あなたのお気に召すままに

舞々

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第六章 突然のキス

突然のキス②

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 成宮先生が手術室に入って、もうすぐ四時間が経過しようとしていた。


 成宮先生は「先に帰ってろ」って言ってくれたけど、こんな状況で帰れるはずなんてない。だって、優太君のご両親は手術室の前で、『手術が成功しますように……』と祈り続けていることだろう。


 先生だって長時間の手術だから、きっと疲れきっているはずだ。そんな人達を置いて、自分だけ呑気に帰るなんてできるはずがない。俺は、そんな手術室から少し離れたベンチで、ずっと成宮先生が戻って来るのを待っていた。


「成宮先生って本当にすごいや……」


 俺は天井を仰ぎながらポツリと呟く。


 一般的に小児科といっても、新生児を専門とする医師。それに循環器や小児癌、血液など内科を専門に扱う医師。発達を専門的にみてくれる医師もいる。それから主に手術を担当する小児外科医……小児科と一言で言っても、その医師が専門とする分野があるのだ。


 そんな中、成宮先生は内科から外科的手術まで広く対応することができる。
 彼がスーパードクターと呼ばれる理由は、きっとそこにあるのだろう。


「成宮先生みたいに、なんでもできる医師になりたい……。たくさんの患者さんを救いたいんだ……」


 今頃きっと、優太君の命を助けるために、一生懸命手術をしているであろう成宮先生を思えば、俺の胸は熱くなった。



 手術室の扉が開いた瞬間、優太君の両親が成宮先生に縋りつく。


「先生! 優太は、優太は!」
 そんな両親を、成宮先生はそっと受け止めた。


「やれるだけのことはやりました。一命は取り留めましたので、今後も治療を続けていきましょう」
 その優しい声と表情に、母親が床に泣き崩れる。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
 そう繰り返す両親を見て、俺の胸は熱くなる。こんなの、映画やドラマだけのお話だと思っていたから。


 ずっと被っていた手術用の帽子のせいで乱れた前髪を搔き上げながら、成宮先生が大きな溜息をつく。そんな姿も、凄く様になった。


「成宮先生」
「ん?」
 そっと背後から声を掛けると、成宮先生が立ち止まって俺を振り返った。その表情は酷く疲れ切っているのに、とても穏やかだった。


「お疲れ様でした」
「あ、うん。お前、まだいたの?」
「はい。優太君も、成宮先生も……心配だったので……」
「お前が心配する側なんだな?」
 成宮先生が眉を顰めた後、ククッと喉の奥で笑う。


「なぁ、遅くなったついでに、ちょっと付き合えよ」
「え? 何にですか?」
「オリエンテーションの続きだよ。まだ案内してない場所があるんだ」


 悪戯っぽく笑った成宮先生に手招きをされたから、俺は慌てて後を追いかける。
 こんな時間にどこへ行くのかなんて全然想像がつかなかったけど、俺はまた、あの不整脈と息苦しさを感じていた。
 
 
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