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EPISODE3 新しい生活
新しい生活②
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蒼汰が落ち着いた頃、「ご飯は食べないと元気になれないよ?」と怜音が心配そうに声をかけてくれる。
「蒼ちゃん、今日は寒かったからキムチ鍋にしてみたよ」
「キムチ鍋?」
「うん。野菜と肉をたっぷり入れたからね。あ、もしかして蒼ちゃん辛い物苦手だった?」
「そんなことない。辛い物大好きだよ。ありがとう」
「よかった。じゃあ、食べようか」
蒼汰の笑顔を見て嬉しそうに微笑む怜音。先程の会話を気にしていないような怜音の素振りに、蒼汰はホッと胸を撫で下ろす。
「野菜も肉もたくさん入れたからね」
そんな怜音を見ると、蒼汰の心は温かくなる。
一人でいるときは笑うことなんてなかったら、自然と口角が上がっていく自分に、最初はびっくりした。心がポカポカと温かくて、でも胸がギュッと締め付けられる。
――誰かと一緒にいられるって、こんなにも幸せなんだ。
幸せなのに、苦しい。
それでも、怜音との新しい生活は蒼汰にとって、嬉しい変化だった。
「美味しい?」
「うん、すごく美味しい」
「よかった。ほら、蒼ちゃん。お肉たくさん食べて? こんなに細いんだから、いっぱい食べなきゃ駄目だよ?」
「あ、うん。ありがとう」
眉を顰めながら、蒼汰の器に次々に肉を放り込んでくれる怜音を見ていると、なんだか可笑しくなってしまう。
キムチ鍋を食べた蒼汰は、体だけではなくて、心までも温かくなったのだった。
――こんなに穏やかな日々が、ずっと続けばいいのに……。
そう思いながら、まだ元彼から連絡がくるスマホの電源をオフにした。もうあの人と連絡をとるのはやめよう……そう心に誓う。
目の前で楽しそうに色々な話をしてくれる怜音との時間を、大切にしたいと思えたから。
食後に飲んだ抑制剤が効いたらしく、体の熱が少しだけ治まった気がする。長引いたヒートの症状が落ち着いたことに、安堵のため息をついた。
「蒼ちゃん。ちょっとこっちに来て?」
「え? あ、ちょっと……」
怜音が、風呂上がりの蒼汰の首筋に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いだ。その至近距離に、心臓が大きく飛び跳ねる。
「フェロモンの匂いが少し弱くなった気がする。シャンプーの香りしかしないよ」
「本当? よかった……」
「本当によかったよ。あと少しで蒼ちゃんを襲っちまうところだったから。危なかった……」
「……え?」
「俺の理性、優秀過ぎだろう? 普通のαなら、もうとっくに襲ってるところだよ」
そう照れたように頭を掻き毟る怜音。その言葉に蒼汰の顔も一瞬で茹蛸のように赤くなってしまった。
「俺さ、すげぇ我慢したんだぜ?」
「な、なんで?」
「なんでって……そりゃあ蒼ちゃんを大事にしたいからに決まってるだろう? 俺は、蒼ちゃんが俺と番になっていいって思うときまで、ずっと待つつもりだって言ったじゃん」
「怜音君……」
「子供の頃の蒼ちゃんも可愛かったけど、大人になった蒼ちゃんもすごく可愛い」
怜音は照れたようにはにかみながら、蒼汰の額に自分の額を押し当てる。怜音の吐息が顔にかかり、恥ずかしくなった蒼汰はギュッと目を閉じた。
「ふふっ。そんなに警戒しなくてもいいよ。ほら、髪を乾かしてあげるから、こっちにおいで」
「……うん」
ポタポタと垂れる雫をタオルで拭いてくれながら、怜音が微笑む。「まだ髪がびしょ濡れじゃん」とケラケラ声を出して笑っている。
今日もまた、そんな怜音の笑顔に救われた気がした。
「明日の夕飯なにがいい?」
「また明日も何か作ってくれるの?」
「うん。でも明日はバイトがあるから、帰りが少し遅くなるかも」
「じゃあ、無理して作ってくれなくてもいいよ」
「駄目、俺が蒼ちゃんに作ってあげたいの」
「そっか……ありがとう」
ドライヤーの温かな風と、怜音の大きくてゴツゴツした手はやっぱり気持ちがいい。昼過ぎまで寝ていたのに、ついウトウトしてしまった。
「蒼ちゃん、ハンバーグなんてどう?」
「あ、俺ハンバーグ大好き」
「わかった、じゃあ明日はハンバーグにしよう」
「本当に? 楽しみだなぁ」
「うん。俺も」
「怜音君、ありがとう」
無意識に自分の髪を乾かしている怜音の手をとって……頬擦りをした。そんな蒼汰を見て、怜音が顔を真っ赤にしながら目を見開いている。
明日が楽しみだなんて、一体いつぶりだろうか。今までは明日がくることが、怖くて仕方がなかったから。
