僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々

文字の大きさ
9 / 16
EPISODE4 告白

告白②

しおりを挟む
 その翌日。


「行ってきます。今日もできるだけ早く帰るからね」
「うん。行ってらっしゃい」
「……蒼ちゃん。俺、大学に行きたくない」
「え? なんで? 大学で何かあったの?」
 突然拗ねたような顔をする怜音の顔を、慌てて覗き込む。もし怜音まで自分と同じように引き籠ってしまったら……そう思えば、心中穏やかではない。
「だって、蒼ちゃんとずっと一緒にいたいんだもん。だから、大学もバイトも行きたくない」
「怜音君……急にどうしたの?」
「俺、蒼ちゃんから離れたくない」
 突然駄々を捏ねながら自分にしがみついてくる怜音の体を、必死に受け止める。自分よりも体格のいい怜音に飛びつかれて、もう少しで尻もちをつくところだった。


 ――あぁ、なんて可愛らしいんだろう。


 蒼汰は怜音の体を強く抱き締め返した。


「俺も怜音君と離れるのが寂しいよ」
「本当に?」
「うん、本当だよ。でも怜音君はちゃんと大学に行かないと……。俺みたいになったら駄目だよ。怜音君が帰ってくるのを待ってるから」
「蒼ちゃん……」
「行ってらっしゃい」
 怜音の前髪を掻き分けて、額にそっとキスをする。素直に感情をぶつけてくる怜音が、蒼汰にはとても愛おしく感じられたから。
 子供のように不貞腐れた顔をしている怜音を、大学へと送り出す。
「蒼ちゃん……」
「いい子だから、行っておいで」
 扉が閉まるのを確認してから、大きく息を吐く。最後の最後まで駄々を捏ね続けた怜音を見ていると、可笑しくなってしまった。


 最近は怜音のおかげで、朝にはきちんと起きて、夜には眠るという生活リズムに戻りつつある。怜音が大学に行っている間に、掃除や洗濯といった家事だって、少しずつこなせるようにもなってきていた。
「ちゃんと朝起きられて偉いね」
 こんな当たり前のことで、怜音は蒼汰を褒めてくれる。まるで犬がお手をしたときのように、嬉しそうな顔をしながら頭を撫でてくれるのだ。
 だから、蒼汰は少しずつ立ち直れてきているのかもしれない。そう、怜音があまりにも優しいから。


 アパートに一人取り残された蒼汰は、突然寂しさに襲われる。怜音がいるときには、彼の明るい声と笑い声が響き渡っているのに……。独りぼっちの部屋はとても静かで、広く感じられた。
「寂しい」
 怜音と暮らすようになってから、再び感じるようになった寂しさ。でも、恋人を失ったときの寂しさとは違うものだった。
 怜音と一緒にいるときはあんなにも幸せなのに、一人になった瞬間寂しさを感じてしまう。それでも、怜音のことを思い出せば、まるでココアを飲んだときのように心が温かくなった。
 

 蒼汰は静かに窓際に近付いて、カーテンの隙間から外を盗み見る。まだ怜音は、アパートの近くにいるだろうか。後ろ姿だけでもいいから、見てみたい。強い衝動に駆られた。
 窓の外の景色を見た蒼汰は、思わず溜息を吐いた。


「わぁ……綺麗」


 街は朝日を受けキラキラと輝いている。こんなにも朝日は眩しかったのか……と驚いてしまった。
 学校へと向かう小学生たちが、楽しそうに笑いながら学校へと向かい走って行く姿に、スーツを着たサラリーマンが颯爽と自転車を漕いでいる姿。すぐ近くの大通りにはたくさんの車が走っていた。
 世界はこんなにも慌ただしい朝を迎えているのに、蒼汰の周りの時間は止まったままだ。その現実を目の当たりにしてしまうと、自分の不甲斐なさを感じてしまう。


 ――どうして自分は、こんな薄暗い世界にいるのだろうか?


 強い焦燥感に無力感。この世界から消えてしまいたいとさえ感じた。
 その瞬間、横断歩道を渡り切った怜音がアパートを振り返る。目が合ったように思えたのは気のせいだろうか……。
 蒼汰は咄嗟にカーテンを閉めて、床に蹲る。
「どうしよう……」
 まさか、怜音を盗み見ていたことがバレてしまっただろうか……。心臓がドキドキと高鳴り出す。
 ヒートは落ち着いてきていたけれど、思わず怜音の洋服を抱き締めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

君に捧げる紅の衣

高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。 でも、その婚姻はまやかしだった。 辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。 ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。 「辰を解放してあげなければ……」 しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?

君を選ぶ理由 〜花の香りと幼なじみのΩ〜

なの
BL
幼い頃から、桐生湊は桜庭凪のそばにいると、花が咲いたような香りを感じていた。 祖父同士が幼馴染という縁もあり、二人は物心つく前からいつも一緒だった。 第二性の検査で湊はα、凪はΩと判明。 祖父たちは「完璧な番」と大喜びし、将来の結婚話まで持ち上がる。 ――これはαとΩだから? ――家のため? そう疑う湊。一方、凪は「選ばれる側」としての不安を胸に、静かに距離を取ろうとする。 湊の兄・颯の存在も、二人のすれ違いを加速させる。 花の香りの奥に隠れた本当の気持ち。 役割や運命ではなく、「君だから」と選び直す、 幼馴染オメガバースBL

処理中です...