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Episode11 野良猫みたいな恋
野良猫みたいな恋③
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「じゃあ橘先生は、お父様の病院に移られる前は、この病院で働いていたんですか?」
「うん、そうだよ。成宮と同期なんだけど、研修医が終わってからも何年かここで一緒に働いてたんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「成宮が元気そうで良かった」
そう話す橘先生は大病院の御曹司という肩書きの割には、気さくで話しやすい人だった。
近くで見れば本当に容姿端麗で、可愛らしいのにかっこいい。それに、とても優しい話し方をしてくれる。
俺は、すぐに橘先生に惹かれてしまった。
医師としても、同じ男としても本当にかっこいい。大人の男の魅力に溢れた人だった。
来てそうそう、二件もの心臓カテーテル手術を終えた橘先生が、髪を掻き上げながら手術室から出てくる。
「あんなに難しいOPEを二件も……凄い……」
その鮮やかさに感動してしまった。
「凄いですね、橘先生」
「あぁ、水瀬君。ありがとう」
手術を見学していた俺は、真っ先に橘先生に駆け寄った。
医療に関する技術だけでなく、人間的にも完璧な橘先生に俺はすっかり魅了されてしまっている。
こんな人間になりたい……心の底からそう思った。
「水瀬君は素直で可愛いなぁ」
少しだけ自分より背の高い橘先生を見上げれば、優しく肩を叩いてくれる。
そんな仕草も、堪らなくかっこよかった。
「おい、水瀬。こっちに来い」
「え?」
「いいから来いよ」
橘先生に可愛いなんて言われてご機嫌な俺は、一気に現実に引き戻される。いつの間にか近くにいた成宮先生に、グイッと腕を強く引かれた。
「ちょ、ちょっと成宮先生……痛い……」
あまりにも強く腕を引かれたものだから、俺は顔を顰めた。
「そろそろ午後の回診だ。いつまでほっつき歩いてんだよ」
「わ、わかってますから、手を離してください」
「お前トロイからさ。迷子にでもなったのかと思った」
「ひどいい……職場で迷子になるわけないじゃないですか?」
引き摺られるように廊下を早足で歩けば、後ろから橘先生の声が聞こえてくる。それに成宮先生が反応した。
でもその顔は、久しぶりに再会した同期に向けられるような優しいものではなく、ひどく険しいものだった。
「成宮、しばらく会わないうちに、お前、猫飼ったのか?」
「あぁ?」
「可愛い猫じゃん。ちょっとポヤポヤしてるけど」
「おい、お前、絶対手を出すなよ」
「はいはい、わかりました」
話してる内容は全然わからなかったけど、イケメン同士のやり取りを、俺は神々しい思いで見つめた。
成宮先生は仏頂面で俺の腕を掴みながら、ズンズン歩き続ける。でも、リーチの長さが違い過ぎるから俺は走っているようなものだ。
何を怒っているのかはわからないけど、明らかに不機嫌な成宮先生に俺は困惑してしまう。
「成宮先生……」
「…………」
「成宮先生! ……もう、千歳さん!」
「あ、ん? なんだ?」
驚いた顔で俺を振り返る成宮先生に、俺はギュッとしがみついた。
「あんまり速く歩かれるとついてけないです」
「悪い……」
息を整えながら成宮先生を見上げれば、バツの悪そうな顔をしている。成宮先生が何を考えているのかが分からず、俺は首を傾げた。
気まずいのか、前髪をクシャクシャッと掻き毟っている。
「あのさ、葵。俺はなにがあってもお前のことが好きだからな」
「急に、どうしたんですか……」
「いいから、それだけは覚えておけよ」
「あ、はい」
意味も分からず俺が頷けば、突然体を引き寄せられる。「え?」と思う暇もなく、俺は成宮先生に唇を奪われてしまった。
俺が目を見開いて言葉を失っていると、成宮先生はいつもみたいに俺を残して、どんどん病棟へと行ってしまう。
成宮先生の言動に理解できずに呆然と立ち尽くしていれば、成宮先生が「おいでおいで」をしてくれる。
「ほら、回診行くぞ」
「あ、はい」
