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Episode22 クリスマスの願い
クリスマスの願い①
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「はぁ……。今年もクリスマスイブに当直か……」
俺は十二月の勤務表を見て、大きく息を吐く。
ちなみに二十五日は成宮先生が当直だから、今年もクリスマスは素通りだ。
医療従事者に盆暮れ正月、クリスマスにバレンタインなんて関係がないことなんてわかりきっているけれど……。でも、たまには成宮先生と二人で、クリスマスを祝ってみたい。
それに、クリスマスイブは、成宮先生の生誕祭でもある。
あの天上天下唯我独尊である、成宮先生の生誕祭を祝うことができないなんて、罰当たりにも程がある。
そんな記念すべき日に当直なんて……本当についてない。
豪華な料理に、綺麗に飾り付けられたデコレーションケーキ。
部屋は、心許ない蝋燭の灯りがゆらゆら揺れているだけ……。
そんな淡い炎の前で成宮先生が笑った。
「メリークリスマス、葵」
「メリークリスマス、成宮先生」
そのまま、静かに見つめ合う。
蝋燭の揺らめく影が成宮先生に影を落とし、彼の整った顔立ちを更に引き立てている。
その美しさに、俺はしばし言葉を失ってしまった。
その時――。
「やっぱり駄目だ、葵。我慢できない」
「ちょ、ちょっと成宮先生!」
「ご馳走よりも、葵が食べたい」
頬を紅潮させた成宮先生に、ソファーに押し倒されてしまう。
あまりにも突然だったから、俺が目を瞬かせると、強引に唇を奪われてしまう。それから、ねっとりと耳を舐められ後、そっと耳打ちされた。
「なぁ、葵を食べてもいいだろう?」
「で、でも、せっかくの料理が冷めちゃいますよ?」
「また温め直せばすむだろう?」
「でも……」
「でも、じゃない」
蝋燭の炎で照らされた成宮先生を見て、欲情していく自分を感じる。
体が火照りだし、俺だって、成宮先生が欲しくなってしまった。俺は心の中で静かに白旗を振りながら、そっと目を閉じる。
「葵、可愛いな」
成宮先生の吐息が近づいてきて……。もう一度優しく唇が重なった。
「……先生、水瀬先生!」
「はい?」
突然名前を呼ばれた俺は、ハッと我に返った。
遠くではナースコールが鳴っている。俺のすぐ脇を、小走りに看護師さんが通り抜けていった。
(俺は、職場でなんていう妄想していたんだ……)
冷静になった俺は、恥ずかしくなってしまう。
あんな妄想をしていたなんて、俺は欲求不満なんだろうか? 心底自分が情けなくなってしまった。
遠くのほうでは、「先生は、クリスマスに何かご予定はあるんですか?」とナーステーションにいる成宮先生を、看護師さんたちが取り囲んでいる。
隙あらば、成宮先生をデートに誘いたい――。そんな下心が見え見えだ。
まぁ、これも毎年恒例の行事になったけれど。
でも嬉しいことに、成宮先生は「恋人がいるので、恋人と過ごします」とはっきりと言ってくれる。
それが、俺はすごく嬉しかった。
だって、俺は成宮先生にとって、特別な存在なんだから。
そんな恋人を遠くから眺めていると、先ほど声をかけてきた看護師さんにこう問いかけられた。
「今年のクリスマス会でも、サンタクロース役をお願いしてもいいですか?」
「あ、はい。僕でよければ……」
「毎年可愛らしいサンタクロースが来てくれるって、子どもたちじゃなくて、お母さんたちも喜んでいるんですよ」
「本当ですか? じゃあ頑張らないとですね!」
俺が勤務している小児科病棟では、毎年クリスマスイブにクリスマス会をしている。
入院していると、どうしても季節の移り変わりを感じることができなくなってしまう。だから時々、こうやって看護師さんや保育士さんがイベントを開催してくれるのだ。
俺は、毎年クリスマス会でサンタクロース役をしている。
