あなたのお気に召すままに

舞々

文字の大きさ
38 / 149
Episode6 腐れ縁でも愛しい人

腐れ縁でも愛しい人②

しおりを挟む
「やりてぇ……」
「はい?」
「葵にくっついてたら、ヤリたくなった」
「い、今までの流れのどこに、その要素が……?」
「だって、お前の全てがエロいから」
「ごめんなさい、意味わかんない」


 成宮先生は意味不明な理屈を並べたてて、俺の腰に更に力を籠めて抱きついてくる。
 その言動全てがめちゃくちゃなのに、それを咎めようという気持ちにもならない。だって、成宮千歳という男は、そういう人間なのだ。
 俺のシャツの中にシレッと手を忍ばせ、無遠慮に体を撫でまわし始める。そのままキュッと胸の飾りを摘ままれると、俺の体がピクンと跳ね上がった。


「あぅッ! ちょっと……千歳さん……俺、この資料、今日中に作らないと……あ、あッ」
「何でだよ、後でいいだろう?」
 意地の悪い笑みを浮かべた成宮先生が突然体を起こし、俺の首筋をペロッと舐め上げた。
「あぁ! 首……駄目ぇ……」
「駄目じゃないだろう?」
「はぁ、あ、あッ……」
 両方の突起を指先で虐められれば、俺の吐息がどんどん甘くなっていくのを感じる。


 俺の困った顔が大好きな成宮先生は、ニコニコとご満悦そうだ。
「あ、あぁッ。ちくしょう……」
 俺は、ギュッと唇を噛みしてから、力任せに成宮先生の体を突き放した。
「なら、ご飯食べてからにしましょう?」
「はぁ? 飯? なんで? 今そういう雰囲気だったじゃん」
「駄目です。ご飯が先です。もう八時過ぎてるし」


 時計を見れば、もう二十時を回っていて、俺のお腹の虫は先程からキュルキュルと悲鳴を上げていた。
 それでも、まるで猫みたいに自分の胸に頬擦りしている成宮先生を見れば、もっともっと甘やかしてやりたくもなるのだ。
 柔らかい髪を優しく撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。
「可愛い……」
 思わず口をついた本音。
 本人に聞こえるとまた調子に乗るだろうから、聞こえないようにそっと呟いた。


 なんやかんで、俺は成宮先生が可愛くて仕方なかった。
 だって、いろんな診療科の部長達でさえ一目置く若きスーパードクターが、子供みたいに甘えてくるなんて……。こんな姿は、絶対に俺しか見ることができない。
 そう思えば、自分はこの人にとって、本当に特別な存在なんだな……って感じることができたから。


 立ち上がってキッチンに向かおうとすれば、成宮先生が俺の腕を掴む。バランスを崩した俺は、もう一度その場に座り込んでしまった。
「今度はなんですか?」
 小さく溜息をつけば、成宮先生が切れ長の瞳で俺を見上げていた。
 今日の成宮先生は、本当に理解に苦しむ行動ばかりで……さすがの俺も困ってしまう。


「いいよ、俺がどっかで弁当買ってくる」
「え?」
「なんか、今日の葵……疲れてそうだから」
「成宮先生……」
「だから休んでて。まだ、資料作りも終わらなそうだし」


 床に放り投げてあった上着を無造作に羽織って、鏡を覗き込みながら手櫛で髪を整えている。
 正直、資料が作り終わっていなかった俺は、成宮先生の気遣いがすごく嬉しかった。
 自分勝手に振舞っているようで、ちゃんと俺のことを考えてくれていたことが、擽ったい。やっぱり、俺の恋人は優しいのだ。
 ただし、超が付くほどの我儘だけど……。
 俺がつかれている理由の半分は、あなたが原因なんですけど? と言ってやりたい思いを、グッと心の奥に押し込めた。


「だから……」
 成宮先生が少しだけ照れくさそうに俯く。その整った顔が、少しだけ赤らんでいた。
「飯食い終わったら、抱かせてな?」
 そう言い残して、成宮先生は出掛けて行ってしまった。
 パタン。
 ドアの閉まる音が聞こえた後、静けさだけが広い室内に残される。


「ちょっと……今飯食っても、味なんかしないでしょう……」
 俺は悶絶しながら、頭を抱えてその場に蹲った。





 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...