者が乗せられた京王線の電車が東京へ向かっていくのが丁度見えた。
「証言によれば、不審な男はキャリーケースを持ちながら挙動不審な動きをしていたらしい。ここから電車の屋根に上手いこと乗せたんだな?」
「いや、違うな」
「何だと?」
「よく見てみな」
僕は窓に近づき、コンコンと二回ほどガラスを叩いた。
「ここの窓は開閉するようにできていない。そもそも、よく考えればここから仮に落としたとして遺体を都合よく屋根に乗せて運んでくれる保証はない」
「じゃあどうやったって言うの?」
証言によれば、犯人はここで目撃されている。キャリーケースは中に遺体が入っていたのだろう。
人間の死後硬直は死後20時間で完全に完了する。つまり、押し込められた遺体があの様な手足がひしゃげた体勢になるということは、少なくとも線路沿いに死体が捨てられるまで死後20時間未満だったということになる。
僕らが来た時には硬直は終わっていたが、あの場所で電車で運ばれている間はまだ柔らかかったはずだ。
このモノレールに現れた容疑者は何のためにここに来たのか・・・。僕が窓の外を眺めていたら、西原に電話が来た。
「はい、もしもし・・・・・・本当か?」
「どした?」
「被害者の脇下に、何か細い糸で強く擦ったような跡が発見されたそうだ」
そこでようやく、僕は分かった。犯人が天城の死体を電車で運んだ方法を。そして、犯人がこの場所にわざと来た理由も。
電話を切った西原が僕を見て「何か分かったな」と聞いてきた。伊達に長い付き合いではない。
「犯人がどうやって被害者を電車に運ばせたか分かった」
「どんな手を使ったの?」
そこまで言って、数秒だけ勿体ぶるように間を空けて僕は現段階での推理を明かした。
「ロープだよ」
『「「ロープ?」」』
天城も一緒になって疑問符を浮かべる。
「犯人は駅じゃなくて、沿線のどこかから走行する電車にロープを引っ掛けて被害者の遺体を急激な力で引っ張らせた。
車がテーブルクロス引きする動画見たことあるか? あんな感じで、被害者に結ばれたロープが電車に引っ張られてピンと張ったら、瞬間的に時速100キロで引っ張られて遺体は宙に釣り上げられ、その加速度のまま地面に落下する。
遺体にロープが無かったのは、被害者の体重と引っ張りの強度を計算して丁度切れるロープの素材と細さを選んだからだな」
西原と天城は「なるほど」と感心した。そうすれば体のロープは切れて電車が持ち去ってしまうというわけだ。つまり、いまから当時京王線を上っていた電車を調べればそのロープは見つかるかもしれない。
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