プレイルームに来られる子にはそこでプレゼントを渡して、来られない子は病室まで届けに行く。
そうすると、みんな嬉しそうな顔で「ありがとう!」と言ってくれる。
俺はそれが嬉しくて、毎年つい張り切ってしまうのだ。
プレイルームには大きなクリスマスツリーが、綺麗に飾り付けられて置かれている。
そのツリーには、カードがたくさん吊るしてある。まるで七夕の飾り付けみたいだけれど、とても可愛らしい光景だ。
そのカードは、ブーツの形をしている。クリスマスシーズンになると、お店にお菓子が詰められたブーツが売っているでしょう? それをモデルにしたらしい。
そこには、子どもからサンタクロースへのメッセージが書かれていた。
ゲーム機が欲しいとか、お人形が欲しいとか。
早く退院したい、なんてものもある。
微笑ましい願い事もあれば、「早く病気が治るといいな」と心が痛むものもある。
本当なら病院じゃなくて、自宅でクリスマスパーティーをしてほしい。でも、みんながみんなそういうわけにはいかない。
だから、このメッセージカードを見て、スタッフと患者さんのご家族で「プレゼントは何にしようか……」と試行錯誤するんだ。
そんな作業だって、とても楽しい。
そのブーツ型のメッセージを真剣に眺めていると……。
「あ、やっぱり今年もあった」
俺にしてみたら、毎年「んんー」と思わず唸り声をあげてしまう。そんな願い事。
可愛らしいんだけれど、ちょっとだけ面白くない。大人げないなんて、わかりきってはいるんだけど……。
それは『成宮先生と結婚したい』という願い事だ。
相手は子どもだってわかっているけれど、心がザワザワするのを感じる。
中には、明らかに大人の字で「成宮先生とお付き合いがしたい」と書かれた思ものも混じっている。だから俺は、更にモヤモヤしてしまうのだ。
この大人の字で書かれたメッセージカードは、誰が書いたのだろう?
患者さんに付き添っているお母さんだろうか? それとも看護師さん?
「誰なんだ……」
俺は毎年、これで頭を悩ませているのだ。
俺は十二月の勤務表を見て、大きく息を吐く。
ちなみに二十五日は成宮先生が当直だから、今年もクリスマスは素通りだ。
医療従事者に盆暮れ正月、クリスマスにバレンタインなんて関係がないことなんてわかりきっているけれど……。でも、たまには成宮先生と二人で、クリスマスを祝ってみたい。
それに、クリスマスイブは、成宮先生の生誕祭でもある。
あの天上天下唯我独尊である、成宮先生の生誕祭を祝うことができないなんて、罰当たりにも程がある。
そんな記念すべき日に当直なんて……本当についてない。
豪華な料理に、綺麗に飾り付けられたデコレーションケーキ。
部屋は、心許ない蝋燭の灯りがゆらゆら揺れているだけ……。
そんな淡い炎の前で成宮先生が笑った。
「メリークリスマス、葵」
「メリークリスマス、成宮先生」
そのまま、静かに見つめ合う。
蝋燭の揺らめく影が成宮先生に影を落とし、彼の整った顔立ちを更に引き立てている。
その美しさに、俺はしばし言葉を失ってしまった。
その時――。
「やっぱり駄目だ、葵。我慢できない」
「ちょ、ちょっと成宮先生!」
「ご馳走よりも、葵が食べたい」
頬を紅潮させた成宮先生に、ソファーに押し倒されてしまう。
あまりにも突然だったから、俺が目を瞬かせると、強引に唇を奪われてしまう。それから、ねっとりと耳を舐められ後、そっと耳打ちされた。
「なぁ、葵を食べてもいいだろう?」
「で、でも、せっかくの料理が冷めちゃいますよ?」
「また温め直せばすむだろう?」
「でも……」
「でも、じゃない」
蝋燭の炎で照らされた成宮先生を見て、欲情していく自分を感じる。
体が火照りだし、俺だって、成宮先生が欲しくなってしまった。俺は心の中で静かに白旗を振りながら、そっと目を閉じる。
「葵、可愛いな」