「明日が楽しみだなぁ」
蒼汰は怜音の大きな手を握り締めながら、そっと目を閉じた。
「蒼ちゃん、今日は寒かったからキムチ鍋にしてみたよ」
「キムチ鍋?」
「うん。野菜と肉をたっぷり入れたからね。あ、もしかして蒼ちゃん辛い物苦手だった?」
「そんなことない。辛い物大好きだよ。ありがとう」
「よかった。じゃあ、食べようか」
蒼汰の笑顔を見て嬉しそうに微笑む怜音。先程の会話を気にしていないような怜音の素振りに、蒼汰はホッと胸を撫で下ろす。
「野菜も肉もたくさん入れたからね」
そんな怜音を見ると、蒼汰の心は温かくなる。
一人でいるときは笑うことなんてなかったら、自然と口角が上がっていく自分に、最初はびっくりした。心がポカポカと温かくて、でも胸がギュッと締め付けられる。
――誰かと一緒にいられるって、こんなにも幸せなんだ。
幸せなのに、苦しい。
それでも、怜音との新しい生活は蒼汰にとって、嬉しい変化だった。
「美味しい?」
「うん、すごく美味しい」
「よかった。ほら、蒼ちゃん。お肉たくさん食べて? こんなに細いんだから、いっぱい食べなきゃ駄目だよ?」
「あ、うん。ありがとう」
眉を顰めながら、蒼汰の器に次々に肉を放り込んでくれる怜音を見ていると、なんだか可笑しくなってしまう。
キムチ鍋を食べた蒼汰は、体だけではなくて、心までも温かくなったのだった。
――こんなに穏やかな日々が、ずっと続けばいいのに……。
そう思いながら、まだ元彼から連絡がくるスマホの電源をオフにした。もうあの人と連絡をとるのはやめよう……そう心に誓う。
目の前で楽しそうに色々な話をしてくれる怜音との時間を、大切にしたいと思えたから。
食後に飲んだ抑制剤が効いたらしく、体の熱が少しだけ治まった気がする。長引いたヒートの症状が落ち着いたことに、安堵のため息をついた。
「蒼ちゃん。ちょっとこっちに来て?」
「え? あ、ちょっと……」
怜音が、風呂上がりの蒼汰の首筋に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いだ。その至近距離に、心臓が大きく飛び跳ねる。
「フェロモンの匂いが少し弱くなった気がする。シャンプーの香りしかしないよ」
「本当? よかった……」
「本当によかったよ。あと少しで蒼ちゃんを襲っちまうところだったから。危なかった……」
「……え?」
「俺の理性、優秀過ぎだろう? 普通のαなら、もうとっくに襲ってるところだよ」
そう照れたように頭を掻き毟る怜音。その言葉に蒼汰の顔も一瞬で茹蛸のように赤くなってしまった。
「俺さ、すげぇ我慢したんだぜ?」
「な、なんで?」
「なんでって……そりゃあ蒼ちゃんを大事にしたいからに決まってるだろう? 俺は、蒼ちゃんが俺と番になっていいって思うときまで、ずっと待つつもりだって言ったじゃん」
「怜音君……」
「子供の頃の蒼ちゃんも可愛かったけど、大人になった蒼ちゃんもすごく可愛い」
怜音は照れたようにはにかみながら、蒼汰の額に自分の額を押し当てる。怜音の吐息が顔にかかり、恥ずかしくなった蒼汰はギュッと目を閉じた。
「ふふっ。そんなに警戒しなくてもいいよ。ほら、髪を乾かしてあげるから、こっちにおいで」
「……うん」
ポタポタと垂れる雫をタオルで拭いてくれながら、怜音が微笑む。「まだ髪がびしょ濡れじゃん」とケラケラ声を出して笑っている。
今日もまた、そんな怜音の笑顔に救われた気がした。
「明日の夕飯なにがいい?」
「また明日も何か作ってくれるの?」
「うん。でも明日はバイトがあるから、帰りが少し遅くなるかも」
「じゃあ、無理して作ってくれなくてもいいよ」
「駄目、俺が蒼ちゃんに作ってあげたいの」
「そっか……ありがとう」
ドライヤーの温かな風と、怜音の大きくてゴツゴツした手はやっぱり気持ちがいい。昼過ぎまで寝ていたのに、ついウトウトしてしまった。
「蒼ちゃん、ハンバーグなんてどう?」
「あ、俺ハンバーグ大好き」
「わかった、じゃあ明日はハンバーグにしよう」
「本当に? 楽しみだなぁ」
「うん。俺も」
「怜音君、ありがとう」
無意識に自分の髪を乾かしている怜音の手をとって……頬擦りをした。そんな蒼汰を見て、怜音が顔を真っ赤にしながら目を見開いている。
明日が楽しみだなんて、一体いつぶりだろうか。今までは明日がくることが、怖くて仕方がなかったから。
「明日が楽しみだなぁ」
蒼汰は怜音の大きな手を握り締めながら、そっと目を閉じた。
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