俺は慌てて成宮先生を追いかけた。
◇◆◇◆
橘先生が来た日から、大きな総合病院中がざわめきだった。
小児科病棟に突如現れたイケメンに、噂は持ち切りとなる。小児科の成宮先生と橘先生は、もはやうちの病院の名物になってしまったかのようだ。
「小児科病棟に超イケメンのドクターが二人もいるらしいよ!」
「あー! 知ってる知ってる! めちゃくちゃイケメンらしいじゃん!?」
「マジで!? あたし、ちょっと覗いてこようかな?」
そんな噂話が飛び交い、明らかに二人を見に来たスタッフが小児科病棟をウロウロしているのがわかる。
入院している子供の母親達は、みんな目をキラキラさせながら一日二回の回診を待ち侘びている。
橘先生が来た日から病院中がざわついて、異様な雰囲気に包まれた。
俺はと言うと、完全にその被害を被っている。
看護師さんたちには二人のことを色々問いただされるし、写真を撮ってきて欲しいと頼まれる始末だ。
加えて俺が病室に行くと、
「あぁ、お前か……」
と明らかにガッカリした雰囲気に包まれるのだ。
きっとみんなが、成宮先生や橘先生に来て欲しいんだろうな……っていうのはわかるんだけど、俺だってその度に傷ついてしまうのだ。
「キャー! 見て見て! ナースステーションに成宮先生と橘先生がいる!?」
「ヤダヤダ! めちゃくちゃかっこいい!」
小児科病棟に勤務する看護師さんの、黄色い声援が聞こえてくる。
そっとナースステーションを覗き込めば、二人してMRIの画像をチェックしていた。その姿は惚れ惚れするくらいかっこいい。
綺麗な成宮先生に、可愛くてかっこいい橘先生。
タイプが全く違うのに、すごく絵になる。
「なんかさ……あの二人異常に距離が近くない?」
「あ、それあたしも思った! 二人でいる時の雰囲気が、なんか普通じゃないって言うか……恋人みたいなんだよね!」
「そうそう! いつも二人でいるし、完全に二人だけの世界がある感じがする!」
「めっちゃわかるー! 案外デキてたりして!?」
「ヤダー! イケメン同士でBLって超萌えるんだけど!?」
なんだ、それ……。
看護師さんたちの楽しそうな話に、俺の耳がダンボになってしまう。
ちょっと聞き捨てならないんだけど……?
俺の胸がザワザワした。
「うん、そうだよ。成宮と同期なんだけど、研修医が終わってからも何年かここで一緒に働いてたんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「成宮が元気そうで良かった」
そう話す橘先生は大病院の御曹司という肩書きの割には、気さくで話しやすい人だった。
近くで見れば本当に容姿端麗で、可愛らしいのにかっこいい。それに、とても優しい話し方をしてくれる。
俺は、すぐに橘先生に惹かれてしまった。
医師としても、同じ男としても本当にかっこいい。大人の男の魅力に溢れた人だった。
来てそうそう、二件もの心臓カテーテル手術を終えた橘先生が、髪を掻き上げながら手術室から出てくる。
「あんなに難しいOPEを二件も……凄い……」
その鮮やかさに感動してしまった。
「凄いですね、橘先生」
「あぁ、水瀬君。ありがとう」
手術を見学していた俺は、真っ先に橘先生に駆け寄った。
医療に関する技術だけでなく、人間的にも完璧な橘先生に俺はすっかり魅了されてしまっている。
こんな人間になりたい……心の底からそう思った。
「水瀬君は素直で可愛いなぁ」
少しだけ自分より背の高い橘先生を見上げれば、優しく肩を叩いてくれる。
そんな仕草も、堪らなくかっこよかった。
「おい、水瀬。こっちに来い」
「え?」
「いいから来いよ」
橘先生に可愛いなんて言われてご機嫌な俺は、一気に現実に引き戻される。いつの間にか近くにいた成宮先生に、グイッと腕を強く引かれた。
「ちょ、ちょっと成宮先生……痛い……」
あまりにも強く腕を引かれたものだから、俺は顔を顰めた。
「そろそろ午後の回診だ。いつまでほっつき歩いてんだよ」
「わ、わかってますから、手を離してください」
「お前トロイからさ。迷子にでもなったのかと思った」
「ひどいい……職場で迷子になるわけないじゃないですか?」