成宮先生の吐息が近づいてきて……。もう一度優しく唇が重なった。
「……先生、水瀬先生!」
「はい?」
突然名前を呼ばれた俺は、ハッと我に返った。
遠くではナースコールが鳴っている。俺のすぐ脇を、小走りに看護師さんが通り抜けていった。
(俺は、職場でなんていう妄想していたんだ……)
冷静になった俺は、恥ずかしくなってしまう。
あんな妄想をしていたなんて、俺は欲求不満なんだろうか? 心底自分が情けなくなってしまった。
遠くのほうでは、「先生は、クリスマスに何かご予定はあるんですか?」とナーステーションにいる成宮先生を、看護師さんたちが取り囲んでいる。
隙あらば、成宮先生をデートに誘いたい――。そんな下心が見え見えだ。
まぁ、これも毎年恒例の行事になったけれど。
でも嬉しいことに、成宮先生は「恋人がいるので、恋人と過ごします」とはっきりと言ってくれる。
それが、俺はすごく嬉しかった。
だって、俺は成宮先生にとって、特別な存在なんだから。
そんな恋人を遠くから眺めていると、先ほど声をかけてきた看護師さんにこう問いかけられた。
「今年のクリスマス会でも、サンタクロース役をお願いしてもいいですか?」
「あ、はい。僕でよければ……」
「毎年可愛らしいサンタクロースが来てくれるって、子どもたちじゃなくて、お母さんたちも喜んでいるんですよ」
「本当ですか? じゃあ頑張らないとですね!」
俺が勤務している小児科病棟では、毎年クリスマスイブにクリスマス会をしている。
入院していると、どうしても季節の移り変わりを感じることができなくなってしまう。だから時々、こうやって看護師さんや保育士さんがイベントを開催してくれるのだ。
俺は、毎年クリスマス会でサンタクロース役をしている。
プレイルームに来られる子にはそこでプレゼントを渡して、来られない子は病室まで届けに行く。
そうすると、みんな嬉しそうな顔で「ありがとう!」と言ってくれる。
俺はそれが嬉しくて、毎年つい張り切ってしまうのだ。
プレイルームには大きなクリスマスツリーが、綺麗に飾り付けられて置かれている。
そのツリーには、カードがたくさん吊るしてある。まるで七夕の飾り付けみたいだけれど、とても可愛らしい光景だ。
そのカードは、ブーツの形をしている。クリスマスシーズンになると、お店にお菓子が詰められたブーツが売っているでしょう? それをモデルにしたらしい。
そこには、子どもからサンタクロースへのメッセージが書かれていた。
ゲーム機が欲しいとか、お人形が欲しいとか。
早く退院したい、なんてものもある。
微笑ましい願い事もあれば、「早く病気が治るといいな」と心が痛むものもある。
本当なら病院じゃなくて、自宅でクリスマスパーティーをしてほしい。でも、みんながみんなそういうわけにはいかない。
だから、このメッセージカードを見て、スタッフと患者さんのご家族で「プレゼントは何にしようか……」と試行錯誤するんだ。
そんな作業だって、とても楽しい。
そのブーツ型のメッセージを真剣に眺めていると……。
「あ、やっぱり今年もあった」
俺にしてみたら、毎年「んんー」と思わず唸り声をあげてしまう。そんな願い事。
可愛らしいんだけれど、ちょっとだけ面白くない。大人げないなんて、わかりきってはいるんだけど……。
それは『成宮先生と結婚したい』という願い事だ。
相手は子どもだってわかっているけれど、心がザワザワするのを感じる。
中には、明らかに大人の字で「成宮先生とお付き合いがしたい」と書かれた思ものも混じっている。だから俺は、更にモヤモヤしてしまうのだ。
この大人の字で書かれたメッセージカードは、誰が書いたのだろう?
患者さんに付き添っているお母さんだろうか? それとも看護師さん?
「誰なんだ……」
俺は毎年、これで頭を悩ませているのだ。
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