あなたのお気に召すままに

舞々

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Episode2 離れ離れの夜に

離れ離れの夜に①

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「朝から成宮先生爽やかね……」
「本当に。当直明けとは思えない」
 日勤の看護師さんが出勤した途端、そこらかしこで溜息が聞こえてくる。


 成宮先生は、昨日日勤が終わった後、そのまま当直をしていた。成宮先生が当直をしている時は当然家に一人きりなんだけど、いつもいつも、『誰かを家に連れ込むなよ』やら、『浮気はすんなよ』と言ったメールが届く。
 酷い時には電話が何回もかかってくる始末で……よっぽど信頼されてないんだなって悲しくなってしまうのだ。
 昨夜だって『浮気してなよな?』という確認のメールがきて、ひどく憂鬱な気分になってしまった。


「おはようございます」
 出勤した俺は、重たい足取りでナースステーションの隣にある処置室に顔を出す。また成宮先生に何か言われるのではないか……とドキドキしながら。
 そんな俺の気持ちなど梅雨も知らない成宮先生は、普段つけてはいない銀色のフレームの眼鏡をつけ、気だるそうに白衣を羽織っている。伸びた前髪を、ブラックコーヒーを飲みながら掻き上げる姿なんて、看護師さん達じゃないけど本当に惚れ惚れしてしまうくらいだ。


「お疲れ様です、成宮先生」
「あ? 俺がいなかったからゆっくり休めた、って顔してんな」
「え?」
 労うつもりが痛いところをつかれてしまった俺は、素直に狼狽えてしまう。だって実際そうだから。
 眠たいのに最後の力を振り絞ってエッチをする必要もないし、ゲームも好き放題できるし、何より誰にも気を使う必要がない。月に数回ある成宮先生の当直日は、俺にしてみたらいい気分転換なのだ。


「昨日は特に救急外来に来る子供が多くて、こっちはクタクタなのに……お前、俺がいない留守に浮気なんかしてないだろうな?」
「し、してませんよ! 何でそうなるんですか?」
「本当だろうな?」
「本当です」
 どこまでも信頼されていない俺は、ついムキになって否定してしまう。だって、俺は俺なりに成宮先生とは真剣にお付き合いをしているつもりだから。


「ふぅん……なら、確認してみるか?」
「確認?」
「そうだ、こいよ」
 グイッ腰を引き寄せられ、俺はバランスを崩しながらも成宮先生に必死にしがみついつく。そのままヒョイと抱き抱えられ、俺は自然と椅子に座っている成宮先生の膝の上に跨る格好になってしまった。
「先生、先生……まずいですよ、誰かに見られちゃう」
「シーッ! 今は朝のミーティング中だから大丈夫だ」
「でも……」
「大丈夫だって言ってんだろ?お前が暴れなければ、な」
 扉が閉まっているもののすぐ隣はナースステーションで、出勤した看護師さん達がミーティングをしている声が聞こえてくる。誰かに見つかったらどうしよう……と不安になる俺は、何とか先生から逃げようと両腕を突っ張ってはみるけど、楽しそうな顔をした成宮先生に逆にギュッと抱き締められてしまった。


「お前が、本当に浮気してないかの確認と……」
 耳に唇を寄せられて囁かれれば、ゾクゾクっと甘い電流が全身を走り抜けて行く。俺が女の子になってしまうスイッチを、いつもこうやって入れられてしまうのだ。
「一晩離れてた分の葵を補充させろ」
「あッ……」
 首筋をペロッと舐められて、そのまま唇を奪われてしまう。それでも時間を気にしてか、いきなり舌を絡めとられ強く吸われた。
「ん、んん……はぁ、むぅ……」
 あまりに激しいキスに、一気に周りが見えなくなってしまう。夢中で舌を絡め合い、息継ぎをするのさえ惜しいくらいに、お互いの唇を堪能した。


「葵……声出すなよ……」
「あ、ちょ、ちょっと待って……そこは……」
 成宮先生は俺のお尻を掴むと、ゆるゆると揉み始める。その手つきがいやらしくて、思わず体に力を込めた。
「なんで……お尻なんか触るんですか……?」
「んー、葵が俺の当直中に浮気してなかったかチェックしてんだよ」
「やだ、やめて、成宮先生。あッ、本当にもう駄目だから」
「おい、葵。あんまりデカい声出すなよ。誰かに見られたら困るんだろ? それともお前、なんか期待してんの?」
「はぁ?」
「ふふっ。葵はエッチだなぁ」


 あはははは! その瞬間、ナースステーションの方から笑い声が聞こえてくる。
 何をやっているんだろうって、残された冷静な自分が警笛を鳴らしている。誰かに見つかったら、本当に洒落にならない。俺も、成宮先生も、この病院にはいられなくなってしまうだろう。


 でも、でも……。もう少しだけなら……。
 

「お願い、千歳さん。声出さないから、もっと触って?」
「葵……」
「俺、いい子に声出さないように頑張るから。気持ち良くしてください。いい子にするから……」
「お前……それは反則だろ……」
「お願い」
 耳元で成宮先生の溜息が聞こえた瞬間、下着の中に手を差し込また。
「あぅ……あ、あッ……」
 待ち侘びた刺激に、体が大きく仰け反り、甘い電流が頭の先から爪先を一気に駆け抜けていく。


 遠くではナースコールが鳴っていて、パタパタと忙しそうに走る足音も聞こえてきた。
 こんな朝っぱらから、しかも職場で何やってんだよ……と本当に馬鹿らしくもなるけど、そんな背徳感が快感を助長して行く。
 貪るようなキスをして、隙間がないくらい抱き合って。俺達は成宮先生の呼び出しのPHSがなるまで、甘い時間を過ごしてしまった。


「エロい尻だったけど、浮気はしてなかったみたいだな」
 トロトロに蕩けた俺を見て、成宮先生が満足そうに微笑んだ。


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