引き摺られるように廊下を早足で歩けば、後ろから橘先生の声が聞こえてくる。それに成宮先生が反応した。
でもその顔は、久しぶりに再会した同期に向けられるような優しいものではなく、ひどく険しいものだった。
「成宮、しばらく会わないうちに、お前、猫飼ったのか?」
「あぁ?」
「可愛い猫じゃん。ちょっとポヤポヤしてるけど」
「おい、お前、絶対手を出すなよ」
「はいはい、わかりました」
話してる内容は全然わからなかったけど、イケメン同士のやり取りを、俺は神々しい思いで見つめた。
成宮先生は仏頂面で俺の腕を掴みながら、ズンズン歩き続ける。でも、リーチの長さが違い過ぎるから俺は走っているようなものだ。
何を怒っているのかはわからないけど、明らかに不機嫌な成宮先生に俺は困惑してしまう。
「成宮先生……」
「…………」
「成宮先生! ……もう、千歳さん!」
「あ、ん? なんだ?」
驚いた顔で俺を振り返る成宮先生に、俺はギュッとしがみついた。
「あんまり速く歩かれるとついてけないです」
「悪い……」
息を整えながら成宮先生を見上げれば、バツの悪そうな顔をしている。成宮先生が何を考えているのかが分からず、俺は首を傾げた。
気まずいのか、前髪をクシャクシャッと掻き毟っている。
「あのさ、葵。俺はなにがあってもお前のことが好きだからな」
「急に、どうしたんですか……」
「いいから、それだけは覚えておけよ」
「あ、はい」
意味も分からず俺が頷けば、突然体を引き寄せられる。「え?」と思う暇もなく、俺は成宮先生に唇を奪われてしまった。
俺が目を見開いて言葉を失っていると、成宮先生はいつもみたいに俺を残して、どんどん病棟へと行ってしまう。
成宮先生の言動に理解できずに呆然と立ち尽くしていれば、成宮先生が「おいでおいで」をしてくれる。
「ほら、回診行くぞ」
「あ、はい」
俺は慌てて成宮先生を追いかけた。
◇◆◇◆
橘先生が来た日から、大きな総合病院中がざわめきだった。
小児科病棟に突如現れたイケメンに、噂は持ち切りとなる。小児科の成宮先生と橘先生は、もはやうちの病院の名物になってしまったかのようだ。
「小児科病棟に超イケメンのドクターが二人もいるらしいよ!」
「あー! 知ってる知ってる! めちゃくちゃイケメンらしいじゃん!?」
「マジで!? あたし、ちょっと覗いてこようかな?」
そんな噂話が飛び交い、明らかに二人を見に来たスタッフが小児科病棟をウロウロしているのがわかる。
入院している子供の母親達は、みんな目をキラキラさせながら一日二回の回診を待ち侘びている。
橘先生が来た日から病院中がざわついて、異様な雰囲気に包まれた。
俺はと言うと、完全にその被害を被っている。
看護師さんたちには二人のことを色々問いただされるし、写真を撮ってきて欲しいと頼まれる始末だ。
加えて俺が病室に行くと、
「あぁ、お前か……」
と明らかにガッカリした雰囲気に包まれるのだ。
きっとみんなが、成宮先生や橘先生に来て欲しいんだろうな……っていうのはわかるんだけど、俺だってその度に傷ついてしまうのだ。
「キャー! 見て見て! ナースステーションに成宮先生と橘先生がいる!?」
「ヤダヤダ! めちゃくちゃかっこいい!」
小児科病棟に勤務する看護師さんの、黄色い声援が聞こえてくる。
そっとナースステーションを覗き込めば、二人してMRIの画像をチェックしていた。その姿は惚れ惚れするくらいかっこいい。
綺麗な成宮先生に、可愛くてかっこいい橘先生。
タイプが全く違うのに、すごく絵になる。
「なんかさ……あの二人異常に距離が近くない?」
「あ、それあたしも思った! 二人でいる時の雰囲気が、なんか普通じゃないって言うか……恋人みたいなんだよね!」
「そうそう! いつも二人でいるし、完全に二人だけの世界がある感じがする!」
「めっちゃわかるー! 案外デキてたりして!?」
「ヤダー! イケメン同士でBLって超萌えるんだけど!?」
なんだ、それ……。
看護師さんたちの楽しそうな話に、俺の耳がダンボになってしまう。
ちょっと聞き捨てならないんだけど……?
俺の胸がザワザワした。
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